反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)は,低侵襲的に大脳皮質や皮質下の活動を修飾することができる技術である.わが国でも,2017年9月,既存の薬物療法に反応しないうつ病の治療装置として承認された.2018年4月,日本精神神経学会からrTMS適正使用指針が公表され,学会ホームページから参照することができる.rTMS療法の適応は,既存の抗うつ薬による十分な薬物療法によっても,期待される治療効果が認められない中等症以上の成人のうつ病患者である.本稿では,rTMS適正使用指針のなかでも,実施施設基準および実施者基準を中心に概説する.rTMS療法が国内に導入されることで,薬物療法の恩恵を受けることができなかった患者や家族にとって,うつ病の治療選択肢が広がることになる.
はじめに
反復経頭蓋磁気刺激(repetitive transcranial magnetic stimulation:rTMS)は,低侵襲的に大脳皮質や皮質下の活動を修飾することができる技術である1).わが国でも,2017年9月,既存の薬物療法に反応しないうつ病の治療装置として承認された.その承認条件として,①うつ病に関する十分な知識・経験を有する医師によって,関連学会が策定した適正使用指針を遵守できる医療機関でrTMSが使用されるよう,必要な措置を講ずること,②rTMSが①に掲げる医師により適正に使用されるよう,講習などの必要な措置を講ずることが求められている2).日本精神神経学会では,厚生労働省よりrTMS装置に関する使用要件など基準策定事業の委託を受け,このほど報告書として適正使用指針を提出した.2018年4月,rTMS適正使用指針が公表され,学会ホームページから参照することができる1).
rTMS療法の適応は,既存の抗うつ薬による十分な薬物療法によっても,期待される治療効果が認められない中等症以上の成人(18歳以上)のうつ病患者である1).双極性障害抑うつエピソードへの適応はなく,再燃・再発を防ぐための維持療法としては認められていない.また,2018年8月現在,国内で承認されているrTMS装置は,Neuro-Star TMS治療装置(Neuronetics,US)に限られている.今後,rTMS療法の適応拡大,新たなrTMS装置の承認などが生じた場合には,適正使用指針の改訂などが行われる.
本稿では,rTMS適正使用指針のなかでも,実施施設基準および実施者基準を中心に概説する.
I.実施施設基準
実施施設基準として,rTMS療法を実施する医療機関は,1名以上の日本精神神経学会認定精神科専門医(以下,精神科専門医)が常勤または非常勤として全ての診療日に勤務していることが規定されている(表1)1).これは,上述したように承認条件として,rTMS装置を使用する医師には,うつ病に関する十分な知識・経験を有することが求められていることによる2).また,おもに磁性体の有無,けいれん発作のリスク評価の観点から,rTMSの禁忌事項の事前評価を適切に行うことが可能であることも基準となっている(表1)1).rTMSの禁忌事項については,適正使用指針の「5.機器使用に際する留意事項,I.禁忌,1.絶対禁忌,2.相対禁忌」およびrTMS装置の添付文書もあわせて参照されたい1).
次に,院内連携および医療連携(院外連携)について述べる.rTMS療法によって0.1%未満の頻度であるが,けいれん発作が誘発される可能性がある1).けいれん発作やその併発症への対応として,医療機関(一般病院)では,神経内科,脳神経外科,救急医学科などの診療科との院内連携体制が求められる(表1)1).あるいは,診療所で,けいれん発作やその併発症が生じた際には,迅速な対応ができる医療連携を有することが必要となる.また,rTMS療法に限定したリスクではないが,うつ病の経過中に切迫した希死念慮の出現やうつ症状が増悪する可能性が想定されるため,精神科病床への入院が行える医療連携を有することも求められる(表1)1).なお,相対禁忌に該当するハイリスク群の患者には,診療所ではなく,迅速な対応が可能な医療機関(一般病院)で,けいれん発作の誘発などのリスク評価を十分に行ったうえでrTMS療法を実施すべきである1).
II.実施者基準
うつ病患者にrTMS療法を適正に使用するためには,うつ病の鑑別診断,治療手順に関する十分な知識と経験を有する精神科専門医であるだけではなく,rTMS療法に関する知識,技術に習熟していることが求められる(表2)1).このような事由から,rTMS療法の実施者は,日本精神神経学会が主催するrTMS療法実施者講習会および機器製造者または販売代理者が実施する実技講習会の両者を受講することが必要である1).rTMS療法は,上述した通り,学会主催および企業主催の講習会を受講した精神科専門医が実施するが,rTMS療法の実施過程の一部は,講習会を受講した医師あるいは医療スタッフが携わってもよい1).rTMS療法の実施者には,講習会を受講した精神科専門医,講習会を受講した医師,講習会を受講した医療スタッフが想定される(表3)1).
次に,rTMS療法の実施過程を示す(表4)1).講習会を受講した精神科専門医は,①~⑧まで全ての過程を実施することができる1).③と④については,うつ病の鑑別診断,治療手順に関する十分な知識と経験を有する精神科専門医である必要はなく,rTMS療法に関する知識,技術に習熟していることが求められるため,講習会を受講した医師でもよい1).また,刺激中のモニタリングは,講習会を受講した医師または医療スタッフでもよい1).ただし,必ず患者の傍に陪席し,副作用や有害事象が生じた際には,速やかに講習会を受講した精神科専門医に報告して対策を講じることが求められる1).相対禁忌に該当するハイリスク群の患者では,受講した精神科専門医あるいは受講した医師がモニタリングする必要がある1).
おわりに
rTMS療法が国内に導入されることで,薬物療法の恩恵を受けることができなかった患者や家族にとって,うつ病の治療選択肢が広がることになる.その医療ニーズに応じるには,rTMSの適正使用,技術の均てん化が肝要であることはいうまでもない.本稿では,適正使用指針にある実施施設基準および実施者基準について概説した.実際の使用にあたっては,適正使用指針だけではなく,rTMS装置の添付文書および取扱説明書も必ず参照されたい.
利益相反
インターリハ株式会社:経頭蓋磁気刺激装置の研究開発,薬事承認申請に関する助言業務
ヴォーパル・テクノロジーズ株式会社:経頭蓋磁気刺激装置の薬事承認申請および保険収載申請に関する助言業務
センチュリーメディカル株式会社:経頭蓋磁気刺激装置の薬事承認申請に関する助言業務
帝人ファーマ株式会社:経頭蓋磁気刺激装置の技術指導に関する助言業務
1) 平成29年度新医療機器使用要件等基準策定事業 (反復経頭蓋磁気刺激装置) 事業報告書 (https://www.jspn.or.jp/uploads/uploads/files/activity/Guidelines_for_appropriate_use_of_rTMS.pdf) (参照2018-08-28)
2) 医薬・生活衛生局医療機器審査管理課審議結果報告書 (http://www.pmda.go.jp/medical_devices/2017/M20170915001/580890000_22900BZI00029_A100_2.pdf) (参照2018-08-28)