Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第121巻第6号

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特集 摂食障害,その人格の病理,社会的背景の影響と治療的意味―痩せすぎモデル禁止法に向けて―
人格の病理としての摂食障害―痩せすぎモデル規制に向けて―
永田 利彦
壱燈会,なんば・ながたメンタルクリニック
精神神経学雑誌 121: 492-500, 2019

 摂食障害において人格の病理にみえるものは混沌とした異常な摂食行動の結果にすぎず,体重さえ回復すれば治るとする意見をBruch, H.は生涯にわたって批判し続けた.しかし,体重が低すぎては精神療法が不可能なだけではなく,命を落とす危険さえある.摂食障害行動には厳しく,人格の病理(生きづらさ)には暖かくの両方が必須である.それには生きづらさのなかで生きてきたことへの賞賛を通じて人格の病理をvalidationし(承認,認証,有効化などと訳されるが,それらは本来の意味を体現していないので本稿ではそのまま使用している),一方で摂食障害を手放すように厳しく接する.背景にある人格の病理に合わせて精神科看護師,力動的精神療法,認知行動療法を行う臨床心理士と協働,積極的に治療介入することで摂食障害専門病棟の手を借りずに精神科診療所で完結する摂食障害治療が可能となる.青年期という重要な時期に若年女性がダイエットにのめり込み,摂食障害に陥り,生きづらさを本格化させないためにも,痩せ礼賛の象徴である痩せすぎモデルの規制が必要である.

索引用語:摂食障害, 痩せすぎモデル, パーソナリティ障害, 外在化, validation>

はじめに
 摂食障害治療が困難であるのは,低体重,過食,嘔吐といった行動面の症状と背景にある生きづらさ(人格の病理)のどちらの治療を優先するのかという基本問題にある.実は,どちらか一方ではなく,その両方が必須である.
 しかし,生きづらさの診立て,人格の病理(パーソナリティ障害)の診断と治療には知識と経験が要求され,容易ではない.摂食障害行動に隠された生きづらさを見いだし,そのなかで生きてきたことを賞賛し,一方では摂食障害を手放すように厳しく接する.すなわちvalidation(承認,認証,有効化などと訳されるが,それらは本来の意味を体現していないので本稿ではそのまま使用している)を通しての人格の病理(生きづらさ)の治療である.その結果,摂食障害専門病棟の手を借りずに外来治療のみで完結する摂食障害治療が可能となる25)
 摂食障害の広がりの背景に,痩せ礼賛文化の広がりがあることは確かである.この立場(摂食障害に厳しく)からして,青年期という重要な時期に若年女性がダイエットにのめり込み,摂食障害に陥り,生きづらさを本格化させないためにも,そしてモデル自身の健康のためにも,痩せ礼賛の象徴である痩せすぎモデルの規制が必要である26)

Ⅰ.想像以上に高いパーソナリティ障害の併存率
 摂食障害において人格の病理にみえるものは混沌とした異常な摂食行動の結果にすぎず,体重さえ回復すれば治るとする意見をBruch, H. は生涯にわたって批難し続けた4)6).しかし人格の病理は,見過ごしも多い.多くの臨床家にとって人格の病理としてまず頭に浮かぶのは,境界性パーソナリティ障害であり,パーソナリティ障害の併存として境界性パーソナリティ障害の併存率だけを挙げて論じる研究が見受けられる.しかし,実は最も多く併存するパーソナリティ障害は強迫性および回避性パーソナリティ障害である.
に過去の研究をまとめて再計算した結果を示した.対象者は2000年代の数年間に大阪市立大学医学部附属病院神経精神科を受診し,その当時の研究に文書で参加に同意した女性摂食障害患者278例である21)23)24).それぞれの研究は,同大学倫理委員会によって承認された.診断は,DSM-Ⅳ版の半構造化面接SCID-Ⅰ,Ⅱ(Structured clinical interview for DSM-Ⅳ axis Ⅰ disorders,structured clinical interview for DSM-Ⅳ axis Ⅱ personality disorders)10)11)によって行われた.
に示す通り,大学病院の精神科に通院している摂食障害患者の7~8割がパーソナリティ障害を併存していた.境界性パーソナリティ障害の併存は,確かに3~20%と低率であった.一方で,約半数の神経性やせ症が強迫性パーソナリティ障害を併存し,神経性やせ症,神経性過食症とも約半数が回避性パーソナリティ障害を併存した.その結果,クラスターCパーソナリティ障害の併存率が想像以上に高いことが示された.これらのパーソナリティ障害の併存率は先行研究より高い.例えばHerzog, D. B. ら16)は,210例の摂食障害を対象に半構造化面接を行い,4%にクラスターAパーソナリティ障害,12%にクラスターBパーソナリティ障害,12%にクラスターCパーソナリティ障害を認めた.Godt, K. ら13)は545例の摂食障害を対象に半構造化面接を実施し,2%にクラスターAパーソナリティ障害,10%にクラスターBパーソナリティ障害,17%にクラスターCパーソナリティ障害を認めたと報告している.
 パーソナリティ障害には発症年齢はなく,摂食障害とどちらが先行するか検討できないが,回避性パーソナリティ障害を全般性の社交不安障害,境界性パーソナリティ障害を多衝動性と捉えることも可能である.摂食障害における社交不安障害の併存を検討した研究では,196例の摂食障害のうち33例が社交不安障害を併存していて,その全例で社交不安障害の発症が摂食障害の発症に先行した23).また多衝動性について検討した研究では,多衝動性を示す摂食障害では,50%は自殺未遂が,30%は自傷が摂食障害に先行し,摂食障害発症が自殺未遂や自傷より先行したのはわずか20%でしかなかった21)
 大学病院に通院している摂食障害が一般人口中の摂食障害と違うことは明白である.一般にバークソンバイアスという偏りが知られている2).過去のカルテ調査を行っても,一般人口中の症例を代表していない.入院,治療中の症例は併存症率が高いなど,より重症な症例に偏ってしまう.反対に言えば,実臨床はバークソンバイアスのかかった症例しか受診しない現実があり,自然寛解しない重症例しか受診しない.イタリア・ナポリの摂食障害専門外来受診患者の57%もが治療中断したが,その数年後に追跡調査を行ったところ,実に71%が改善されていた8).思いあたるところがある.中年以降の摂食障害初診患者の病歴を注意深く聞くと,青年期に摂食障害を一度発症し精神科受診を両親に強く勧められ,それへの拒否感からダイエットを自ら中止し,自然寛解していたという場合が稀ではない.精神科受診への拒否感を超えるほどダイエットや痩せ願望に固執した症例だけが受診している.
 自閉症スペクトラム障害が正式な診断となった今日1),大学病院の精神科に通院する摂食障害のほとんどがパーソナリティ障害か自閉症スペクトラム障害を併存していると想像される.

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Ⅱ.摂食障害症状に毅然と向き合う
 摂食障害の多くが痩身に固執し摂食障害を手放すのを拒否し,抗肥満薬の処方要求さえ行う.摂食障害は,神経性過食症であっても病前体重から数kg程度の体重低下〔体重抑制(weight suppression)と呼ばれる〕を有し,痩身に固執するダイエット病(dieting disorder)である3).ダイエット中止なくして治療進展はない.食事への異常な執着(anorexic debate)といわれ,食物とカロリーへの囚われを漫然と傾聴すると,時間はいくらあっても足りない.そればかりか,体重がさらに下がり続けることさえある.
 そもそも150年以上前,精神分析の誕生以前から,神経性やせ症の治療において毅然さが求められてきた.Gull, W. W.14)は,家族や友人は最悪の看護人であり,治療では少々のことで動じない(unsound mind),意識の高い人(high moral)によって規則正しく食事を供されるべきであるとした.またCharcot, J. はパリでの講義(1882~1885年)で,発症環境からの隔離,家族・友人との接触禁止が重要で,特に親からの隔離を摂食障害治療で必須とした28).その思想は行動療法,認知行動療法という衣をまとって,摂食障害専門病棟に蘇った.欧米の摂食障害専門病棟では,精神科医,専門看護師,臨床心理士,ケースワーカー,栄養士,医療保険担当者などの多職種による集中的治療がなされている20).非自発的入院を厭わず,トイレには鍵がかけられ,食事中は一滴のスープも落とさないように見張られる.日本の7対1看護基準の逆の1対3(患者1人あたり3人のスタッフ数)により,入院すると,どのように強固に摂食を拒否していた患者も摂取せざるを得なくなる.しかし,背景に何らかの生きづらさを有し,痩せることに一縷の望みを見いだしたのに,それを一方的に取り上げることには限界がある.摂食障害専門病棟に入院して正常体重まで回復しても,退院当日から摂食制限に励む患者も多い20).退院後,無治療の場合の再発率は高率で,3ヵ月で9割弱にも達する17).さらに高額な医療費のため,平均在院日数は年々激減し,20年間で平均2ヵ月から約1週間に短縮されている.
 家族をベースとする治療(family-based treatment:FBT)19)の成功は,摂食障害治療では摂食障害症状に毅然と向き合うことの重要さと,親と引き離すことが必須ではなくなったことの両方を示している.FBTは,数多くのランダム化比較試験がなされ,18歳以下,病歴3年以内という制限があるものの,神経性やせ症に対し唯一,エビデンスを有する外来治療である.根幹となるのは次の3点である.①神経性やせ症の病因について不可知論の立場をとり(“agnostic”view),患者である子どもと病気を切り離し,親は子どもを決して責めない.②神経性やせ症は,病気として徹底的に外在化(externalize)する.中途半端な小さい虫ではなく,悪性腫瘍,エイリアンにたとえられ,取り除かれなければならない病巣として扱われる.食事への異常な執着(anorexic debate)を病巣として扱い,子ども本人から引き離す.摂食障害専門病棟で豊富なスタッフ数を背景に看護スタッフが取り囲んで優しく食べるように強要し,食べるのを拒否することを許さないのと同じである.FBTでは家族が一丸となってエイリアンである摂食障害を取り囲み,食べるように強要する.まさに自宅入院である.③外来治療であり,親が一時的に子どもを監督するが,食行動が正常化するにつれて,できるだけ早期に学校などの仲間関係に戻し,年齢相応の自立を促す.青年期の自立課題は,仲間関係による自然な成長で解決されていく.一方,FBTのエビデンスは,18歳以下,病歴3年以内に限られる.18歳を越え,もはや青年期の親密な仲間関係を有さない年代では人格的な成長が自然には生じないため,後述するように生きづらさ(人格の病理)に対してvalidationを通じて積極的な治療が必要となる.18歳以下でも,3年以上の病歴を有し仲間関係から退却してしまっている状況では同様である.
 親と引き離すことが必須とされたのは1874年頃14)や1882年頃28)で,Hall, G. S.15)が「青年期」を疾風怒濤の時期であるとした本を出版したのは,その後の1904年である.1930年から1940年にダイエットの記事が氾濫し始め,痩せ礼賛が広がり,1970~1980年頃に摂食障害が欧米で急増した7).このように青年期を学校で過ごすようになってから自立課題は変化したと考えられる.そして本特集の山田論文が詳説するように,メディアの影響は大きい32).ダイエットにのめり込み,貴重な仲間関係のなかでの成長の機会を失わせないためにも,そしてモデル達自身の健康を守るためにも,痩せすぎモデル規制が必要性である26)

Ⅲ.人格の病理を治療する場合の基本姿勢,validation
 看護では「寄り添う」ことが基本とされる.がんなどの重大な病に襲われ打ちひしがれる人に対して寄り添うことは医療人として基本である.それが摂食障害治療では外在化(医療化)に限界があることはすでに前章に述べた通りである.共感だけを頼りに精神療法を行っていくことの限界も明らかである27).事実,摂食障害に対するパーソンセンタードセラピーの有効性報告は皆無である.一般的な医療とは異なる治療方針が必要である.
 摂食障害治療では摂食障害を手放し,変化しようとする気持ちをどうやって育むかにかかっている.動機づけ面接(motivational interviewing:MI)では共感を表現し,矛盾を拡大し,抵抗を手玉に取り,自己効力感をサポートすることで変化への気持ちを高めようとする.しかし,痩せに取り憑かれた摂食障害患者達は理論通りには変化への階段を登ってはくれない9)
 摂食障害を手放すように促し,生きづらさの治療に踏み込むためには,従来にない強力なアプローチが必要である.Linehan, M. M. は,validationを境界性パーソナリティ障害治療の根本に据えた18).初診の境界性パーソナリティ障害の患者が自殺高リスクの状態で,これから外来治療を始めるときに,まずは来週,生きて再来してくれるかが課題である.まだ初めて会ったばかりなのに,「あなたには生きている意味がある」と本人に伝わる必要がある.困り果てた治療者が,「私が待っているから,私のためにまた来週,来てほしい」と伝えることがある.そのような安易な支持では(本当の支持的精神療法ではなく),早晩,突然,治療関係は破綻し,最悪の結果も否定できない.
 そこでLinehanはRogers. C. R. の共感の純粋性(genuineness)を超えて超純粋(radical genuineness)であることを説いた18).Linehanのvalidationには6つのレベルがある18).レベル1は傾聴と観察,レベル2は正確に理解を返す,レベル3では言語化されていない感情を察知する,レベル4ではこうなる原因は理解できる,レベル5ではこの状況ではそのようになるのは当然であるとし,レベル6では超純粋に患者(精神療法に入った時点でクライエントとすべきだが)をまっとうな人として遇することである.何度も自殺未遂,入退院を繰り返す患者が初診で登場したときに,レベル6のvalidationが,できるだろか.治療者が誠実な一人の人間として,「あなたが家族や治療者をも含めて安定した関係ができなかったのは当然だし,これまで生きてきたことは賞賛に値し,生きていく意味がある」と伝えられるであろうか.若い治療者に陪診してもらって,一番難しいところは,実はレベル6ではなく,レベル3の言語化されていない患者の感情をどう正確に捉えられるかである.治療者が患者の言語化されていない感情を捉え,こうですねと返すことである.若い治療者も,自分が捉えた患者の言語化されない感情を,「こう感じておられますよね」と返すことを繰り返すことで,徐々に患者の感情を正確に捉えられるようになる.治療者がクライエントからいつ攻撃を受けるかもしれないと不安・恐怖を感じるのは,言語化されていない感情を捉えられないために,何が起こるかわからないと恐怖しているからである.苦しみのなかで生き延びてきたその人自身にふれることができると,レベル6のvalidationである,嘘偽りのない純粋な気持ちで患者を受け入れるだけではなく,すばらしい人と賞賛することが可能となる.そこで,人格の病理であると伝えながらも,治療関係が成立する.
 そして,この言語化されていない患者の感情を捉える作業は正しい診立てに通じる.操作的診断基準の登場によって経験の浅い治療者でも診断可能となったが,I章に示すように,実際には多くの併存症診断が見逃され,パーソナリティ障害,不安障害,発達障害が診断されないままのことが多い.単なる賞賛ではクライエントも摂食障害を捨て去る決心はできない.摂食障害の背景にある生きづらさは境界性パーソナリティ障害だけではなくさまざまである.生きづらさが的確に診立てられ,そのなかで生きていることを賞賛されてこそ,生きづらさの解決可能性に目覚め,摂食障害を捨て去る決心がなされる.その的確な診断に基づいた賞賛こそがvalidationといえる.

Ⅳ.精神科看護師,臨床心理士との協働
 神経症圏の治療が難しいのは薬物療法だけでは十分な治療が行えないことにある.摂食障害では薬物療法の効果がほとんど望めず,さらに困難である.どうしても精神療法的アプローチが必須である.しかし,摂食障害患者が精神療法のクライエントとなるには大きな壁がある.まずは低体重すぎては言葉が入らないという点である(解釈が与えられても理解できない).2つ目にはセッションが成立するのは,予約通りに来院してくれてのことである.3つ目には,セッション継続性が低いことである.それにはクライエントが精神療法の重要性を理解していることが必要となる.
 著者の診療所では,まず精神科医が初診で診立てる.前章のように,生きづらさのなかを生き抜いてきたことを褒め称えるが(validation),ここでどのような生きづらさを有しているのか,どのような人格の病理を有しているのか,正しく診立てることがvalidationを有効なものとする.看護師に患者がどのような生きづらさを有しているかを伝え,看護師も協働してvalidationする.体重が低下した場合,家族の励ましによる院内での栄養補助食品の摂取を促す.一人での来院では看護師がその役割を担う.点滴などの処置はしない.生きづらさを生き抜いてきたことへの賞賛(validation)が的を射たものであると,摂食障害行動への厳しい対応である栄養補助食品の院内摂取が成り立つ.体重低下は止まり,体重が上昇傾向に転ずる.その後に,必要性に応じて臨床心理士によるセッションに導入する.その場合,まずはセッションが治療的にどのような意味をもつのか,医師,看護師が繰り返し説明することが,カウンセリングの予約通りの来院や途中脱落を防ぐ.
 本診療所は,力動的精神療法,認知行動療法両方のそれぞれを専門とする臨床心理士が所属する,著者の知る限り唯一の診療所である.どのように分業するのであろうか.従来のカテゴリー診断,ディメンジョナル診断を超えた,より治療に結び付くプロトタイプ診断が必要である.多数の精神科医,臨床心理士に,実際に自身の治療している摂食障害(神経性過食症)を評価してもらった結果,抑制的/過剰コントロール,感情統制障害/コントロール不能,高機能/完全主義の3つのプロトタイプがあることが見いだされた30).そして,抑制的/過剰コントロールには認知行動療法が,感情統制障害/コントロール不能では力動的精神療法が行われていることが多かった30)
 そのため抑制的/過剰コントロールでは全般性の社交不安障害に摂食障害が続発したとの説明が患者にとって受け入れやすい.そこで高反応な扁桃体に対してselective serotonin reuptake inhibitor(SSRI)が有効であり,認知行動療法的アプローチにより前頭葉の扁桃体コントロールを高めていく必要があると説明する23).感情統制障害/コントロール不能では境界性パーソナリティ障害スペクトラムとも重なり21),気分安定薬や第二世代抗精神病薬が大脳辺縁系のコントロールに有効で22),長期的,根本的には力動的精神療法によって抑圧された感情を言語化できることが必要である.3つ目のプロトタイプである高機能/完全主義は正常体重範囲内の神経性過食症では大きな問題がないようにみえる30).神経性やせ症摂食制限型の完全主義は,完全主義自体が重要な治療対象で,低体重にもかかわらず就労していることも稀ではなく,表面上,大きな問題はないようにみえるが,食事・体重に支配された生活を「慎ましやかに」送っている.治療者の問いかけのなかで患者自身が自分自身を再発見できるように,臨床心理士による“fact-finding approach”へと導く必要がある5)
 その結果,入院治療に頼ることなく,精神科診療所で完結する摂食障害治療が可能となる.

おわりに
 FBTの成功は,摂食障害症状に対して毅然とした態度が必要であって,1880年頃に提唱された親から引き離すことが,もはや必須ではないことを示した.一方でFBTが,摂食障害を徹底的に外在化(医療化)し早期に仲間(学校)に戻し自然な人間的成長を促す戦略が18歳以下,病歴3年以内に限定されることは,摂食障害が生きづらさへの対処行動であるのに(人格の病理としての摂食障害),人格の病理にみえるものは混沌とした異常な摂食行動の結果にすぎず,体重さえ回復すれば治るとする意見を批判したBruch6)の正当性を裏づけている.ほとんどの患者は18歳以上,病歴3年以上で,すでに仲間関係から切り離されているか,自ら退却している.そこで,生きづらさ(人格の病理)に対する積極的な治療が必要である.
 摂食障害が急増した背景には痩せ礼賛文化の広がりがある.青年期に学校という場が設定され,同級生と過ごすことになり,流行に敏感となった.その意味合いでも,本特集の山田論文32)が示すようにメディアの影響は大きい26).青年期という人格の成長にとって重要な時期を摂食障害に費やし,人格の病理を本格化させてしまう,その損失は大きすぎる.
 欧米では40年も前から痩せたモデルが問題視され12),学会からの働きかけなどによって極端に痩せ細ったモデルが欧米の雑誌に登場することは減少している29).にもかかわらず,痩せ細ったモデルがランウェイを歩いた直後に急死する事件が起き,自主規制,さらにはイスラエル,フランスでは法規制へと踏み込んでいる26).一方,日本では,痩せすぎモデルに対する規制が一切されないままであるばかりか,危機感も薄い.そこでわれわれも一歩,踏み出す必要性があることを再確認できればと思っている.

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

文献

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