Advertisement第121回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第118巻第1号

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討論
保護者制度廃止後の医療保護入院における内縁関係の扱いについて
茨木 丈博
地方独立行政法人神奈川県立病院機構神奈川県立精神医療センター精神科
精神神経学雑誌 118: 14-21, 2016
受理日:2015年5月13日

索引用語:医療保護入院, 内縁>

はじめに
 平成25年の精神保健福祉法改正により医療保護入院の同意は「家族等」(配偶者,親権を行う者,扶養義務者,後見人又は保佐人)の誰でもなしうることになった.家族等には保護者の義務はないものの,退院等の請求(法38条の4)や医療保護入院者退院支援委員会への出席(法33条の6,平成26年1月24日障発0124第2号)等,入院に関する一定の地位が与えられている.
 今回の改正では内縁関係について直接はふれられなかった.しかし実際には,内縁関係にある者(本稿では内縁配偶者と呼ぶ)が最も本人の状況に配慮することができるキーパーソンである場合も多い.仮にこの内縁配偶者をも「家族等」に含めることができれば,より適切に医療アクセスや権利擁護を実現できる可能性がある.行政解釈は内縁配偶者を配偶者に含めない(消極説).しかし従来の審判例は内縁配偶者を保護(義務)者(以下では「保護者」に一括する)とすることを肯定していた(積極説).このように内縁配偶者の位置は定まっていない.
 本稿は,当否はさておき現行制度を所与として,まず旧法下での議論を回顧してから,現行の規定が積極説と合致する一方,法改正で消極説の根拠が失われたことを示す.内縁配偶者を家族等として扱う場合に想定される審判手続も提示する.

I.旧法での議論状況
1.保護者の法的性格に関する理解
 内縁配偶者を保護者に含めるかの議論の前提として,そもそも保護者の法的性格について,公法的とみる立場,私法的とみる立場,両者を折衷的に捉える立場の3説あり,各立場に基づいてそれぞれの結論が導かれていた.やや込み入った議論であるものの紹介しておきたい.
1)公法,私法という概念
 理解のため重要な用語として,公法とは行政(国家)と私人との権力的な法関係をいい,私法とは私人間のような非権力的な法関係をいう6).例えば保護者が本人に治療を受けさせる義務(旧22条1項)についていえば,これが公法的義務であるというのは,本人に治療を受けさせるという内容の,国家に対する義務を,保護者が主体となって負うということである.逆から言えば,本人に治療を受けさせるよう,国等が保護者に対して要求する立場にあるということである.私法的義務と考えるときは,法律関係は保護者と本人の間にとどまるのであって,保護者が国等から要求を直接受けるいわれはないということである.
 かつてはこうした区別が重視されて,公法性を理由として一定の結論が演繹されることがあったが,現在の行政法学説や最高裁判所は法律関係の実質に即して判断する傾向にあるとされる6).ただ,公法,私法は,分類や整理のため便利な概念として現在でも使われているようである.
2)各見解
 以下では記述の便利のため,消極説の論拠となるものにマル数字を付す.
 第一の立場は,私法的性格を重視するものである.保護者の義務の具体的内容や保護者の範囲からすると,保護者の義務とは私法上の身上監護・扶養義務そのものか類似のものであることを根拠としている3)11).つまり,精神保健福祉法上の保護者の義務規定は,すでに民法の条文または解釈上,本人・保護者間の私法的権利義務として規定されているものを再確認するだけであり,精神保健福祉法が国に対する義務として民法に付け加えるものは何もないというに等しい立場である.
 第二は公法的性格を重視するものである.この中でも複数の視点があり,1つは,保護者の義務は国家に対する医療行政上の義務であり,私法上の権利義務とは異なるとするものである3)11)(①).もう1つは,保護者の中心的役割は入院同意にあり,この判断にあたって本人の人権を擁護する義務が課されていると考え,これも私法上の扶養義務とは異なるとするものである3)11)(②).入院同意については,公法上の法律行為であって私法上の代理権行使ではないという説明もされる3)8)14)(③).いずれにせよ,民法と別個に,国等に対する公法的性格が精神保健福祉法により創設・付与されているとみることになる.
 さらに第三として,保護者の義務を公法上あるいは私法上のものと一義的にみず,本人に対する関係では身上監護的私法的性格であり,公共的立場からみれば公法的性格であるとする折衷的な見方があり,これが法律実務家の多数だったようである3)11)

2.内縁配偶者を「配偶者」として保護者に含める見解(積極説)
1)私法的性格を重視する立場からの説明11)
 私法的性格を重視すると,配偶者が保護者であるといっても,結局は配偶者間に扶助義務(民法752条.これは親族間よりも高度の扶養義務である)等が発生するのと同じことにすぎない.ところで判例・通説により準婚理論が肯定されている.これは婚姻の法的効果を広く内縁に準用する見解である2).準婚理論によれば扶助義務は内縁に準用されるので,これと同質である保護者の規定も準用される.
 要するに,民法が扶助義務等について法律婚と事実婚とを等しく扱う以上は,精神保健福祉法も民法の解釈に依拠すべきである,なぜなら精神保健福祉法が民法に付け加えるものはないからである,ということである.
2)折衷的立場からの説明
 公法的性格と私法的性格とを折衷させる見解も,私法上の義務を負う者であることを基礎に公法上の義務を課したとみることになるため,積極説に至るとされる11)
 つまりこの見解は,保護者の範囲は私法上の義務者であるか否かに従うという前提をとっている.そして,第一段として保護者の範囲を論じ,保護者の範囲が定まった後に第二段として精神保健福祉法上の公法的義務が課されると考えている.保護者の範囲を画定する第一段階では,上記見解と同様,民法が扶助義務等について法律婚と事実婚とを等しく扱っているのをそのまま反映させることになる.

3.内縁配偶者を保護者に含めない見解(消極説)と積極説からの批判
1)公法的性格を重視する立場からの説明
 公法的性格を重視する根拠は上記論拠①②③のように複数あるが,いずれによっても消極説に至ることが説明される.まず,保護者の公法的義務(①)や同意の公法性(③)を重視すると,公法的義務や同意権を有する者を,国等,外部によって明確に特定できなければならないため,保護者の範囲を法文のとおり厳格に画す必要があることになる11)(④).人権擁護義務(②)に関連して,旧法20条は人権擁護の見地から保護者の範囲を限定して列挙したはずなので,字義どおりに読むべきだとされる11)(⑤).保護者制度は準婚理論の埒外にあるとの指摘もある.内縁の両当事者と,その両当事者以外の者とにわたる法律関係のうち,客観的,画一的に定められる必要がある場合には準婚理論の限界を超えるはずであり,相続や戸籍はその典型であり内縁には準用されない.保護者制度もまた対外的法律関係にかかわる(とりわけ,論拠③のように同意の公法性を肯定すると,そのように考えやすいだろう)ので内縁へ準用することはできないという5)(⑥).
 つまり論拠④⑤⑥の主張をまとめると,民法が法律婚と事実婚とを等しく扱おうとしているとしても,精神保健福祉法は固有の観点から制約を付け加えなくてはならない,なぜなら精神保健福祉法は私法的義務に包摂されない公法的性格を保護者へ付与するからである,ということである.
 運用の面からみると,保護者制度下では,民法の条文上の扶養義務者等が保護者となれるのであればそれを保護者とし,関与拒否等があれば市町村長を保護者とする等,あらゆる事態について,結果的に医療保護入院(の同意・不同意の確認)が可能なので,消極説でも入院実務に大きな支障は生じない(⑦).これも消極説の基礎にあると思われる.
2)積極説からの批判
 積極説の消極説に対する批判の実質は,最終的に入院の手立てがあるので支障がない(⑦)としても,内縁の生活実態を無視すべきでなく,自ら責任を負おうとする内縁配偶者を無視して疎遠な扶養義務者や市町村長を保護者とするのは不当である11),というところにある.
 そして,保護者の法的性格論以外の,論拠④ないし⑥について以下のように反論する.保護者の範囲の明確性(④)は,確かに内縁は公示されず医療行政上の支障があり,判断を病院管理者等に任せるのも問題があるため,旧法20条2項4号の類推適用等により保護者選任の審判を経ればよいとする11).人権保障(⑤)は,むしろ生活実態に裏打ちされている内縁配偶者が最もよくその機能を果たすと主張する11).準婚理論の限界(⑥)については,精神保健福祉法の属す福祉法領域では対外的法律関係であっても法律婚と事実婚とが等しく扱われていること(国民年金法5条8項,労働基準法施行規則42条1項等.なお,これらは年金や労災に関する規定である)を参照すべきとしている11).そこでは,相続や戸籍と異なって,精神保健福祉法については内縁は排除されないことが示唆されている.

4.実務の状況
 実務上は,消極説が通説と位置付けられ13),旧法の行政解釈(厚生省精神衛生課長通知昭和43年衛精37号)や,おそらく自治体や精神科病院のほとんどもこれに従っていた.ただし消極説に立った裁判例は知られていないようである.
 一方,法律実務家の間では審判付きの積極説が多数で11),最近もこれが「実務」であるとされていた12).「配偶者」に準じるが審判で公示する必要があるとした審判例7),「配偶者」に含まれるが審判を経由する必要があるとした審判例9)もある.この立場は自治体・病院関係者には採用されず,それどころか存在自体が知られていなかったと思われるが,論拠⑦のような入院実務の運用や行政解釈・行政指導の存在によるところが大きいのであろう.

5.小 括
 以上をまとめると,積極説は,民法の観点から後見人・保佐人,配偶者,親権行使者,扶養義務者と同等であるかのチェックを経れば十分であるとして,内縁配偶者はこれを満たすという.他方で消極説は,公法的義務等が課されている以上は精神保健福祉法独自の制約があるとして,内縁配偶者はこれを満たさないという.入院実務では消極説がとられ,法律実務は積極説に接近していた.
 したがって,保護者制度が改正された場合の解釈論にあっては,精神保健福祉法の規定がどの程度私法の解釈に依存し,どの程度独自性を維持しているかといった点を検討することが重要である.

II.現行法下での検討
1.現行法の概要
 保護者制度廃止に伴い,医療保護入院の家族側の同意要件をなくすことも提案されていたが,結局「家族等の同意」が残ることになった.家族等の範囲は配偶者,親権行使者,扶養義務者,後見人・保佐人とされ,市町村長を除く旧法下の保護者の範囲と同一に設定されている(33条2項,旧20条1項)が,入院の同意等のいくつかの権限以外,精神保健福祉法の条文上は全ての義務が廃止されて,少なくとも公法的義務を負うことはなくなった.配偶者に内縁配偶者が含まれるかについて,現行法でも行政解釈は消極説に立つ(平成26年3月20日付障精発事務連絡別添「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律等の施行に伴うQ & A」問2-2).

2.現行法の態度と積極説との合致
 「家族等の同意」が要求されたのは,インフォームド・コンセントおよび人権擁護の見地が理由とされている10)が,これだけでは,家族側の同意が必要であることが説明されたとしても,その範囲が配偶者,親権行使者,扶養義務者,後見人・保佐人であるべきことの説明にはならない.忖度すれば,旧法との連続性確保といった消極的理由はあるかもしれない.また,行政解釈が消極説に立つ理由も明示されていないが,あえて積極説をとらなくても入院実務に支障がなかったので,行政解釈についても連続性を確保しようとしたのかもしれない.しかしながら,議論を経て残されることとなった「家族等の同意」要件は,条文の趣旨内容を積極的に吟味すべきであり,上記のような消極的態度で結論すべきものではない.
 家族等の範囲を個々にみると,本人に対し配偶者は扶助義務等を,親権行使者は身上監護義務を,扶養義務者は扶養義務を,後見人・保佐人は身上配慮義務を,それぞれ民法の条文上または解釈上負担している.これらの義務の内容は相応の差異を有するものの,大まかには,本人の自律的生活を補助するための,契約ではなく社会生活関係に基づく,身分的な義務,と括ることができる.こうした身分的義務を有するという共通点があり,かつそれ以上の共通点は認めないことからすれば,現行法は,その義務の有無のみを決定的なメルクマールとして,入院同意権の有無を判断しているとみるべきである.
 そして,保護者と異なって,家族等には精神保健福祉法による公法的義務の負担がないから,民法に付け加えて精神保健福祉法が家族等の範囲を独自に制約しなければならない理由は存在しない.
 したがって,民法が扶助義務等の点で法律婚と事実婚とを等しく扱っている以上,現行法でも民法の態度を尊重すべきことになり,積極説が導かれる.旧法で積極説が導かれたのと類似の理屈であるが,現行法はこの理屈をより正当化しているとみなせる.
 また,このように現に本人を身近で支えている内縁配偶者を家族等に含めて入院同意権を与えることは,インフォームド・コンセントの点でも,家族等のうち本人の診察に付き添い身近で支える者に対してするのを原則としている(平成26年1月24日障精発0124第1号)ことと合致する.
 以上の議論を大掴みしやすいように,法学的な正確性をさておき,保護者または家族等の法的地位と内縁配偶者の法的地位との関係についての各説の理解を図示した(図1).

3.消極説の根拠の喪失
 消極説の各論拠は,旧法下ですでに示したとおりの批判を受けていた.さらに法改正に伴って,論拠④以外は一層根拠薄弱となっている.
1)論拠①および②に対する批判
 論拠①の保護者の義務,論拠②の人権擁護義務のいずれも,現行法では公法上の義務ではなくなったから論拠とならない.
2)論拠⑤に対する批判
 論拠⑤を敷衍すると,保護者は入院同意を通じて本人に対する権利制約を担うものであり,その範囲が恣意的に拡張されると不当な権利制約をもたらしうるから,法律の文面どおりに解釈するという方法によって,そうした事態を可及的に防止すべきである,との主張である.
 この危惧自体は現行法下でも首肯できるが,生活を同じくする内縁配偶者とそうでない扶養義務者等とでは,通常は前者の方が本人に対して人権擁護を図る機能が高いはずであるのに,論拠⑤はこのメリットを捨てることになる.これは,入院同意権者の範囲を限定することと生活実態を重視することとのいずれが適切かという比較問題に引き直すと,後者より前者を優先すべしとの主張とみなせる.ところが,旧法が保護者の一人のみに同意権を与えていた(旧20条2項)のに対し,現行法は,家族等の誰でも同意できる(33条1項)として入院同意権者を拡張しつつ,身近で本人を支え診察に付き添う家族等へのインフォームド・コンセントを原則としている(前掲平成26年1月24日障精発0124第1号).これは前記の比較問題でいうと,前者より後者を優先するということであり,論拠⑤は現行法の態度に合致しない.
3)論拠③および⑥に対する批判
 論拠③の前提問題として,入院同意が私法上の契約行為に尽きるか,それとも公法的性質をもつ(つまり,同意権は,契約締結権と別の,国家・公共等に対する効果をもつ権限であるとみることになる)かという法的性質論の対立がある8)14)(本稿はこれ自体について深入りしない).論拠⑥は,内縁配偶者の間にとどまらない法律関係について法律婚と同様に扱ってよいのかという問題提起であり,こうした法的性質論とも密接に関係してくる.しかし,論拠③の肯否を問わず,積極説は導かれるし,論拠⑥に反論できる.
 まず,論拠③に反対して,入院同意に公法性はなく私法上の契約にすぎないと考えてみる.法律婚では入院同意について民法761条(医療を含む日常家事について,一方配偶者が第三者と取引する場合,他方配偶者が連帯責任を負い,また他方配偶者に対する法定代理権を有するとする規定)が適用されると考えられる.同条は内縁にも準用されることが認められている2).よって,対外的法律行為ゆえ内縁配偶者には入院同意権がない,との論拠⑥はこれに反している.
 次に,論拠③に従い公法性を肯定したとしても,本稿の最初に示したとおり,公法性から一定の結論が演繹されるわけではなく,個別の考察が重要となる.前記のように,他の福祉法制は公法性をもちながら法律婚と事実婚とを統一的に扱っている.その理由として,福祉法の達成しようとする利益が,最終的には福祉の対象となる個人に帰着し,公法性や狭義の公共性は終局目標ではなく,それ自体独自の意義は希薄である,ということが考えられる.このような事情があれば論拠⑥は後退する,というのが福祉法制全体の態度であるとみてよい.精神保健福祉法も事情は同様である.つまり,達成しようとするのは個々の精神障害者の福祉的利益であるし,現行法の同意権は旧法と異なり,公法的義務を伴わないこと,入院開始時点にしか法的意義がないこと,同意者にとっての心情的な重みが失われていること4)からすると,公法性や公共性があるとしても意義が希薄化している.よって,現行法の入院同意権も内縁に拡張してよいものといえる.
4)内縁配偶者を扶養義務者に含めることへの反証困難
 そもそも「扶助義務が準用されるので,内縁配偶者は少なくとも扶養義務者に含まれる」という形式論により,論拠①②③⑤⑥による指摘は全てかわせる.旧法でも積極説の亜種として,内縁配偶者を「配偶者」に含めないとしつつ,民法752条の準用により扶助義務を負う結果,「扶養義務者」に該当するとみる見解14)があり,「扶養義務者」として保護者選任した審判例もある15)
 この説明は,精神保健福祉法の中で準婚理論を展開するのではなく,民法の中で扶養義務を肯定してから精神保健福祉法に持ち込むものであり,悪く言えば密輸入的であって違和感を覚えるかもしれない.しかし,強制入院と同じく本人の人身的自由と家族とが関与する法律関係として,刑事法分野を参照すると,例えば刑法244条1項の親族相盗例(親族間窃盗の処罰制限規定)や,刑事訴訟法上の弁護人選任権(30条2項),告訴(231条以下)等がある.これらは「親族」「○親等内の血族」「姻族」といった内縁配偶者を含む余地のない規定である.これと比較すると,準婚理論が古くから確立しているのにもかかわらず,あえて「扶養義務者」を規定する精神保健福祉法について,むしろ内縁配偶者を含むことを予定しているとも考えられる.
5)論拠⑦に対する批判
 運用でカバーできるという論拠⑦は,現行法では,連絡できる家族等の全員が本人への関与を拒否する場合に欠陥がある.旧法では,保護者に種々の義務を課すかわりに,それが果たせない者を「義務を行うことができない」(旧21条)不適格者として除外できたので,関与拒否事例を市町村長同意の問題へ誘導できた.ところが現行法では,「その意思を表示」(33条3項)できるかという意思表示の一般的能力だけを問題とし,本人に対する具体的な適格性を問わないから,関与拒否事例が市町村長同意の問題にならない.
 この点について,「その意思を表示することができない場合」という文言を,入院への同意・不同意を本人の利益のために真摯に表示することができない場合,と適格性まで含んだ解釈をすることも不可能でないように思われ,また現行法立案当初の当局にも混乱があったのか,条文変更があっても市町村長同意の運用は変化しない旨の発言をした担当者もあった〔第9回日本司法精神医学会大会(平成25年5月31日)シンポジウム質疑における精神・障害保健課長発言〕.しかし結局,関与拒否事例は市町村長同意の問題にならないというのが行政解釈である(平成26年3月20日付障精発事務連絡別添「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律等の施行に伴うQ & A」問3-1および問3-2).
 これにより生じる間隙を可及的に防止するために,法定の扶養義務者等が関与を拒否する中で内縁配偶者のみが本人を心配し入院に賛成している事例について,積極説をとるべきである.
6)論拠④の指摘に対する解決策
 家族等の特定性,明確性については,保護者制度が廃止されてもその要請自体は認められる.だからといって内縁配偶者を排除するのではなく,旧法の積極説の多数と同様に,審判を条件として家族等に含めればよい.また,現在では内縁自体も多様化して,必ずしも婚姻同様とまではいえない場合もある1)ことから,家族等に含めるべき程度の内縁であるかを吟味するためにも審判の意味がある.法改正により,旧法下で提案された審判手続を利用することはできなくなったが,現行法では次節のような手続が想定可能である.

図1画像拡大

III.審判手続
1.想定される手続の提示
 家族関係についての一般的手続規定である家事事件手続法を手がかりに,2通りの審判手続が想定でき,以下にそれぞれの骨子を示す.それぞれ考察すべき法的論点を含んでいるが,詳細な検討は紙幅の関係上別の機会としたい.
1)両者が調停を申し立てて審判を得る方法
 第一は,両内縁配偶者が内縁関係存在確認の調停を申し立て,内縁関係存在確認について合意に相当する審判(家事事件手続法277条1項)を得る方法である.両者が当事者として手続に加わる必要があるので,例えば現に入院を要する状態になり意思能力が失われている場合には不可能ではないものの煩雑である.今後入院が必要となるおそれのある患者が,平時のうちに有事に備えて内縁配偶者に入院同意権を与えておきたい,といった場合には利用しやすい.
2)一方が審判を申し立てる方法
 第二は,扶養義務存在確認の審判を行う方法である.手続の根拠としては,扶養義務を扱う点で共通する,扶養義務設定審判の手続(家事事件手続法182条以下)を準用することが考えられる.現に入院を要する場合であっても,同意者となる者のみの申立で行うことができると考えられるから,これが認められれば第一の方法より便利である.

2.パートナーシップ制度について
 海外では婚姻のできない同性カップル等が利用できるパートナーシップ制度16)を設けている国があり,日本でも自治体レベルで同性カップルに対し登録ないし証明によるパートナーシップ制度を導入しようとする動きがある.本稿での内縁配偶者は同性間のものも含むから,上記審判を経れば家族等に含まれることに変わりない.登録ないし証明があれば,審判を得る際に有力な資料となろう.
 それを越えて,審判なしに登録ないし証明だけで家族等と認めてよいかは将来的に問題となりうる.現時点では全く不透明だが,当該制度の趣旨・内容,普及・運用の状況次第によっては,審判と同程度に特定性・明確性を与えるものとみて,認める余地が生じるのかもしれない.また外国人や外国でパートナーシップ登録をした者が日本で入院を要する場合にはさらに別の論点を生じるが,この議論は他日を期したい.

おわりに
 以上のように,家庭裁判所の審判を利用することで内縁配偶者を家族等として扱うことが可能となる.ただし実運用にあたっては病院,自治体担当部局,管轄の家庭裁判所の間で十分な協議が必要となろう.また,審判を得る時間的余裕のない場合には応急入院等の手段も講じなければならない.そうであっても本稿に示した思考方法が具体的事例の有力な解決策をもたらす場合もあろう.今後どのような事例が集積するかを注視する必要がある.

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

文献

1) 青山道夫, 有地 亨編: 新版注釈民法 (21) 親族 (1) 有斐閣, 東京, p.259-261, 1987

2) 同書, p.262

3) 羽生雅則: 精神障害者の保護義務者の権限・性格および任期. 家事事件の研究 (2) (東京家庭裁判所身分法研究会編). 有斐閣, 東京, p.346-353, 1973

4) 茨木丈博, 和田直樹, 岩井一正: 精神保健福祉法改正法下での医療保護入院の同意撤回について―「入院継続要件説」と「入院開始要件説」との対比に基づく法的リスクの検討―. 治療学, 29 (4); 547-550, 2014

5) 糟谷忠男: 特別家事審判事件の諸問題. 新実務民事訴訟講座8. (鈴木忠一, 三ヶ月 章監修). 日本評論社, 東京, p.217-218, 1981

6) 木村琢磨: プラクティス行政法. 信山社, 東京, p.36-43, 2010

7) 神戸家裁審判昭和47年2月21日. 家裁月報, 25 (3); 115-116, 1973

8) 三木千穂: 精神保健福祉法上の保護者制度と成年後見制度―医療保護入院と監督者責任を中心に―. 明治学院大学法科大学院ローレビュー, 6; 113-132, 2007

9) 盛岡家裁水沢支部審判昭和49年5月21日. 家裁月報, 27 (4); 90-91, 1975

10) 諸富伸夫: 精神保健福祉法改正について. 日精協誌, 33 (11); 1083-1087, 2014

11) 野田愛子: 内縁の妻, あるいは事実上の親子を精神障害者の保護義務者となしうるか. 家事事件の研究 (2) (東京家庭裁判所身分法研究会編). 有斐閣, 東京, p.367-374, 1973

12) 岡口基一: 要件事実マニュアル第5巻 (第4版). ぎょうせい, 東京, p.494, 2013

13) 佐上善和: 家事事件手続法II[別表第1の審判事件]. 信山社, 東京, p.510, 2014

14) 須山幸夫: 保護義務者の選任及び順位の変更. 講座・実務家事審判法4 (岡垣 學, 野田愛子編). 日本評論社, 東京, p.297-315, 1989

15) 徳島家裁審判昭和61年7月23日. 家裁月報, 38 (11); 128-130, 1986

16) 鳥澤孝之: 諸外国の同性パートナーシップ制度. レファレンス, 711; 29-46, 2010

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