Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第118巻第12号

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教育講演
第112回日本精神神経学会学術総会
うつ病の森田療法・再考
中村 敬
東京慈恵会医科大学附属第三病院精神神経科/森田療法センター
精神神経学雑誌 118: 931-937, 2016

 うつ病の患者に対する,森田療法に基づく養生指導と入院療法について概説した.次いで森田療法と,「第三世代」の認知行動療法に位置づけられる行動活性化療法(BA)およびマインドフルネス認知療法(MBCT)との異同について検討した.森田療法によるアプローチは,少なくともうつ病治療のある時期からは建設的な行動を増やしていくことが有効だと考える点でBAとの共通性がある.また森田療法では「あるがまま」が,MBCTでは“being mode”が強調されるように,森田療法もMBCTも思考や感情をあるがままに受容することで悪循環(“doing mode”)からの脱出をはかる点で共通している.しかしながら森田療法家はBAの治療者と比べて,休息の必要性に一層注意を払い,回復の時期を考慮しながら行動を促すタイミングをはかっている.また森田療法では,MBCTのように注意を呼吸や身体感覚に集中させる特別の瞑想トレーニングを行うのではなく,あたり前の生活の実践を通して自然に注意が転換されるよう導いている.
 森田療法と「第三世代」の認知行動療法との間には,文化的背景の違いに加えて,それぞれが依拠するうつ病モデルの相違が認められる.BAは,正の強化の不足と不快体験の回避行動による負の強化をうつ病の基本的病因とみなしている.また認知理論では,患者の認知,感情,行動が悪循環をなしてうつ病を発展させるというモデルに基づいており,この点ではMBCTも従来の認知療法と同様の病因仮説に依拠している.このように心理学的うつ病モデルに基づくことから,BAもMBCTも主として臨床心理士によって治療が実施されてきた.他方わが国では医師が薬物療法を行いながら精神療法的アプローチを実施する場合が大半である.その際の準拠枠は,内因性うつ病を念頭においた医学的モデルであり,森田療法によるうつ病治療も,広義の医学モデルに基づいている.ただし狭義の医学モデルが病因の同定と除去を目標とするのに対し,森田療法では病因よりも回復過程に着目し,自然な回復力を助長することに主眼をおくという点で,「レジリエンス・モデル」と呼ぶ方がより適切であるかもしれない.

索引用語:森田療法, 行動活性化療法, マインドフルネス認知療法, うつ病, レジリエンス>
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