Advertisement第116回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第121巻第4号

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特集 認知症医療に求められる倫理
アミロイドPET発症前診断の結果告知に関する倫理的問題
和氣 大成1)2), 三村 將2)
1)埼玉医科大学総合医療センターメンタルクリニック
2)慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室
精神神経学雑誌 121: 274-281, 2019

 アルツハイマー病(AD)の根治療法のターゲットは,軽度認知障害(MCI)からさらにその前の前臨床ADにシフトしつつある.前臨床ADでは,特にその早期段階では,通常の臨床場面で用いられる頭部MRIや脳血流SPECTあるいは神経心理学的検査など通常の検査では異常が認められないものの,アミロイドPETでは陽性となる.また,臨床症状が顕在化するまでには15~20年を要することが知られている.現在,世界的に前臨床ADにおける認知症発症予防の臨床試験が行われているが,根治療法がいまだ開発されていないなかで,研究に参加した前臨床ADの人に対して発症前診断の告知を行うべきかどうかについての議論には決着がついていない.それにもかかわらず,研究のみならず臨床の場でも前臨床ADの人に対してアミロイドPETの結果をすでに告知している施設が国内外にあると考えられ,その倫理的な是非についてスタンダードを確立することに一刻の猶予も許されない.生命倫理の観点に立つならば,これまでは患者に苦痛や苦悩を与えないとする「無害の原則」に傾いていたが,最近は真実を語り自己決定を尊重する「自律の原則」とのバランスを考慮し,告知による利益を含めて判断することが重視される流れにある.われわれの研究では,もの忘れを訴えてメモリー外来を受診したものの,客観的な認知機能検査では記憶障害を認めない「主観的認知障害」の人を対象にアミロイドPETを実施し,希望に応じて結果を告知した.告知後24週まで不安や抑うつに明らかな継時的変化はみられず,少なくとも中期的には無害の原則が明らかに損なわれるとは言い難かった.自らのAD発症リスクの告知を望む声は強く,実際に告知を受けて今後の人生への備えができたという利益を挙げる報告もある.たしかに,告知にあたる医療者は,診断技術の不確かさという限界は忘れてはならない.しかし,リスクコミュニケーションのスキルを向上させ,告知内容をできるかぎり理解してもらえる方法を開発することも重要である.

索引用語:アルツハイマー病, 認知症, アミロイド, 告知, 倫理>
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