Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第119巻第1号

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特集 児童期の性同一性障害への対応について
性同一性障害/性別違和の児童思春期例に対する二次性徴抑制療法―その概念と現状―
松本 洋輔1)2)
1)岡山大学病院精神科神経科
2)岡山大学ジェンダークリニック
精神神経学雑誌 119: 42-51, 2017

 性同一性障害/性別違和をもつ小児は,思春期になると二次性徴への違和感や成長に伴う社会的性別規範の厳格化から混乱をきたしやすく,メンタルヘルスの危機を迎えることが多い.そのためこの時期の身体的介入をどうすべきか長年の懸案であった.しかし,小児期のジェンダーアイデンティティは成人より揺らぎやすく,性ホルモンによる介入は一部不可逆的変化を伴うため適応の判断が難しい.この時期の身体的介入として,二次性徴抑制療法が世界的に行われている.これは,GnRHaなどを使用することにより,発来した二次性徴がそれ以上進行しないように抑制する治療法である.中止すれば二次性徴の進行が再開する可逆的な介入であり,万一性別違和が成長に伴って後に解消するような場合でも,治療を中断すれば身体的な影響はほとんど残らない.2012年の日本精神神経学会の「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン」第4版には,この治療法が記載され,わが国でもガイドラインに沿った適応が可能である.海外ではエビデンスが集積されているが,わが国ではまだ普及の途上にある.この治療が理想的な効果を発揮するには,思春期以前に徴候を捉え適切な機会に開始することが必要であり,小児のメンタルヘルスにかかわる専門家や教員などの協力がこれまで以上に望まれる.適応にあたっては身体に対する違和感を軽減するには精神療法や心理社会的サポートのみでは不十分な場合があることや,自らの性腺が分泌する性ホルモンの作用も不可逆的であることを十分考慮するべきである.人工的に投与したものであれ,自然に分泌されたものであれ,性ホルモンは当人に一部不可逆的な変化をもたらす.身体的な介入を選択しないことは中立的な態度ではなく,生得的なホルモンによる身体的変化を促すという介入を選択していることを意識するべきであると考える.

索引用語:小児の性別違和, 思春期, 二次性徴抑制療法, 性腺刺激ホルモン放出ホルモンアゴニスト(GnRHa), 性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン>
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