DNAメチル化修飾やホモシステインの代謝にかかわるone-carbon metabolism経路に注目して,これまで統合失調症の病態解明研究を行ってきた.ゲノムワイドDNAメチル化修飾解析により末梢血において広範囲に統合失調症のDNAメチル化修飾変化を認めること,統合失調症患者において血漿ホモシステイン濃度が特定の遺伝子の末梢血のDNAメチル化修飾に影響を与えること,疫学観察研究のメタ解析により統合失調症患者において高ホモシステイン血症を認めること,メンデル無作為化解析により血中ホモシステイン濃度の上昇が統合失調症のリスクの原因であること,遺伝子関連研究のメタ解析により血漿ホモシステイン濃度に影響するメチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素遺伝子のC677T多型が日本人において統合失調症の発症リスクであることを明らかにした.これらの知見は統合失調症の病態解明や治療法開発の一助になると思われる.
はじめに
徳島大学大学院医歯薬学研究部精神医学分野では,one-carbon metabolism経路に注目した統合失調症研究を行っており,そこを糸口としてDNAメチル化修飾解析も進めている.DNAメチル化修飾は遺伝子の塩基配列の変化を伴わずに遺伝子発現に影響を与えるエピジェネティクス機構の主要なメカニズムであり,シトシン塩基(C)とグアニン塩基(G)が連続している配列の部分(CpG)でシトシン塩基の5'位の炭素原子にメチル基が付与されることをいい,クロマチン構造の安定性,ゲノム・インプリンティング,X染色体の不活化,正常発達に寄与している7)17).統合失調症は遺伝要因と環境要因が相互に影響して発症する多因子疾患であるが,環境要因の精神疾患発病にかかわる分子生物学的メカニズムはいまだによくわかっていない.近年,環境要因がDNAメチル化修飾に影響を与え,遺伝子発現や行動を変化させる可能性を示唆する研究論文が報告されるようになり20)23),DNAメチル化修飾が精神科領域でも注目されるようになってきている.本稿では,これまで筆者が行ってきたone-carbon metabolism経路に関連するDNAメチル化修飾とホモシステインの統合失調症研究の成果を報告する.
I.抗精神病薬を内服していない統合失調症患者と一方のみが統合失調症を発症した一卵性双生児を用いたゲノム網羅的DNAメチル化修飾解析研究
我々は,抗精神病薬を内服していない統合失調症患者24名と年齢・性別をマッチさせた23名の健常者から得た末梢血白血球サンプルをファーストセット,一方のみが統合失調症に罹患した3組の男性の一卵性双生児ペアをセカンドセットとして,ゲノム網羅的DNAメチル化修飾解析を行い,末梢血における統合失調症のDNAメチル化修飾異常の同定を行った.本研究のサンプルの詳細は表1に示した.
抗精神病薬はDNAメチル化修飾を変化させることが知られている6)9)13)14)15).また,一塩基多型のDNAメチル化修飾への影響も報告されており4)17),抗精神病薬を内服していない統合失調症サンプルと一卵性双生児サンプルを用いることは,薬物や遺伝子配列の影響を除外し疾患のDNAメチル化修飾の異常を同定するのに有用な方法である.解析は,抽出したゲノミックDNAのバイサルファイト処理を行った後,Infinium® HumanMethylation450 Beadchips(Illumina社)を用いて485,764 CpGサイトのDNAメチル化修飾レベルを調べた.メチル化レベルは,β値(0-1)として表した.ファーストセットではsurrogate variable analysisを用いてDNAメチル化修飾の差異を比較し,false discovery rate 0.05を有意水準とした.セカンドセットではpaired t-testを用いてDNAメチル化修飾の違いを比較し,p値<0.05かつ,DNAメチル化修飾の差異(Δβ)>0.01を有意とした.
得られた結果は次の通りである.①ファーストセットでは10,747 CpGサイトで,セカンドセットでは15,872 CpGサイトで,統合失調症群と健常者群の2群間のDNAメチル化修飾の差異を認めた.②2つのセット間で共通するDNAメチル化修飾の変化を234 CpGサイトで認めた.これらのサイトは,CpGアイランドだけでなく近傍のCpGアイランドショーやシェルフにも位置し,遺伝子のプロモータ領域だけでなくGene bodyや3'-非翻訳領域など遺伝子の広範囲に位置していた.これまでの多くの先行研究では解析対象のCpGサイトが遺伝子プロモータ領域やCpGアイランドに限定されていたが,本研究では統合失調症のDNAメチル化修飾の異常が遺伝子の広範囲にわたっていることを初めて明らかにした10).
II.統合失調症患者における血漿ホモシステイン濃度とDNAメチル化修飾の関連研究
DNAメチル化修飾は,SAM(S-adenosylmethionine)をドナー基質としてDNMT(DNA methltransferase)の作用で付加され行われる.SAMは脱メチル化体としてSAH(S-adenosylhomocystein)を生じ,これが加水分解されてホモシステインとなる(図1).
我々は,これらのDNAメチル化修飾にかかわるone-carbon metabolism経路に注目し,血漿ホモシステイン濃度が末梢血のDNAメチル化修飾レベルに影響するかどうかを検証した.まず,統合失調症患者42名と年齢・性の一致した健常者42名の血漿ホモシステイン濃度をhigh performance liquid chromatography(HPLC)法で測定し比較した.本研究のサンプルの詳細は表2に示した.
次に,統合失調症患者42名の末梢血から抽出したゲノミックDNAのバイサルファイト処理を行った後,Infinium® HumanMethylation450 Beadchips(Illumina社)を用いてゲノムワイドDNAメチル化修飾解析を行った.最後に,統合失調症患者における血漿ホモシステイン濃度とDNAメチル化レベルの関連を調べた.DNAメチル化修飾にかかわる因子として,血漿ホモシステイン濃度のほかに,年齢,抗精神病薬の使用量をクロルプロマジン換算値として共変量に加え,重回帰分析を行った.
得られた結果は次の通りである.①統合失調症患者群の平均血漿ホモシステイン濃度は19.5±7.2 nmol/mL,健常者群の平均血漿ホモシステイン濃度は12.4±2.9 nmol/mLで,患者群で有意に高ホモシステイン血症を認めた(Mann-Whitney U検定,p<0.0001).②統合失調症患者で血漿ホモシステイン濃度とDNAメチル化レベルとの関連を調べたところ,解析対象とした164,657 CpGサイトのうち1,338 CpGサイトで有意な関連を認めた(p<0.01).1,338サイトのうち,580サイト(43.3%)で血漿ホモシステイン濃度とDNAメチル化レベルに正の相関を認めた.特にCpGアイランド内のCpGサイトは正の相関を示す傾向を認めた(71.7%).本研究は,血漿ホモシステイン濃度とDNAメチル化修飾レベルとの関連をゲノムワイドに調べた初めての研究である.既報論文では,血漿ホモシステイン濃度と末梢血のゲノム全体のDNAメチル化レベルに相関はないと報告されていたが2),本研究では特定の遺伝子のDNAメチル化修飾レベルが血漿ホモシステイン濃度に関係することを明らかにした11).
III.メンデル無作為化解析を用いた血中ホモシステイン濃度と統合失調症リスクの因果関係の推定
これまでに統合失調症患者では健常者と比較して血中ホモシステイン濃度が高いことや,血中ホモシステイン濃度に影響を与えるメチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素(MTHFR)遺伝子のC677T多型が統合失調症のリスクであることが報告されてきたが,一致した見解は得られていなかった.我々は,統合失調症381名と健常者998名の血漿ホモシステイン濃度をHPLC法で測定し比較し,統合失調症患者群の平均血漿ホモシステイン濃度は18.7±12.7 nmol/mL,健常者群の平均血漿ホモシステイン濃度は11.9±5.0 nmol/mLで,患者群で有意に血漿ホモシステイン濃度が上昇していることを示した.次に,性(男性・女性)と,血漿ホモシステイン濃度に影響を与えることが知られているメチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素遺伝子C677T多型(CC,CT,TT)で6グループに分類して共分散解析を行い,統合失調症患者群の血漿ホモシステイン濃度が,6つのいずれの分類群においても健常者群と比較して高値であることを明らかにした(図2).
続いて,既報の統合失調症と血中ホモシステイン濃度との関連を調べた論文を男女に分けてstandardized mean difference(SMD)法を用いたメタ解析を行い(男性統合失調症患者1,079名と男性健常者1,559名,女性統合失調症患者615名と女性健常者1,461名),男性・女性ともに統合失調症患者群は健常者群と比較して血中ホモシステイン濃度が高いことを明らかにした(男性:SMD=0.76;95%CI=0.30-1.22;p=1.2×10-3,女性:SMD=0.50;95%CI=0.31-0.70;p=5.9×10-7).
しかしながら,上記で行った疫学観察研究では全ての交絡因子の影響を考慮することが不可能であること,因果関係の逆転の可能性があること,選択バイアスなどの問題点があり,統合失調症と血中ホモシステイン濃度との真の因果関係は明らかにできない.そこで我々はこの両者の因果関係を明らかにするため,メンデル無作為化解析法という方法を用いて血中ホモシステイン濃度と統合失調症の関係を評価することにした.メンデル無作為化解析とは,遺伝子型(genotype)がメンデルの独立の法則に基づき,非遺伝要因(環境要因や交絡因子)とは独立して,配偶子形成から受精時にかけて親から子へランダムに分配されることに基づいて行う,遺伝子型を用いた操作変数分析である1).この手法により無作為化比較試験と同様の検討が可能であり5)21),近年疾患と環境要因の因果関係の同定に成果を上げている8)18)22).
我々は操作変数としてメチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素遺伝子のC677T多型を用いた.メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素遺伝子のC677T多型の血漿ホモシステイン濃度への影響(beta hcy/per TT genotype)には,日本人健常者980名のデータを用いて,TT genotype(vs. CC genotype)の,血漿ホモシステイン濃度1SD上昇の影響力を計算し,beta hcy/per TT genotype=1.14(95%CI=0.96-1.33;p=1.1×10-29)を得た.メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素遺伝子C677T多型の統合失調症への影響(OR scz/per TT genotype)は,日本人サンプルを用いた遺伝子関連研究のメタ解析を行い(統合失調症患者4,316名と健常者6,062名),OR scz/per TT genotype=1.16(95%CI=1.03-1.31;p=1.4×10-2)を得た.最後に,血漿ホモシステイン濃度の統合失調症への影響(OR scz/hcy)は,log OR scz/hcy=(log OR scz/per TT genotype)/beta hcy/per TT genotypeで計算し,OR scz/hcy=1.14(95%CI=1.03-1.27;p=1.6×10-2)であり,血漿ホモシステイン濃度の4.8 nmol/mL上昇あたり統合失調症の発症リスクが1.14倍に高くなるという結果を得て,血漿ホモシステインが統合失調症の原因であるという因果関係を明らかにした(図3)16).胎生期の母親の血中ホモシステイン濃度の上昇が子どもの統合失調症の発病リスクを増加させるという縦断研究の結果や3),血中ホモシステイン濃度を低下させる葉酸やビタミンの統合失調症患者への有効性を示した臨床研究の結果は12)19),我々の研究結果を支持するものであると思われる.
おわりに
我々は一連の研究を通じて,①末梢血において,遺伝子の広範囲領域で統合失調症のDNAメチル化修飾異常を認めること,②統合失調症患者において血漿ホモシステイン濃度が特定の遺伝子の末梢血におけるDNAメチル化修飾レベルに影響すること,③統合失調症患者において男性・女性ともに血漿ホモシステイン濃度の上昇を認めること,④血漿ホモシステイン濃度の増加が統合失調症リスクの原因であること,⑤血漿ホモシステイン濃度に影響するメチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素遺伝子のC677T多型が日本人において統合失調症の発症リスクであることを明らかにした.これらの知見は,統合失調症の病態解明の一助になるだけでなく,血漿ホモシステイン濃度を低下させる治療が統合失調症の治療に有効である潜在的可能性を見出した.今後もone-carbon metabolismの代謝経路に注目した統合失調症の病態解明研究や治療法開発研究を行っていきたいと考えている.
なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.
謝 辞 本研究は,科学研究費助成事業若手研究(B),厚生労働科学研究費,CREST,公益財団法人先進医薬研究振興財団研究助成,統合失調症研究会助成より助成を受け行った成果の一部である.
研究を行うにあたって,徳島大学大学院医歯薬学研究部精神医学分野教授の大森哲郎先生,同講師の沼田周助先生をはじめ,徳島大学精神科医局の皆様には大変お世話になった.
また,共同研究機関である,東京都立松沢病院の岡崎祐士先生,高知大学医学部神経精神科学教室の下寺信次先生,長崎大学医学部精神神経学教室の小野慎治先生,今村明先生,大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室の大井一高先生,橋本亮太先生,武田雅俊先生,金沢大学医薬保健研究域医学系革新ゲノム情報学分野の田嶋敦先生,徳島大学大学院医歯薬学研究部人類遺伝学分野の井本逸勢先生に多大なご協力をいただいた.
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