Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第119巻第9号

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特集 社会に向けてのアンチスティグマの発信
精神科医療におけるスティグマ,アンチ・スティグマ―「病院づくり」から「街づくり」の過程のなかで―
堀川 公平
医療法人コミュノテ風と虹のぞえ総合心療病院
精神神経学雑誌 119: 665-671, 2017

 刻印のごとく,精神疾患の多くはスティグマを容易に消し去れぬ.ゆえに精神科医療そのものがスティグマを内包する.そしてそのスティグマが収容主体の「精神病院」の誕生,存続を許す力ともなっている.それゆえ,「精神病院」を治療主体の「精神科病院」に変えるにはスティグマの解消が鍵となる.スティグマを,不治の狂気(恐れ)がゆえの個人,集団の防衛機制,つまり部分対象関係,基底想定集団への退行と理解した.さらに,スティグマの形成や強化には,わが国に多い「伝統的チーム医療」(記述精神医学による「身体医学モデル」に基づくチーム医療)が関与していると考えた.なぜなら,患者の病理のみを対象とした学問であり医療であるからである.したがって,当院では医療改革の方法論として患者の病理だけでなく健康面をも重視した「力動的チーム医療」(力動精神医学による「治療共同体モデル」に基づくチーム医療)を用いた.その結果,スタッフ(患者)が患者(自分自身)を病理だけでなく健康面をも含めた全体対象として捉え得るようになり,さらには集団力動をも配慮することで課題集団へと移行することができた.それがアンチ・スティグマとなり,改革開始当時入院していた多くの患者(152名中115名)が退院し,「病院づくり」の成功へと導いた.地域住民との関係においても同様であった.当初,反対する住民に被害的(妄想分裂態勢)となり迷路に入り込んでいたが,町内会入会への勧誘(住民から受け入れられる体験)を機に住民へのスティグマ(怒り)は消え,「街づくり」(抑うつ態勢)へと向かうことができた.以上のごとく,スティグマの解消には教育や啓蒙だけでなく,直接的な相互交流により「受け入れられる」「受け入れる」という体験がアンチ・スティグマには必要である.

索引用語:スティグマ, アンチ・スティグマ, 記述精神医学, 力動精神医学, 力動的チーム医療>
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