Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第122巻第8号

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症例報告
発作に先行する心因が明確なため長年心因性非てんかん性発作と診断されていた側頭葉てんかんの1例―てんかん診療における精神医学的評価を含めた集学的診断の重要性―
庄司 瑛武1), 谷口 豪1), 西村 亮一2), 岡村 由美子1), 近藤 伸介1), 笠井 清登1)
1)東京大学医学部附属病院精神神経科
2)静岡てんかん・神経医療センター精神科
精神神経学雑誌 122: 585-593, 2020
受理日:2020年3月27日

 てんかん発作は脳神経細胞の異常な興奮により生じるのに対して,心因性非てんかん性発作(PNES)は何らかの心理的要因によって生じると推測される病態である.両者は酷似した臨床症状を示すのみならずしばしば合併する.てんかんに対しては適切な薬物療法や外科治療,PNESに対しては疾病教育や精神療法,環境調整など適切な治療選択を行うことで予後,QOLを改善することができる.このためてんかんとPNESの正確な鑑別が重要であり,神経生理検査,画像検査,心理検査などを活用し集学的診断を行う必要がある.今回,精神医学的検査と長時間ビデオ脳波(LVEEG)により確定診断に至った難治性側頭葉てんかんの1例を経験した.症例は50代女性.10代に全身のけいれん発作で発症して以来,抗てんかん薬を処方されていた.そのほかにも,意識消失し,転倒する発作が認められており,フェニトイン,カルバマゼピン,ニトラゼパムを併用したが発作抑制は不十分だった.このため40代で根治的外科治療が行われ,発作は一旦消失した.しかし,術後間もなく心理的負荷がかかる場面で意識を失い転倒する発作が起こるようになった.レベチラセタムなどを追加し,十分量の抗てんかん薬投与を継続したが効果は不良だった.外来での脳波検査ではてんかん性異常波が認められないことや,発作に先だって「心因」と思われるエピソードがあったことから,PNESの診断で支持的精神療法を中心とした外来治療が行われていた.しかし,発作に伴う外傷の頻度が増加したため,診断見直しを目的にてんかんモニタリングユニット(EMU)入院を行った.入院後,本人,家族に対して行った詳細な問診では,「心因」のかからない場面でも発作が頻発していたことが明らかにされた.LVEEGでは右側頭葉を焦点としたてんかん性発作波に一致した運動症状を伴う複雑部分発作が認められた.PNESから右側頭葉てんかんに診断が変更され,迷走神経刺激療法により発作頻度の減少とQOLの改善が認められた.いわゆる「心因」により誘発される発作のなかにも真のてんかんが潜んでおり,両者の鑑別に精神医学的評価を含めた集学的診断が有効である.

索引用語:てんかん, てんかんモニタリングユニット(EMU), 心因性非てんかん性発作(PNES), 長時間ビデオ脳波(LVEEG)>
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