「入院に係る精神障害者の意思決定及び意思の表明に関するモデル事業」が,2015(平成27)年度厚生労働科学研究補助金障害者総合福祉推進事業の補助を受けて日本精神科病院協会によって行われ,アドボケーターガイドラインが提唱された.昨今,患者の権利を保護するというニュアンスを重視して,「アドボケーター」に代わり,「アドボケイト」という名称が用いられている.現在,精神科病院以外の一般病院では医療スタッフが入院患者の意思決定支援を行っていると思われる.精神科病院で効果的なアドボケイト活動を導入するためには,医療スタッフが病状を十分に理解したうえで患者の意思を優先し,患者家族の意図を尊重し,患者にとって最大の利益を考慮するといったことを含んだ,バランスのとれた手続きが必要である.五稜会病院では,医療の専門家が倫理的な問題を適切に解決することができるために,Beauchamp, T. L. らが著した『生命医学倫理』という教科書のなかで提唱している,自律性の尊重・無危害・善行・公正という医療倫理の四原則に基づいて倫理カンファレンスを開催している.非自発的入院患者は,病状により精神疾患への理解が不十分であるために,医療スタッフからみれば,現実的ではないような治療や処遇についての希望を出すこともある.そのため,医療スタッフは,実際の治療のなかで患者が望む事柄に対して応じることができないことも多く,ジレンマを抱えることがある.本稿では,このようなジレンマにもかかわらず,患者の意思決定を支援し,アドボケイト活動するための五稜会病院での取り組みを紹介し,バランスのとれた手順の必要性について議論した.
単科精神科病院における実際的なアドボケイト活動導入について
医療法人社団五稜会病院
精神神経学雑誌
125:
296-299, 2023
https://doi.org/10.57369/pnj.23-043
https://doi.org/10.57369/pnj.23-043
<索引用語:意思決定, アドボケーター, アドボケイト, 倫理カンファレンス, 精神科病院>