Advertisement第122回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第116巻第8号

DSM-5を理解するための基礎知識
解離症/解離性障害群
飛鳥井 望1), 奥山 眞紀子2); 日本トラウマティック・ストレス学会
1)東京都医学総合研究所心の健康プロジェクト
2)国立成育医療研究センターこころの診療部
精神神経学雑誌 116: 707-708, 2014

DSM-5における解離症/解離性障害群の構成
 DSM-52)における解離症/解離性障害群(Dissociative Disorders)の主な変更点は,従来の離人症性障害に現実感消失の症状が加えられ,離人症・現実感消失症となったことである.またDSM-IV1)では独立した診断であった解離性とん走(dissociative fugue)は,解離性健忘の中の下位群「解離性とん走を伴う」として位置づけられた.さらに解離性同一性障害にも変更が加えられ,同一性の破綻は周囲から観察される場合だけでなく,患者が申告する場合も含まれるようになった.また記憶の追想の中の一部の破綻は,外傷的出来事の記憶だけでなく,日常生活の記憶でも起きることが記された.

1.解離性同一症/解離性同一性障害(Dissociative Identity Disorder)
 2つないしそれ以上の人格が出現する自己同一性の破綻した状態を指している.DSM-IVからの変更点は,いろいろな文化により憑依体験として記述されることもあること,症状は周囲の他人から観察されるだけでなく本人が訴えることもあること,重要な個人的情報の想起不能に加えて日常的出来事や外傷的出来事の想起不能が加えられたことなどである.

2.解離性健忘(Dissociative Amnesia)
 単なる物忘れでは説明できないような,過去の重要な記憶を想起できない症状で,通常はトラウマ関連やストレスフルな性質の内容の記憶である.出来事の一部を思い出せない限局性健忘と,まれではあるがすべての記憶を失う全生活史健忘とがある.DSM-IVで独立していた診断の「解離性とん走」は,DSM-5では解離性健忘のサブタイプ「解離性とん走を伴う解離性健忘」として位置づけられている.

3.離人感・現実感消失症/離人感・現実感消失障害(Depersonalization/Derealization Disorder)
 DSM-IVでは離人症性障害であったがDSM-5では現実感消失が併記されるようになり,ICD-10と同様になった.離人症とは,自分の感情,思考,身体に現実感が湧かない疎隔感の持続的,反復的な体験である.あるいは傍観者のように自分の外側から自分の精神や身体の活動を感じている.現実感消失とは,自分の周囲の世界に対して現実感が湧かない疎隔感の持続的,反復的な体験である.現実感消失はしばしば視覚や聴覚の歪みを伴うことがある.

4.他の特定される解離症/他の特定される解離性障害(Other Specified Dissociative Disorder)
 DSM-IVにおける「他に特定されない(not otherwise specified)解離性障害」を継承したものである.具体的には,①混合性解離症の慢性反復性症状群〔軽症(less-than-marked)の解離性同一性障害〕,②長期および集中的な威圧的説得による同一性の混乱(政治的投獄やカルト勧誘の洗脳,思想改造),③ストレスの強い出来事に対する急性解離反応,④解離性トランスなどである.定義には記載されていないが,前文の説明ではその他にも,解離性昏迷やガンザー症候群がここに含まれるようである.

臨床的意義と問題点
 解離性障害はDSM-5では心的外傷およびストレス因関連障害と隣合わせとなった.これは解離性障害の発症にはトラウマ体験が関わることが多く,逆に急性ストレス障害(ASD)や心的外傷後ストレス障害(PTSD)には解離性健忘や解離性フラッシュバック,精神麻痺,離人感・現実感消失などの解離症状が含まれていることによる.両者は同じではないが近縁のカテゴリーとして,説明上もその点が強調されている.

 注)DSM-5病名の訳語は日本精神神経学会・精神科病名検討連絡会のガイドラインに従った.

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

文献

1) American Psychiatric Association: Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 4th ed, Text Revision (DSM-IV-TR). American Psychiatric Association, Washington, D. C., 2000

2) American Psychiatric Association: Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th ed (DSM-5). American Psychiatric Association, Washington, D. C., 2013

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