Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第121巻第5号

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特集 反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)療法の適正使用指針について
反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)療法の適正使用指針について―うつ病に対するrTMS治療に関する世界のガイドラインの観点から―
野田 賀大
慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室
精神神経学雑誌 121: 376-383, 2019

 反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)療法は,1993年にHöflich, G. らがうつ病に対する臨床応用をケースレポートとして報告したのを嚆矢として,以来欧米を中心に,うつ病に対するrTMS臨床研究がなされるようになった.2002年にはカナダ保健省が,2008年には米国食品医薬品局が,治療抵抗性うつ病に対するrTMSの医療機器としての使用を認可した.さらに,本邦でも2017年9月にようやく厚生労働省が,特定のrTMS治療機器に関して薬事承認し,2018年4月には日本精神神経学会が厚生労働省からの依頼を受け,うつ病に対するrTMSの適正使用指針を策定した.今回は,同適正使用指針の基本的な考え方や,今後の改訂に際して参考となる世界の動向を理解するための一助になればと考え,rTMS療法に関する世界のガイドラインを紹介したいと思う.

索引用語:ガイドライン, 反復経頭蓋磁気刺激療法, 治療抵抗性うつ病>

はじめに
 適正使用指針(ガイドライン)とは,政府(厚生労働省)あるいは団体(各種専門学会)が,関係者ら(専門家達)に向けて取り組むことが望ましいとする指導方針や基準を示したものである.ガイドライン自体には法的拘束力はなく,むしろ専門家集団に向けた自主規制としての側面が強い.また,一般的にガイドラインは,策定母体が公的機関である場合には,その背景にある政府の医療政策などを反映した内容になりやすく,それに対し学術機関の場合には,より純粋な立場での科学的・技術的観点に基づいた知見を盛り込んだ内容になる傾向がある.また,ガイドラインの策定時期にも注意を払う必要があり,当然のことではあるが,策定年次の古いものは依拠しているエビデンスのもととなる文献の出版時期も古いものが多く,最新の知見が反映されていないことが多い.したがって,海外の各種ガイドラインを参考にする際には,それを策定した国や組織の背景にある医療制度,また政治経済状況,文化慣習,さらには策定時期などを考慮したうえで読み解いていく必要がある.

I.世界の主要な各種うつ病ガイドライン
 世界の主要な各種うつ病ガイドラインのなかで反復経頭蓋磁気刺激(repetitive transcranial magnetic stimulation:rTMS)療法についての記載があるものを新しいものから順に列挙すると以下のようになる.ちなみに本邦の2016年に改訂された「日本うつ病学会治療ガイドラインII.うつ病(DSM-5)/大うつ病性障害」のなかには2018年9月現在rTMS療法がまだ保険収載されていないこともあり,rTMSに関する記載はない.
 ①Canadian Network for Mood and Anxiety Treatments(CANMAT)ガイドライン2016:策定母体はカナダのCANMATと呼ばれる専門家チームであり,ガイドラインは改訂される度に査読付き英語論文3)として出版されている.
 ②Clinical TMS Societyガイドライン20165):策定母体はClinical TMS Societyと呼ばれる民間団体である.
 ③National Institute for Health and Care Excellence(NICE)ガイドライン20154):策定母体はイギリス保健省配下の英国国立医療技術評価機構である.
 ④Evidence-based guidelines on the therapeutic use of repetitive transcranial magnetic stimulation(rTMS)2014:策定母体はInternational Federation of Clinical Neurophysiology(国際臨床神経生理学会)であり,ガイドラインを査読付き英語論文2)として出版している.
 ⑤World Federation of Societies of Biological Psychiatry(WFSBP)ガイドライン20131):策定母体は世界生物学的精神医学会である.
 ⑥American Psychiatric Association(APA)ガイドライン20106):策定母体は米国精神医学会である.

II.各種ガイドラインについての概要
1.Canadian Network for Mood and Anxiety Treatments(CANMAT)guideline 2016
 結論:現在,rTMS療法は1剤以上の抗うつ薬に反応しなかった大うつ病性障害の患者に対して第一番目に推奨する治療法(1st line recommendation)である.
 ・rTMSの治療メカニズムは研究段階にあり,その機序は分子からネットワークレベルまで多岐にわたる.
 ・rTMSの刺激強度は110~120%安静運動閾値で実施する.
 ・高頻度刺激を左背外側前頭前野に対して実施する.
 ・標準的なrTMSプロトコルは週5回の治療を症状が寛解に達するまで計20回(4週間)実施する.
 ・計20回終了時点までに寛解に達していない患者に対しては,計30回(6週間)まで回数を増やす.
 ・rTMSの治療効果は数ヵ月持続する.
 ・今までの研究結果からは,rTMS療法を計26~28回実施することで最大の治療効果を発揮している.
 ・経験医学的には,rTMSの治療効果があるかどうかを判定するには最低20回の治療を実施するべきである.そして,症状の改善が認められた場合には,その後25~30回と回数を増やすべきである.
 ・現在,個々人におけるrTMS療法のアウトカムを予測できる妥当なバイオマーカーは存在しない.
 ・最もありふれた有害作用は,刺激中の頭皮の痛み(~40%)と刺激後の一過性の頭痛(~30%)である.両者とも治療経過に伴い徐々に軽減するものであり,市販の鎮痛薬で軽快する.
 ・rTMS療法が認知機能に有害な影響を与えるという報告はない.
 ・rTMS療法の最も重大な有害事象はけいれん誘発である.今までに世界でrTMSに関連した25例のけいれん誘発の報告がある.ただし,rTMSに伴うけいれん誘発のリスクは0.01~0.1%と見積もられており,抗うつ薬によるけいれん誘発リスクの0.1~0.6%や一般人口における自然発生率の0.07~0.09%よりは相対的に低い.
 ・現時点では,けいれん発作の既往がある患者には高頻度rTMSは絶対禁忌である.
 ・その他,頭部における金属装置の留置(人工内耳,脳刺激装置,脳動脈瘤クリップなど)がある場合,rTMSは絶対禁忌である.ただし,口腔領域における金属部品・インプラントなどはその限りではない.
 ・心臓ペースメーカー,植込み型除細動器,てんかんの既往,脳器質病変(血管性病変,外傷性病変,悪性新生物,感染性・代謝性脳疾患など)の存在はrTMS施行の相対禁忌とされる.

2.Clinical TMS Society guideline 2016
 結論:左前頭前野へのrTMS療法は,治療抵抗性または不耐性の急性期うつ病に対して,実質的な有効性および安全性を有する治療法である.
 ・Agency for Healthcare Research and Quality,U. S. Department of Health and Human Servicesにより実施されたうつ病に対するrTMSに関する15件を超えるメタ解析および多数の系統的レビューでは,うつ病に対するrTMS療法は臨床的かつ統計的に有意であると結論づけている.
 ・うつ病に対するrTMSは,APA,WFSBP,CANMAT,王立オーストラリア・ニュージーランド精神医学会(Royal Australian and New Zealand College of Psychiatrists:RANZCP),米国医療研究品質庁をはじめ,学会や技術評価団体によっても,肯定的な支持を得ている治療法である.rTMSは抗うつ薬投与による治療で効果が得られなかった患者に対する日常臨床において広く認められた治療として位置づけられている.
【推奨される臨床現場での不可欠な要素】
1)トレーニングについて
 ・医師およびスタッフのトレーニングにおいて重要な役割を果たしている.当協会では,業界が主導する機器固有のトレーニングに加え,rTMSの提供者が,大学関連または業界から独立した医師生涯教育(Continuous Medical Education:CME)プログラムやさらなる職場での直接的な指導を通して,追加トレーニングを完成させることを推奨する.トレーニングや集中的なrTMS体験を通じてrTMSに関する強力な基盤を有する提供者については,上記の推奨事項を免除してもよい.
 ・また,主治医およびrTMS治療チームのすべてのスタッフが,新たな技術の使用に関する適切な製品トレーニングを受けることが推奨される.最低でも,rTMSチームは機器メーカーが提供する詳細な製品トレーニングを受け,トレーニングを受けたことを証明した文書を残すことが推奨される.
 ・当協会ではまた,rTMS実施施設が,トレーニングおよび現行基準に関連した正式な標準作業手順書を作成し,施設でのrTMS実施にかかわるすべてのスタッフについて,手順の実施に必要な技能を維持することを推奨する.これらの手順の実施および順守について日常的な診療業務の一部として文書化されなければならない.
2)責任および役割
 ・rTMSの治療コースを処方する主治医は,rTMS治療チームの日常的な管理全般に最終的な責任を負う.当協会では,この主治医が患者の病歴の評価に基づいて予測される臨床治療計画を策定し,治療コースを開始する前にこの治療計画を患者とともに検討することを推奨する.
 ・rTMS主治医または診療を行う他の医師が初期運動閾値の決定を行い,以降の治療セッションのための適切なコイルの位置を特定することが推奨される.ただし,以降の運動閾値の決定を含めた日常的な治療セッションの実施および監視については,主治医は適切な資格を有する他の臨床スタッフメンバー(TMSテクニシャンの意)に委任することができる.この場合,緊急事態発生時には主治医に電話で連絡できる状況になっていなければならない.
 ・rTMS実施医師は毎日の治療セッションの治療コースを評価して,以降の日常的な治療を変更すべきかどうかを判断しなければならない.例えば,主治医は運動閾値の再決定が必要かどうかについての評価を行い,また有害事象が発生した場合は速やかに対処しなければならない.日常的な治療セッションの実施および監視については主治医が他の臨床スタッフメンバー(TMSテクニシャン)に委任できるが,いずれにせよ主治医が全体を監督しなければならない.すべてのrTMS臨床スタッフが適切なトレーニングを継続し,潜在的な医療緊急事態への初期対応者としての役割を担うことが推奨される.
 ・当協会ではさらに,rTMS実施者が心肺蘇生(CPR)または一次救命処置(BLS)のトレーニングを受けていることを推奨する.医師以外の実施者は,一人で治療を行う前にメーカーのトレーニングも受けなければならない.rTMSは医学的に複雑な治療であるため,緊急医療班に常時連絡できる必要がある.rTMS実施者は,モニターすべき最新情報や経過記録,またはその両方をrTMS実施医師に毎日提供しなければならない.また,気分評価尺度を用いた評価を繰り返し行い,うつ病の変化を記録することが強く推奨される.
3)インフォームド・コンセント
 ・治療オプションとしてrTMSを実施するという決定がなされたら,どのようなrTMS治療コースが必要となるかについて,患者が正確かつ有益な説明を受けられるようにすることが重要である.
 ・治療セッション中は,患者が頭部を自由に動かすことができないため,機器の動作面に対する視野が制限される.このため,開始前に治療手順に関する不安を軽減することが不可欠である.パンフレットやビデオなど,治療手順について患者への説明に使用できるさまざまな視覚資料を製品文書と併せて用意しなければならない.
 ・臨床現場では,診察室に家族を招き入れ,質問に対処することが適切である.患者が治療手順について十分に理解し同意した場合にのみ,書面でのインフォームド・コンセントを取得し医療記録に残さなければならない.
4)安全性に関する検討事項
 ・rTMSに関連する重大な安全性リスクとして,偶発的なけいれん誘発がある.このため,責任医師とrTMS治療スタッフの両者が,このような事象に対する適切な初期対応能力に精通していることが不可欠である.
 ・rTMSによるけいれん発作の発生率は非常に低く,現在の抗うつ薬投与に対して報告されている発生リスクよりわずかに低い.国際臨床神経生理学会連合が支持する勧告に従うことで,このリスクを最小限に抑えることが可能である.臨床現場では,潜在的なけいれん発作リスクに関する治療前の臨床スクリーニングやrTMS療法セッション中の継続的な臨床モニタリング,さらに本リスクに関する適切なインフォームド・コンセントが推奨される.
 ・rTMSの実施にかかわるすべての臨床スタッフは,けいれん発作やその他の有害事象に対する適切な初期管理を実施するための,初期対応者としてのトレーニングを受ける必要がある.全体的なけいれん発作のリスクについては,NeuroStarコイル使用時では30,000回の治療セッション中1回未満(<0.003%)または患者1,000人の曝露で1人未満(<0.1%)(NeuroStar TMS Therapy User Manual, Neuronetics, Inc.)と推定されている.これまでに報告されたけいれん発作はすべて自己限定性であり,治療セッション中にのみ発生している.当協会では,rTMS療法の安全管理として,rTMS治療室内に高度な蘇生用医療機器(救急カートや除細動器,酸素ボンベなど)を設置する必要はないと考えている.
 ・血管迷走神経性失神も,特にrTMSの初期セッションにおいて発生することがある.これに関する管理は,主に患者を安心させることであり,転倒による怪我を防ぐことである.
 ・rTMSセッション中は磁気パルスによってコイルクリック音が生成され,この音はコイルのデザインや強度によって異なる.このため,すべてのrTMS療法に対する追加の標準的な安全上の予防措置として,30 dB以上の音を軽減できる耳栓やその他の聴力保護具の使用が推奨される.このような予防措置を講じることにより,治療による患者または治療提供者の可聴閾値変化のリスクを取り除くことができる.注目すべきは,短いセッションの場合,音圧レベルは労働安全ハザードの許容閾値を超えないとされる.
 ・rTMSでは頭皮に不快感を生じることがある.これは部位や強度によって異なり,患者は一般に最初の2週間でこれに対する耐性ができる.結果として,感受性の高い患者について,多くの臨床医が最初の1週間でrTMSの量を徐々に増加させている.
5)アウトカムの評価
 ・当協会では,症状変化を記録し,臨床判断を下すためのデータを供給するために,rTMS実施施設における日常業務として,臨床効果に関する客観的な文書を取得することを推奨する.これは現行の臨床診療を実施するために重要である.うつ病の症状に関する複数の有効な患者報告型の評価項目測定基準が,採点方法と併せて公開されている.当協会メンバーの大部分は,Patient Health Questionnaireの9項目の評価尺度(PHQ-9),自己評価型うつ病評価尺度(Inventory of Depression Symptomatology-Self Report:IDS-SR),またはベックうつ病評価尺度(Beck Depression Inventory)を用いている.
6)臨床上の推奨事項
 ・適応患者:rTMS療法が適応になる対象は「現在のうつ病エピソードにおいて,抗うつ薬で症状の改善が得られなかった成人の大うつ病性障害患者」である.
 ・推奨事項1:rTMS療法は,適応患者母集団におけるうつ病の症状緩和のための急性治療として推奨される.
 ・推奨事項2:rTMS療法は,過去に急性治療コースで効果が得られたうつ病患者で,その後の再発を認めた患者における治療オプションとして使用することが推奨される(継続または維持).
 ・推奨事項3:rTMS療法は,抗うつ薬またはその他の向精神薬の同時投与の有無にかかわらず実施することができる.
 ・推奨事項4:rTMS療法は,急性治療コースによって効果が得られた患者の継続治療または維持治療として使用することができる.
 ・推奨事項5:rTMS療法は,rTMS療法に最初に反応した後にうつ病を再発した患者において再導入することができる(つまり,急性期rTMS療法中に中等度の症状の悪化を認めた患者においても,時期をみてrTMS療法を再開することができる).

3.National Institute for Health and Care Excellence(NICE)guideline 2015
 結論:NICEガイドラインではrTMSの臨床使用に関して,明確な推奨事項は記載されておらず,どちらかというと中立的な提言にとどまっている.
 ・うつ病に対するrTMSに関するエビデンスから,重大な安全性の懸念は示されなかった.短期的有効性のエビデンスは十分得られているものの,その臨床効果はさまざまである.うつ病に対するrTMSは,通常の臨床管理および監査のもとで使用することができる.
 ・同意取得の段階で,医師は患者に対して他の治療選択肢が利用できることを知らせ,rTMS療法によってうつ病が改善しない可能性もあることを理解させる.
 ・NICEは,患者の選定,使用する刺激の正確な種類とレジメンの詳細,維持治療の実施,および長期予後に関する詳細なエビデンスを公表することを推奨する.
1)NICE rTMS検討委員会の見解
 ・当委員会は,うつ病の自然歴がさまざまであること,研究でシャム治療を行うことの課題,および治療反応がさまざまで改善効果が小さいこともしばしばあるという点を鑑み,うつ病に対するrTMS研究の難しさを認識した.先行研究に含まれている患者数は多いものの,その効果量の評価は難しいものであった.しかしながら,当委員会は,多くのrTMS臨床研究において一貫して肯定的な結果が得られていること,また安全性プロファイルが良好であることを確認した.
 ・当委員会は,ある種のうつ病に対しては,rTMS療法が適当ではない可能性があるため,治療前の患者の選定が最も重要であると専門家からの助言を得た.
 ・当委員会は,患者からの意見が肯定的であることを確認し,一部の患者では抗うつ薬の服用をやめることができたなどのメリットを含め,生活の質に非常に有益であることを報告した.
 ・当委員会は,このrTMS技術は日々進歩を続けているとの報告を受けている.

4.Evidence-based guidelines on the therapeutic use of repetitive transcranial magnetic stimulation(rTMS)guideline 2014
 結論:欧州のエキスパートオピニオンによると,うつ病,疼痛性障害,脳梗塞,統合失調症の一部の症状に対するrTMS療法は,レベルA・Bのエビデンスを示しており,一定の有効性をもつものとしている.
 ・左背外側前頭前野への高頻度刺激が抗うつ効果を示し,疼痛障害部位の対側運動野への高頻度刺激が鎮痛効果を発揮するという知見に関してはレベルAのエビデンスが与えられている.
 ・右背外側前頭前野への低頻度刺激が抗うつ効果を示し,左背外側前頭前野への高頻度刺激が統合失調症患者の陰性症状に対して改善効果を示し,慢性脳梗塞患者への対側運動野への低頻度刺激が有効性を示すという知見に関しては,レベルBのエビデンスが与えられている.
 ・その他,耳鳴や幻聴などに対するrTMS療法に関しては,まだレベルCのエビデンスレベルであり,今後のさらなる研究が必要である.
 ・rTMSの臨床使用に際しては,治療技術の質を担保し,患者への適切なケアを保証し,治療成功率を最大化するためにも,適正な訓練を受けた専門家が実施すべきである.

5.World Federation of Societies of Biological Psychiatry(WFSBP)guideline 2013
 結論:現時点では,一般的な臨床現場におけるrTMS使用を推奨するほどには,臨床効果に関するエビデンスが十分ではない.
 ・今までのrTMSの治療効果を評価した研究では,刺激周波数や刺激位置がさまざまであり,一貫した結果が得られていない.2003年に行ったメタ解析では,rTMS療法はシャム治療と比べ,治療2週間直後の時点で軽度の改善を示した.
 ・rTMSに伴う副作用や長期的影響はまだ十分調べられていない.ただし,オープンラベルによる維持rTMS研究では,長期の安全性を示唆している(CANMAT 2009).rTMSによるけいれん発作の誘発は非常に稀である.
 ・rTMSと抗うつ薬の併用は,シャムコントロール研究にて治療効果を促進することが示唆されている.

6.American Psychiatric Association(APA)guideline 2010
 結論:APAガイドラインでは,rTMS療法をうつ病の急性期治療のオプションの1つと位置づけている.ただし,治療法の選択は,患者のうつ症状の重症度,併存疾患および心理社会的ストレス要因などの臨床的特徴,患者の治療の好み,それまでの治療歴などによって決定されるべきであり,どのような治療法も精神科的管理のもとで実施されるべきである.
 ・rTMSはうつ病急性期の初期治療としてはまだ十分なエビデンスが確立されていない状況ではあるが,米国では治療抵抗性うつ病に対する治療オプションの1つとして位置づけられている.
 ・多施設共同のシャムコントロールRCTによる左背外側前頭前野への高頻度rTMS臨床研究によって,現在うつ病エピソード中に1剤以上の抗うつ薬に十分反応しないうつ病患者に対する治療法として,rTMS療法は2008年に米国食品医薬品局(FDA)に承認された.
 ・うつ病に対するシャムコントロールrTMS研究を対象にした複数のメタ解析研究(2010年時点)では,rTMSは臨床反応において小~中等度の効果量があることが示された.ただし,それらのメタ解析研究で用いられている主なrTMS研究は,被験者がかなり重複していたり,刺激パラメータや治療パラダイムがさまざまであったりするため,メタ解析結果の解釈が難しい面もあるが,それでもなお,うつ病を対象とした左背外側前頭前野への高頻度rTMS療法の有効性は示されていた.
 ・うつ病に対する急性期rTMS療法では,より低い治療抵抗性がより高い治療反応性に関連する可能性がある.
 ・すべてのrTMS研究において,rTMSの忍容性は良好であり,研究参加者の脱落率は低かった.
 ・rTMSに伴うよくある副作用は一過性の頭部不快感や頭痛である.
 ・rTMSの臨床実践において,毎日実施しなければならないということが,一部の患者に対して,ロジスティクス上の問題を引き起こす可能性がある.

おわりに
 本稿では,うつ病に対するrTMS療法に関して世界の各種ガイドラインの要点のみを簡単にレビューした.2010年以前のrTMS臨床研究およびメタ解析・系統的レビューをガイドライン推奨事項の判断材料にしているもの(WFSBP,APA)は,rTMSの臨床使用に関してやや慎重な姿勢を示しているが,比較的最近の2010年以降の研究をエビデンスに用いているガイドライン(RANZCP,CANMAT,Clinical TMS Society,Evidence-based guidelines on the therapeutic use of repetitive transcranial magnetic stimulation)では,rTMSの臨床使用に関して肯定的な方針を示している.他方,NICEガイドライン2015では,国の医療政策と連動していることもあり,rTMSの臨床使用に関しては中立的な立場を示し判断を留保している.今後,本邦においても今回策定された適正使用指針を当座の目安としたうえで,新しい科学的知見に合わせて中立的かつ合理的な観点でガイドラインを改訂していく必要がある.

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

文献

1) Bauer, M., Pfennig, A., Severus, E., et al.: World Federation of Societies of Biological Psychiatry (WFSBP) guidelines for biological treatment of unipolar depressive disorders, part1: update 2013 on the acute and continuation treatment of unipolar depressive disorders. World J Biol Psychiatry, 14 (5); 334-385, 2013
Medline

2) Lefaucheur, J. P., André-Obadia, N., Antal, A., et al.: Evidence-based guidelines on the therapeutic use of repetitive transcranial magnetic stimulation (rTMS). Clin Neurophysiol, 125 (11); 2150-2206, 2014
Medline

3) Milev, R. V., Giacobbe, P., Kennedy, S. H., et al.: Canadian Network for Mood and Anxiety Treatments (CANMAT) 2016 Clinical Guidelines for the Management of Adults with Major Depressive Disorder: Section 4. Neurostimulation treatments. Can J Psychiatry, 61 (9); 561-575, 2016
Medline

4) National Institute for Health and Care Excellence (NICE): Repetitive transcranial magnetic stimulation for depression. NICE, 2015 (https://www.nice.org.uk/guidance/ipg542) (参照2019-03-22)

5) Perera, T., George, M. S., Grammer, G., et al.: The Clinical TMS Society Consensus Review and Treatment Recommendations for TMS Therapy for Major Depressive Disorder. Brain Stimul, 9 (3); 336-346, 2016
Medline

6) Work Group on Major Depressive Disorder: Practice Guideline for the Treatment of Patients with Major Depressive Disorder, 3rd ed. American Psychiatric Association, 2010 (https://www.psychiatry.org/psychiatrists/practice/clinical-practice-guidelines)(参照2019-03-22)

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