近年,緩和ケアに精神科医がかかわることが増えている.本稿では精神科医が死にゆく患者とその家族にアプローチするのが困難な事情と,1つの対応策を提示する.診断をめぐる問題としては,精神科医は専門性を確保する意味で正常心理へかかわることを躊躇しがちであるうえ,精神科診断の方法論自体が患者の訴えのなかの主観的要素を捨象してしまうことが挙げられる.また,終末期においては否認や早すぎる死への願望に精神科医が不慣れであることや,精神症状が身体症状と不可分であることも精神科医を戸惑わせる.家族は自らがケアを受けることに罪悪感をもちやすいために介入が困難であるうえ,悲嘆をめぐるうつ病の診断基準の変更が混乱を呼ぶ可能性がある.診断に困難があると治療にもつながらないうえ,終末期には抗うつ薬の効果がなかなか上がらない.対応としては,精神科医であっても身体症状に注意を向けること,範疇的な診断を主観的了解をもって補うこと,スピリチュアルペインの構造について理解を深めることを挙げた.
なぜ死にゆく患者やその家族へのアプローチは難しいのか
自治医科大学附属さいたま医療センター精神科
精神神経学雑誌
117:
978-983, 2015
<索引用語:緩和ケア, 死にゆく患者, 否認, 早すぎる死への願望, スピリチュアルペイン>