「あらゆる精神障害は疾患か」という問いがある.この問いにどう答えるかで,その先に広がる精神医学の世界には大きな違いがある.伝統的精神医学は,「精神障害には疾患であるものと,そうでないものとがある」という立場を堅持する.一方,脳科学者は「あらゆる精神障害は脳の疾患である」と主張するかもしれない.DSMにおいては,「この問いにはあえて答えない」という立場をとる.この出発点の違いが,伝統的精神医学とDSMの特徴,診断の方法,長所・短所となって現れている.2つの分類体系は本来対立するものではなく,目的に応じて使い分けるべきものである.日常診療の場面では伝統的精神医学の思想がより優れているが,多くの標本を必要とする調査・研究ではDSMが必要である.
伝統的精神医学とDSM―共通点,違い,診断,長所と短所―
聖マリアンナ医科大学神経精神科学
精神神経学雑誌
119:
837-845, 2017
<索引用語:ハイデルベルク学派, 伝統的精神医学, DSM, 理念型>