これまで医学研究は,専門家が主導して患者は研究対象者として参加するものとして行われ,エビデンスが築かれてきた.次第に患者の主観(例:薬の飲み心地,QOL)を結果に据える研究が増え,さらに近年では患者が研究計画作成・研究実施・結果の活用にもかかわる「医学研究・臨床試験における患者・市民参画(PPI)」が行われるようになってきた.これに伴い,専門知で築かれてきたエビデンスに患者の経験知が少しずつ加わることにより,医学の知識全体が変化してきている.PPIには研究方法や患者のかかわり方によりさまざまな手法があるが,特に当事者主導研究やコプロダクションは経験知を汲み上げるのに適した方法として注目が集まっており,英国などではそれらの研究結果が医療政策や臨床ガイドラインの改訂に活用されている.本稿では,当事者主導研究やコプロダクションが精神医学にどのような効果をもたらすかを検討するとともに,著者が実施した強制入院を経験した患者とのコプロダクションを紹介する.本稿が今後日本の精神医学のPPIやコプロダクション実施へのヒントとなることをめざしたい.
当事者の経験知を専門知と対等に扱う―精神科強制入院決定の患者の経験を知る協働質的研究を通じて考える―
東京大学大学院医学系研究科精神保健学
精神神経学雑誌
124:
630-636, 2022
<索引用語:PPI, コプロダクション, 当事者主導研究, 強制入院, 患者経験>