Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第124巻第2号

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特集 精神科臨床におけるオンライン診療―保険診療3年目の現状と課題―
遠隔診療,そしてオンライン診療の展望
長尾 喜一郎
医療法人長尾会ねや川サナトリウム
精神神経学雑誌 124: 116-125, 2022

 2018(平成30)年度の診療報酬改定において,初めてオンライン診療という項目が追加された.そもそも遠隔診療とは,医師と患者を情報通信機器でつないで診療をすることで,これまで制度上でさまざまな位置づけがなされてきた変遷がある.1997(平成9)年厚生省健康政策局長通知において,初診患者は原則対面,遠隔診療患者の対象として離島,へき地,在宅糖尿病患者など9つの例が通知された.その後,2015(平成27)年の『経済財政運営と改革の基本方針2015』,いわゆる「骨太の方針」や同年8月厚生労働省の事務通知においては,1997(平成9)年の通知に示した患者には限定されず,通知では例示の旨が明確になされ,多くの関心が示されるようになった.遠隔診療は医師法第20条の無診察診療等の禁止との関係においてさまざまな経過がある.1997(平成9)年当初は,直接の対面診療に代替しうるなどの条件をクリアすれば,遠隔診療は直ちに医師法第20条には抵触しないとの通知があり,遠隔診療が広がりをみせ始めた.2016(平成28)年には東京都からの照会により,厚生労働省医政局医事課長通知で患者に関する有益な情報を得られないと考えられる場合,また遠隔診療だけで診療が完結することは医師法違反となりうること,その翌年2017(平成29)年には患者側の理由での中断は医師法第20条違反には直ちにはならないとされた経過があった.そして2018(平成30)年には,情報機器を用いた診療に関するガイドライン作成検討会や規制改革実施計画において遠隔診療が明示され,2018(平成30)年度診療報酬改定に至ったのである.診療報酬上のオンライン診療はガイドラインなどの要件もあり,いまだ多くの医療機関に利用されることがない現状がある.しかし,現在,このオンライン診療を国が推し進めていく方向は明らかであり,より適切なオンライン診療のあり方などを検討しなければならない.本稿では,遠隔診療からオンライン診療に至る経過や,ガイドライン作成検討会での議論などに加え,精神科病院での現状をアンケート調査した結果を報告したい.

索引用語:遠隔診療, オンライン診療, オンライン診療の適切な実施に関する指針, 令和2年度診療報酬改定, 新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱い>

はじめに
 遠隔診療には2つのタイプがあり,1つは,情報通信機器を用いて専門的なアドバイスをする「医師対医師(D to D)」,もう1つは,へき地や離島などに住む患者と離れた場所から診療を行う「医師対患者(D to P)」でペースメーカーなどの遠隔モニタリングを行うものもある(図1).
 2018(平成30)年に策定された『オンライン診療の適切な実施に関する指針』(以下,ガイドライン)の基礎ともなった厚生労働省科学特別研究事業の「情報通信機器を用いた診療に関するルール整備に向けた研究」では,D to Pで行われる診療のうち外来・在宅診療で行われるものが,この「オンライン診療」とされた.
 これまで情報通信機器を用いた診療には,遠隔診療,ICT診療など,さまざまな名称が混在していた.診療報酬上の遠隔診療に関しては,対面診療に代替して行うリアルタイムの診療であるということを表すため「オンライン診療」と名づけられた.
 オンライン診療と医師法第20条無診察診療に関する経緯については,図2に示す通りであるが,2018(平成30)年度の診療報酬改定時にはガイドライン作成検討会が立ち上げられ,この遠隔診療における安全性,必要性,有効性の担保が図られた.
 なかでも,ガイドラインでは医師の基本理念として6点を定めている2)表1).
 以上のような視点で診療報酬上のオンライン診療が始まったが,本稿では2018(平成30)年度診療報酬改定から2020(令和2)年度の改定経過や新型コロナウイルス感染症にまつわるオンライン診療のあり方などについて報告してみたい.

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I.平成30年度・令和2年度診療報酬
 2018(平成30)年度の診療報酬改定において「オンライン診療料」は1月につき70点と新設された.算定要件としては,「対象となる管理料等を初めて算定してから6月の間は毎月同一の医師により対面診療を行っている場合に限り算定すること(なお,対象となる管理料とは,特定疾患療養管理料,てんかん指導料,精神科在宅患者支援管理料などである)」,施設基準も「緊急時に概ね30分以内に当該医療機関が対面による診察が可能な体制を有していること」という対面診療の原則のうえで,有効性や安全性などへ配慮した厳しいものであった.また,2018(平成30)年度改定以前はビデオ通話等での診療時に算定していた電話等再診料についても「定期的な医学管理を前提として行われる場合は算定できない」と要件が見直され,ビデオ通話などでの診療を評価する保険収載項目は「オンライン診療料」のみとなった(表2).
 2020(令和2)年度診療報酬改定では,オンライン診療について要件の見直しが行われ,「事前の対面診療の期間が6月から3月」「緊急時の対応について,患者が速やかに受診可能な医療機関で対面診療を行えるよう,あらかじめ患者に受診可能な医療機関を説明した上で,診療計画に記載しておくこと(30分以内の対面診療ルールの廃止)」「対象疾患に,定期的に通院が必要な慢性頭痛の患者及び一部の在宅自己注射を行っている患者を追加」などの緩和や,オンライン診療の柔軟な活用,かかりつけ医と連携した遠隔医療の評価がなされた(図3).

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II.新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取り扱いについて
 新型コロナウイルス感染症の流行下においてこのオンライン診療は非常に関心の高いものとなった.臨床の現場でも,スマートフォンを介しての診療や,入院患者と家族のオンライン面会,他病院とオンライン会議がなされるなど,ビデオ通話は身近な存在となった.
 2020(令和2)年4月10日には,時限的・特例的な取り扱いとして,電話等再診料が慢性疾患等を有する定期受診患者等に対して算定可能とされ,同年4月22日には,以前より対面診療において通院・在宅精神療法(330点)を算定していた患者についても,特定疾患療養管理料(147点)が算定できるとの事務連絡があった(表3).

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III.オンライン診療の現状調査(大阪精神科病院協会50病院)
 2020(令和2)年6月29日から7月10日の期間に,一般社団法人大阪精神科病院協会の50病院を対象にアンケート調査を実施し,全病院から回答を得た(問によっては未回答あり).すべての病院で保険診療による「オンライン診療料」算定はされておらず,ビデオ通話による診療を実施したと回答した医療機関も1病院だけであった.いまだ多くの医療機関に利用されることがないオンライン診療ではあるが,新型コロナウイルス感染症の影響で精神科領域においても,その役割が見直されていることが今回の調査からみえてきた.
 まず,問1「オンライン診療に興味・関心はありますか?」という問いについては「関心がある」が70%(35病院)を占め(図4),その理由(複数回答可)として,「新型コロナ等の感染対策」86%(30病院),「時代の流れ」74%(26病院),「在宅での患者の様子を知りたい」31%(11病院),「強迫症状や自閉的な症状がある等,通院困難な患者に対応したい」31%(11病院),などの意見があった.
 逆に「関心がない」30%(15病院)の理由(複数回答可)としては,「対面診療に比べて十分な診療ができない」67%(10病院),「患者の要望がない」47%(7病院),「システム利用料等のコストが高い」33%(5病院)などであった.
 次に,問2「オンライン診療への理解について」は,「オンライン診療が保険点数化されていることを知っている」92%(46病院),「施設基準の届出が必要であることを知っている」86%(43病院),「厚労省のガイドラインを知っている」72%(36病院),「施設基準や算定要件の内容を知っている」62%(31病院)となり,保険収載されていることは知っているが,その詳細までは把握されていない実態が示された(図5).
 また,問3「新型コロナ特例措置にて定期受診患者に電話や情報通信機器を使って診療および処方を実施しましたか?」という問いでは,「電話で実施」82%(41病院),「テレビ電話で実施」2%(1病院),「実施なし」14%(7病院)と回答があり,非常に多くの病院が感染対策として,対面診療以外の診療手段の必要性を感じていることがわかった(図6).
 通院精神療法に関しての問4「新型コロナ特例措置の電話再診時に算定できる通院精神療法に代わる特定疾患療養管理料(147点)は算定されましたか?」には,「算定した」68%(34病院),「算定していない」28%(14病院),「知らなかった」2%(1病院)となっており,問5で「オンライン診療での通院精神療法の算定導入についてはどう思いますか?」を問うと,「対面と同じ点数(330点)を算定可能」52%(26病院),「オンライン診療では算定できない(対面のみ算定可能)」22%(11病院),「330点未満を算定可能」14%(7病院)となった(図7).
 問6「オンライン診療について有効と思われる事例」(複数回答可)については,「感染症拡大防止対策」78%(39病院),「身体症状にて通院困難な患者への診療」72%(36病院),「精神症状にて通院困難な患者への診療」58%(29病院),「災害地域への遠隔診療」48%(24病院)となっていた.
 問7「オンライン診療について課題と思われる事例」(複数回答可)は,「ICTに対応できる患者が少なく,要望がない」68%(34病院),「対面診療に比べ十分な診療ができない」54%(27病院),「オンライン診療システムの利用費用がかかるが,保険点数が低く,採算が合わない.」52%(26病院),「保険診療の対象患者が少ない」32%(16病院)となった(図8).
 問8「今後,どのような条件があればオンライン診療を利用してみたいと思いますか?」(複数回答可)では,「システムの利用費用と採算が合えば利用したい」50%(25病院),「保険診療の算定要件が広がれば利用したい」50%(25病院),「通院精神療法(330点)が算定できれば利用したい」44%(22病院),「システム業者を利用せずに一般的なテレビ電話で可能であれば利用したい」24%(12病院),「新型コロナ特例措置(147点/月)程度の加算が付けば利用したい」12%(6病院),というような意見があった(図9).
 これらから,感染対策や通院が困難な患者への診療などオンライン診療が有効と思われる事例はあるが,現状では患者と医療者側のICTの活用,保険診療のルール整備といった環境が整っていないため,始められないというジレンマを多くの病院が感じていることがみえてきた.
 また,自由記載欄からは,「病態にあわせて算定可能としてほしい.管理料を算定している患者がオンライン診療の対象となると,オンライン診療を算定できる患者が少ない」「当院では高齢者の患者が多いため,もっと簡単にできるようになれば検討したい」「初診患者はあくまで対面で,その後状況にあわせて併用するのが現実的ではないかと思う」「外来診療は対面診療で患者の状態を把握するがオンライン診療では難しい.オンライン診療の設備導入の費用面で対象患者がどの程度利用するのか未知数である」「新型コロナ対応として家庭においては生活様式の変化が求められているが,病院における診療様式への変化もまた,求められていると考える」「時代の流れからも必要だと考える」など,オンライン診療に関心を寄せていることがわかる意見が多くあった.

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おわりに
 2020(令和2)年度診療報酬改定において,より柔軟な活用の推進は図られたものの,それまでの2年間の利用は非常に制限されたものとなっていた.これは算定要件が疾患別や状態別ではなく,特定の管理料に伴うためでもある.今回,慢性頭痛が算定対象になったように,精神疾患のなかにも,疾患特性からこのオンライン診療の利用が適しているケースがあるかもしれない.
 対面診療では算定できる通院精神療法がオンライン診療時には算定できないなど,医療機関としては医療収益の低下につながりかねない.ただ,このオンライン診療を国が推し進めていく方向であることは明らかであり,精神科としても無視できないものである.
 新型コロナウイルス感染症の流行によって,医療者のみならず患者もオンライン診療に関心を向けるようになった.患者の利便が図られ,適切な医療が行われるのであれば,オンライン診療も時代の流れであろう.

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

文献

1) 厚生労働省: 第1回情報通信機器を用いた診療に関するガイドライン作成検討会資料 (https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000193839.html) (参照2021-12-07)

2) 厚生労働省: オンライン診療の適切な実施に関する指針 (https://www.mhlw.go.jp/content/000534254.pdf) (参照2021-12-07)

3) 厚生労働省: 平成30年度診療報酬改定説明会資料等について (https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000196352.html) (参照2021-12-07)

4) 厚生労働省: 令和2年度診療報酬改定説明資料等について (https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000196352_00001.html) (参照2021-12-07)

5) 厚生労働省: 新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いについて (その14) 事務連絡令和2年4月24日 (https://www.mhlw.go.jp/content/000625141.pdf) (参照2021-12-07)

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