Advertisement第122回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第116巻第8号

DSM-5を理解するための基礎知識
心的外傷およびストレス因関連障害群
飛鳥井 望1), 奥山 眞紀子2); 日本トラウマティック・ストレス学会
1)東京都医学総合研究所心の健康プロジェクト
2)国立成育医療研究センターこころの診療部
精神神経学雑誌 116: 702-706, 2014

DSM-5における「心的外傷およびストレス因関連障害群」の構成
 「心的外傷およびストレス因関連障害群(Trauma-and Stressor-Related Disorders)」はDSM-52)において新たに設けられた診断分類カテゴリーである.本カテゴリーには,心的外傷(トラウマ)やストレスフルな出来事への曝露が診断基準に明示されている一連の疾患が含まれる.DSM-IV1)で不安障害のカテゴリーに含まれていた心的外傷後ストレス障害(Posttraumatic Stress Disorder:PTSD)と急性ストレス障害(Acute Stress Disorder:ASD)の他に,DSM-IVでは独立したカテゴリーであった適応障害(Adjustment Disorder)が含まれている.さらに反応性アタッチメント障害(Reactive Attachment Disorder)および脱抑制型対人交流障害(Disinhibited Social Engagement Disorder)も,同じく含まれることとなった.両者は,社会的ネグレクトとして子ども期における適切な養育の欠如が診断基準として明示されていることから,子ども期に出現する他の疾患〔自閉症スペクトラムや注意欠如・多動性障害(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder:ADHD)など〕と区別されたためである.他の特定される心的外傷およびストレス因関連障害には,持続性複雑死別障害(Persistent complex bereavement disorder)として遷延性悲嘆・複雑性悲嘆が取り上げられている.
 不安障害や気分障害でも,発症に先行してストレスフルな出来事への曝露を認めることはあるが,それは発症の必要条件とは見なされてはいない.つまり心的外傷ないしストレス因の存在が発症にかかわる直接の前提条件となる疾患であるのか,症状の増悪要因にとどまる疾患であるのかによって,DSM-5では明確なカテゴリー分けがなされている().

1.反応性アタッチメント障害
 今回の訳語検討にあたり,「愛着」という用語が原語のAttachmentの含意をかならずしも正確に反映しておらず,しばしば親の愛情不足と取られかねないことから,「アタッチメント」をそのまま用いることが提案され検討会で承認された.
 DSM-IVでは反応性愛着障害(Reactive Attachment Disorder)が抑制型と脱抑制型に分かれていたが,DSM-5の反応性アタッチメント障害は,社会的情緒的障害を特徴とする状態に限定された.症状は,「成人の養育者に対する抑制された情緒的に引きこもった行動(基準A)」に加えて,「非常に乏しい他者への反応,限られた陽性感情,脅かされていないにもかかわらず成人の養育者との交流で示す説明のつかない苛立ち・悲しみ・恐怖(基準B)」のうちの少なくとも2つが存在することである.基準Cは,著しく不適切な養育を子どもが経験したことの規定である.これらはおおむねDSM-IVの抑制型にあたる.除外項目には,自閉症スペクトラム障害(DSM-IVの広汎性発達障害)が引き続き挙げられているが,知的能力(発達)障害(DSM-IVの精神遅滞)によると考えられる場合の除外規定がない.またDSM-IVと同じく,症状が明らかになるのは5歳以前としているが,DSM-5では新たに月齢9ヵ月以上という規定を加えている.なお12ヵ月以上続くときは「持続性」と特定され,また重症例も特定される.

2.脱抑制型対人交流障害
 脱抑制型対人交流障害は,見知らぬ大人に極度に積極的に近づいて交流したがる特徴を有し,DSM-IVにおける反応性愛着障害の脱抑制型に相当する.DSM-5ではアタッチメント障害の規定とは異なるものとして,独立した診断基準となった.本障害は反応性アタッチメント障害と同様に,著しく不適切な養育を経験したことによると規定される.しかしながら,その後に与えられた良い養育によりアタッチメント形成がなされても本障害が持続することがあると報告されている.つまり必ずしもアタッチメント行動の問題がなくとも,本障害が存在しうることになる.鑑別診断では,ADHDなどによる衝動性だけでなく,対人交流における脱抑制型行動のあることが明記されている.年齢に関しても5歳までの発症という条件はなくなり,月齢9ヵ月以上という制限が盛り込まれた.12ヵ月以上続くときは「持続性」と特定し,重篤なものも特定することになっている.

3.心的外傷後ストレス障害
 DSM-5の基準Aでは,該当する出来事をより具体的に,切迫した生命の危険,深刻な怪我,性的暴力を被ることとして示し,新たに災害救援者の惨事ストレスを明文化した.また死別体験の場合には暴力ないし事故による死であることに限定した.基準Aに関するもう1つの大きな変更は,DSM-IV基準でのA2(恐怖,無力感,戦慄といった主観的反応の存在)の削除である.これはA2の有無は,症状重篤度に差をもたらすものでも,PTSDの発症を予測するものでもなかったことと,トラウマ体験から時間を経て振り返って訊く主観的反応のため,想起バイアスを受けやすいおそれのためである5)
 症状基準上の大きな変更点としては,DSM-IV-TRでは回避と精神麻痺の症状項目が同じ基準Cに含まれていたが,DSM-5では基準Cと新基準Dとしてクラスターが分けられた.この変更は,PTSDの症状構造は,3因子解モデルより4因子解モデルがより適合するとのこれまでの多くの研究結果を重視したものである.4因子解モデルにおける4番目の因子としては精神麻痺ないしは気分不快(dysphoria)が挙げられている4).気分不快は認知や気分の異常に関連しているとも考えられる.PTSD診断の全体構成としては,DSM-IV-TRでの3症状クラスター計17項目がDSM-5では4症状クラスター計20項目となった.
 重要なことは,この変更により,回避症状の存在が必須とされるようになったことである.一方,否定的で非機能的な認知はPTSDに特徴的ともいえる変化であることは多くの研究で示されており,実際にPTSDにもっとも有効とされるトラウマ焦点化認知行動療法では,この非機能的認知の修正が治療のポイントともなっている.これらの点から,疾患特異性は乏しくとも,精神麻痺症状を含め認知や気分の異常は,PTSDに共通する特徴的な精神変化として診断基準に盛り込むのが妥当とされ,DSM-5では新たな基準Dとして「認知と気分の陰性の変化」を独立させた.DSM-IV-TRの旧基準Dに該当する過覚醒症状項目は,DSM-5でも基準E「覚醒度と反応性の著しい変化」としてほぼ踏襲されているが,いらいら感や怒りの爆発に加えて攻撃的行動も加えられるところとなった.またそれが自分に向いた場合に,危険をかえりみないような自暴自棄的で自己破壊的な無謀な行動をとることが新項目として追加された.
 またDSM-5では,PTSDの診断基準を満たした上で,持続的ないしは反復的解離症状(離人感と非現実感のどちらかあるいは双方)を示す場合を,下位群(「解離症状を伴うPTSD」)として特定している.
 DSM-IVでは外傷的出来事から少なくとも6ヵ月経って症状発現した場合を遅延発症と定義していた.しかし実際には,6ヵ月以上経ってからはじめて症状出現したということではなく,ほとんどはより早い時期からすでに何らかのPTSD関連症状が出現していたものの,6ヵ月以上経ってから診断基準を満たすまでに至ったという事例である.したがって遅延発症型(delayed onset)ではなく遅延顕症型(delayed expression)と表現が改められた.

4.6歳以下の子どもの心的外傷後ストレス障害
 DSM-5のPTSD診断基準には,新たに6歳以下の子どもの診断基準が盛り込まれた.大人と7歳以上の子どもの場合のPTSD診断基準と比べるといくつかの違いがある.まず外傷的出来事に関する基準Aでは,小さい子どもであることから惨事ストレスに関する項目はない.また他者のトラウマ体験の目撃では,主たる養育者のトラウマ体験が重要であることが明記され,他者のトラウマ体験を知ることに関しては親や養育者のトラウマ体験とされている.
 症状基準に関しては,6歳以下の子どもの場合も,「侵入症状(基準B)」と「覚醒度と反応性の著しい変化(基準D)」は必須である.しかし刺激の持続的回避と認知の陰性変化に関しては,どちらも基準Cに含まれ,どちらかが必要とされる.この点は両者を分け,双方が必要とする大人の基準とは異なっている.この症状基準に関しては,DSM-IVでの基準B,基準Cをそれぞれ1項目以上,基準Dを2項目以上とすると,低年齢児でも年長の子どもや大人と同程度のPTSD発生率となることが示されたことから,同様の項目数を基準としたものである5)
 また各症状に関して子どもの特徴が盛り込まれている.例えば,侵入症状に関しては遊びでの再演として表現される可能性があること,悪夢の内容が外傷的出来事と関連があるか否か確かめられない可能性があることなどが含まれている.認知の変化については,子どもでも観察できる範囲のものとして,陰性の情動状態,遊びの抑制など重要な活動への関心や参加が著しく減退すること,社会的な引きこもり,陽性の情動の表出の持続的減少のうち,いずれか1つを満たすことが必要とされる.覚醒度や反応性の変化に関してはおおむね大人と同じだが,無謀な行動や自己破壊的行動という項目は含まれていない.その他の基準や特定項目はすべて大人の場合と同じである.

5.急性ストレス障害
 DSM-5の急性ストレス障害(ASD)は,DSM-IV-TRと比べて症状項目はおおむね類似しているものの,診断基準としての構成は大幅に改訂された.具体的には従来の解離,再体験,回避,過覚醒/不安という症状クラスターごとの下位基準を廃止し,すべての症状項目を一元化した上で,当てはまる項目数による診断カットオフを定めた形式としたことである.
 DSM-5ではASDの位置づけが変わり,PTSDを予測するためではなく,トラウマ体験後早期(1ヵ月以内)の深刻な外傷性ストレス症状を診断し,適切な早期介入につなげることを意識したものである3).ここでいう早期介入とは,一般的な急性ストレス反応を対象としたサイコロジカル・ファーストエイドではなく,ASDに対して有効性を明らかにされている短期のトラウマ焦点化認知行動療法を念頭においたものである.
 診断としての位置づけが変わったことで基準も改訂された.まず症状クラスターごとに,侵入症状4項目,陰性気分1項目,解離症状2項目,回避症状2項目,覚醒症状5項目の計14症状項目としてまとめられた.DSM-IVでは5項目あった解離症状はそれぞれの重なりが大きいことから,「自己や周囲に対する現実感の変容」と「解離性健忘」の2項目に削減された.DSM-IVでの下位基準を廃止し,14症状項目を一元化した上で,9項目以上該当する場合にASDと診断することになっている.したがってDSM-IVとは異なり解離症状の存在は診断に必須ではなく,解離症状を認めなくても診断が可能となった.また9項目以上という症状数は,深刻なトラウマ体験後の急性期において,約20%の者が8項目以上を満たすということなどから設定したものと思われる3).この割合はDSM-IVのASDと部分ASDを合わせた程度の有病率であり,結果としてPTSDの予測因子としても向上する可能性が期待できるかもしれない.

6.適応障害
 DSM-IVで独立した概念であった適応障害は,DSM-5では本カテゴリーに含まれるようになった.これまでは他の精神障害の基準には見合わないような苦悩がある場合の屑籠診断的な位置づけであったが,何らかのストレッサー(外傷的にせよ非外傷的にせよ)に対するストレス反応として位置づけられている.サブタイプはDSM-IVと同じく,抑うつ気分を伴うもの,不安を伴うもの,不安と抑うつ気分の混合を伴うもの,素行の障害を伴うものが挙げられている.なお基準Aを満たさないPTSD症状や,PTSD症状基準を満たさないsubsyndromal PTSDも適応障害に含まれる.

7.他の特定される心的外傷およびストレス因関連障害(Other Specified Trauma- and Stressor-Related Disorder)
 トラウマやストレッサーに関連した症状は特徴的であるが,どの診断基準も満たさない場合で,以下のものが例示されている.
 ①ストレス因から3ヵ月を超えた遅延発症の類適応障害(Adjustment-like disorders)
 ②ストレス因の遷延がなく6ヵ月を超えて遷延した類適応障害
 ③アタケ・デ・ネルビオス(Ataque de nervios)(家族の死などストレスフルな出来事を見たり知らせを受けた後の急性錯乱状態でラテン系に見られる.)
 ④他の文化症候群
 ⑤持続性複雑死別障害(Persistent complex bereavement disorder)
 DSM-5は,死別体験後の通常の悲嘆の範囲を超えた遷延性悲嘆・複雑性悲嘆をいまだ独立した診断としては採用しないものの,将来の研究を必要とする疾患として,仮にここに含めている.

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臨床的意義と問題点
 心的外傷およびストレス因関連障害群が不安障害から分離独立したこと自体には,大きな意義があるだろう.これにより,多くの研究知見から想定される生物・心理・社会的な病態メカニズムに基づいた診断分類カテゴリーとなった.PTSDはDSM-5への改訂に伴い,出来事基準,症状基準とも大きな変更が加えられ,従来の3症状クラスター17項目から4症状クラスター20項目となった.しかしながらフィールド調査の結果では,DSM-IV,DSM-5の両基準間でPTSDの診断一致率は高い6).主な不一致の理由は,DSM-5の基準Aでは死別体験を暴力的死別に限ったこと,回避症状の存在を必須としたことによる.認知と気分の陰性変化の新クラスターが追加されたことでの不一致はきわめてわずかのようである.
 今後の大きな問題点は,現在作業が進行しているICD-11の改訂内容との整合性がはたして保たれるかどうかであろう.ICD-11作成委員会の現時点での方向性は,PTSDに関しては症状項目数をより少なく限定的とするものであり,またASDは診断基準に含めず,複雑性PTSDや遷延性悲嘆障害を認定する方向で議論が進められている.

 注)DSM-5病名の訳語は日本精神神経学会・精神科病名検討連絡会のガイドラインに従った.

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

文献

1) American Psychiatric Association: Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 4th ed, Text Revision (DSM-IV-TR). American Psychiatric Association, Washington, D. C., 2000

2) American Psychiatric Association: Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th ed (DSM-5). American Psychiatric Association, Washington, D. C., 2013

3) Bryant, R. A., Friedman, M. J., Spiegel, D., et al.: A review of acute stress disorder in DSM-5. Depress Anxiety, 28; 802-817, 2011
Medline

4) Friedman, M. J, Resick, P. A., Bryant, R. A., et al.: Considering PTSD for DSM-5. Depress Anxiety, 28; 750-769, 2011
Medline

5) Friedman, M. J.: Finalizing PTSD in DSM-5: getting here from there and where to go next. J Trauma Stress, 26; 548-556, 2013
Medline

6) Kilpatrick, D. G., Resnick, H. S., Milanak, M. E., et al.: National estimates of exposure to traumatic events and PTSD prevalence using DSM-IV and DSM-5 criteria. J Trauma Stress, 26; 537-547, 2013
Medline

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