Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第125巻第5号

※会員以外の方で全文の閲覧をご希望される場合は、「電子書籍」にてご購入いただけます。
精神医学奨励賞受賞講演
第118回日本精神神経学会学術総会
電気けいれん療法の作用機序と同意にまつわる諸問題について
髙宮 彰紘
慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室
精神神経学雑誌 125: 423-429, 2023
https://doi.org/10.57369/pnj.23-059

 電気けいれん療法(ECT)は80年以上うつ病に最も有効な治療であり続けてきたが,その作用機序には不明な点も多い.著者らが行った頭部MRIを用いたECTの作用機序研究からは以下のことがわかった.(i)ECTは海馬の体積を一過性に増大させ,寛解に至った者は寛解に至らなかった者と比べて海馬歯状回の体積増大が大きかった,(ii)ECTの脳体積への影響は海馬のみならず広範な領域に認めたが,臨床効果と関連のある変化とない変化が混在していた,(iii)最も大きい体積変化を認めた右海馬の体積増大はECTの回数と発作時間と関連を認めた,(iv)ECTは安静時機能的結合の変化をもたらし,右海馬と腹内側前頭前皮質の機能的結合の上昇がうつ症状の改善と関連していた.これらの結果から,ECTは海馬の可塑性を一過性に上昇させ,神経回路の変化を引き起こすことで臨床効果を発現することが考えられた.現在,ECTの作用機序研究は多施設共同大規模研究に移行している.一方で臨床研究の結果と比較可能な基礎研究から細胞生物学的現象の解明も行う必要がある.また,著者らはECTの同意に関する倫理的問題の研究も行ってきた.臨床現場では精神症状のために本人が治療に同意できない場合にもECTの施行判断を迫られることが少なくない.著者らの調査では家族同意に基づくECTを受けた方でも8割以上はECTの結果に満足していた.本人同意のないECTの施行判断には倫理的な知識の枠組みとともに,ECTで改善が見込める適切な症例の見極めが重要である.ECTの倫理的課題に関しては,国際比較や倫理学者との議論を通じたコンセンサス形成を行うとともに,ECTの適切な普及が望まれる.

索引用語:電気けいれん療法, 老年期うつ病, 作用機序, 海馬, スティグマ>
Advertisement

ページの先頭へ

Copyright © The Japanese Society of Psychiatry and Neurology