Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第123巻第12号

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特集 「内因性うつ病」を多面的に把握する
内因性うつ病を「実証的に」考える
玉田 有
国家公務員共済組合連合会虎の門病院分院精神科
精神神経学雑誌 123: 816-823, 2021

 内因性うつ病が,ほかの抑うつ病態からはっきりと区別される疾患単位なのか,抑うつ病態の重症例にすぎないのか,という議論には結論が出ていない.本稿では,内因性うつ病の存在を医学モデルにおいて実証的に証明する方法と,その難しさについて論じた.病気の存在を実証するためには,まずは因子分析やクラスター分析で,症候群を同定する必要がある.そして,その症候群と妥当性確認因子(validator)との相関を調べることで,診断の妥当性を検証しなければならない.しかしDSM-5のメランコリア基準を用いる限り,妥当性確認因子との相関を一貫して示すことは難しい.その理由の1つは,DSM-5のメランコリア基準が大うつ病性障害のクライテリアと重複していることである.また,内因性うつ病の症状には,患者がはっきりと言語化できない「異質性」があり,それを明示的に定義づけることが難しいという理由もある.これらの限界を克服するために,内因性うつ病の主要特徴である精神運動障害に基づいて内因性うつ病を定義づける方法や,プロトタイプ診断の尺度を用いる方法を挙げた.精神症状は実体として存在しているわけではなく,医師と患者の臨床的関係から生じた「対話的な共同構成物」という視点から考えれば,身体医学とは異なる水準の「実証性」が規定される必要がある.

索引用語:メランコリア, 実証主義, 精神運動障害, 妥当性, 異質性>

はじめに
 DSM-52)の大うつ病性障害には,従来的診断学における内因性うつ病と非内因性抑うつの2つの病気が含まれている.この考え方を抑うつ病態の「二分論」という.一方,大うつ病性障害は1つの病気である,という考え方は「単一論」である39).単一論を支持する立場からみると,内因性うつ病と非内因性抑うつと呼ばれる2つの病態は,重症度の差異でしかない.なお,ここでいう非内因性抑うつとは,かつて神経症性抑うつ,反応性抑うつなどと呼ばれた「理由のある抑うつ」を指している.
 現代において,二分論は旗色が悪い.なぜなら実証的研究で,二分論を支持する結果が再現性をもって得られないからである.それにもかかわらず,著者は二分論を擁護する立場に立っている.その理由は,抑うつ病態をめぐる概念史40)61)を根拠としている点もあるが,結局のところは,実際の臨床でそう感じるから,というほかない.精神運動制止や生気的悲哀感51),感情欠如感17)51),当惑感17),気分の非反応性など,伝統的な精神病理学で重視されてきた内因性うつ病の特徴とともに,発症の契機や症状の特徴を了解できないという全体的な印象も重ね合わせれば,重症例だけでなく,入院の必要がない軽症抑うつ病態の患者のなかにも,質的に異なる一群があるように思われる.
 しかし現代の「制度化された科学」38)のもとでは,このような個人的体験は説得力に欠ける.できるだけ主観的な先入観を排した方法で,実証的に検証することが求められるのである.本稿では,医療者の主観的な体験を重視する伝統的な精神病理学と,それをできるだけ排除しようとする実証的研究を架橋することはできないのか,という問題意識のもとで,内因性うつ病という病気の存在を実証的に探索する方法と,その難しさについて考察する.

I.病気の存在を実証的に考える
 ところで,どのような取り組みが「実証的」とされるのだろうか.19世紀半ばに定式化された古典的な実証主義にしたがえば,思弁や推論でなく,まずは「観察」に基づいた事実を基礎としなければならない.そして,そこから仮説を導き出し,実験的な「検証」を経ることによって,再現可能な客観的事実を確定する.このような手続きが,実証科学の標準的な方法とされる37)
 すべての病気が,ニキビや腫瘍のように,直接見たり触ったりできるモノとして存在するのであれば観察は容易である.しかし,精神の病気はそうではない.病気の本態を直接,観察することは不可能である.さらにいえば,精神の病気が身体の病気と同じように,物質的な病変(lesion)をもつのかどうかも確定しているわけではない.「病気」の定義はさまざまであり,身体的な病変を病気の証拠だとする考え方もあれば,環境に対する人間の適応のパターンだとする考え方もある.また,主観的な苦しみを病気とする考え方もあれば,医師が治療上の関心をもつものが病気だとするような考え方もある22)
 しかし,内因性うつ病が生物学的な基盤を要請されている疾患である以上,ここでは身体的な病変の存在を病気の証拠とする,いわゆる医学モデルにのっとって考察を進める.つまりKraepelin, E. が追求した「疾患単位」として,内因性うつ病の存在を実証できるかどうかが問題となる.
 疾患単位とは,「同じ原因,同じ心理学的基本形,同じ展開と経過,同じ転帰,同じ脳所見をもつ」病気の単位17)である.このなかで,原因は観察不能であり,内因性うつ病に特異的な脳所見も知られていない.したがって,まずは症状・徴候のまとまりである症候群を観察し,その症候群がどの程度,身体的な原因と対応しているのか,つまり診断の妥当性(validity)を検証しなければならない41).具体的には,①症候群のまとまりかたを検証する,②次にその症候群と,妥当性確認因子(validator)との相関を調べる,という手続きである.妥当性確認因子には,症候群とは独立し,評価者の主観が入らない指標が選ばれる.Kendler, K. S.25)は,その指標を,(a)先行する妥当性確認因子,(b)同時に存在する妥当性確認因子,(c)予測的な妥当性確認因子に分けて示した.(a)には家族研究や病前性格,人口統計学的データ,誘発因子,(b)には検査データ,(c)には診断の経時的一貫性や他のフォローアップデータ,治療反応性などが含まれるだろう.以下,この方法論にのっとって,内因性うつ病の実証について考察する.

II.内因性うつ病を実証的に考える
1.内因性うつ病という名称について
 ここで注意が必要なのは,「内因性うつ病」という用語の用法についてである32).「内因性うつ病」は,「外因でも心因でもない」という原因の性質を指す用語であるが,症候のパターンをあらわす術語としても用いられる.現代では,症候パターンに基づく内因性うつ病の識別14)28)が主流であり,一見心因性にみえるような誘因があっても,症候パターンがあてはまれば,内因性うつ病と判断されることになる.実際,そのような症例は多くみられるし,実証的研究においても,内因性うつ病の症状パターンと,先行するライフイベントとのあいだにはほとんど関係が見いだされない47).したがって「内因性うつ病」という用語は,すでにその内包を適切にあらわす名称ではなくなっている.現代の英語圏精神医学で,内因性うつ病ではなくメランコリア(melancholia)43)63)という名称が用いられる所以である36)56).なお,本稿においては,内因性うつ病とメランコリアを交換可能な用語として用いている.

2.症候群の存在を実証する
 実証的研究の立脚点は「観察」である.精神医学においては,患者の言語や表出,行動が観察対象となる.その際,信頼性を高めるために,操作的な症候の定義や,構造化面接が用いられる.
 症候パターンを実証的に同定するためには,因子分析やクラスター分析といった多変量解析が用いられる.1960~1970年代の英米精神医学では,抑うつ病態を対象としたそのような研究がさかんに行われた.それらの研究を展望したKendell, R. E.23)によれば,内因性うつ病に相当するタイプと非内因性抑うつに相当するタイプの2つに分ける必要性については合意できるが,両者が別のカテゴリーなのか,あるいは,ひと連なりのディメンジョンの両極なのか,という2つのタイプの関係については結論が出なかった.
 因子分析やクラスター分析のほか,判別分析,治療反応性の研究などを広範にレビューしたNelson, J. C. ら36)によれば,「制止や焦燥といった精神運動障害,環境変化への反応性欠如,重度の抑うつ気分,抑うつ性妄想,自己非難,楽しみに対する興味の喪失」が,内因性うつ病と強い関連をもっていた.因子分析研究の最近のレビュー31)でも「制止,気分の非反応性」が内因性うつ病の識別にもっとも関連するとされている.
 これらをみると,精神運動障害や,気分の非反応性,重度の抑うつ気分,抑うつ性妄想や自己非難などが,実証的に割り出された症候群といえるだろう.しかし,この症候群が他の抑うつ病態から独立したカテゴリーなのか,それとも抑うつ病態の重症例にすぎないのかをどのように検証すればよいのだろうか.

3.カテゴリーかディメンジョンか
 1970年代にKendell22)24)は,2つの症候群のあいだに自然な境界が存在するかどうかを数学的に検証するために,二峰性分布(bimodal distribution)という概念を重視した.これはのように,中央に希少点(point of rarity)がある分布をとれば,2つの独立したカテゴリーが証明できるとする考え方である.この概念を用いて,内因性うつ病と非内因性抑うつのあいだで希少点を証明できた研究7)もあったが,再現には成功しなかった24).この証明方法には多くの批判があり,例えば,両群の平均の差が小さく,標本数が十分に大きくなければ見かけ上は正規分布になることがある点27)や,同じデータでも横軸の目盛の間隔を変えることによって山の形が変わり,人為的に二峰性分布を作成することができる点10)などが指摘されている.
 近年では,カテゴリーかディメンジョンかを統計学的に検証するあらたな方法として,Meehl, P. E. が開発したタキソメトリック分析が注目されている27)34)が,現時点では,内因性うつ病を独立した症候群であると結論できていない.

4.症候群の妥当性を検証する
 症候群の妥当性を調べるためには,症候群とは独立し,可能な限り評価者の先入観を排した妥当性確認因子との相関を検証しなければならない.1980年代にZimmerman, M. ら71)は,そのような因子として,①感情障害の家族歴が多い,②アルコール症の家族歴が少ない,③反社会性パーソナリティ障害の家族歴が少ない,④高齢,⑤重症度が高い,⑥軽微な自殺企図が少ない,⑦夫婦の別居や離婚が少ない,⑧1年間のストレスライフイベントが少ない,⑨病前のパーソナリティ障害が少ない,⑩より多く社会的サポートを得ている,⑪認知的な歪み(中立的な出来事を曲解したり,過度に反応したりする頻度)が少ない,⑫生物学的異常所見(デキサメサゾン抑制試験など)が多い,⑬身体的治療(抗うつ薬や電気けいれん療法)によく反応する,⑭精神療法に対する反応が低い,の14項目を挙げた.当時の研究で用いられた内因性うつ病の診断基準は,DSM-III1)のほかにも,Research Diagnostic Criteria(RDC)55)やNewcastle基準7)などがあったが,近年では,ほとんどの研究で,DSMのメランコリア基準(メランコリアの特徴を伴う大うつ病性障害)が用いられている.なお,DSMのメランコリア基準は,因子分析などの実証的手続きで決められたものではない71)
 DSMのメランコリア基準と妥当性確認因子との相関関係は,「重症度が高い」5)8)33)66)という点を除けば,およそ一貫しているとはいえない.人口統計学的特徴としては,男性が多い8)33),無職が多い8)9)33),幼少期の虐待の経験が多い5)8),社会的機能が低下している8),などが報告されているが,重症度をマッチさせれば,非内因性抑うつとのあいだで人口統計学的特徴に差がみられないという報告66)もある.自殺企図との関連も一貫していない8)
 治療反応性についても苦戦が続いている.従来,内因性うつ病は抗うつ薬や電気けいれん療法に対する反応が良好7)26)とされてきたが,最近の研究では,これらの結果を再現できていない5)6)33)67)68).また抗うつ薬の種類による優劣についても結論することが難しい8)49).内因性うつ病患者のプラセボに対する反応の低さが注目されている6)ものの,これもすべての研究で一致しているわけではない16).生物学的特徴として注目された,デキサメサゾン抑制試験や睡眠脳波における異常所見は,ほかの精神障害でもみられるため,特異性が限られているといえる27)49)
 病前性格をみると,英米の精神医学では,パーソナリティ障害が,しばしば非内因性抑うつの特徴として考えられてきた63).しかし,内因性うつ病を積極的に特徴づける病前性格は,実証的に確立されていない.日本では従来,内因性うつ病と非内因性抑うつを鑑別する指標として,執着性格やメランコリー型性格が重視されていた58)59)61)が,ドイツや日本の精神病理学で論じられた性格論は類型論的把握であり,英米の特性論的把握とは方法論が異なる点に注意しなければならない*9.メランコリー型性格を実証的に検討するための評価尺度としては,笠原21),von Zerssen, D.50)70),Stanghellini, G. ら57)によってそれぞれ作成されたものが知られている.ただし,内因性うつ病との特異的な関連が実証されているわけではない12)

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III.内因性うつ病を実証する難しさ
 このように妥当性確認因子との相関をみると,内因性うつ病をほかの抑うつ病態から実証的に独立させることは難しいように思える.もちろん,Kendell24)が述べたように,XとYの患者集団のあいだで,アウトカムや人口統計学的データに有意差がみられたからといって,Xという実体がただちに証明されるわけではないが,それにしても,内因性うつ病の診断妥当性は心許ない.しかしここでは安易に単一論に与せず,二分論を擁護する立場から,なぜ実証的研究において,内因性うつ病をほかの抑うつ病態から区別することが難しいのかを考えてみたい.

1.DSM-5のメランコリア基準をめぐる問題
 まずは診断基準の問題である.DSM-5のメランコリア基準をみると,8項目中4項目が,大うつ病性障害そのものの基準項目と重複している.したがって,そもそもこの基準を用いる限り,内因性うつ病と非内因性抑うつを峻別することは難しいという意見がある45)49)

2.症状の異質性について
 内因性うつ病患者の感情が,健常者の悲しみとは似ても似つかない異質なものである,という点は,伝統的なドイツ精神病理学で繰り返し指摘されてきた.例えばTölle, R.65)は,内因性うつ病患者の体験には,「正常心理学のカテゴリーをもっては測り知れないものがあり,私たちは,その中心に近づくことができない.患者自身でさえも,その病後に,自分が克服したその状態に立ち戻ってみるのは困難である.(中略)患者自身にとっても体験として異質で理解しがたいものである」と述べている.
 DSM-5のメランコリア基準にも「はっきり他と区別できる性質(distinct quality)」の抑うつ気分という項目があるが,患者自身が言語化に苦しむような体験を,明示的に定義することは難しい.DSMの注釈をみても,「より重篤で,長く続き,または理由なく現れると表現される抑うつ気分は“distinct quality”ではない」(DSM-5),「愛する人の死後に経験するような感情とは異なる」(DSM-III)という除外的な規定しかない.この異質性は,端的にいえばJaspers, K.17)のいう静的了解が不能であるという事態にほかならず,たとえ構造化面接を厳密に用いたとしても,経験をつんだ臨床家以外の評価者がこのような異質性の判断を行うのは難しいように思える.

3.全体的視点と部分的視点
 病像の評価に,全体的・直観的な把握は必須である.そこには,患者に面前したときに生まれる感情的な動きや,「了解できるかどうか」という判断,典型例(プロトタイプ)のイメージをもとにした病態評価,先に述べた類型論的な性格把握などが含まれる20).異質性の判断も,全体的な把握である.笠原19)が「個別的・羅列的なメルクマールは,それに先立つ全体認識なしには取り出せない」と述べたとおり,われわれは,チェックリストにある部分的な症状の総和だけでなく,全体的・直観的な把握も考慮に入れて診断しているはずである4)
 内因性うつ病は,大うつ病性障害に比べて均質な群であるといわれるが,その均質性も,部分的な症状項目のみで判断されているわけではない.部分的視点のみで考えれば,DSM-5でメランコリアと診断されるための症状項目の数学的組み合わせは約34万通りにもなり,大うつ病性障害よりも均質どころか,10倍以上不均質であるという逆説的な結果を導いてしまう11).部分的な症状のみの評価尺度を用いている限り,内因性うつ病を実証的に区別することは難しいかもしれない.

IV.どのような工夫が必要か
 そのような限界を踏まえたうえで,内因性うつ病の実証のために,どのような方法が可能だろうか.2つの試みを紹介する.

1.精神運動障害への着目
 内因性うつ病の中核的な特徴の1つが,制止や焦燥などの精神運動障害(psychomotor disturbance:PMD)である36)43)48)54)66).近年,PMDが電気けいれん療法の良好な反応と関連していることが示されている45)69).PMDはまた,内因性うつ病の症候のうち,ほとんど唯一,定量的に評価できる特徴でもあるため,実証研究の合理的なスタート地点となる可能性をもっている54).Parker, G. らは,PMDを患者の主観的な訴えではなく,行動面の特徴として評価するためのCORE尺度43)60)を開発し,従来の診断基準で診断された内因性うつ病患者の多くをCORE尺度の得点のみで定義できると論じた42).これは,内因性うつ病の主要症状が,PMDと関連していることを示唆している13).著者ら62)が,106名の大うつ病性障害患者を対象に,CORE得点と相関する内因性うつ病の主観的症状を多変量解析によって検証したところ,①感情欠如感,②抑うつ性妄想,③当惑感,④決断困難,⑤他人への攻撃性がない,という5つの症状学的特徴が,DSM-5のメランコリア基準の項目よりも,CORE得点と相関することが示された.

2.プロトタイプ診断を数値化する
 もう1つの方策は,全体的・直観的な把握を数値化する試みである.Parkerらは,CORE尺度だけでなく,プロトタイプ診断を数値化する評価尺度(Sydney Melancholia Prototype Index:SMPI)も開発している44)46).これは,内因性うつ病と非内因性抑うつの特徴を12項目ずつ列挙し,それぞれあてはまる項目を選択させたあと,最後に,全体像がどちらの類型に近いか,5段階で評価させる仕組みになっている.日本に普及した「笠原・木村分類」18)も典型例を示したプロトタイプ診断であったが,このような全体的把握を残した評価方法も有効かもしれない.

おわりに
 精神障害を実証的に研究する難しさは,内因性うつ病に限ったことではない.DSM-IIIの成立に影響を与えた論理実証主義3)15)52)は,心理学でも物理学でも統一の科学のもとで説明できる,という還元主義に基づいていた.「社会学は心理学へ,心理学は生物学へ,生物学は化学へ,化学は物理学へ還元することができる」という主張である37).しかし精神の症状が,ニキビや腫瘍のような物体ではなく,患者の言語や行動を,評価者が解釈して生まれる「対話的な共同構成物(dialogical co-construction)」である点4)30)を踏まえれば,精神医学における「実証性」が,物理学や化学はもとより,身体医学とも水準を異にするのは自明といえる.ただし,それは精神医学の実証的研究が不可能であることを意味しない.素朴な還元主義に基づくのではなく,それぞれの学問体系に応じた水準で「実証性」を規定することが求められるのである37)

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

 謝 辞 臨床研究の方法論と実践について,ご指導いただきました東京医科大学精神医学分野の井上猛先生に感謝いたします.本研究はJSPS科研費19K14435の助成を受けたものです.

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注釈

* 性格研究の方法論には,類型論的把握と特性論的把握がある35).類型論では,典型的なタイプにどの程度類似しているかを直観的・全体的に把握するため,「こういう人だ」というイメージがつかみやすい.反面,各類型の中間に属する例を分類できないといった短所もある.Kretschmer, E. の循環病質29)や,下田の執着性格53),Tellenbach, H. のメランコリー型64)は類型論にあたる.一方,特性論とは,一貫して出現する行動特徴すなわち「特性」を性格構成の単位とみなし,各特性の組み合わせによって個人の性格を記述する方法である.数量化して個人間の比較ができるために実証的に検証しやすいが,プロフィールが断片的となるため,直観的な全体像を把握しにくい.現代の性格研究の主流は特性論である.

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