Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第123巻第9号

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総説
精神病理学の基本問題―ヤスパースの「了解」概念をめぐって―
内海 健
東京藝術大学保健管理センター
精神神経学雑誌 123: 545-554, 2021

 ヤスパースの了解概念について,そのエッセンスを解説するとともに,批判的な検討を加えた.ヤスパースの方法論はディルタイの了解と説明の二分法を踏襲する.了解が行き止まりになると,説明に席を譲ることになる.了解は,静的了解と発生的了解の2つからなる.静的了解は,感情移入(Einfühlung)により,相手のなかに心を移し入れ,まざまざと描き出すことである.この用語が英語に翻訳された際,エンパシー(empathy)という言葉が造られた.エンパシーは,相手の苦しみをともにすることである.重要なことは,感情移入とエンパシーでは方向性が逆であり,エンパシーは感じ取ることである.了解とエンパシーの関係については,エンパシーのほうが先行している.エンパシーがともなわないときには,了解には実質が欠け,了解ができなくともエンパシーは可能である.発生的了解は,やはり感情移入によって,心的なものから心的なものがいかにして現れるかを了解する方法である.この場合,重要なことは,自分の考えを脇において,相手の身になってみることであるが,これはヤスパースにおいてはみられない.ヤスパースは,説明を因果的なものとしているが,因果とは,心が関与するときに生み出されるものであると考えられる.以上のような考察を,統合失調症や気分障害の臨床場面を例にとりながら,提示した.

索引用語:カール・ヤスパース, 精神病理学, 了解, 感情移入, エンパシー>
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