Advertisement第118回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第123巻第12号

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特集 「内因性うつ病」を多面的に把握する
かけがえのない内因性うつ病概念―治療に対する有用性―
大前 晋
国家公務員共済組合連合会虎の門病院精神科
精神神経学雑誌 123: 793-800, 2021

 現代のガイドラインに基づくうつ病臨床に飽きたらなくなったら,ぜひ内因性うつ病概念に再評価のチャンスを与えたい.
 2016年に公開された日本うつ病学会監修の『うつ病治療ガイドライン第2版』における「うつ病」は,米国精神医学会の診断・統計マニュアルDSM-5が定めるmajor depressive disorder(MDD)と同義である.米国からの輸入概念であり翻訳概念である.しかし実はその一方で,DSMがMDDを定める以前から,日本には独自の発展をとげた固有のうつ病診断があった.それが内因性うつ病である.
 内因性うつ病は疾患(disease)である.一方,MDDは症候群(syndrome)である.疾患は,諸症状と経過の基礎にある身体的病変を前提とする.症候群は,症状の集まりそのものをいう.MDDの基礎は内因性うつ病のような身体的病変でなくてもいい.抑うつ・悲しみをもたらす出来事であってもいいし(抑うつ反応),無意識の領域に抑圧された心的葛藤でもいい(抑うつ神経症).これらの基礎に合わせて,それぞれの治療方針を選択しなければならない.
 内因性うつ病における抑うつ・悲しみは,精神と身体が交錯する領域にあらわれる.生気的抑うつ・生気的悲哀,生気的抑制,悲哀不能,原発性の自殺念慮はいずれも,接する者の想像や共感や感情移入を受けつけない.日常生活で経験する抑うつとは質が違う.
 DSMの「喜びの喪失」は,内因性うつ病における気分の無反応・非反応性をあらわす.アンヘドニアともいう.アンヘドニアのなかでも完了行動の喜びの喪失は内因性うつ病に対する感度・特異度とも高く,抗うつ薬の適応をあらわす重要な指標である.
 内因性うつ病の診断は治療のためにある.診断と経過・予後の告知,つぎに休息・療養の指示,最後に自殺抑止の契約という一連の手続き自体が良好な転帰をもたらす.電気けいれん療法あるいは三環系抗うつ薬と,疾患の精神病理学的把握に基づいた精神療法的態度は,治療において必須である.笠原がこれを「うつ病(病相期)の小精神療法」としてとりまとめ,大熊が患者に対する激励をいましめた.こうして内因性うつ病の診断自体がもつ治療的意義にくわえて,診断に特化した身体的治療と精神療法指針があたえられた.これが内因性うつ病概念の有用性である.

索引用語:うつ病, 軽症うつ病, 内因性うつ病, 精神療法, 激励禁忌>
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