Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第124巻第9号

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特集 当事者視点の精神医学・精神医療に向けて―パラダイムシフト調査班報告―
当事者の経験知を専門知と対等に扱う―精神科強制入院決定の患者の経験を知る協働質的研究を通じて考える―
杉浦 寛奈
東京大学大学院医学系研究科精神保健学
精神神経学雑誌 124: 630-636, 2022

 これまで医学研究は,専門家が主導して患者は研究対象者として参加するものとして行われ,エビデンスが築かれてきた.次第に患者の主観(例:薬の飲み心地,QOL)を結果に据える研究が増え,さらに近年では患者が研究計画作成・研究実施・結果の活用にもかかわる「医学研究・臨床試験における患者・市民参画(PPI)」が行われるようになってきた.これに伴い,専門知で築かれてきたエビデンスに患者の経験知が少しずつ加わることにより,医学の知識全体が変化してきている.PPIには研究方法や患者のかかわり方によりさまざまな手法があるが,特に当事者主導研究やコプロダクションは経験知を汲み上げるのに適した方法として注目が集まっており,英国などではそれらの研究結果が医療政策や臨床ガイドラインの改訂に活用されている.本稿では,当事者主導研究やコプロダクションが精神医学にどのような効果をもたらすかを検討するとともに,著者が実施した強制入院を経験した患者とのコプロダクションを紹介する.本稿が今後日本の精神医学のPPIやコプロダクション実施へのヒントとなることをめざしたい.

索引用語:PPI, コプロダクション, 当事者主導研究, 強制入院, 患者経験>

はじめに
 近代医学において医学研究は,専門家が主導し,患者(当事者)は対象者として参加するだけの受け身の存在であった.そこに次第に当事者の主観(例:薬の飲み心地,QOL)を結果に据える研究が増えてきた.さらに,最近では,研究のあらゆる段階(研究課題の設定から研究デザイン設計,研究目的の設定,研究の実施,結果のまとめ,結果の活用など)に当事者が加わる「医学研究・臨床試験における患者・市民参画(patient and public involvement:PPI)」が実施されている17).PPIには当事者主導研究(service user-led research,mad study)を含め多様な手法があり,そのなかでも,専門家の知識(専門知)と当事者の経験(経験知)を同等に扱うことを特徴とするco-production(協働,共同創造,コプロダクション)は有望なコンセプトとして知見が積み上げられている4).本稿ではPPI,当事者主導研究,コプロダクション,その実施例に着目し,当事者の経験知をエビデンスとして積み上げる方法を考えたい.

I.専門知と経験知の扱いの変遷
 誰のどの知(専門知や経験知など)に価値があるとされるかは,権力構造や視座による18).そして,その権力構造は課題を内側から見いださずに外側から押し付けるときに構築され強化されていく.例えば,コロニアル(植民地)時代には,宗主国が植民地の調査を一方的に行い,そこで宗主国と植民地の間に違いを見いだせば,それは宗主国が先進的で植民地が原始的であるためだと結論づけられ,その結論は宗主国の帝国主義繁栄の正当化に利用されることもあった9)13).このような一方的な視点や権力構造の構築は,科学の分野にもあてはまる.つまり,研究対象者が重要な視点をもっているにもかかわらず,研究者がまったく違った解釈を記録し続けている可能性である9).少数派や精神障害者などは経験や意見を直接問われる機会は少なく,問われたとしてもその発言は信用に値しないものとして彼らの経験知は学術的にも社会的にも排除される傾向にある19).また,グループ内の隔たりもあり,これまで障害学などで当事者の経験知は積み上げられてきてはいるものの,それらの多くは主に欧米の経験であり,さらにそのなかでも特定の人種,階級などの一部の経験を特定の方法で取り上げており偏っているとの指摘がある7)
 このような権力構造や視点の偏りを乗り越え,知の隔たりを是正するためには,経験を他人が代わりに語るのではなく当事者本人が語るものへと転換するべきであり4)26),さらにはその語りを積み上げる方法の開発が必要であると考える.それには,フェミニズムや障害学の考え方が参考になる.彼らは社会的に排除されている者の研究は当事者が自らの実体験に基づいて行う当事者主導研究を基本とし,それが困難な場合でも当事者が専門家と対等の権力をもって進めるコプロダクションは少なくとも保証されるべきとしている21)26).さらに,彼らは研究者は当事者でも専門家でも自らの立場性と再帰性を明確にして研究すべきだとも指摘している15).この立場性や再帰性とは,自身がもつバイアスと社会文化的な立場を自覚して対処する態度を指しており,これにより,既存知識への自己意識,研究参加者に対する自己の立場,手法の限界,反証に対する寛容さなどを備えた知の積み上げが可能になる.
 これら研究や臨床の場に加えて,立法や政策立案を含むあらゆるレベルで当事者の経験知と対等な参画が求められている.日本も批准している国連障害者権利条約(Convention on the Rights of Persons with Disabilities:CRPD)では当事者がすべての場面で自分に関する意思決定に参加しその意思や希望が尊重されることは必須と規定し,障害者に関する政策検討には必ず障害者が参加することを推奨している.これらを通じてこれまで専門知で築かれてきた分野に経験知を積み上げることは,当該分野の知識が全体的に変化することであり1),重要な変化である.特に,精神医学は当事者の意思を問わずに入院・加療を行うなど当事者の意見を意図的に排除することもある分野であり,当事者の経験知が積み上がることにより生じる精神医学の知識全体の変化は他分野の変化よりも大きいと予測される.

II.患者・市民参画(PPI)
 現在PPIは世界で取り組まれている.特に有名なのは米国のPCORI(Patient-Centered Outcomes Research Institute)14)や1996年から続く英国のINVOLVE10)などの取り組みで,これらは医療・福祉サービス利用者(当事者)にとって重要な分野で研究が行われることを可能にし,その研究結果はそれぞれの国の保健制度設計に活用されている4)20).また,日本医療研究開発機構(Japan Agency for Medical Research and Development:AMED)がPPIへ研究費を拠出しており12),本分野の国内の研究も増えつつある.
 PPIは広がりをみせつつも,問題への意識が高い人々のみが行うバイアスがかかった症例・事例検討の寄せ集めであるという批判を受けている.PPIの発展のために必要なことは2点あると考える.第一に,PPIの定義(もしくはフレームワーク)を確立することである.PPIはそれぞれのルーツにより,目的,当事者のかかわり方,研究方法などが異なるため,これまでのPPIを一括りにすることはできない.例えば,市民運動や人権活動のキャンペーンから発生したPPIは市民の権利の向上を目的に行われ,研究方法の開発には重きをおかず事例検討が多いとされる17).医学の分野ではHIV/AIDS患者の人権活動などがこれにあたり,患者自らが先頭に立ち,差別法の撤廃や治療薬の価格の引き下げなどにつながった.また,participatory action research研究にルーツをもつPPIは,当事者(地域住民など)の日常に直接かかわる問題が課題となり,当事者がデザインした介入や活動を地域で行い,必要に応じてその介入に修正を加えランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)などでその介入からの学びを研究する.研究する者と研究される者(例:開発者と地域住民あるいは研究者と患者)の間の力関係を越えられなかったり,研究結果が特定の地域の特定の住人の経験であるとみなされ,事例検討のように扱われることで,普遍的な知見とされなかったりする.これらの特徴をとらえながら,目的,当事者のかかわり方,研究方法などを整理して何をもってPPIと呼ぶのかを確立したい.第二に,エビデンスを構築する研究デザインやその評価方法全体をPPIの視点が含まれるように修正する必要がある18).現在エビデンスを考えるときは,系統的レビューとRCTの価値が高く,逆に経験や意見は価値が低いと位置づけられ,質的研究(インタビューなど)と比べて量的研究が重視されている.そのため,当事者の経験やPPI,コプロダクションは事例報告とされ,価値の低い研究とみなされ18),そもそも研究計画が採用されなかったり,研究結果に価値を見いだされなかったりする.
 エビデンス構築の方法を修正するためには,科学とは常に客観的で普遍的で中立だとの思い込みを研究者が乗り越え,さらにあらゆる知識は何らかの社会的に状況づけられた観点から形成されているものである1)11)という認識を研究者が受け入れることが有効である.これらのためには,精神医学の研究者が単独で取り組まずに社会学や人類学の知見を活用したり,また当事者が研究や政策に携わるのがあたり前という環境作りが有益である4)と考える.

III.PPIの一種―当事者主導研究―
 PPIへの当事者のかかわり方にはさまざまな手法がある.なかでも当事者が自ら研究を主導する当事者主導研究(service user-led researchやmad researchなど)が最も当事者の視点をとらえ,率直な経験知を積み上げるものであるといえる.その実施には当事者であり研究の技術をもつ人材が不可欠である.当事者主導研究の先駆例の英国には当事者であり研究者である者が約800人いるとされており,人材育成の目安の1つと考える.日本でも当事者が研究の技術を身につけることの重要性が認識され,例えば今後の博士課程入学者や研究者の採用枠に当事者を積極的に受けいれることなどを通じて次第に人材を充実させることができるものと考える.さらに当事者の経験知に価値を見いだした研究体制や研究費などの充実が必要である.
 精神科の当事者主導研究で有名なのは英国のSURE(Service User Research Enterprise)8)である.SUREは最初の活動として当事者主導で電気けいれん療法(electroconvulsive therapy:ECT)の効果の系統的レビューを行った.その結果,既存の専門家が行ったレビューでは同じ文献を踏まえつつも効果の強調が強かったが,当事者は治療効果と同じくらい副作用を重視していることがわかった16).それを受けてSUREは治療効果と副作用の両方を踏まえた治療法選択の提案を行い,その結果英国の診療ガイドラインへ反映された.

IV.PPIの一種―コプロダクション(協働,共同創造)―
 PPIにおいて,当事者主導研究に次いで期待されるのは,当事者(経験知)とサービス提供者(専門知)が対等の力をもって研究に臨むコプロダクションである5).コプロダクションでは,研究課題の設定,実施,結果のまとめ,研究成果の使い方を当事者と専門家が対等の立場で議論し決めていき,専門知と経験知がエビデンスとして同等の重みづけをされる.有意義なコプロダクションとするためには次の2点が重要である.第一に,いかに当事者と専門家の力関係を対等にするかという課題である.現在の社会および医学・研究分野のヒエラルキーは強く,専門家と当事者の力関係は組織や個人などのあらゆるレベルで不均衡といえる.例えば,研究資金は専門家が管理していることが多く,研究デザインは専門家が築いたものが優先されやすく,研究結果の評価は専門家が作成した既存の枠組みで行われることが多い.さらに,精神疾患患者は自分に強制入院を指示する可能性がある精神科医と安心してともに仕事ができるであろうか.あらゆる力関係が対等となることをめざすには,患者が研究などに取り組めるわけがないという専門家の偏見を修正する必要がある17).そして,コプロダクションに参加するすべての者の価値が同等に重要であることが表明され,それを踏まえた研究体制の整備を行い,関係者それぞれが立場性と再帰性を自覚し,違いに敬意を払い,対話を続けられる環境が必要である.
 第二に,コプロダクションにおける当事者の代表性の確保も研究法の課題として話題にのぼる.これは当事者としてコプロダクションに携わった者が個人的な見解で研究を進めバイアスを呼び込むのではないかという疑問である.コプロダクションは多様さを浮き彫りにできる研究法であり,代表性を追求する際に見落とされているものをすくい上げてくれる研究といえ6),むしろ代表性を追求している現在のエビデンス構築における不足を補うものと考える.また,理論的飽和を追求することでも代表性の問題は乗り越えられると考える.ここでも専門家や研究者がもつ視座が問われている.

V.コプロダクション実践例
 著者は,協働質的研究の手法を用いて,個別インタビューを行いテーマ分析したので,その経験をコプロダクション実践例として共有する.本研究は,精神科強制入院決定時の患者の意思や経験およびそこに至るまでの環境と人間関係を知ることを目的に患者・その家族・その担当精神科医を対象に行った.本話題は当事者にとって社会的に疎外される経験であると想像され,当事者にありのままに経験や感想を語ってもらうには,著者(医師)が前面に立ち研究するのではなく,PPIやコプロダクションを導入することが不可欠と考えた.本研究は東京大学とすべての参加施設の倫理委員会の承認を受け,東京大学と富士ゼロックス株式会社・小林基金の助成を受けて行われた.本研究の結果23)25)と経験22)はすでに発表されているものもあるので,そちらも参照いただきたい.なお,本研究は日本およびインドで行っているが,本稿では日本で行われた部分に着目する.
 研究方法は具体的には,(i)まず著者(医師)が精神科強制入院の経験の世界観を臨床経験から下書きし,それを精神科強制入院をさせられた経験がある研究者が自身の経験に基づいて修正した.作成された世界観は,当初,当事者と医療サービスの関係性が強調されていたが,日常生活や社会生活の要素が加えられ,それらの裏打ちとして法律・制度や社会的価値観が加えられた.(ii)当事者でもある研究者,著者(医師),他の医療者で研究方法を検討し,本話題は機微な話題であることからニュアンスが汲み取れるように質問紙などではなくインタビューを用いることとした.(iii)機縁法でインタビューを担当する当事者(強制入院経験者)を募った,(iv)(i)の世界観をもとにインタビューガイドを作成した.インタビューガイドを用いて,(iii)の当事者とともにインタビューの基礎的技術の練習(中立を保つこと,オープンエンド形式で尋ねること,話題から大きく外れないことなど)を行い,またインタビューガイドの文言や順序を使いやすいように調整をした.インタビューガイドには,入院に至った経緯,入院時の診察の様子,強制入院が選ばれた経緯と感想,入院してみての感想,退院決定へ向けての感想などが含まれた.(v)機縁法で選んだ病院で,精神科強制入院(医療保護入院,措置入院)となって3ヵ月以内の成人を各々の主治医に紹介いただき,理論的サンプリングでリクルートした.また,患者の許可を得られれば,その家族,その医師もリクルートした.リクルートの後に研究参加への同意が得られれば,インタビューガイドを用いて(iii)の当事者が個別インタビューを行い,これらインタビューは録音した.(vi)録音を逐語で書き起こし,匿名化し,NVivo12に保存し,テーマ分析2)3)を行った.分析には,質的研究者,看護師,当事者も参加し,コードやテーマが語られたことを忠実に反映しているかを確認した.(vii)新しいテーマが出なくなるまで(v)および(vi)を繰り返した(理論的飽和).(viii)続けて,テーマの定義を作成し,代表的な引用を見つけ,結果にまとめ,報告した.研究の結果は既存の論文をご覧いただきたい22)23)25)

VI.本実践例を通じて専門知と経験知を考える
 本研究の結果は,当事者の会,家族会,学会などで発表し,その度に患者,家族,医師のどの立場の方からも自分の経験に通じるという感想をうかがった.それは,インタビュー参加者が実際の経験に基づいて語り,多様な経験が本研究に網羅されたことの1つの目安であると考える.また,検索エンジンに含まれる学術誌に掲載されることで,その後のレビューや研究に取り上げられエビデンス構築に貢献できると考える.この研究を通じて,コプロダクションが実践可能であり,当事者の経験を汲み取り経験知として積み上げるのに適した方法の1つであることが伝わればと思う.また,その他に経験知の系統的レビューの例としてはSugiura, K.らの報告24)などもある.
 また,本研究に取り組んで専門知と経験知の乖離に起因していると感じた経験がいくつかあり,コプロダクションの実施にあたり有用と考えるため,ここで共有する.第一に,研究計画では当事者本人の同意で研究参加を決定すべきとしたが,倫理委員会は研究への参加は強制入院中の当事者本人の同意のみではなく代理人の同意も必要であるとした.本研究は,複数の倫理委員会の承認を得て実施し,そのうちの1ヵ所には当事者代表(病院のすべての倫理委員会に出席しておられ,ご本人の疾患は精神疾患とは限らない)が委員会に加わっていたが,他の専門家の委員と同様に,当事者(研究参加者)と代理人の同意が二重で必要であることは当事者(研究参加者)がより保護されており好ましいと解釈していたことは意外であった.第二に,個別インタビューは当事者(インタビュー担当者)と当事者(患者)のみで行いたかったが,倫理委員会は著者(医師)がインタビューに同席し,研究参加者にストレスがかかった際には介入しインタビューを中断することを要請した.第三に,主治医がリクルート対象者を紹介した一方で,その対象者がインタビューや会話を継続できるかどうか懐疑的であることもあった.その後の実際のインタビューでは参加者がそれぞれの想いを発言しており,臨床場面(対専門家)と日常場面(対当事者)では参加者の発言が変わることが考えられた.また,理論的サンプリングでインタビューを理論的飽和まで積み上げていくため,もし参加者が一人一人の経験の一部しか語らなかったとしても最終的には全体の多様な経験が研究結果には網羅されることを研究者や専門家は理解しておく必要がある.第四に,倫理委員会や主治医はインタビュー内容が侵襲的となる危険もあると感じていたが,インタビュー参加者は「やっと私の話を聞いてくれる人がいた」と好意的な反応を示し,インタビューによる積極的な傾聴は治療的ですらあったようである.さらに,インタビュー実施者は,すべての入院経験者が本インタビューのような機会を得て,振り返りや言語化ができるとよいと感想を述べていた.第五に,インタビュー実施者が病棟に登場した際に,その人が入院していたときに医療を担当していた看護師たちはその快活に仕事をしている姿に驚いた.当事者が不調なときの姿だけをみて加療にあたると現実的な希望を見失い,医療者視点の保守的な見通しのもと加療にあたると考えられた.今後は医療者が患者と日常生活や職場などで治療関係を超えて出会える機会が増えるとよいと感じた.第六に,本研究の参加者がしばしば「医師はもっと話を聞くべきだ.いつもいつも手早い助言を期待しているわけではない」と訴えたことは興味深く,医療者は診立てと治療を効率的に提供しなくてはいけないと考えがちで,患者の訴えを医学的な視点から選択的に聞き取り,手早く提案をするスタイルになりがちであるが,患者の思いをそのまま聞き取り共感することが大事であると感じた.

おわりに
 研究において専門家が無自覚に自らの視座から解釈し記録し続けると,当事者に関することであるにもかかわらず当事者を置き去りにしてしまう.本稿では,専門知でこれまでつくられてきた精神医療に経験知を積み上げる考え方や方法を紹介した.その根底にあるのは,精神障害者は保護や慈悲の対象ではなく対等な市民であるとするCRPDにも通じる考え方や「Nothing about us without us(私たち抜きに私たちのことを決めないで)」とする障害者権利向上のスローガンなどである.PPIの実践が広まり,専門知と経験知がバランスよく積み上げられたエビデンスをめざし,当事者が正しく理解され,当事者に真に役に立つ精神医療の実践をめざしたい.

 編注:本特集は,第117回日本精神神経学会学術総会シンポジウムをもとに鹿島晴雄(医療法人社団葛野会木野崎病院),尾崎紀夫(名古屋大学大学院医学系研究科精神疾患病態解明学),北中淳子(慶應義塾大学文学部)を代表として企画された.

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

文献

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14) Patient-Centered Outcomes Research Institute (PCORI). (https://www.pcori.org) (参照2022-06-13)

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16) Rose, D., Fleischmann, P., Wykes, T.: Consumers' views of electroconvulsive therapy: a qualitative analysis. J Ment Health, 13 (3); 285-293, 2004

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22) 杉浦寛奈: 精神科強制入院と意思決定支援―協働質的研究にアジアで取り組んで―. こころと文化, 18 (2); 131-137, 2019

23) 杉浦寛奈: 精神科強制入院と患者の意思決定に関する研究. 東京大学令和2年度博士論文. 2020

24) Sugiura, K., Pertega, E., Holmberg, C.: Experiences of involuntary psychiatric admission decision-making: a systematic review and meta-synthesis of the perspectives of service users, informal carers, and professionals. Int J Law Psychiatry, 73; 101645, 2020
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25) Sugiura, K.: Users' involvement in decision-making:lessons from primary research in India and Japan. Mental Health, Legal Capacity, and Human Rights (ed by Stein, M. A., Patel, V., et al.). Cambridge University Press, Oxford, 2021

26) Voronka, J.: The politics of 'people with lived experience' experiential authority and the risks of strategic essentialism. Philos Psychiatr Psychol, 23 (3-4); 189-201, 2016

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