Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第121巻第6号

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原著
復職準備性評価スケール(Psychiatric Rework Readiness Scale)によるリワークプログラム参加者の就労継続の予測妥当性―就労継続に影響する要因―
堀井 清香1)2), 酒井 佳永1)3), 田川 杏那1)4), ピーター・ バーニック5), 關 恵里子6), 秋山 剛1), 立森 久照7)8)
1)NTT東日本関東病院精神神経科
2)株式会社保健同人社
3)跡見学園女子大学文学部臨床心理学科
4)公益財団法人神経研究所
5)国立大学法人長崎大学
6)公益財団法人東京都保健医療公社荏原病院
7)国立精神・神経医療研究センタートランスレーショナル・メディカルセンター
8)国立国際医療研究センター国際医療協力局グローバルヘルス政策研究センター
精神神経学雑誌 121: 445-456, 2019
受理日:2019年1月21日

 復職準備性評価スケール(PRRS)が,一般復職者の就労継続を予測することがすでに報告されているが,参加者のレジリアンスの改善を目的とするリワークプログラム参加者においても,PRRSが就労継続を予測するかについて,また,就労継続に影響する社会人口的要因,臨床的要因について検討を行った.2014年1月から2016年9月までにNTT東日本関東病院のリワークプログラムに参加し,調査日2017年5月31日までに復職した76名中,研究への同意が得られた56名を対象に調査を行った.Kaplan-Meier法により推定された平均就労継続期間は,715日(95%信頼区間:547~884日)であった.「復職前のPRRS総得点」は有意に就労継続を予測し,得点が低いと,就労継続に不利であった.PRRS得点の下位尺度については,「基本的生活」「症状」「職場との関係」「健康管理」が復職後の就労継続期間を有意に予測しており,いずれもこれらの下位尺度の得点が低いと,就労継続に不利であった.社会人口的要因については,女性が就労継続に不利であり,臨床的要因については,若い初診時年齢,過去の長期の総休職期間が,就労継続に不利であった.一般の復職者だけではなく,リワークプログラム参加者についても,PRRSが就労継続を予測することが確認され,復職に関する決定についてPRRSが客観的な評価ツールとして使用できる可能性が示された.過去の長期の総休職期間のリワークプログラム参加後の就労継続への影響については,以前にも報告があり,治療効果に影響する要因として参加希望者に説明する必要がある.しかし,この影響は一般の復職者でもみられ,リワークプログラム参加が就労予後を改善する可能性があることから,リワークプログラムの適応禁忌の基準になるとは考えられない.

索引用語:リワーク, 気分障害, 復職準備性, 就労継続, メンタルヘルス>

はじめに
1.背 景
 精神疾患のレジリアンスモデルによれば,精神疾患の発症,再発,再発の予防は個体の脆弱性,環境ストレス,個体のレジリアンスに影響されると考えられる8).就労中に精神疾患を発症した患者が元の職への復職を希望する場合,個体のレジリアンスを改善しなければ,個体の脆弱性,環境ストレスが同じであることから,復職後の再発,再休職が発生してしまう20)23).うつ病については,発症後さらに脆弱性が高まることも示唆されている26)
 復職を希望する患者のレジリアンス改善への支援をリワークプログラムと呼ぶ.リワークプログラムでは,「レジリアンスが改善し,復職後に患者が再発,再休職する危険性が低くなっているか」という評価が,重要である.復職できる状態にある患者を復職させずに待たせることには意味がないが,レジリアンスが改善していないのに,早まって復職して短期間で再発すれば,復職した意味がなくなってしまうからである.
 秋山らは,(レジリアンスが改善し)“休職者が再発せずに復職できる状態であるか”という『復職準備性』を評価する復職準備性評価スケール(Psychiatric Rework Readiness Scale:PRRS)を開発し,一般の復職者を対象とした場合,就労継続を予測することを報告した24).このスケールは,従来復職準備性評価シートと呼ばれていたが,英語名称をScaleとしており,本論文では日本語でも復職準備性評価スケールと呼ぶ.
 しかし,医療機関で行われているリワークプログラム参加者の就労予後を,PRRSが予測するかについては,これまで検討が行われていない.リワークプログラムを経て復職した人は,一般の復職者より就労予後がよいことが報告されている7)17).このため両群の間には,何らかの差異が存在する可能性があり,PRRSをリワークプログラム参加者の復職時期の判定に用いてよいかについて,検討を行う必要がある.

2.目 的
 本研究では,リワークプログラム参加者において,復職前のPRRSによる評価が就労継続を予測するかについて検討した.また,就労継続に影響する社会人口的要因,臨床的要因についての検討も行った.これは,リワークプログラム参加者の就労継続に影響する要因があれば,リワークプログラムの効果に影響を与える要因として参加希望者に説明する必要があるからである.

I.方法
1.対 象
 本研究の対象は,2014年1月から2016年9月までにNTT東日本関東病院精神神経科が実施するリワークプログラムに参加し,調査日2017年5月31日までに復職した76名中,研究への同意が得られた56名とした.

2.アウトカム
 リワークプログラム参加者の復職後の就労予後について,復職後の精神疾患による再休職をイベントとし,調査日までにイベントが発生していた場合は復職日から精神疾患による再休職までの日数,調査日までにイベントが発生していなかった場合は復職日から調査日までの日数を,就労継続期間とした.復職日は,時間短縮勤務など試し・慣らしでの勤務期間があったかどうかにかかわらず,復職発令日とした.また再休職は該当の疾患による病気休暇を,診断書により再度指示された日とした.

3.評価項目
1)社会人口的要因
 性別,プログラム参加時の年齢,学歴,婚姻状況,職階,勤務先企業の業種,現所属事業所での勤続年数(年),総勤続年数(年)についてプログラム開始時に情報を聴取した.
2)臨床的要因
 初診時年齢,診断,総休職期間(月),総休職回数についてプログラム開始時に情報を聴取した.
3)PRRS
 復職前にPRRSによる評価を行った.PRRSは,面接評価尺度であり,復職準備性を「基本的生活」「症状」「社会性」「サポート状況」「職場との関係」「作業能力」「準備状況」「健康管理」の8つの側面から総合的に評価する1).PRRSは,評価者間信頼性,内的整合性,および一般の復職者の就労継続に関する予測妥当性を有する尺度であることが報告されている24)

4.統計解析
 ①対象者の属性を明らかにするため,社会人口的要因,臨床的要因について,記述統計を算出した.
 ②復職前のPRRS得点について,総得点と下位尺度の分布を示した.
 ③復職後の推定就労継続期間を,Kaplan-Meier法による生存分析で算出した.
 ④復職後の就労継続期間を予測する要因を検討するために,就労継続期間を従属変数,復職前のPRRS得点,社会人口的要因,臨床的要因を独立変数とした単変量Cox比例ハザードモデルによる分析を行った.
 以上の統計解析にはIBM SPSS Statistics24を用いた.

5.倫理的配慮
 本研究は,NTT東日本関東病院の倫理委員会の審査を受け承認を得た.また,対象者に研究の目的を説明し,書面による同意を得た.

II.結果
1.対象者の属性
 対象者の社会人口的要因と臨床的要因を表1に示す.
 本調査の対象者は,社会人口的要因において,男性44名,女性12名,プログラム参加時年齢は25~58歳,平均43.2歳であった.学歴は,大卒未満が6名,大卒が45名,大学院修了が5名であった.婚姻状況は配偶者ありが30名,配偶者なしが26名であった.職階は管理職が14名,非管理職が42名であった.臨床的要因においては,初診時年齢は18~53歳,平均36.8歳であった.診断名は,うつ病が35名,双極性障害が14名,その他(統合失調症,アルコール依存症など)が7名であった.総休職回数は1~10回,平均2.6回,総休職期間は5~90ヵ月,平均28.7ヵ月であった.

2.PRRS得点の分布
 復職前のPRRSの総得点および各下位尺度の最小値,最大値,平均値,標準偏差を表2に示す.

3.就労継続期間
 Kaplan-Meier法による生存分析を行ったところ,調査期間中に再休職した対象者は56名中12名(21.4%)であった().Kaplan-Meier法により推定された平均就労継続期間は,715日(95%信頼区間:547~884日)であった.調査期間中に再休職した対象者が50%に至らなかったために,就労継続期間の中央値は算出できなかった.経過の観察期間の平均は246日,標準偏差(SD)は236.9日であった.

4.PRRSの就労継続予測妥当性
 復職後の就労継続期間を従属変数,対象者の復職前のPRRS得点,社会人口的要因および,臨床的要因を独立変数とした,単変量Cox比例ハザードモデルの結果を表3に示す.各モデルの適合度指標として,尤度比のχ2と自由度,有意水準を示した.また各独立変数のWald統計量,ハザード比(HR),およびその95%信頼区間を表3に示した.
 復職前のPRRS得点については,「復職前のPRRS総得点」が復職後の就労継続期間を有意に予測しており(HR=0.904,P=0.002),「復職前のPRRS総得点」が低いと,就労継続に不利であった.PRRS得点の下位尺度については,「基本的生活」(HR=0.650,P=0.025),「症状」(HR=0.734,P=0.002),「職場との関係」(HR=0.528,P=0.006),「健康管理」(HR=0.583,P=0.008)が復職後の就労継続期間を有意に予測しており,いずれもこれらの下位尺度の得点が低いと,就労継続に不利であった.「社会性」「サポート状況」の下位尺度得点は,就労継続を予測する傾向を示したが有意水準には至らず,「作業能力」 「準備状況」の下位尺度得点は,就労継続の予測妥当性を示さなかった.

5.社会人口的要因および臨床的要因の就労継続への影響
表3の社会人口的要因については,「性別」が復職後の就労継続期間を有意に予測しており(HR=3.575,P=0.033),女性が就労継続に不利であった.臨床的要因については,「初診時年齢」が復職後の就労継続期間を有意に予測しており(HR=0.924,P=0.032),若い初診時年齢が就労継続に不利であった.また,「総休職期間(月)」が復職後の就労継続期間を有意に予測しており(HR=1.029,P=0.011),過去の「総休職期間(月)」が長期であると,就労継続に不利であった.

表1画像拡大表2画像拡大
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表3画像拡大

III.考察
1.対象者の属性
 本研究の対象者の属性について,「男性が多い」「気分障害の診断が多い」という特徴は,国内の先行研究における報告6)16)と類似しており,他機関のリワークプログラム参加者に共通した属性と考えられる.

2.就労継続期間
 就労継続期間について,海外の研究によれば,精神疾患一般については328日21),精神疾患群のオフィス勤務社員では14.9ヵ月15),製造業務勤務社員では16.7ヵ月15),うつ病関連障害では23ヵ月5)といった報告がある.これらの報告は,いずれも生存分析の中央値である.わが国では,五十嵐らがリワークプログラム参加者について1,561日7),大木らが1,693日16),Sadoらが一般復職者の精神疾患群の男性で910.3日,女性で958.7日23)という結果を報告している.五十嵐ら,大木らの報告は中間値であり,Sadoらの報告は生存分析の中間値か平均値かが明記されていない.本研究の就労継続期間の平均値は,715日,約23.5ヵ月であった.上記のように,海外での報告は10.8~23ヵ月,わが国での報告は23.5~55.7ヵ月という結果であるが,これについては,海外とわが国における就労体制の相違18),本研究と五十嵐ら,大木らの報告のみがリワークプログラム参加者であるという対象群の相違,本研究は就労継続期間の平均値を報告しており,Sadoらを除く,他の研究では中央値が報告されているといった要因の影響が考えられる.五十嵐らの報告は510例,925例7)に関するものであるが,本研究と同様単一施設における調査であり,リワークプログラム復職者の平均就労継続期間に関する分析については,今後の多施設における研究を待つ必要があると考えられる.

3.PRRSの就労継続予測妥当性
 本研究によって,リワークプログラム参加者においても,復職前のPRRS得点が,復職後の就労継続を予測することが確認された.一般の復職者だけではなく,リワークプログラム参加者についても,PRRSが,レジリアンスの改善度,就労継続を予測することが確認されたことの意義は大きく,就労の可否判定などにPRRSが客観的な指標として使用できる可能性が示された.
 PRRS総得点について,復職後6ヵ月の時点での再休職について,再休職者(8名)を就労継続者(30名)から復職時のPRRS総得点で弁別する場合の最適な感度,特異度を,ROC曲線(receiver operating characteristic curve)を描いて検討した.観察終了時点で,復職後6ヵ月経過していなかった18名はこの分析には含まれなかった.
 各カットオフポイントにおける感度および特異度を表4に示した.ROC曲線下面積は0.72で,復職時のPRRSの総得点は,今回のサンプルに対しては,復職後6ヵ月の就労状況について中等度の予測性をもつことが示された.予測性が最も高いカットオフポイントは,64/65であり,このとき感度は0.625,特異度は0.967であった.これは64点以下を陽性(再休職),65点以上を陰性(就労継続)と予測した場合,実際に復職6ヵ月後の時点で再休職している人の62.5%,就労継続できている人の96.7%を正しく予測できるということを意味する.また,このカットオフポイントを採用したときの陽性反応的中率は83.3%,陰性反応的中率は90.6%であった.
 下位尺度得点については,「基本的生活」「症状」「職場との関係」「健康管理」が就労継続を有意に予測し,「社会性」「サポート状況」も有意水準には至らなかったものの,就労継続を予測する傾向を示した.一方,「作業能力」「準備状況」の下位尺度得点は,就労継続の予測妥当性を示さなかった.
 下位尺度得点の妥当性について検討を進めるために,本研究者らが行った一般復職者を対象とした研究データを再分析した24).本研究と同様に,PRRS総得点(平均=76.3,SD=8.9)と下位尺度の「健康管理」が有意な予測妥当性を示した.本研究で有意な予測妥当性を示した「基本的生活」「症状」「職場との関係」は,一般復職者では有意な予測妥当性を示さなかった.一方,本研究では有意な予測妥当性が認められなかった「社会性」と「作業能力」が,一般復職者では有意な予測妥当性を示していた.「健康管理」が両研究で有意な予測妥当性を示したことから,この下位尺度が,レジリアンス改善の評価に最も関係している可能性が示唆された.また,同じ復職者といっても対象群によって,異なる下位尺度が就労予後に影響を示す可能性が示唆されたが,一般復職者を対象とした過去の研究も今回の研究もサンプルサイズが小さく,「準備状況」が両研究で有意な予測妥当性を示さなかったことを含めて,今後の研究で慎重に検討する必要がある.
 PRRSの下位尺度に関連する知見として,精神症状は就労継続に不利22),精神状態や作業能力が予後に影響する3),上司との関係が悪いと就労継続に不利2),重症な精神疾患は不利19)といった以前の報告があり,該当の下位尺度がPRRSに含まれている妥当性を間接的に支持しているものとも考えられる.

4.社会人口的要因および臨床的要因の就労継続への影響
 今回の調査では,社会人口的要因のうち「性別」が復職後の就労継続期間を有意に予測しており(HR=3.575,P=0.033),女性が就労継続に不利であった.過去には,性差は就労継続に影響がなかったとする報告が多い4)11)12)14)19)21)23)24).また,リワークプログラム参加者を対象にした先行研究においては,女性が有利とする報告17)もある.今回の調査のサンプルについて性別と他の要因との相関について分析を行ったところ,女性には,「PRRS総得点が低い」「独身が多い」「非管理職が多い」「その他の診断が多い」「総休職回数が少ない」という特徴が認められた.今回のサンプルでは,婚姻状況,職階,診断,総休職回数は就労継続に影響を示していなかったことから,女性のPRRS得点が低かったことが,就労継続の不利に影響していた可能性がある.また,一般復職者を対象とした研究データを再分析したところ24),本研究と同様,性別は就労継続期間を有意に予測しており,女性は男性よりも短期間で再休職しやすい傾向が示された.また,本研究と同様,女性(平均=69.3,SD=7.65)は,男性(平均=78.1,SD=8.38)より,復職時のPRRS総得点が低い傾向があり,これが短期間での再休職のしやすさと関連していると思われた.両研究から,女性の復職時のPRRS得点が低く,それが就労予後に影響している可能性が示唆されたが,女性のPRRS得点が低かった理由は,これまでの調査研究からは明らかではない.
 年齢について,今回の調査では,影響がみられなかった.過去の研究では,高年齢が有利とする報告12)23),不利とする報告14),影響がみられなかったとする報告4)19)21),男性においてのみ有利であったという報告11)がみられる.
 学歴について,今回の調査では,影響がみられなかった.過去の研究では,50歳以下では低学歴が不利であったという報告13)がみられる.本研究の対象には大卒未満が6名と非常に少ないために,学歴の影響については結論づけることはできない.一方,低学歴者でも,リワークプログラムによって精神疾患の再発に関するレジリアンスの改善が得られれば,高学歴者との就労予後に差が出ない可能性も考えられる.
 婚姻状況について,今回の調査では影響がみられなかった.過去には,同様に影響がみられなかったとする報告14)21),未婚・離別・死別が,就労継続に不利であったとする報告25),未婚者が就労継続に不利であったとする報告12)がみられる.
 職階については,今回の調査では影響がみられず,過去にも,職階や社会経済的地位は就労継続に影響しなかったという報告4)17)がある.
 業種については,今回の調査では影響がみられなかった.過去には,自営業,不動産業・建築業は不利であったとする報告がある19)
 現所属事業所での勤続年数については,総勤続年数が長いほうが就労継続に有利である可能性が示唆されたが,今回のサンプルでは有意差はみられなかった.
 社会人口的要因の就労継続への影響については,いろいろな報告の間で知見が必ずしも一定していない.これは,同じ社会人口的要因が,異なった職場状況で,異なった影響を及ぼす可能性を示唆しているとも考えられる.社会的な要因は休職の発生の予測に役立たないとする報告もある28)
 臨床的要因については,若い初診時年齢が就労継続に不利であった.初診時年齢については,島らが,同様に低い発症年齢は就労継続に不利と報告している25)
 また,過去の「総休職期間(月)」が長期であると,就労継続に不利であった.これについては,過去にも同様の結果が報告されており9-12)17)20)23)27),再現性がある結果と考えられる.
 診断は就労予後への影響を示さなかった.診断について,大木らは,うつ病群はその他の気分障害圏,気分障害圏以外の診断より,就労継続に有利であったと報告している17).総休職回数は就労予後への影響を示さなかった.この要因については,大木らも影響を示さなかったとしている17).総休職期間が影響を示す一方,総休職回数が影響を示さないことについては,1回の休職において休職期間がどの程度に及ぶかによって影響が異なる可能性がある.
 社会人口的要因,臨床的要因については,過去の長期の総休職期間だけが,いくつかの報告の結果を再現したものとなっており,リワークプログラムの効果に影響を与える要因として参加希望者に説明する必要がある.ただ,過去の長期の総休職期間の影響は,一般の復職者でもみられており9-12)20)23)27),また,五十嵐ら,大木らの報告では,リワークプログラム参加者のほうが就労継続がよい可能性が示唆されているので7)17),リワークプログラムの適応禁忌の基準になるとは考えられない.
 臨床応用としては,復職する患者に対してこのスケールを用いてレジリアンス改善状況の評価を行い,適切な復職時期について患者や職場にアドバイスする資料として活用されることが望ましい.

5.本研究の限界
 本研究には,いくつかの限界がある.
 第1に,リワークプログラム施行施設が単一であったために,サンプルの偏りが存在する可能性がある.対象者が所属する企業は8業種にわたってはいるが,本研究は首都圏の復職者の就労継続に関する結果であり,知見を一般化するためには,複数の地域および施設を対象とした予後調査を行う必要がある.
 第2に,サンプルサイズが小さい.本研究の知見を,多施設におけるより大きなサンプルサイズで確認する必要がある.
 第3に,経過観察の期間が1~33ヵ月であり,長期にわたっているとはいえない.

表4画像拡大

おわりに
 本研究においては,結論として以下の3点が示された.
 ①リワークプログラム参加者の就労継続について,復職前のPRRS得点の予測妥当性が確認された.
 ②PRRSの下位尺度得点については,「基本的生活」「症状」「職場との関係」「健康管理」が就労継続を有意に予測した.
 ③臨床的要因の影響については,過去の長期の「総休職期間」が就労継続に不利であることが再現された.

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

文献

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