Advertisement第116回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第121巻第1号

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特集 精神科医が知っておきたい抗てんかん薬の使い方・付き合い方
知的障害を伴うてんかんの薬物療法
岩城 弘隆1)2), 兼子 直1)
1)医療法人清照会湊病院北東北てんかんセンター
2)東北大学大学院医学系研究科てんかん学分野
精神神経学雑誌 121: 24-29, 2019

 知的障害を合併していたとしても,てんかん治療の基本姿勢は,非知的障害例と変わらない.しかし,知的障害に伴うてんかんでは,超難治例の存在や薬剤の副作用の出現頻度などの相違点がある.また,問診や検査が十分に行えず,診断が困難な症例がある.まず,治療対象となる「てんかん発作」を見定め,患者や介護者の生活への発作の影響を考慮し,治療する.薬物療法による副作用は,患者だけでなく介護者のQOLにも大きく影響することが報告されており,実際に治療するうえで副作用のモニタリングが重要である.副作用のなかでも易怒性・興奮は,発作それ自体よりも介護者のQOLを大きく損なうことが知られており,特に注意が必要である.さらに,知的障害患者では,非知的障害患者と比較し,易怒性・興奮の副作用が出やすく,薬剤で体重が増加しやすく減少しにくいとされる.精神的にリスクのある患者には,精神安定化作用のある,または精神症状の副作用のリスクの低い抗てんかん薬を選択する.近年,てんかん症候群や病因を理解する重要性が高まっており,病因の理解をもとに,副作用のリスクを超える発作抑制効果が期待される薬剤があれば,リスクを覚悟しても試す価値がある.

索引用語:知的障害, てんかん, 抗てんかん薬, 副作用, 介護者>

はじめに
 知的障害とは,発達期までに生じた知的機能障害により,認知能力の発達が全般的に遅れた水準にとどまっている状態を指す.知的障害全体の約4分の1の症例でてんかんを合併するとされ,知的障害の程度が重いと有病率がさらに高まる22).精神科医は診断書作成や精神症状の治療と並行して,知的障害の患者のてんかんの治療にあたることも多い.しかし,知的障害に伴うてんかんの治療は,本邦のみならず海外でもガイドラインがいまだになく,専門医であっても診断・治療に困難さがある.さらに従来の抗てんかん薬(antiepileptic drug:AED)より副作用が少ないとされる,第二世代の新規AEDが本邦でも臨床で用いられ経験が蓄積されており,新たな作用機序により,これまで抑制できなかった発作が抑制できることがある.一方で,特に精神症状の副作用などにより新たな問題が臨床現場で起こっている.本稿では,治療にあたる基本姿勢について述べ,実際の薬物療法にどのような点を重視していくべきか述べる.

I.治療の基本姿勢
 知的障害を合併していたとしても,てんかん治療の基本姿勢は変わらない.しかし,知的障害を伴うてんかんでは,超難治例の存在や,後述する精神症状を筆頭にしたAEDの副作用の出現頻度の違いがある.さらに治療以前に,問診や検査が十分に行えず診断が困難な例も存在する.例えば,知的障害があることで自覚症状を言語化できない,発作時の記憶の有無が確認しにくい,発作か不随意運動か判別しにくいなど,発作の情報が正確に得られにくい症例である1).また,多動のため画像検査やビデオ脳波モニタリングに適応とならない例や,専門施設までの長距離移動に耐えられない例もある.しかし,これら医療上の限界があったとしても,治療のターゲットとなる「てんかん発作」が曖昧なまま,薬物療法を開始することは望ましくない.
 まず治療対象となる「てんかん発作」が何かをきちんと見定め,患者や介護者の生活への発作の影響を考慮し,治療する.例えば,けいれん重積を繰り返す症例や,明らかなてんかん発作で救急搬送を繰り返す症例では,多少の副作用は覚悟しても,薬剤調整を行っていくべきである.転倒する発作を繰り返す症例は,薬物療法とともに,脳梁離断など外科的治療も適応がある場合がある.逆に発作が患者や介護者のquality of life(QOL)に大きく影響しない場合や,てんかん発作か不随意運動か判別困難なものは,闇雲にAEDの追加・増量をせずに,可能な限り全般発作か部分発作かの診断までしたうえで,AEDを調整する.

II.何を重視して治療をするのか
 知的障害を合併するてんかん患者を治療するうえで,介護者の視点やQOLを考えることは重要である.てんかん発作は患者のみならず介護者のQOLに影響を及ぼす.同様に,薬物療法による副作用も,患者だけでなく介護者のQOLにも大きく影響することが報告されている4)33).特に副作用のなかで薬剤誘発性の精神症状,特に易怒性や興奮は,発作そのものよりも介護者のQOLへの影響が甚大であるとされる15).実際に,発作は減少しても易怒性や興奮が出現し,常時監視や夜間徘徊への対応が必要になり,自宅や施設での支援が困難になるケースがある.また,難治な経過をたどる症例などで,ベンゾジアゼピン系などのAEDが必要以上に増えすぎてしまい,鎮静などの副作用の出現しやすくなる傾向が指摘されている10).しかし,これら薬剤の副作用は軽視されているのが現状である19)
 AEDは各薬剤で作用機序が大きく違うため,後述するような背景病理が明らかな場合を除き,発作抑制効果の事前予測は困難である.以上から,AEDの選択は,発作抑制以上に副作用を重視するべきであり,知的障害患者では特に易怒性や興奮などの精神症状の副作用に細心の注意を払うべきである.

III.抗てんかん薬選択の基準―副作用の違い―
に,各AEDの副作用および,知的障害患者で出現頻度の変わる副作用について示した.薬物療法を考えるうえでは,非知的障害患者と比較し,AEDの副作用の出現の違いを理解するとよい.具体的には,知的障害患者で,精神症状の副作用,特に易怒性や興奮の出現頻度が上がり,薬剤により体重が増加しやすく減少しにくい.
 安全性が高く,長期的な副作用が少ないとされる第二世代のAEDだが,これまでの薬剤と違い,精神症状を悪化させるときがある.例えば,レベチラセタムやペランパネルは易怒性・興奮,トピラマートとゾニサミドは抑うつや幻覚妄想が問題となる31).知的障害患者ではトピラマートによる認知機能低下をきたしやすいという報告もあるが6),特にリスクが変わるのが易怒性・興奮である.非知的障害患者では,レベチラセタムとペランパネルによる易怒性・興奮の出現率は数%とされるが,知的障害患者では,報告によっては約40%の症例でこれら副作用が惹起されるとしている12)29).さらにガバペンチンやラコサミド,ラモトリギンなど,精神的な副作用のリスクが少ないとされる薬剤でも,知的障害患者では,稀に易怒性・興奮が出現することが報告されている5)7)24).レベチラセタムやペランパネルの使用により,活気がなかった患者の活動性が上がるなど,精神症状が改善する例も一部ではあるが3),全体としては易怒性・興奮のリスクの上昇を覆せるものではない.易怒性・興奮は外来でわかりにくいときもあり,これら薬剤を増量し,初めて気づかされることもある.また,介護者が易怒性や暴力を収めようと患者の言いなりになった結果,薬剤中止後も患者が自分の要求を通す手段として,暴力行為が続いた症例を著者は何例も経験している.知的障害患者にこれら薬剤を使用する際は,介護者にも副作用について十分な説明を行い,導入時は少量から投与開始し,増量を緩徐に行い,細心の注意を払い投与していく.
 知的障害患者は,もともと活動性が低く,肥満になりやすい傾向がある20).さらに,知的障害患者では,バルプロ酸32),系統だった報告ではないがペランパネルにより8),体重増加をきたしやすい可能性が報告されている.体重増加による肥満は,脂肪肝や心血管イベントなどのリスクの増大だけでなく26),血糖上昇により発作コントロールが悪化することもある16).介護者へ介入することで肥満は改善できるが9),一度肥満になった患者の体重を減らすのは難儀である.海外では,トピラマートの体重減少の副作用を利用し,抗精神病薬の体重増加の抑制や,ダイエット目的に使用することもあるが18),知的障害をもつ患者では,トピラマートによる体重減少をきたしにくい17).また,トピラマートで薬剤性の腎結石ができやすい可能性も指摘されている14).以上のような代謝系への影響も治療者は介護者にきちんと伝え,監視していく責務がある.

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IV.精神症状を重視した薬剤選択
 基本的には,非知的障害患者のてんかんの治療と同様に全般発作,部分発作の診断に従い薬剤を選び,その他皮疹の既往も考慮して薬剤を選択する.精神的にリスクのある患者では,精神的に安定作用のある,バルプロ酸やカルバマゼピン,ラモトリギンの使用を考慮する.これら精神安定化作用のあるAEDは,向精神薬の使用を抑えられる可能性もある19).全般てんかんであれば体重増加に気をつけつつバルプロ酸,次にラモトリギン,部分てんかんであれば従来のカルバマゼピンに加えて,ラモトリギン,精神症状悪化リスクの低いラコサミドが第一選択の候補として挙げられ,次にバルプロ酸,トピラマート,二次性全般化がある症例ではクロバザムなどを考慮する.

V.てんかん症候群や病因(etiology)によるAEDの選択やその他の治療法
 特に近年,etiologyの理解の重要性が高まっており27),etiologyの理解をもとに副作用のリスクを超える発作抑制効果が期待できる場合や,オーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)は,リスクを覚悟しても試す価値がある.本邦では,Lennox-Gastaut症候群にルフィナミド,Dravet症候群にはスティリペントールが,オーファンドラッグとして保険適用がある.またLennox-Gastaut症候群はバルプロ酸,ラモトリギン,トピラマートが第一選択とされているが2),近年ペランパネルの有効性が報告されている3).さらに,ペランパネルはLafora病13),歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)28),Unverricht-Lundborg病8)など進行性ミオクロニーてんかんへの有効性が注目されており,これら患者の認知機能を改善する場合もある23).新規AEDでは他に,結節性硬化症にラコサミドの有効性が報告されている11).今後さらにetiologyに対する各々のAEDの有効性の理解や遺伝子診断が進めば,AEDの発作抑制効果の事前予測や,テーラーメイド治療につながる可能性もある.
 薬物療法ではないが,ケトン食療法は,時に難治のてんかん発作の抑制に寄与し,さらに精神症状も改善することがある25).迷走神経刺激療法(VNS)は,知的障害合併例で効果が低いとされるが30),食事摂取に関する行動異常を改善したとの報告もある21).これら非薬物療法による副次的な精神症状や行動異常の改善は,新たな可能性を秘めている.

おわりに
 知的障害を合併するてんかんは,難治な経過をたどる症例も多い.そのため薬剤が必要以上に増加し,薬剤の副作用の問題が前面に出てしまうこともある.これまで述べてきた注意点を踏まえつつ,患者だけでなく介護者のQOLに着目し治療し,副作用を最小限にとどめるよう治療を行う.精神科医がてんかん治療を担当するのであれば,これまで述べてきたようなAEDの精神症状の副作用を見逃さないよう注意するべきである.そして適切な治療によっても発作が完全に抑制されない症例では,治療による副作用がなく,発作が最も少ない状態を維持する「限界設定」も必要となる.

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

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