著者は日本精神科病院協会が平成23年度障害者総合福祉事業指定番号26番「精神科病院における認知症入院患者の退院支援及び地域連携に関し,被災地支援につながるモデル連携パスの作成に関する調査について」にかかわり,地域連携パス「オレンジ手帳」の普及と地域型認知症疾患医療センターの運営を通じて認知症の地域連携に取り組んできた.認知症における精神科病院の役割は入院治療に限定して語られることが多いが,実際には外来診療,重度認知症デイケア,認知症疾患医療センターなどのハード面だけでなく,精神科病院には介護施設や居宅系サービスに取り組んでいる病院も多く,地域の社会資源となっている.一方,ソフト面でも院内に認知症専門医,看護師,薬剤師,臨床心理士,作業療法士,理学療法士などの医療職と精神保健福祉士,社会福祉士などの福祉職がおり,地域で活動している多職種が連携できるよう,相談窓口となったり地域で相談できる専門職がみつからないときなどに支援する役割ももっている.また,現在,認知症モデルとアルツハイマー型認知症モデルの概念の混乱があり,アルツハイマー型認知症は認知症の一部であるにもかかわらず,同一のものと混同されている.特に,アルツハイマー型認知症の症候学を想定した中核症状とBPSDの硬直化した二者択一はそろそろ整理をする必要があるように考え,私案を提案した.
大垣病院
はじめに―岐阜県西濃地区における地域連携のプロセスと現況―
平成22年より岐阜県が県医師会を通じて西濃二次医療圏に地域連携モデル事業を委託し,著者も構成員として参加した.また,当時著者が委員長をつとめる日本精神科病院協会(以下,日精協)高齢者医療・介護保険委員会が平成23年度障害者総合福祉事業指定番号26番「精神科病院における認知症入院患者の退院支援及び地域連携に関し,被災地支援につながるモデル連携パスの作成に関する調査について」(以下,26番事業)4)を委託され,手帳形式の地域連携パスであるオレンジ手帳の作成過程にリンクして進めることになった2).そして,平成27年度末で約400冊のオレンジ手帳がモデル事業として地域で運用されている.医療連携を確認するために認知症疾患医療センター(以下,センター)相談後,オレンジ手帳を発行した患者の発行後の通院先について調査した.平成24年度はかかりつけ医と当院が病診連携して診療にあたるケースは全体の44%であったが,平成25年度で68.9%となり,平成26年度,27年度では80%となり,病診連携が進んでいることを示している.オレンジ手帳はセンターのみが発行元となり,しっかりしたガイダンスに基づいたマネージメントを行い,継続性と実効性ある地域連携となることを目標とした.というのも,地域連携パスは多職種地域連携の有力な手段ではあるが,あくまで道具であり,地域型センターが関与することによりいわば「車の両輪」のように役割を補完しさらに効果的に機能すると考えたからである.
I.地域連携の4層構造モデル
認知症を発症しているといっても必ずしも直ちに多職種の地域連携が必要ではなく,多くは認知症と診断されてマッチした医療介護のサービスを受ければ安定する群が多いと考える.地域連携の代名詞となったケア会議はかかりつけ医のほか多職種が集まって対応を協議する場である.しかし,各々多忙なメンバーが集まる時間を作ることは容易でないうえ,一度で問題が解決するとは限らず,膨大な時間とエネルギーが必要である.さまざまな理由で濃厚な情報交換が必要なケースを選択して行うことが効率的である.状態が安定していて連携の必要性が低い群と,複数の関係による強固な連携と情報交換が必要な群の間にあって緩やかに情報交換や連携が必要な群に地域連携パスは効果を発揮すると思われる.つまり,必要な情報を当事者家族の了解のもと共有するシステムであり,手帳に挙げられた項目すべてを強迫的にうめつくさなければならないものではない.
現在,国立精神・神経医療研究センターの伊藤が中心となって推進している,“患者手帳に基づく「連絡ノート型」フォローアップ支援システム”のプロジェクトに参加し,オレンジ手帳をICT化して4層構造になるような試みをしている1)2).オレンジ手帳の緩やかないわば「広く浅い」連携に対して,ケア会議を質量ともタイトで濃密な「狭く深い」連携と位置づけると,両者の間に若干の隔たりを感じ,さらに,中間に位置づけられる連携システムが必要ではないかと感じるようになった.これは直ちにケア会議に持ち込むほど対応に困難なケースではないが,予想されるリスクがあり,ある程度情報を共有管理して「いざ」というときにケア会議を開催したり,迅速に介入できる体制を整えておいた方がよいと思われる群への対応を想定したものである.システムは大きく分けて医療連携部分と多職種連携部分に分けることができる.医療連携部分は地域連携パス所有者のうち,必要と思われるものに関して個人情報に配慮して匿名化しMMSE,NPI,IADL,服薬状況や受診状況などに限定して情報の共有化をはかり,さらに,定期的に当該項目をフォローアップしていく.多職種連携部分はすでに各県医師会で運用されているSNSサイトを改良して利用する.そして,SNSサイトを作るにあたり,担当者があらかじめ登録したメンバーのなかから関与する職種をリクルートする.例えばBPSDが顕著なケースでは精神科医も参加する.また,パーキンソン症状が顕著なケースにおいては神経内科医も参加する.複数の身体合併症を有するケースでは複数の異なった専門性をもつ,かかりつけ医が参加する.このメンバーは固定ではなく,担当者の判断で出入りする.例えば,上の例ではBPSDが緩和したら精神科医は退場する.こうすることにより,限られたメンバーにおいてそのときの必要性にあわせて効率的に多職種の人材の配置ができる.平成27年度に基本ソフトが完成し,医師会をはじめ西濃地域の多職種に対して試験的運用をはじめた.
II.多職種連携における精神科病院の役割
認知症における精神科病院の役割は入院治療に限定して語られることが多いが,実際には外来診療,重度認知症デイケア,センターだけでなく,精神科病院は介護施設や居宅系サービスにも取り組み,地域のハード面の資源となっている.
一方,ソフト面でも院内に認知症専門医,看護師,薬剤師,臨床心理士,作業療法士,理学療法士などの医療職と精神保健福祉士,社会福祉士などの福祉職がおり,こういった院内の各職種が地域で活動する同じ職種と情報を共有し,家族を含めた地域の意向を入院中に反映させたり,病院における方針の伝達がスムーズに進むなど,院内と地域の連携も円滑に進み,各職種が対応する在宅多職種のカウンターパートナーとなり,センターや地域連携パスを利用して連携をはかることが可能である.精神科が併設する地域型センターは各地域における連携をマネージメントすることができる.
認知症における多職種連携はいわゆる地域におけるさまざまな職種を結集しなければならない.しかし,自然発生的に結集できるものではない.また,地域の多職種の人材は無尽蔵にいるわけでもない.さらに各地域に展開する職種の多様性も一様ではない.そのなかで精神科病院は前述のように院内に多職種がおり,場合によっては地域で不足している職種について補完的な役割を担うことも可能であろう.これは他の病院や介護施設ではできないことである.
III.地域型センターおよび診療所型センターと初期集中支援チーム2)3)
65歳以上人口密度(人口密度×高齢化率)は岐阜県が48.73人/km2,東京都1,285.77人/km2,大阪府1,088.07人/km2である.
さらにセンター1ヵ所のキャッチメントエリアとされる65歳以上60,000人の面積(60,000÷65歳以上人口密度)は岐阜県1,231.27 km2(約35.09 km四方),東京都46.66 km2(約6.83 km四方),大阪府55.14 km2(約7.42 km四方)である.岐阜県は東京都の約26.39倍,大阪府の約22.32倍の面積となる.さらに県内で最も高齢化が進んでいる飛騨地区を例にとると,飛騨地区は高齢者人口が44,252人で60,000人以下であるので,全地域4,177.59 km2(約64.63 km四方)をキャッチメントエリアとしてカバーしなければならない.そのなかで数十km離れた地域型センターと認知症医療支援診療所がバラバラに動くことはなんと非効率であろうか.これらのことを医師が1人で運営している診療所で行うのは物理的に不可能なのではないかと考える.認知症初期集中支援チームのバックアップを想定しているのかもしれないが,それなら,地域のサポート医が十分に機能をはたすと考える.オレンジプランや新オレンジプランでは期待される機能として早期診断,早期支援,危機回避支援が挙げられている.早期診断,早期支援はよいとして,危機回避支援を非精神科医が行えるのだろうかと考える.
現在,センターは東京都12ヵ所,大阪府11ヵ所指定されている.東京都の面積は2,187.42 km2で1ヵ所のキャッチメントエリアは182.29 km2(13.76 km四方),大阪府の面積は1,896.83 km2で1ヵ所のキャッチメントエリアは172.24 km2(13.13 km四方)であり,13~14 km四方のキャッチメントエリアは広さとしては妥当なものと考えられるが,問題は人口密度の大きさである.東京都の65歳以上人口2,814,130人,大阪府2,068,875人で60,000人に1ヵ所必要とすると,東京都47ヵ所,キャッチメントエリアは46.54 km2(6.82 km四方),大阪府35ヵ所,キャッチメントエリア54.20 km2(7.36 km四方)が必要となる.これら膨大な数の地域型センターを指定することは困難である.相互のキャッチメントエリアが小さく至近距離に位置する利点を利用して,院内に地域の多職種をかかえる,精神科病院が母体となった地域型センターが数ヵ所の認知症医療支援診療所に対して病診連携ネットワークのようなものを形成することで効率的に運用できるのではないかと考える.また,その診療所型センターが初期集中支援チームをバックアップし,時に地域型センターが直接センターをバックアップする体制が地域における有効な運用につながると考えている.
その際,初期集中支援チームも前述のSNSの連携構造を利用し,各個人に必要なオーダーメードなチームを編成することができ,地域において限られた人的資源をミスマッチを起こすことなく,有効に活用できると考える.
IV.認知症の症候の整理―私案―
また,現在,認知症モデルとアルツハイマー型認知症モデルの概念の混乱があり,アルツハイマー型認知症は認知症の一部であるにもかかわらず,同一のものと混同されている.それがアルツハイマー型認知症の症候学を想定した中核症状と周辺症状という捉え方につながっている.この「周辺症状」という表現は海外の文献でみられることはなく,日本独自のように思われ,浅学の著者はその出典を確認することができなかった.それが十分な検討をされないまま,無批判にBPSDなど他の術語と使い分けられている.アルツハイマー型認知症発想としては記憶障害や認知機能障害などが「中心的症状(中核症状)」であり,精神症状は副次的症状ないし,随伴症状という考え方であろう.介護保険の主治医意見書にも堂々と周辺症状という言葉を使い,精神症状を伴う場合はランクMとして最重度の位置づけとされている.アルツハイマー型認知症において精神症状が発現するのは軽度~中等度の時期であり「うつ症状」などは前駆症状であることもあり,レビー小体型認知症は認知機能障害が発現する以前に精神症状が発現するし,前頭側頭型認知症においても認知機能の障害の前に人格の変化や行動面での変化が先行するのは精神科医のなかでは常識であると思うが,一般に精神症状が現れるのは「末期」とか「重度」になってからという誤解がある.啓発活動をする他科の医師もこのあたりの説明になると「中核症状」と「周辺症状」という図式にしばられているので驚くほど粗雑な説明になってしまう.地域連携の仕事に携わっていると,それが精神症状の優勢な認知症患者に対する新たなスティグマを生んでいることを実感する.
そもそも以前より「認知症の精神症状」という表現がほとんど使われないのはなぜなのか精神科医としてずっと疑問があり,そしてBPSDという言葉がそれに対応しているのだろうというあいまいな認識であった.BPSDとはもとより認知症における行動心理症状であるが,なぜ認知症に限って「行動心理症状」というのか? わざわざBPSDという言葉に置き換えなければならないことに納得できない部分がある.「認知症の精神症状」をBPSDと「翻訳」している精神科医は著者だけであろうか? BPSDに限ったことではないが,大げさな言い方をすれば母国語ではなく外国語で話すような「言葉の壁」があり,精神科医が認知症の連携のなかに入って行くときにアウェーで試合をするようなよそいきの感じにつながっているように思われる.地域連携というのはお互いの領域の理解が不可欠である.それにはお互いの領域で使われている用語もどのような意味のものか丁寧に説明する必要がある.精神科医が言い出したとは思えない,「周辺症状」という言葉も主治医意見書に使われている以上排除できないのが現状である.
とはいえ,周辺症状は論外としても,BPSDは一般に認知された術語であり,治療的側面からの整理を試みたいと思う(図1).
整理の必要を考えたのは精神科医としてまず,薬物療法と非薬物療法の医療的適応を考える必要があるのではないかということである.ゆえに今回はあくまで出発点としての私案である.各障害の下位項目はいわゆる「中核症状」と主治医意見書にある「周辺症状」から選択した.
まず,一次性の障害(機能障害)として高次脳機能障害,精神機能障害,生理機能障害と整理し,二次性の障害(発現型)として行動障害を位置づける.高次脳機能障害はおおむねいわゆる「中核症状」に対応し記憶障害,見当識障害,実行機能障害,失語,失行,失認などがこれにあたり,薬物療法(主にsymptomatic drug)や非薬物療法(言語療法,作業療法,回想法など)の比重がおおむねフィフティ・フィフティ(併用)の関係にあると予想される.一方,精神機能障害(狭義の精神症状に対応し,妄想,幻覚,抑うつなどが含まれる)と生理機能障害(昼夜逆転,せん妄)は薬物療法の比重が非薬物療法(睡眠導入剤を含む)より大きいかと考えられる.ここでの薬物療法はsymptomatic drugに加えて向精神薬も適時使用することになる.発現型として行動障害(徘徊,介護への抵抗,不潔行為,焦燥,多動・興奮,異食行動,性的問題行動が含まれる)はむしろ非薬物療法の比重が大きいと考えられる.この群では薬物療法は鎮静を目的としたものになりがちで,過鎮静など薬物の副作用が問題となる.鎮静を目的とした治療は慎重を期すべきであろう.「周辺症状」はもとより,BPSDという概念もわが国では「中核症状」と差別化するための概念として利用され,雑多な概念を含んだ未整理のものである.今回述べた私案は実践的な見地から主治医意見書をたたき台としているので,まだまだ,吟味する必要はあると考えている.
おわりに
現在,著者の病院では地域連携のツールとしてセンターがコーディネートした地域連携パスの効果的運用の可能性を模索している.また,地域と入院を対立概念と捉えるのではなく,地域での生活のなかに入院を位置づけることにより結果的に入院期間の短縮につなげることができると考える.
従来,地域連携については円卓会議的発想の運営がイメージされてきたが,残念ながら「開くのが目的の会議」に陥っていると思う.濃淡をつけた重層的な構造が必要なのではないかと感じており,①状態が安定しており,特に連携を必要としない群,②緩やかな連携を必要とする群(紙ベースの地域連携パスを利用),③必要なときに介入できるように少し密に連携をする群〔地域連携パス(ICT)を利用〕,④さまざまな問題をかかえケア会議を行い,濃厚な情報交換を必要とする群という4層構造を提案している.
また,加齢による喪失感や認知機能の低下による緊張感や焦燥感など,老人特有の心性を考えるのはすぐれて精神科的であるが,思春期,青年期,中年期,更年期などにも年齢に特有な心性があり,それは各年齢層における共通項であって実際の人格は多種多様であることは言うまでもない.強く意識しすぎ先入観をもってみてしまい,「木を見て森を見ず」にならないか精神科医としていつも強く意識すべきである.
また,本稿では論じる紙数がなかったが,わが国の認知症施策は大都市に偏りすぎており,これを標準型とすると地方,特に中山間部でまったく機能しないことを付け加えたい3).
なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.
1) 伊藤弘人, 樋口輝彦: 身体疾患管理とメンタルケアの統合に向けて―国立高度専門医療研究センターによるナショナルプロジェクト―. 週刊医学界新聞, 3045; 4, 2013
2) 田口真源: 岐阜県西濃地区の認知症地域連携について―オレンジ手帳のICT化を利用した4層構造―. 日精協誌, 33 (5); 23-30, 2014
3) 田口真源: 過疎化が進む中山間部の認知症患者と自動車運転―生活支援の視点から―. 日精協誌, 35 (5); 47-55, 2016
4) 山﨑 學, 河﨑建人, 田口真源ほか: 平成23年度障害者総合福祉事業指定番号26番「精神科病院における認知症入院患者の退院支援及び地域連携に関し, 被災地支援につながるモデル連携パスの作成に関する調査について」報告書. 2012





