Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第119巻第12号

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特集 さまざまな精神障害の「病識」をどのように治療に生かすか
摂食障害における病識と治療
西園マーハ 文
白梅学園大学子ども学部発達臨床学科
精神神経学雑誌 119: 903-910, 2017

 摂食障害の治療において,病識は大きなテーマである.特に,神経性やせ症については,「低体重の深刻さに対する認識の欠如」は診断基準にも挙げられている項目である.身体像などに対する誤った信念が訂正不能で妄想の域に達している場合もあるが,訂正不能でなくても,苦痛やとらわれ度が他の精神疾患より強い場合も多いと報告されている.神経性やせ症は,否認を背景に,体重操作などの問題行動がみられることがあるが,病識の乏しさや問題行動を指摘するだけでは治療が進展しない.直面化をしながらも本人の治療参加を促すような働きかけが必要である.神経性やせ症は,治療の動機付けの面からの研究も行われている.食生活だけでなく,生活全般が自己流のルールで支配され,社会的にも孤立しがちな慢性例については,生活の変化をめざす動機付け面接法は有用である.一方,発症間もない事例は,本人はやせることに万能感をもち,生活を変えるべきニーズをもっていない場合が多い.しかし,よく聞けば,ある時点から体重に関する支配観念や家族との葛藤が増えていることに困っていることは多い.このような変化を指摘することにより,低栄養によって,思考が病的な状態になってしまっていることを認識できる事例は少なくない.神経性過食症は受診率が低い疾患であるが,受診する患者については,過食や嘔吐は過食症の症状だという認識をもつことがほとんどである.しかし,「今すぐ症状をなくしたい」など治療に非現実的な期待をもつものもあり,治療が期待通りでないと,治療中断を招くことも少なくない.このように,効果的治療のためには,病気であることを認識しているという意味での病識だけでなく,治療に関するイメージや,病因や症状悪化因子などの理解についても治療者と共有することが重要である.病識を育てるには,治療関係と対話を継続することが重要だといえるだろう.

索引用語:病識, 神経性やせ症, 神経性過食症, 治療動機, 治療抵抗性>
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