Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第119巻第9号

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特集 精神科医は増え続ける児童虐待にどうかかわるか
児童心理治療施設における精神科医の役割
今井 淳子
長野県松本あさひ学園
精神神経学雑誌 119: 643-649, 2017

 虐待の通告を受けて,児童相談所で家族との分離が必要と判断された子どもは児童福祉施設への入所および里親委託などの社会的養護の対象となる.児童心理治療施設は児童福祉施設の1つである.心理的困難や苦しみを抱え,日常生活の多岐にわたり生きづらさを感じている子どもたちを共同生活の場のなかで「治療する」ため,福祉,教育,心理,医療の専門家が連携をとりながら,施設での生活すべてを治療に生かす「総合環境療法」を行うのが特徴である.虐待通告の増加や,発達障害の視点の広がりを受け,社会的養護の対象となる子どもの状態も複雑化している.児童養護施設入所児童の約半数は被虐待経験をもち,何らかの障害を有する児童は2割である.なお,児童心理治療施設においては,7割が被虐待経験をもち,発達障害を有する児童の割合の増加が報告されている.児童心理治療施設は児童養護施設に比して全国設置数は約10分の1,また措置児童数は20分の1にすぎず,増設されつつあるが,平成27年10月現在で43施設である.未設置の自治体もあり,運営の母体もさまざまである.医師の配置は最低基準に定められているが,常勤医師のいる施設も少ない.社会的養護のなかでの児童心理治療施設の治療機能の充実の必要性が示されているものの,実現には困難が多い.長野県松本あさひ学園は昭和42年,県立の施設として開設されたが,平成23年4月より移転改築され民営化された.移転後より著者が常勤医師として赴任したがクリニック機能はもっていない.入所児の背景をみると,虐待はもとより,親子双方に発達障害の特性を認める,親の精神疾患や経済的な困窮により家庭機能が脆弱,など多種多様な問題が混在し,精神科臨床とは強い相関がある.開設5年の経過と症例の提示を行い,精神科医師との連携の必要性について提言した.

索引用語:児童虐待, 精神科医, 児童心理治療施設, 発達障害>
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