Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第124巻第11号

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特集 本人のもつセルフスティグマに気づき,支えよう―統合失調症,認知症,そして,てんかん,ギャンブル依存症―
統合失調症とセルフスティグマ
小口 芳世
聖マリアンナ医科大学神経精神科学教室
精神神経学雑誌 124: 771-777, 2022

 統合失調症はクレペリンの時代には「早発痴呆」と呼ばれ,治ることが難しい病とされていた.やがて「精神分裂病」として,抗精神病薬を中心とした薬物治療や心理社会的治療により,治療しうる疾患という事実が明白になったが,病気に対する悪しきイメージが先行し,治療やケアにつながらないなど,多くの課題が山積した.そのようななか,家族会の働きかけなどにより,日本精神神経学会が2002年「統合失調症」に名称変更し,メディアの力も相俟って,徐々に国内に浸透していった.また,治療やケアに関して,時代を経るごとに進歩し,現在においては臨床症状の軽快のみならず,パーソナルリカバリーをめざすようになってきている.一方で,リカバリーを阻んでいるのがセルフスティグマであり,病識とも深く関係している.近年,治療の過程で必然的に生じるセルフスティグマを低減するための取り組みが盛んになされてきている.疾患に対する知識を有することが重要であり,さらに当事者や当事者家族に対する介入も有効であることが明らかになった.国内では2013年に仙台市で開催されたスピーカーズビューローは当事者によるアンチスティグマのピア活動として注目された.現在は新型コロナウイルス感染症拡大などの影響により,アンチスティグマ活動は限定的な開催にとどまっているかもしれない.一方で,統合失調症の再発や再入院は跡を絶たない.そのようななか,当事者や介護者への心理社会的介入はセルフスティグマ低減に寄与できるものと考えられ,結果,再発や再入院を予防できる可能性が示唆される.さらに服薬アドヒアランスの観点も考慮すれば,抗精神病薬の持効性注射製剤による治療も適しているであろう.多くの統合失調症の患者が,セルフスティグマを克服して,再発や再入院を経験することなく維持治療を継続でき,本人らしく生きることを追求できる時代が到来している.

索引用語:統合失調症, セルフスティグマ, 病識, リカバリー, 維持治療>

はじめに
 スティグマの語源は古代ギリシアに遡り,奴隷・犯罪者・謀反人であることを知らしめる刻印,あるいは肉体上の印であり,皮膚に残り決して消えないものと位置づけられていた.実際,そのような意味から転じて生まれたのが「スティグマ」という言葉で,道徳的に劣り,汚れた人を指し示す目的で烙印を押して他と区別するよう考えられていた.米国人の社会学者Goffman, E. は,スティグマは「人の信頼をひどく失わせるような属性」「ある個人を全体や普通な個人からの汚名や軽蔑対象に陥れるもの」と定義づけた4).スティグマは精神保健福祉分野に限定される言葉ではなく,他分野でも汎用されている.
 スティグマはパブリックスティグマとセルフスティグマに大別される.小池ら14)によると,パブリックスティグマは,個人が精神疾患や精神疾患を有する人に抱くものであり,知識―態度―行動にさらに分けられる.すなわち,「精神疾患当事者は危険である,怖い,かわいそう」といった誤解や知識不足,陰性感情,精神疾患当事者を雇わないなどその社会参加・活動・人間関係などを実際に制限する非受容的な態度や行動などが挙げられる.
 対してセルフスティグマは,精神疾患当事者が偏見や差別を受けていると感じるもので,(i)知覚されたスティグマ,すなわち,「多くの人が自分を特別な者だと差別していると感じる」や(ii)経験したスティグマ,例として「精神障害を理由に社会的に制限を受けた」,(iii)狭義のセルフスティグマとして,当事者自身が自分を「社会に必要とされていないと思う」が挙げられる14).パブリックスティグマがセルフスティグマに影響を与えて,当事者は風評を受け入れてしまうという最大の問題が存在する14)
 統合失調症はセルフスティグマの問題とともに歩んできた疾患と言っても過言ではない.統合失調症において,セルフスティグマは当事者の生活の質や治療転帰ならびにリカバリーに深く関係すると考えられ,臨床的関心は高い.本稿では「統合失調症」の誕生とその後を近年のエビデンスを中心にレビューしたうえで,セルフスティグマときわめて関連性が深いといわれる病識との関係を取り上げ,最後に統合失調症の維持治療におけるセルフスティグマの影響に関して論じる.

I.「統合失調症」誕生とその後
 統合失調症に関するこれまでのアンチスティグマ活動の動向を振り返る.佐藤19)の論考をもとにこれまでの経過をまとめた().統合失調症は1893年に原因不明,遺伝病,慢性進行性でやがて人格荒廃に至る早発痴呆とされたKraepelin, E. の概念に端を発する.この概念をもとに,日本精神神経学会は1937年に「dementia praecox(早発痴呆)」を「schizophrenie(精神分裂病)」と発表した.しかしながら,この病名はいったん定着したものの,長きにわたり,偏見を産む温床となり,1993年,全国精神障害者家族会連合会が日本精神神経学会に病名呼称変更を希望した.2年後の1995年,日本精神神経学会は病名変更に着手し,日本独自のアンチスティグマ活動としてSartorius, N.ら18)の著書のなかで報告された.また,同じ報告18)のなかで,病名変更は「精神分裂病」と診断された衝撃から当事者や家族を解放,すなわちセルフスティグマを解消するのが目的と記載され,パブリックスティグマ解消に関しては,その長期的な波及効果に期待していた.1996年には世界精神医学会(World Psychiatric Association:WPA)の「Schizophrenia」の偏見・スティグマ対策のプログラムが始動し,2001年には世界保健機関(World Health Organization:WHO)が報告書のなかで「隔離収容から地域ケア中心へパラダイムシフト」が行われているとの記載がなされ,英国において精神保健政策が発表となった.そして2002年,本邦において精神保健のあり方が検討され,同年8月,日本精神神経学会は「精神分裂病」から「統合失調症」への呼称変更を発表した.これはわが国の精神科医療の歴史におけるエポックメイキングな出来事といえる.翌2003年には米国において,精神保健政策が発表され,2004年,精神保健医療福祉の改革のビジョンの1つである「精神疾患の正しい知識の普及啓発」が掲げられ,その一環として「こころのバリアフリー宣言(神戸宣言)」がなされた.2005年の学術会議で「こころのバリアフリーを目指して―精神疾患・精神障害の正しい知識の普及啓発のために―」が報告され,スティグマ解消と当事者活動の推進が呼びかけられた.2013年,Sartoriusや高橋清久は,スティグマが治療やケアを妨げていることを指摘し,長期的なアンチスティグマ対策の必要性を訴えた.
 次に統合失調症におけるスティグマとその影響に関する本邦のエビデンスをいくつか紹介する(以下I.の終わりまで,Koike, S. ら原著者の許諾を得て,総説を引用した).
 Koikeら11)13)は,呼称変更12年後(2014年)に呼称変更自体を知らずに育った世代,すなわち,統合失調症への呼称変更をメディアや学校の授業で取り上げられることのなかった世代である大学生250名程度を対象にアンケート調査を施行した.10の疾患(「うつ病」「高血圧」「高脂血症」「精神発達遅滞」「精神分裂病」「双極性障害」「痴呆」「統合失調症」「糖尿病」「認知症」)を用意し,このなかで同じ病気を示すものを2ペア挙げることを問うものとした.結果は,学生において「認知症」は88%一致していたが,「統合失調症」においては41%と一致率がきわめて低かった.続いて,旧病名である「精神分裂病」と「統合失調症」「うつ病」「糖尿病」の4疾患で,スティグマの強度をみた研究では,強いほうから,「精神分裂病」→「統合失調症」→「うつ病」→「糖尿病」の順となっていることが明らかになった.さらに,先の「精神分裂病」と「統合失調症」の病名一致率に関して,正解者と非正解者に分けて,スティグマについてどの程度差があったかに関しては,正解者のほうがスティグマ軽減効果が小さいことが明らかになった.このことから,呼称変更後10数年経ても,いまだ「統合失調症」に対する偏見は大きいということ,半数以上の研究参加者は「精神分裂病」と「統合失調症」を別の病気だと認識しており,「統合失調症」への呼称変更はスティグマ低減に寄与できたとの見方ができる.現在は当該研究からさらに8年経過しており,メディアにおいてさらに「統合失調症」は浸透してきたかのようにみえる.しかしながら,メディアが報じる「統合失調症」について,一般人はどのようなイメージを抱いているであろうか.
 Koikeら12)は本邦において,「統合失調症」への名称変更が新聞報道に与えた影響に関して過去30年の網羅的な調査を行った.1985年から2013年の期間における朝日,産経,毎日,読売の4大新聞とNHKが扱った「統合失調症」関連の記事(ニュース含む)をテキストマイニングという統計手法を用いて,見出しに使用された単語を解析した.旧病名である「精神分裂病」と「統合失調症」「うつ病」「糖尿病」を含む記事の年次推移から,「糖尿病」と比較して,名称変更がなされた2002年の翌年の2003年以降に「統合失調症」の記事が有意に増えていた.「うつ病」との記事の比較では,2000年から2005年の間に旧病名と「統合失調症」双方の記事が増えていた.また,旧病名ならびに「統合失調症」双方にみられた記事のなかに見いだされた単語の2割強に「犯罪」という用語が認められた.まとめると,本研究では,先の研究により,旧病名と「統合失調症」の低い病名一致率が明らかになったなか,メディアによる病名使用のコントロールはスティグマ軽減に関して一定の貢献を果たした一方で,「統合失調症」はしばしば「犯罪」と結びつけられており,依然,誤解があることが浮き彫りとなった.2020(令和2)年度の犯罪白書8)によると,精神障害者の犯罪率は1.0%と決して多いわけではなく,スティグマの根強い原因の1つに,「統合失調症」が犯罪関連のイベントとともに報道されることが多いためとされている2)5)
 ところで,周辺アジア諸国のなかで本邦同様,schizophreniaの名称変更をした国としなかった国において,スティグマにどう影響を与えたのであろうか.Yamaguchi, S. ら21)は,schizophreniaとスティグマの関連についてシステマティックレビューを行った.そのなかで,名称変更実施国において,19歳以上の者を対象にした10研究のうち,9つが「schizophreniaへの態度が良好になる」となった.一方で興味深いのは,名称変更未実施国において,19歳以上の者を対象にした5研究のうち,1つが「schizophreniaへの態度が悪くなる」となっていたことである.

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II.セルフスティグマとリカバリー・病識
 セルフスティグマは実臨床において,どのような影響をもたらすのか.この問いに答える過程で出てくるキーワードが「リカバリー」や当事者が有する「病識」である.
 リカバリーの過程で芽生えるかもしれない病識とセルフスティグマの関係性はどうか.統合失調症においては重症であれば病識は欠如していることが多いが,元々軽症あるいは治療により軽症化した場合,「自分は病気かもしれない」と自覚したり,「本来の自分とは何か違っている」と気づいたりする.これが治療やケアにつながれば良好な臨床転帰となるが,反対に病気の洞察がセルフスティグマの方向につながっていくと,不良な臨床転帰へと結びつく可能性がある.すなわち,病気の受け止め方次第で相反した臨床転帰になる(インサイトパラドックス)15)16).このことから,セルフスティグマは病識と臨床転帰の調節因子とされている.セルフスティグマは服薬・治療アドヒアランスとも関連しているとされており,臨床的には頻繁な再発や再入院に関係する可能性が示唆される6)15).特に統合失調症では初回エピソードからの難治化にかかわる病的な過程とも相関しているといえよう19)
 では初回エピソードにおいて,どのような方法でセルフスティグマを低減できるのであろうか.より多くの対象者のセルフスティグマを減じるという点やコスト面,最小限のリソースを使用するという点において,近年,対面ではなく,ビデオを使用した介入の有用性が注目されている.米国のニューヨークで行われた研究1)によると,短時間のビデオ介入が初回エピソードの患者に対するセルフスティグマの軽減に効果があった.ビデオの主人公は統合失調症の診断を受けた22歳のアフリカ系アメリカ人で,彼女が18歳から30歳までの若者たち(被験者)に彼女自身の初回エピソードと日常生活の困難さにうまく対処する方法や投薬内容,薬の副作用を90秒ほどでビデオを介して伝えるという介入内容であった.
 被験者は主要なクラウドソーシングツールであるAmazon Mechanical Turk(MTurk)から約1,200名募集され,ビデオ介入(ランダム化比較試験)を行い,Webベースの自己報告式質問票を用いて,社会的距離(例:統合失調症の人を子どもと結婚させたいか),分離感(例:統合失調症の人は他の病気の人と大きく異なるのか),固定観念(例:統合失調症の人はお金の管理ができない,暴力を振るう),社会的制限(例:統合失調症の人は結婚して子どもを産むべきか)といったセルフスティグマに関係する領域を評価した.いずれの領域においても対照群に比して,介入群では有意にセルフスティグマが軽減された.また,二次解析では,ビデオグループのみのスティグマドメイン間での性差が明らかとなり,女性においてよりスティグマが低減することが報告された.どのようにスティグマが軽減したかについて,ビデオの主人公が直接的にかつ正直にエピソードを伝えることで,当事者が希望に満ち溢れ,その結果,世間の偏見が減り,有事の際には初回エピソードを有する患者らが個人間で助けを求めることを促進したかもしれないとAmsalem, D. らはみている.一方で,さらなる長期的な持続的効果を確認する必要はあるが,このような短時間での初回エピソード当事者によるビデオメッセージは,発症初期の段階でのセルフスティグマ軽減に寄与できるため,良好な臨床転帰,すなわちリカバリーに近づくことができうる重要なツールと考えられる.
 また,近年のエビデンス9)によると,統合失調症の介護者の社会的支援に関する認知度が高まることによって,介護者自身のスティグマが減少することが報告された.Karaçar, Y. らは,統合失調症に関する情報提供を行い,希望を高め,社会的スキルのトレーニングを行い,スティグマとの闘いに介護者を参加させる介入を行うことを推奨している.
 本邦においても,当事者を中心としたセルフスティグマ軽減に係るピア活動,すなわち,ピアサポートやピアカウンセリングは推進されている19).特に病名を公開した当事者が,参加したFocused Group Meeting(FGM)において,自身のリカバリー体験に関する講演をしたことは話題となった.また,「こころの病気を学ぶ授業」において,当事者との交流体験でセルフスティグマが改善された報告もされており19),今後も積極的なピア活動の展開が望まれる.

III.統合失調症の維持治療におけるセルフスティグマの影響
 統合失調症は再発を繰り返す可能性のある慢性疾患である.その原因として服薬アドヒアランスの不良が挙げられる17).入院し,経口抗精神病薬を定期内服して退院をした統合失調症患者の,その後の服薬継続率をMedication Event Monitoring System(MEMS)を用いて測定した研究3)において,退院直後の1週間から1ヵ月間の期間に,およそ2割の患者の服薬遵守不良が確認された.本研究は約10年前に施行されているが,現在でも実臨床において服薬遵守率は十分ではないように感じる.単純な服薬忘れに始まった結果かもしれないが,特に初回エピソード患者などは,幻覚妄想などの陽性症状が軽快しても服薬継続を行うことを要求される際に,「自分は病気がよくなったのになぜ飲み続けるのか?」と素朴な疑問をもつケースがみられる.また,「自分はそもそも病気ではないのになぜ飲み続けるのか,入院中は飲んだとしてもその後は止めたい」「本来の自分でなくなるのがこわい」「薬なんか飲み続けていたらダメになる」という病識にかかわるさまざまな思いを抱きながら,退院後,比較的早い段階で服薬中止に至ると推察される.
 統合失調症において,抗精神病薬による維持治療が必要であることは証明17)されているが,統合失調症自体の病態として,特に病初期に「病識欠如」や「病識希薄」が当事者を支配し,これにセルフスティグマが加わることで,一部,適切な治療やケアにつながることができないケースが存在しているのではないかと著者は考える.したがって,再発も含めた初期の段階における当事者への心理社会的介入は,セルフスティグマを低減することに寄与できるものと思われる.
 さらに当事者を支える家族への介入もセルフスティグマ軽減にきわめて重要である.Hogarty, G. E. ら7)は,抗精神病薬の持効性注射製剤(long-acting injectable:LAI)で維持治療を図っている約100名の統合失調症患者を,本人への社会技能訓練(social skill training:SST)と家族への心理教育(family psycho-education:FPE)の併用群,SST単独施行群,FPE単独施行群,支持的精神療法群の4群に分けて比較した.結果,2年間における再発率が最も低かったのはSSTとFPE併用群であった.またコクランレビュー20)においてもpsycho-educationが再発や再入院を低下させることが報告されている.本邦においてもセルフスティグマ低減に心理教育は有効であるエビデンス22)が示されており,特に初回エピソードにおいては「再発を経験しない」展開につながることが期待される.ただし,当事者・家族への心理教育がすべてセルフスティグマ低減に寄与しているかは明らかではないため,この点,注意したい.
 一方で治療ツールであるLAIに関して,多くのエビデンスが服薬アドヒアランスの問題を解決して再発や再入院を防ぐことを示しており10),また,毎日の服薬から解放されることはセルフスティグマの軽減にもつながる可能性がある.患者によっては毎日,経口薬を服薬することで自身が病気であることを認識して,それが苦痛になり,「なぜ自分だけがこのような病気になったのか」と自問自答することがある.ふと生じた疑問が引き金となり,自暴自棄となって服薬を中止したり,同居家族などに咎められるのが嫌で経口薬を飲んだふりをして破棄したり,箪笥などに隠したりする例は臨床上,跡を絶たない.非定型抗精神病薬の時代においても,このような現状にあり,1ヵ月製剤の抗精神病薬LAIのみならず,近年3ヵ月製剤として登場した長期間持続性の抗精神病薬LAIは,セルフスティグマ低減の観点から統合失調症当事者に福音をもたらすかもしれない.

おわりに
 2022年,数十年ぶりに高等学校の保健体育の教科書に精神疾患について記載され,そのなかに「統合失調症」が入っている.若年の時期に好発する精神疾患の1つである統合失調症について,早い時期から一定の知識を有することは非常に重要である.当事者が正しく統合失調症について理解してできる限り早く医療につながる,そして家族・知人などが罹患した際には必要な治療やケアにつなげることが,リカバリーへの第一歩だと考える.そして,リカバリーの過程でセルフスティグマが生じた場合,その軽減のために,さまざまな介入,特に本稿で紹介した当事者によるビデオツールや家族への介入はきわめて有用なものといえよう.さらに入念な心理教育やLAIなどの治療ツールを用いることで,当事者の病識が深まれば,慢性疾患である統合失調症と前向きに上手に付き合っていけるようになると思われる.セルフスティグマを克服することで,統合失調症に罹患したより多くの当事者が自分らしく生きることができる,すなわちパーソナルリカバリーを実現できるようになれば,当事者の自己肯定感が高まり,他の当事者にも希望を与えることができるようになって,そもそもセルフスティグマが生じなくなるかもしれない.このような好循環により,統合失調症当事者が生き生きと生活できる社会が実現することを切に願う次第である.

 編注:本特集は,第117回日本精神神経学会学術総会シンポジウムをもとに本稿著者を代表として企画された.

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

文献

1) Amsalem, D., Yang, L. H., Jankowski, S., et al.: Reducing stigma toward individuals with schizophrenia using a brief video: a randomized controlled trial of young adults. Schizophr Bull, 47 (1); 7-14, 2021
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2) Aoki, A., Aoki, Y., Goulden, R., et al.: Change in newspaper coverage of schizophrenia in Japan over 20-year period. Schizophr Res, 175 (1-3); 193-197, 2016
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3) 趙 岳人, 川島邦浩, 木下秀一郎ほか: 統合失調症治療における服薬状況のMEMS(Medication Event Monitoring System)多施設研究―良好なアドヒアランスを維持することの重要性―. 臨床精神薬理, 14 (9); 1551-1560, 2011

4) Goffman, E.: Stigma: Notes on the Management of Spoiled Identity. Prentice Hall, Englewood Cliffs, 1963

5) Goulden, R., Corker, E., Evans-Lacko, S., et al.: Newspaper coverage of mental illness in the UK, 1992-2008. BMC Public Health, 11; 796, 2011
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7) Hogarty, G. E., Anderson, C. M., Reiss, D. J., et al.: Family psychoeducation, social skills training, and maintenance chemotherapy in the aftercare treatment of schizophrenia. II. Two-year effects of a controlled study on relapse and adjustment. Environmental-Personal Indicators in the Course of Schizophrenia (EPICS) Research Group. Arch Gen Psychiatry, 48 (4); 340-347, 1991
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8) 法務省: 第4編 各種犯罪の動向と各種犯罪者の処遇 第9章 精神障害のある者による犯罪等 第1節 犯罪の動向. 令和2年度版犯罪白書. 2020 (https://hakusyo1.moj.go.jp/jp/67/nfm/n67_2_4_9_1_0.html) (参照2021-11-28)

9) Karaçar, Y., Bademli, K.: Relationship between perceived social support and self stigma in caregivers of patients with schizophrenia. Int J Soc Psychiatry, 68 (3); 670-680, 2021
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10) Kishimoto, T., Hagi, K., Kurokawa, S., et al.: Long-acting injectable versus oral antipsychotics for the maintenance treatment of schizophrenia: a systematic review and comparative meta-analysis of randomized, cohort, and pre-post studies. Lancet Psychiatry, 8 (5); 387-404, 2021
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12) Koike, S., Yamaguchi, S., Ojio, Y., et al.: Effect of name change of schizophrenia on mass media between 1985 and 2013 in Japan: a text data mining analysis. Schizophr Bull, 42 (3); 552-559, 2016
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13) Koike, S., Yamaguchi, S., Ohta, K., et al.: Mental-health-related stigma among Japanese children and their parents and impact of renaming of schizophrenia. Psychiatry Clin Neurosci, 71 (3); 170-179, 2017
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14) 小池進介, 山口創生, 安藤俊太郎ほか: 日本人のメンタルヘルスに関する認識2021. 日本学術振興会科学研究費助成事業・新学術領域研究(研究領域提案型)「家族内計測による思春期主体価値形成過程の解明」(No. 19H04878). 2021

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16) Lysaker, P. H., Roe, D., Yanos, P. T.: Toward understanding the insight paradox: internalized stigma moderates the association between insight and social functioning, hope, and self-esteem among people with schizophrenia spectrum disorders. Schizophr Bull, 33 (1); 192-199, 2007
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17) Robinson, D., Woerner, M. G., Alvir, J. M., et al.: Predictors of relapse following response from a first episode of schizophrenia or schizoaffective disorder. Arch Gen Psychiatry, 56 (3); 241-247, 1999
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18) Sartorius, N., Schulze, H.: Reducing the Stigma of Mental Illness: A Report from a Global Programme of the World Psychiatric Association. Cambridge University Press, Cambridge, 2005

19) 佐藤光源: 精神疾患に対するスティグマの解消とリカバリー. 日本社会精神医学会雑誌, 29 (2); 115-122, 2020

20) Xia, J., Merinder, L. B., Belgamwar, M. R.: Psychoeducation for schizophrenia. Cochrane Database Syst Rev, 2011 (6); CD002831, 2011
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21) Yamaguchi, S., Mizuno, M., Ojio, Y., et al.: Associations between renaming schizophrenia and stigma-related outcomes: a systematic review. Psychiatry Clin Neurosci, 71 (6); 347-362, 2017
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22) 吉井初美: 精神障害者のセルフスティグマ低減を目的とした介入研究課題―レビュー―. 日本精神保健看護学会誌, 25 (1); 91-98, 2016

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