Advertisement第116回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第120巻第8号

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特集 非自発入院制度の現状と課題―精神保健福祉法改正,措置入院,および臨床倫理をめぐって―
民間精神科病院からみた精神科入院制度
櫻木 章司
医療法人桜樹会桜木病院
精神神経学雑誌 120: 687-694, 2018

 わが国の精神科医療では,民間精神科病院が精神保健福祉法や心神喪失者等医療観察法に係る公的な役割も含めて,その多くを担っている.実態として,施設数の83.4%を,また病床数の91.8%を占め,全国各地に分散して立地し(二次医療圏のうち,精神科医療機関のない圏域は,全344圏中15圏域にすぎない),それぞれの地域でのさまざまな精神科医療のニーズに応じているのである.精神保健福祉法に規定される非同意的入院には,措置入院と医療保護入院がある.そのうち措置入院は,患者本人あるいは家族等のいずれかとも医療機関が治療契約を結ばないという点が,それ以外の入院形態とは異なる.また,医療保護入院については,保護者制度の廃止を伴う法改正によって,家族等の状況把握や市区町村長同意の範囲が限定されたことなど,医療保護入院の手続きにおいて民間精神科病院では対応に苦慮するケースが増加している.今後,法律の見直しのなかで,市区町村長同意による医療保護入院を含め,市区町村長の関与をより大きくする議論が進むことも想定される.非同意的入院の手続きにおいて,行政や司法等の公的関与を求めることが多い国際的潮流に鑑みれば,市区町村長の関与を,広く医療保護入院の手続きのなかで行うことも考慮する必要があるのではないか.

索引用語:民間精神科病院, 精神保健福祉法, 医療保護入院, 措置入院, 保護者制度の廃止>

はじめに
 わが国の精神科医療の特徴として,精神保健福祉法や心神喪失者等医療観察法に係る公的な役割も含めて,その大部分を民間精神科病院が担っていることが挙げられる.施設数でいえば,全1,599施設中1,334施設(83.4%)を,また病床数では,330,694床中303,456床(91.8%)を民間精神科病院が占めている.また,措置入院患者については,1,503名の措置入院患者中,1,123名(74.7%)が民間精神科病院(指定病院)に入院している(平成26年度精神保健福祉資料:630調査)2).さらに,二次医療圏で精神科医療機関がない圏域は,344圏域中,南会津圏域をはじめ15圏域にすぎず,中小規模の民間精神科病院が全国各地の地域に分散して展開し,それぞれの地域でのさまざまな精神科医療のニーズに応じていることも特徴の1つである.

I.改正精神保健福祉法に対する民間精神科病院の対応
 平成26年4月施行の改正精神保健福祉法においては,保護者制度の廃止とそれに伴う医療保護入院の手続きの見直し,医療保護入院患者に対する病院管理者への退院促進措置についての義務づけが大きなポイントとなった(表1).
 このうち医療保護入院の手続きについては,保護者の同意要件は外され,家族等のいずれかの者の同意と精神保健指定医1名の判断を要件とすることとなった(図1).今回の精神保健福祉法改正にあたって,医療保護入院制度における同意手続きの取扱いについては,「一般医療においてインフォームド・コンセントがますます重要とされる中で,病識がない精神障害者を本人の同意なく入院させるにあたって,患者の身近に寄り添う家族等に十分な説明がなされた上で,入院の是非を判断する手続きが必要ではないか」「本人の意思によらず身体の自由を奪うこととなる入院を精神保健指定医1名の診断のみで行う仕組みは,患者の権利擁護の観点からみて適当か」,さらに「自傷・他害のおそれがある措置入院の場合に,精神保健指定医2名の診断が必要とされる一方で,自傷・他害のおそれがなく,より症状の軽い医療保護入院の場合には精神保健指定医1名の診断で入院させることが適当か」などの観点から,同意手続きを経ずに精神保健指定医1名の判断のみで入院を行うことは不適当であり,家族等のいずれかの者の同意を要件とすることとされたものである.
 医療保護入院の手続きの見直しについては,市区町村長同意による入院要件が狭まったことも含めて,民間精神科病院では個々のケースで対応に苦慮する場合が少なからずあることが指摘されている.この変更点を含め,法改正後の医療保護入院の実態について把握する目的で,日本精神科病院協会(以下,日精協)では,平成26年度障害者総合福祉推進事業を受託し,「精神保健福祉法改正後の医療保護入院の実態に関する全国調査」を実施した3).日精協加盟全会員病院(1,208病院),国公立などの精神科(210病院)を対象に,調査票を送付し,日精協会員病院695施設(57.5%),国公立病院精神科103施設(49.0%),計798施設(56.3%)から回答が得られた.調査は,平成26年4月1日から同年9月30日まで6ヵ月間の入院者を対象とし,郵送によるアンケート調査で,①医療保護入院の手続き関係,②医療保護入院に対する退院促進措置関係,③今後の見直し意見について行い,①②については事例報告を依頼した.
 調査の結果,総入院者数,任意入院者数,医療保護入院者数については,法改正の前年に比べて目立った増減はみられなかった.応急入院については若干の減少が,措置入院については若干の増加がみられたが,医療保護入院のうち市区町村長同意によるものが,ほぼ半減していることが顕著であった(表2).
 医療保護入院の手続き関係についての質問に対して,家族等の同意を得た方法については,調査に応じた施設のうち半数前後で,(入院に係る診察に家族等が同席せず)電話同意で後日来院し署名を得た(410病院/784病院)や,(同じく)電話同意で後日郵送のみで署名を得た(368病院/789病院)ケースがあったとしている.なかには,電話同意をしたが,後日署名を拒否した(26病院/797病院)ケースも少数ながら報告されている.さらに,入院時同意したが入院後同意を撤回(17病院/797病院)したケースや,入院時に複数の家族等が揉めた(55病院/797病院)というケースも散見される(表3).改正前と違って,家族等の関与が入院時に限られること(改正法の解釈上,一旦同意すれば,その後同意を撤回するという概念はない)や家族等に関して優先順位が設定されていないことの是非が今後の議論となることが予想される.個別意見としては,家族等の同意取得が困難な例として,「家族等が疎遠,遠方にしかいない」「家族等が存在するが,同意やかかわりを拒否」「戸籍で家族等の存在は確認できるが,連絡可能かわからない」「行政が家族等を把握しているが,病院は把握していない(個人情報保護のため連絡先を教えられないとされる)」などが挙げられる.また,入院同意者の適格性の問題として,「同意者がDVや子どもへの虐待の加害者(警察が接見禁止としていても家族等の要件から外れない)」「家族等が精神科通院中あるいは認知症(判断能力の基準がバラバラ)」「家族等が,判断能力はあるが手術などで入院中」などが指摘されている.さらに,家族等に以下の者がいると判明した場合でも,心神喪失の場合などに該当しなければ市区町村長同意は原則不可な事例として,「破産者」「縁を切ったと主張して関与を拒否する者」「長期間疎遠である者」「遠方にいる者」「裁判によらない葛藤状況にある者」「ADLが大きく制限され,床上の生活を余儀なくされている者」「服役中の者」「施設や病院に(強制的に)入っている者」などが挙げられている.
 医療保護入院に対する退院促進措置についての質問では,(a)医療保護入院者退院支援委員会について,「本人参加による病状悪化」「認知症患者は告知の理解ができない」といった従前からの当事者の同意能力や判断能力に関する指摘や「出席者の日程調整が困難」「該当者が多すぎて十分な議論ができない」「家族が遠方で参加が困難であったり,拒否する場合がある」といったインフォームド・コンセントを行うべき対象が家族等となり,その範囲が広がったことに対する困惑が寄せられた.(b)退院後生活環境相談員について,「入院初期では,本人の意向確認や評価,支援計画の作成が困難なため,選任時期をもう少し病状が落ち着いた段階にして欲しい」「昏迷状態などでは,早期介入が難しい」「名前が悪い.“退院後”とつくと患者が焦ったり,退院後に何をするんだと言われる」など,新設された職分について十分なコンセンサスが得られていない状況が垣間見られた.(c)地域援助事業者について,「地域側が退院に難色を示す,家族に退院困難と勝手に伝える」「事業者が足りず連絡がつかない,退院が遅延する」「事業者が遠方だと会議への参加につながらない」など,地域の相談事業者との連携が容易ではない実態が明らかになった.
 今後の見直しについては,「市区町村長同意関係」が39%と最も多く,「医療保護入院の同意に関する運用関係」(21%),「医療保護入院者退院支援委員会関係」(15%)と続いた.前述したように,今回の法改正に基づいて,保護者制度の廃止に伴う医療保護入院の手続きの見直しが少なからず影響を及ぼしていることが明らかになった.保護者制度の廃止は,年来の議論を経て今回の法改正で一応の結論が得られたものである.しかし,それによって当事者の医療へのアクセスが阻害される結果となったり,精神保健指定医をはじめとする医療者の側に必要以上の負担を強いるものであっては,本末転倒である.制度のよりよい運用のために,なお検討が必要である.

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表2画像拡大表3画像拡大

II.非同意的入院の運用について―措置入院と医療保護入院―
 医療保護入院は,同意能力や判断能力が症状により影響されるとの精神疾患の特性に対して,措置入院の対象となる自傷・他害のおそれがある場合以外にも,入院治療へのアクセスを確保する仕組みが必要であるとして,過去の各次の法改正においても維持された経緯がある.また医療保護入院の要件として,その必要性について,医師(精神保健指定医)による医学的判断だけでなく,本人の利益を勘案できる者として,家族等の同意を求めている.一般医療と同様にインフォームド・コンセントに基づいて,家族等に治療の必要性を説明したうえで治療に関する同意を得て,治療契約が結ばれるのである.この点が,都道府県知事あるいは政令指定都市市長による行政処分である措置入院との大きな相違点である(図2, 図3).治療契約の観点から,精神科入院制度を整理すると表4のようになる.措置入院の枠組みにおいては,民間人である精神保健指定医も知事に指名された準公務員の立場で,民間精神科病院も公的病院に代わる指定病院としてかかわるのである.
 現在検討されている「精神保健福祉法の一部を改正する法律案」においては,医療保護入院の手続きにおいて,家族等の不在に加え,家族等が同意・不同意の意思表示を行わない場合にも市区町村長同意による医療保護入院を行うことを可能とする検討が行われている.これが実現すれば,市区町村長の関与が現在より大きくなる.非同意的入院の手続きにおいて,行政あるいは司法の関与を求めるべきとの国際的潮流に鑑みれば,市区町村長の関与をより広く医療保護入院の手続きのなかで行うことも考慮すべきではないか.これまでも,市区町村長同意による医療保護入院において,自治体の関与は書類上の同意という形式的なものにとどまっているとの指摘があった.日精協による各支部への聞き取り調査4)でも,行政職員による当事者に対する面会の実施状況は,入院時には37.5%,入院中でも46.2%,退院時においては20.5%にすぎないことが明らかになっている.市区町村長の関与を拡大するにあたっては,今以上に当事者との接触に努め,処遇について協力することが求められるであろう.そこで問題となるのは,自治体の負担が大きくなりすぎるのではないか,との議論である.年間発生する医療保護入院者数を人口あたりで推計したのが,表5である.これを必要な行政サービスの一環として認めるか否かは,地域住民を含めての議論が必要である.

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表4画像拡大表5画像拡大

おわりに
 わが国の精神科医療の多くを担っている民間精神科病院の立場から,保護者制度の廃止をはじめとする今回の精神保健福祉法の改正について,自治体による公的関与のあり方が問われていることを指摘した.精神保健福祉法に規定される非同意的入院のうち医療保護入院では,本人や家族等との治療契約をもって,治療構造を構築しているが,措置入院では,医療機関は本人あるいは家族等のいずれとも治療契約を結ばない.そうした観点を含め,意思決定や意思表明に対する支援のあり方について,今後の議論を待ちたい.

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

文献

1) 厚生労働省精神・障害保健課: 第1回保護者制度・入院制度に関する作業チーム参考資料. 平成23年1月7日

2) 厚生労働省: 平成26年度精神保健福祉資料 (630調査)

3) 日本精神科病院協会: 平成26年度障害者総合福祉推進事業「精神保健福祉法改正後の医療保護入院の実態に関する全国調査」 (http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000099530.pdf) (参照2018-07-03)

4) 日本精神科病院協会: 平成27年都道府県支部に対する聞き取り調査

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