医療観察法は,当初から施行5年後の国会報告が定められており,これに従って平成22年11月に報告がなされた.しかし,残念ながらこのときの国会報告は,医療観察法施行後5年間の同法の運用の実態を把握するためには不十分なものであった.このため,日本精神神経学会・法委員会は今回の国会報告では十分に明らかにされていない事項で,今後の医療観察法とその運用を検討する上で重要と思われる項目について調査を実施した.調査対象は,現在医療観察法による入院医療を担当している全国28ヵ所の指定入院医療機関(第1部)および厚生労働省(第2部)である.第1部の内容は,1)退院申立てに対する棄却決定,2)入院継続申立てに対する棄却決定,3)医療観察法による再入院,の3つの事項に関するものであった.アンケートの結果によれば,退院申立てに対する棄却決定16件中,入院医療機関側から見て「正当である」とされたものは2件に過ぎず,残りの14件のケースを精査することが,医療観察法における社会的入院の問題や,診断やリスク評価における齟齬の問題を明らかにする契機となると考えられた.医療観察法による再入院のうち入院を経た17件中,前回入院に何らかの誤りもしくは不足があったと回答しているケースは8件で,これらのケースについて前回入院中に提供された治療,および退院後に提供された治療と支援についての詳細を明らかにすることが重要と考えられた.厚生労働省に対する調査は,17項目の質問からなるものであったが,回答が得られたのは,1)検査および報告徴収など,2)処遇改善請求のあった79事例の請求内容,3)指定入院医療機関に入院中に他の医療施設へ転院した19事例の内容,の3項目のみであった.回答のあった3項目についても今回の調査だけではその内実は明らかにはなっておらず,今後これらの運用実態が開示されていくことが重要と考える.
2)地精会金杉クリニック
3)医療法人聖美会多摩中央病院
4)北見赤十字病院
5)兵庫県立光風病院
6)京都大学医学部附属病院
7)独立行政法人国立病院機構仙台医療センター
8)こころのクリニック石神井
9)桜ヶ丘記念病院
10)天外メンタルクリニック
11)岐阜大学医学部
12)岡山大学大学院環境生命科学研究科
13)多摩あおば病院
14)地方独立行政法人岡山県精神科医療センター
15)くまもと心療病院
16)千葉県精神科医療センター
17)医療法人微風会浜寺病院
18)星のクリニック
19)柏崎厚生病院
20)国際医療福祉大学病院
21)みのクリニック
22)公立豊岡病院
23)肥前精神医療センター臨床研究部
◎執筆者,○調査委員,※委員長,※※担当理事
受理日:2014年3月1日
はじめに
平成17年に「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」(以下,医療観察法)が施行され,すでに7年が経過した.日本精神神経学会は,医療観察法成立以前の段階から同法に重大な関心をもって数回にわたって意見を表明し,法施行後は,批判的な立場を維持しながらも,関与しつつ制度および運用について学会総会シンポジウムなどでの検討を続けてきた*1.
医療観察法は,施行当初から「施行5年後の国会報告」(以下,国会報告)が定められており,これに従って平成22年11月に,国会において報告がなされた4).しかし,残念ながらこのときの国会報告は,医療観察法施行後5年間の同法の運用の実態を把握するためにはきわめて不十分なものであった*2.本学会としては,医療観察法の運用の実態を把握するために,今後とも当局に詳しいデータの公表を求めるとともに,学会自身としても可能な限り調査・研究を行っていきたいと考えている.このため,今回の国会報告では十分に明らかにされていない事項で,今後の医療観察法とその運用を検討する上で重要と思われる項目について調査を実施することとした.調査対象は,現在医療観察法による入院医療を担当している全国の指定入院医療機関および厚生労働省であり,指定入院医療機関に対する質問項目と厚生労働省に対する質問項目は異なった内容である.本報告では第1部において指定入院医療機関を対象としたアンケート調査をまとめたものを報告し,第2部において厚生労働省に対する調査をまとめたものを報告した.なお,国会報告では触れられていない項目の中にも,これまでの厚生労働科学研究などにおいて調査され報告されているもの,現在調査中の事項も数多くあるため(対象者の制度的な転帰・予後に関するデータやそれと関連する病態など1)2)),今回の調査の項目はできるだけそれらの調査・研究では十分に扱われていないものに限定することにした.
第1部 指定入院医療機関に対する調査
1.調査方法
全国28ヵ所の医療観察法の指定入院医療機関を対象として郵送によるアンケート調査を行った(資料1).前述のように,これまでの厚生労働科学研究などにおいて調査されている項目を除くようにしたため,本調査は1)退院申立てに対する棄却決定,2)入院継続申立てに対する棄却決定,3)医療観察法による再入院*3,の3つの事項に関するものとなった.それぞれの事項に関して選択式と自由記載の設問を行った.調査は,これまで各医療機関が経験した3つの事項にあたる全例について訊ねたものである.
2.結果と考察
全国28ヵ所の指定入院医療機関に調査票を送付し,20ヵ所から回答を得た(施設回収率71.4%).回答のあった20ヵ所中8ヵ所には該当例(退院の許可の申立て棄却事例・入院継続の確認の申立て棄却事例,再入院事例)がなかった.それぞれの件数は,退院申立て棄却事例16件,入院継続申立て棄却事例3件,再入院事例(医療観察法による入院を経たもの)17件,再入院事例(医療観察法による入院を経ていないもの)8件,であった.
《調査1》退院申立てに対する棄却事例
退院申立てに対する棄却件数は計16件であり,回答のあった20指定入院医療機関中,退院申立てに対する棄却事例を経験している施設は6ヵ所,経験していない施設は14ヵ所であった.最も多かった施設で6件の退院申立てに対する棄却を経験しており,以下3件が2ヵ所,2件が1ヵ所,1件が2ヵ所であった.
1)申立ての種別
申立ての種別は,16例中「退院として通院処遇申立て」の棄却が4件,「退院として処遇終了申立て」の棄却が12件であった.
2)性別
性別は16件全例が男性であった.
3)年齢
年齢層は,16件のうち30代が5件,40代が4件と多く,それ以外の年齢層はそれぞれ1~2件で,80歳以上はいなかった(表1).
4)入院者の疾病分類(ICD-10コード)
主診断については,16件のうちF2圏が9例と最多であり,やはり統合失調症圏が多くを占めていた(表2).主診断がF1圏の3件については,1件が副診断としてF6,F2を合併していたが,あとの2件は副診断がなく,物質誘発性精神病が想定された.また,主診断がF6であるものが2件,F7,F8がそれぞれ1件であったが,この4件ともに副診断が特に選択されておらず,パーソナリティ障害圏,知的障害圏,発達障害圏でいずれも合併症がないケースであると考えられた.この4件は設問10において,いずれも審判結果に対して指定入院医療機関が「不当である」とみなしているもので,その理由は後記しているが,少なくともそのうちの2件は疾病性に直接関連したものが挙げられていた.
副診断については16件中2件に副診断があり,1件がF2の主診断にF0の副診断を有するものであり,もう1件はF1にF6,F2を合併したケース(前述)である.
5)対象行為
16件のうち,対象行為として最も多かったのは傷害の7件で,それ以外は殺人4件,放火3件,強盗と強制わいせつがそれぞれ1件であった(表3).
6)処遇開始から退院までの期間
入院継続中が1件,転院したため入院期間不明が2件あったため,13件分のデータとなるが,この13件の平均入院期間は2年5ヵ月であった.13件中,最短の入院期間は0年11ヵ月,最長の入院期間は4年10ヵ月であった.
7)申立て理由
この設問は複数回答可とした.申立て理由として多かった選択肢を順に並べると,「社会復帰を見込める臨床的改善が得られたため,医療観察法での通院処遇に移行が望ましい」「これ以上の臨床的改善を望めないが,精神保健福祉法での入院継続が望ましい」および「疾病として医療観察法になじみにくいと考えられた」の3つが最も多くそれぞれ4件であった.次いで「医療観察法の治療になじみにくいと考えられた」が3件あり,うち1件には「通院先がなく,社会的入院に近い状況になっており,医観法による入院の必要性はないと思われた為」と付記されていた.「これ以上の臨床的改善を望めないが,入院は不要であり福祉施設や在宅での処遇が望ましい」は2件であった.
8)再鑑定(医療観察法52条)の有無
16件中,再鑑定を実施したのは1件のみであった.
9)審判での棄却理由
指定入院医療機関としてわかる範囲で審判での棄却理由を訊ねた.「生活環境調整が不十分」が8件で最も多かった.次いで「他害行為のおそれ」が5件,「治療可能性がないとはいえない」が3件であった.「その他」も7件あり,具体的内容としては,「処遇終了後,継続的な入院医療が行われる保証がない」「病状の悪化」「疾病性あり→再鑑定で妄想性障害と診断」などであった.
10)審判の結果(棄却)に対する指定入院医療機関としての意見
この設問については,「正当である」2件,「そういう見方もあり得る」9件,「不当である」5件という回答であった.16件中半数の8件にコメントが付されていたので,以下にそれを記載する.
●「正当である」2件ともにコメント
①「退院許可申立後,病状の悪化(退院への不安から),その旨,入院機関より裁判所へ上申し,入院継続の意向を示す.その後,改めて,退院に向け治療継続.『退院許可申立,棄却,入院継続』となる.(当院意向と相違なし)」
②「退院許可申立後,病状の悪化みられた為,入院による治療継続必要の旨,入院機関から裁判所へ上申.『退院許可申立棄却,入院継続』となる.その後,無事退院となる.(当院意向と相違なし)」(上とは別事例)
●「そういう見方もあり得る」9件中2件にコメント
①「精神保健福祉法上で長期入院は不採算となっており,各担当者の意向で,必ずしも十分な調整が行われないままに退院となることが全くないとはいえない.(重篤な精神障害をもつ患者に対して重点的に医療を行うしくみが日本にはまだない)」
②「精神症状の如何ではなく,通院先の調整がつかないことが入院の理由として認められると示されたのだと思います」
●「不当である」5件中4件にコメント
①「疾病性に疑問がある者を適切な帰住地がないとの理由のみで留めおくことは人権上問題がある」
②「当院からは,『入院処遇から,通院処遇継続し,精神保健福祉法による入院を併用する』方針の申立てを行ったが,審判で『処遇終了の申立』と誤解されて,棄却された.入院機関より抗告申立て行い,抗告審で高裁は,『地裁合議体が申立内容を理解していなかった』と認めた」
③「当院入院中,当初審判での統合失調症との診断は誤りで妄想性パーソナリティ障害と判断,服薬offとしても精神状態は安定して経過し問題はなかったが当院での判断は認められず,精神保健審判員が『少なくとも妄想性障害で他害のリスクがあり通院治療を要す』と主張し,通院処遇となった」
④「不当であると思うが,帰住先がなかったため,仕方がないとも思う」
《調査2》入院継続申立てに対する棄却事例
入院継続申立てに対する棄却件数は計3件であり,回答のあった20指定入院医療機関中,入院継続申立てに対する棄却事例を経験している施設は2ヵ所,経験していない施設は18ヵ所であった.
1)棄却の結果
入院継続申立てが棄却となった3件の結果としては「処遇終了で精神保健福祉法入院」が2件,「入院終了で通院処遇」が1件であった.
2)性別
性別は3件全例が男性であった.
3)年齢
年齢層は,3件のうち2件が20代,1件が50代であった.
4)入院者の疾病分類(ICD-10コード)
主診断については,3件のうちF2圏が2件,F7圏が1件であった.F2圏のうち1件にはF6圏の副診断が付けられていた.
5)対象行為
3件の対象行為の内訳は殺人が2件,傷害が1件であった.
6)処遇開始から退院までの期間
3件の平均入院期間は1年0ヵ月であった.3件中,最短の入院期間は0年6ヵ月,最長の入院期間は1年10ヵ月であった.
7)再鑑定(医療観察法52条)の有無
3件中,再鑑定を実施したケースはなかった.
8)審判での棄却理由
指定入院医療機関としてわかる範囲で審判での棄却理由を訊ねた.「社会復帰を見込める臨床的改善が得られたため,医療観察法での通院処遇に移行が望ましい」「これ以上の臨床的改善を望めないが,精神保健福祉法での入院継続が望ましい」「疾病として医療観察法になじみにくいと考えられた」「医療観察法の治療になじみにくいと考えられた」がそれぞれ1件ずつ選択されていた.また,「その他」を選択したものが2件あり,その内容は「入院継続確認日の超過」と「地域環境調整,整った」であった.なお,この設問も複数回答可である.
9)審判の結果(棄却)に対する指定入院医療機関としての意見
この設問については,3件全てが「正当である」を選択していた.具体的な内容を以下に記載する.
①「法律で定められた『6ヶ月以内に入院継続の申立て』を行う期日を単純な手違いで守れなかった.後追いで,継続申立てを行ったが,却下された.念のため,抗告をしたが,認められず,医観法処遇が終了となった」
②「地域調整(ケア会議)前の期日の為,一旦,入院継続にて申立て.調整後,退院状況にある旨上申し,『入院継続棄却,退院許可』となる.当院の意向と相違なし」
③「申し立ての時点で『発達障害・知的障害で観察法の対象ではないが,帰住地がないため調整要するため入院継続』と述べたが,その後当院の精神保健福祉法下の入院が可能となったため,医療終了となった」
《調査3-1》再入院事例・入院を経たもの
医療観察法の再入院のうち,当初審判において医療観察法による入院医療を経たものの件数は計17件であり,回答のあった20指定入院医療機関中,医療観察法入院を経た再入院を経験している施設は8ヵ所,経験していない施設は12ヵ所であった.最も多かった施設で4件の医療観察法入院を経た再入院を経験しており,このような施設が2ヵ所あった.以下3件が1ヵ所,2件が1ヵ所,1件が4ヵ所であった.
1)性別
性別は男性15件,女性2件であった.
2)年齢
年齢層は,17件のうち20代が3件,30代が3件,40代が2件,50代が6件,60代が3件であり,70歳以上はいなかった(表1).
3)入院者の疾病分類(ICD-10コード)
主診断については,17件のうちF2圏が13件と最多であり,やはり統合失調症圏が多くを占めていた(表2).主診断がF2圏以外のものとしてはF1圏が3件,F8圏が1件あった.このうちF1圏の3件中2件において,前回の医療観察法入院では,アルコール・薬物の問題に関する診断もしくは介入が不十分であったとの指摘がコメントとして記載されていた.また,F8圏の1件に関しては,これは今回入院時の診断であるが,入院後主診断を変更して副診断であった統合失調症を主診断として治療を行っているとのコメントがあった.
副診断については17件中5件に副診断があり,F7圏のものが2件,F1,F2,F6圏がそれぞれ1件であった.2つの副診断を有するケースはなかった.
4)対象行為
17件のうち,対象行為として最も多かったのは殺人の8件で,以下傷害が6件,強制わいせつが2件,放火が1件であった(表3).
5)当初審判から医療観察法再入院に至った期間
当初審判から医療観察法再入院に至った期間の平均は3年1ヵ月であった.17件中,再入院までの期間が最短だったもので0年10ヵ月,最長だったもので5年6ヵ月であった.
6)再鑑定(医療観察法62条)の有無
17件中,再鑑定を実施したものが12件,実施しなかったものが5件であった.
7)通院処遇中の精神保健福祉法での入院の有無
17件全例において,通院処遇中に精神保健福祉法による入院を経験していた.
8)医療観察法の再入院をもたらしたと思われる要因
医療観察法の再入院をもたらしたと思われる要因について,指定入院医療機関が選ぶことのできる範囲で回答を求めた.複数回答可とした.「その後再発・再燃した」が15件で最も多く,次いで「精神保健福祉法での入院では不十分ないし不適切と考えられた」が9件であった.この2つ以外の選択肢の件数は少なかったが「その後状況が変わった」「地域のサポートに問題があった」を選択したものがそれぞれ2件,「通院医療機関の治療に問題があった」「その他」を選択したものがそれぞれ1件あり,「その他」を選択した1件の具体的な内容は「アルコール・薬物による病状悪化,生活の乱れがあった」であった.
9)前回の医療観察法による入院に対する評価
前回の医療観察法による入院に対する評価としては「診断,治療,環境調整ともに適切であった」とする肯定的な評価が8件と最も多かった.「心理教育が不十分であった」を選んだものが6件,「環境調整が不十分であった」を選んだものが5件と比較的多く,「薬物調整が不十分であった」を選んだものは2件,「通院機関・地域への情報提供が不十分であった」を選んだものは1件と少数であった.「診断に誤りがあった」としたものが2件あり,うち1件には「当初審判の診断は統合失調症であった」と付記されており,このケースに対する再入院担当医療機関の診断はアルコール精神病であった.また「その他」が3件あり,その具体的な内容としては「アルコール,薬物の問題の評価,介入が不十分であった」「情報がないため不明」「退院後の生活に対する動機付けが不十分だった」と記載されていた.
《調査3-2》再入院事例・入院を経ていないもの
医療観察法の再入院のうち,当初審判において医療観察法による入院医療を経ていないもの(いわゆる「いきなり通院」)の件数は計8件であり,回答のあった20指定入院医療機関中,医療観察法による入院医療を経ていない再入院事例を経験している施設は6ヵ所,経験していない施設は14ヵ所であった.2件の医療観察法入院を経ていない再入院を経験している施設が2ヵ所,1件を経験している施設が4ヵ所あった.
1)性別
性別は男性7件,女性1件であった.
2)年齢
年齢層は,8件のうち20代が2件,30代が2件,40代が3件,50代が1件であり,60歳以上はいなかった(表1).
3)入院者の疾病分類(ICD-10コード)
主診断については,8件のうちF2圏が6件と最多であり,ここでもやはり統合失調症圏が多くを占めていた(表2).主診断がF2圏以外のものとしてはF1圏が1件,F3圏がそれぞれ1件あった.
副診断については8件中半数の4件に副診断があり,F7圏のものが3件,F8圏が1件あった.2つの副診断を有するケースはなかった.この4件すべてが主診断は統合失調症圏であった.
4)対象行為
8件のうち,対象行為として最も多かったのは放火の3件で,以下殺人と傷害がそれぞれ2件,強盗が1件であった(表3).
5)当初審判から医療観察法再入院に至った期間
当初審判から医療観察法再入院に至った期間の平均は2年3ヵ月であった.8件中,再入院までの期間が最短だったもので0年2ヵ月,最長だったもので5年0ヵ月であった.
6)再鑑定(医療観察法62条)の有無
8件中,再鑑定を実施したものが7件,実施しなかったものが1件であった.
7)通院処遇中の精神保健福祉法での入院の有無
8件中6件において,通院処遇中に精神保健福祉法による入院を経験していた.
8)医療観察法の再入院をもたらしたと思われる要因
医療観察法の再入院をもたらしたと思われる要因について,指定入院医療機関が選ぶことのできる範囲で回答を求めた(複数回答可).「その後再発・再燃した」が6件で最も多く,次いで「精神保健福祉法での入院では不十分ないし不適切と考えられた」を選んだものが3件であった.「地域のサポートの問題があった」と「その他」を選択したものがそれぞれ1件あり,「その他」を選択した1件にはその内容として「そもそも外来通院では無理であった」と記載されていた.
9)当初の通院決定に対する評価
当初の通院決定に対する評価としては「当初審判の決定は特に問題なかった」が8件中5件で,過半数が肯定的な評価をしていた.一方で「明らかに当初審判としても問題があった」を選択したものが2件,「現在から見ると問題があったが,当初審判としてはやむを得なかった」を選択したものが1件あった.この3件のようなケースに関してその内容を精査していくことが,医療観察法による医療を検討するために重要である.
10)審判の結果(医療観察法による再入院)に対する指定入院医療機関としての意見
この設問については,「正当である」7件,「そういう見方もあり得る」1件が選択されており,「不当である」を選んだものはなかった.8件中3件にコメントが付されていたので,以下にそれを記載する.
●「正当である」7件中2件にコメント
①「自傷及び他害のリスクが高い状態であり,通院の継続は困難である」
②「再他害行為(放火)であり,妥当と思われる」
●「そういう見方もあり得る」1件のコメント
③「知的障害の要因もあり,通院処遇の中で治療同盟が崩れ,再入院となっている」
3.まとめ,および今後に向けて
今回実施した4領域の調査結果をそれぞれ検討してみると,退院申立てに対する棄却決定,入院継続申立てに対する棄却決定,医療観察法による再入院(入院を経たもの),医療観察法による再入院(入院を経ていないもの),の4領域のうち,入院継続申立てに対する棄却決定についてはその全例(3例)において指定入院医療機関自身がその決定(申立て棄却)を「正当である」とみなしていた.この3例の具体的な経緯としては,手続き上の不具合,申立て後の状況の変化などがコメントされていたが,指定入院医療機関と地裁合議体の間での意見の乖離は目立たなかった.
一方,それ以外の3領域では,以下のような問題点が認められた.
1)調査1;退院申立てに対する棄却決定
退院申立てに対する棄却決定16件中,入院医療機関側からみて「正当である」とされたものは2件にすぎなかった.指定入院医療機関が「そういう見方もあり得る」としたものが9件,「不当である」としたものが5件であったが,この14件において,どのような点で指定入院医療機関と地裁合議体の意見に違いが生じたかを検討することが重要である.医療観察法における処遇決定基準の曖昧さの問題が,そこに浮き彫りになる可能性も大きい.「そういう見方もあり得る」9件中2件,「不当である」5件中4件にそれぞれコメントが記載されていたが,この計6件のコメントのうち3件は,「生活環境調整が不十分」なために退院が認められないケースへの疑問を述べたものであった.コメントには,臨床的改善が得られた,疾病として医療観察法の医療の対象ではない,などの事由で医療観察法による入院医療の対象ではないとみなされるケースが,帰住先がない,通院先が決まらないなどの理由で退院が認められないという実態が述べられていた.ここからは,医療観察法におけるいわゆる「社会的入院」の問題がみえてくる.審判での棄却理由としても,「生活環境調整が不十分」が16件中8件で選択されていて最も多かったのだが,このことは,指定入院医療機関と地裁合議体の間で意見の齟齬があるケースでは,「疾病性」や「治療可能性」よりも「退院できる環境」が問題とされがちであることを示している.また,それだけでなく,例えば指定入院医療機関が「妄想性パーソナリティ障害であり精神状態は安定している」として処遇終了を申立てたのに対し,地裁合議体が「少なくとも妄想性障害であり他害のリスクあり」として棄却したケースのように,診断やリスク評価で判断が分かれているケースもあった.以上のような社会的入院の問題や,診断やリスク評価の齟齬の問題を明らかにする端緒として,この14ケースの精査が望まれる.
2)調査3-1;医療観察法による再入院(入院を経たもの)
再入院ケースを通じて医療観察法の運用実態を評価するときには,再入院に至った経緯を十分に検討することが重要となる.この検討には,当初審判においてこの法による入院処遇を経た事例であれば,当初審判における決定の適否,当初審判後の指定入院医療機関における評価および治療の適否,そして退院後の指定通院医療機関および関連支援機関による地域処遇の適否,などを含むことになる.今回の調査においては,前回の医療観察法入院に対する評価として,「診断,治療,環境調整ともに適切であった」と肯定的に評価するものが17件中8件あった一方で,前回入院に何らかの誤りもしくは不足があったと回答しているケースが17件中8件あった(残りの1件は「情報がないため不明」とのコメント).不十分な要素として選択されていたものには心理教育と環境調整が多く,診断に誤りがあったとするものも2件あった.
再入院の要因に関しては,「地域のサポートに問題があった」とするものが2件あり,この2件中1件は「通院医療機関の治療に問題があった」も重ねて選択されていた.この2件とも前回入院における治療に関しても何らかの誤りもしくは不足が指摘されていた.したがって,前回入院に関して問題点が指摘されている8ケースに関して,前回入院中に提供された治療,および退院後に提供された治療と支援についての詳細を明らかにすることが望まれる.
また,再入院の要因として17件中9件で「精神保健福祉法での入院では不十分ないし不適切と考えられた」が選択されている.医療観察法における通院処遇中の対象者が入院治療を必要としたときに,精神保健福祉法による入院を選択するか,医療観察法による入院を選択するかは,その基準が曖昧なままであるが,現場での判断の実態を明らかにするため,この9ケースを具体的に検討することにも大きな意義があるだろう.
3)調査3-2;医療観察法による再入院(入院を経ていないもの)
再入院ケースの中でも,当初審判においていわゆる「いきなり通院」と判断された事例の場合は,当初審判における決定の適否と,審判後の指定通院医療機関および関連支援機関による地域処遇の適否,の検討が重要である.今回の調査では,当初審判でこの法による通院処遇が必要とされた8件中2件が「明らかに当初審判としても問題があった」とされていた.また,再入院の要因として「地域のサポートに問題があった」を挙げたものが1件あった.このケースでは,当初審判に関しては「問題なかった」との評価であった.この3ケースについても詳細を検討すべきであろう.
ここに挙げた約30のケースは,この5年間で医療観察法の対象となった全ケースの中ではほんの一部にすぎないが,医療観察法の審判,入院処遇,地域処遇に含まれる問題点を典型的に表していると考えてよいだろう.今後,これらのケースに関してより個別的で詳細な問題点を調査,検討することが重要であると考えられた.
第2部 厚生労働省に対する調査
1.調査方法
厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部精神・障害保健課に対して,平成22年11月の国会報告の内容をもとにして,資料2のような質問票の郵送による調査を行った.
2.結果
以下の17項目の質問に対し,⑬,⑭,⑮の3項目に対しては回答があり,残りの14項目に対しては回答がなかった.
①全申立てのうち,鑑定入院を行わなかった事例数および鑑定入院なしの理由
②全申立てのうち,鑑定を行わなかった事例数および鑑定なしの理由
③心神喪失を理由とした申立てに対し,裁判所が心神耗弱と認定した77事例のその後の処遇
④裁判所が心神喪失及び心神耗弱のいずれでもないとして申立てを却下した54事例の却下後の処遇
⑤検察官が申立てを取り下げた15名の取り下げ理由
⑥退院又は入院継続申立てに対して法53条に基づく鑑定が実施された1事例の申立者,申立事由,および審判の決定内容
⑦指定入院医療機関からの退院申立てに対し,棄却となった事例数および却下の理由
⑧指定入院医療機関から,この法による通院処遇を経ず直接処遇終了となった119事例の処遇終了の理由および処遇終了後の転帰
⑨保護観察所からの処遇終了申立てに対し,却下となった事例数,57条鑑定実施数,および却下の理由
⑩各保護観察所ごとの再入院等申立て事例数,再入院となった10事例中の62条鑑定を実施した事例数,および再入院申立て14事例中の申立て棄却となった1事例と処遇終了となった1事例それぞれの決定理由
⑪入院決定に対する抗告,通院決定に対する抗告,退院を許可し通院を決定に対する抗告,入院継続決定に対する抗告,通院継続決定に対する抗告,再入院決定に対する抗告について,それぞれの事例数,申立て者の内訳,およびそれぞれの原決定取り消し数
⑫入院決定に関する再抗告,通院決定に関する再抗告,退院を許可し通院を決定に関する再抗告,入院継続決定に関する再抗告について,それぞれの事例数,申立て者の内訳,およびそれぞれの抗告に対する決定の取り消し数
⑬厚生労働大臣が法第85条に基づき指定入院医療機関に対して行った62件の検査内容,指定通院医療機関に対して行った64件の検査内容,および法第97条に基づき指定入院医療機関に対して行った62件の報告徴収それぞれの内容
【回答】
・指定入院医療機関に対して行った62件の検査内容は,62件全例で「診療内容」と「診療報酬」の両方の検査が行われていた.それ以外の検査は行われていなかった.
・指定通院医療機関に対して行った64件の検査内容は,64件全例で「診療内容」と「診療報酬」の両方の検査が行われていた.それ以外の検査は行われていなかった.
・指定入院医療機関に対して行った62件の報告徴収等の内容は,62件全例で「入院者の症状」と「入院者の処遇」の両方の報告徴収等が行われていた.それ以外の報告徴収等は行われていなかった.
⑭処遇改善請求のあった79事例の請求内容
【回答】
79事例のうち,「その他」に分類されるものが9例あり,その中には喫煙に関することなどが含まれていた.79事例中残りの70事例については回答がなかったが,「治療に関するもの」「病棟環境に関するもの」「行動制限に関するもの」については数字の記載がなかった.
⑮指定入院医療機関に入院中に他の医療施設へ転院した19事例の根拠法令(100条の2,100条の3)ごとの事例数および身体合併症の診断分類とその転帰,他院での入院期間
【回答】
100条の3を根拠法令とする転院事例は19例であり,一方100条の2を根拠法令とする転院事例は数字の記載がなかった.
また,19例中,転院の原因となった身体合併症の診断分類としては,悪性腫瘍が4例,消化器疾患が4例,その他が2例であり,それ以外の9例に関しては言及されていなかった.また,19例の転帰および他院での入院期間については回答がなかった.
⑯入院処遇終了者のうち,裁判所による退院許可決定により退院となった者を除いた14事例中の自殺者数,病死者数および行方不明者数
⑰通院処遇終了者279名のうち,期間満了による者,処遇終了や再入院の決定による者を除いた27事例中の自殺者数,病死者数および行方不明者数
3.考察とまとめ
今回の調査では,17項目中回答が記載されていたのは3項目だけであったので,その3項目について考察する.
1)検査および報告徴収等
指定入院医療機関に対する検査が5年間で62件,指定通院医療機関に対する検査が5年間で64件,指定入院医療機関に対する報告徴収等が5年間で62件であり,いずれも年平均10数件という数で,1医療機関あたり年に1件あるかないかという決して多くはない件数である.今回の調査では,検査については指定入院医療機関に対するものも指定通院医療機関に対するものも,全例において「診療内容」および「診療報酬」に関する検査を行っており,それ以外の検査は行われていないという回答であった.医療観察法第85条第1項の検査は,「指定医療機関の診療内容及び診療報酬の請求を審査するため必要あるときは,(中略),実地に診療録その他の帳簿書類を検査させることができる」と規定されており,今回「全例で診療内容と診療報酬について検査」との回答が得られたことはある意味当然であり,残念ながら今回の調査の結果からは,法第85条の「検査」の実態についてそれ以上のことをうかがい知ることはできなかった.5年間で1,078人の入院決定があった中で,62件の「検査」は6%にすぎない数であり,国として特にチェックする必要性があるとの判断をもって限られたケースのみに「検査」を実施しているものと思われる.今後は,この「検査」がどのようなケースを対象としてどのように実施されているのかを情報としてオープンにして,この「検査」という制度が医療観察法による医療に対してどの程度のチェック機能を果たしているかを関係者が共有できることが重要であろう.
このことは法第97条第1項の「報告徴収等」に関しても同様のことがいえる.法第97条第1項に定められている「報告,書類提出・提示,検査,質問,診察」の対象となる事項としては「当該指定入院医療機関に入院している者の症状若しくは処遇に関し」と規定されているため,今回の調査で「全例で症状と処遇について報告徴収」との回答が得られたことは法第85条の「検査」と同じくある意味当然であり,この回答からは「報告徴収等」についてそれ以上の情報を得ることはできない.今後は,この「報告徴収等」の運用実態をよりオープンなものとして,医療観察法の医療をチェックするための機能をわかりやすく,有効なものとしていくことが望まれる.
2)処遇改善請求のあった79事例の請求内容
5年間で79事例の処遇改善請求があったのだが,今回の調査でわかったのは「その他」に分類されるものが9例あり,その中には喫煙に関することなどが含まれている,ということである.79事例中残りの70事例については回答がなく,「治療に関するもの」「病棟環境に関するもの」「行動制限に関するもの」については数字の記載がなかった.しかし,精神保健福祉法入院における処遇改善請求審査の実態から推測すれば,上記3項目に含まれる処遇改善請求が全くなく,残りの70項目はまた別に分類されるような内容であるというのも釈然としない.前項の「検査」や「報告徴収等」においても,医療観察法による医療に対する制度的なチェック機構とその機能について,そしてその実態について多くの関係者が情報を共有することの重要性について触れたが,処遇改善請求の実態,その請求内容や,請求に対する結果などに関する情報をよりオープンにしていくことが重要である.
3)指定入院医療機関に入院中に他の医療施設へ転院した19事例の根拠法令(100条の2,100条の3)ごとの事例数および身体合併症の診断分類とその転帰,他院での入院期間
身体合併症による他院転院については,5年間で19事例があり,その全てが法第100条第3項を根拠法令とするものであった.法第100条第2項を根拠法令とする転院事例も法解釈上可能と思われるが,基本的にこの第2項は一般的な「外泊」について定めたものであり,第3項の方が特に「精神障害の医療以外の医療を受けるために他の医療施設に入院する必要がある場合」の規定であるため,このように全例が第3項を根拠法令としていたのは当然であろう.
今回の調査では,転院の原因疾患としてどのような領域の疾患が多いのか,そしてその転帰および転院先での入院期間などを調べようとしたが,それについては,19例中,悪性腫瘍が4例,消化器疾患が4例,その他が2例であったということがわかったにとどまった.医療観察法による入院医療における身体合併症の問題は,ハイセキュリティの入院施設に非自発的入院をさせられている入院患者が,身体合併症を有するときに,通常であれば当然受けられるレベルの医療が,通常であれば受けられるタイミングで適切に提供されているのか,ということである.そのためにはもちろん,指定入院医療機関の身体的疾患への対応力も問題となるし,当然それ以上に地域の基幹病院とどのように有機的に連携できているか,という点が重要となる.今回の調査ではこれらの実態を把握することはできなかったが,今後も継続的に医療観察法の入院医療における身体合併症への対応の問題に注目していきたい.
以上の3項目以外の14項目については回答を得られなかったが,いずれも回答のあった3項目同様重要な項目であり,今後もこれらの情報を得る努力を続けたいと考えている.
おわりに
医療観察法施行5年後の国会報告を受け,今回の国会報告では十分に明らかにされていない事項で,今後の医療観察法とその運用を検討する上で重要と思われる項目について,全国の指定入院医療機関および厚生労働省を対象とするアンケート調査を行った.調査結果には多くの示唆が含まれていたが,まだ本調査では医療観察法による医療の運用実態を詳らかにすることはできていない.今後,本調査で質問項目に挙げた項目を中心として,医療観察法による医療の実施状況が明らかとなるようなデータが開示されることを求めていきたい.
厚生労働省は,毎年6月30日調査を実施して精神科医療,精神保健に関する全国のデータを集め,国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所の協力のもと資料としてまとめてこれを公表している.現在この630調査のデータはわれわれ精神医療関係者にとって非常に有用なデータとなっており,多方面で活用されている.今回の調査を通じて,本学会が求めていたものは,医療観察法領域における630調査の実施と,そのデータの公表といってもいいだろう.医療観察法による医療の実施にあたっては,実施されている医療の内容,その運用実態をデータとして公開していくことが必須である.国会報告で提出されたデータにとどまらず,今回われわれが求めたような項目について,より実態を把握できるようなデータの公表が望まれる.
資料1 医療観察法の運用に関する指定入院医療機関向け調査(項目のみ)
【調査1】退院申し立てに対する却下事例に関する調査
ここでは,これまで貴施設に入院した者で,貴施設からの退院申し立てを審判で却下されたことがある事例について伺います
設問1.申し立ての種別
設問2.性別
設問3.年齢
設問4.入院者の疾病分類(ICDコード)
設問5.対象行為
設問6.処遇開始から退院までの期間
設問7.申し立て理由
設問8.再鑑定(52条)の有無
設問9.審判での却下理由(わかる範囲で)
設問10.審判の結果(却下)に対する指定入院医療機関としての意見
【調査2】入院継続申し立てに対する却下事例に関する調査
ここでは,貴施設を退院した者で,貴施設からの入院継続申し立てを審判で却下されたことがある事例について伺います
設問1.却下の結果
設問2.性別
設問3.年齢
設問4.入院者の疾病分類(ICDコード)
設問5.対象行為
設問6.処遇開始から退院までの期間
設問7.再鑑定(52条)の有無
設問8.審判での却下理由(わかる範囲で)
設問9.審判の結果(却下)に対する指定入院医療機関としての意見
【調査3-1】医療観察法における再入院に関する調査・入院を経た事例
ここでは,これまで貴施設に医療観察法における「再入院」となった者のうち,それまでに医療観察法による入院を経た事例について伺います
設問1.性別
設問2.年齢
設問3.入院者の疾病分類(ICDコード)
設問4.対象行為
設問5.当初審判から医療観察法再入院に至った期間
設問6.再鑑定(62条)の有無
設問7.通院処遇中の精神保健福祉法での入院の有無
設問8.医療観察法の再入院をもたらしたと思われる要因
設問9.前回の医療観察法による入院に対する評価
設問10.審判の結果(医療観察法による再入院)に対する指定入院医療機関としての意見
【調査3-2】医療観察法における再入院に関する調査・入院を経ていない事例
ここでは,これまで貴施設に医療観察法における「再入院」となった者のうち,それまでに医療観察法による入院を経ていない事例について伺います
設問1.性別
設問2.年齢
設問3.入院者の疾病分類(ICDコード)
設問4.対象行為
設問5.当初審判から医療観察法再入院に至った期間
設問6.再鑑定(62条)の有無
設問7.通院処遇中の精神保健福祉法での入院の有無
設問8.医療観察法の再入院をもたらしたと思われる要因
設問9.当初の通院決定に対する評価
設問10.審判の結果(医療観察法による再入院)に対する指定入院医療機関としての意見
資料2 医療観察法の運用実態に関する質問書(抜粋)
以下,医療観察法の運用実態に関する17項目の質問に対して,ご回答をお願いいたします.尚,質問の対象となる期間は,2010年11月に出された「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律の規定の施行の状況に関する報告」の対象期間である2005年7月15日から2010年7月31日までの期間です.
1.鑑定入院を行わなかった事例
医療観察法の全申立て数のうち,鑑定入院なしの事例数をお答えください.また,鑑定入院がなしとなった理由の内訳をお答えください.
2.鑑定を行わなかった事例
医療観察法の全申立て数のうち,鑑定を行わなかった事例数をお答えください.また,鑑定を行わなかった理由の内訳をお答えください.
3.裁判所による心神耗弱認定事例
検察官による心神喪失を理由とした申立てに対し,裁判所が心神耗弱であると決定した77事例のその後の処遇の内訳をお答えください.
4.申立て却下事例(心神喪失・耗弱→喪失・耗弱ではない)
検察官による心神喪失又は心神耗弱を理由とした申立てに対し,裁判所が心神喪失及び心神耗弱のいずれでもないとして申立てを却下した54事例の却下後の処遇の内訳をお答えください.
5.取り下げ事例
検察官が医療観察法の申立てを取り下げた15名の取り下げ理由の内訳をお答えください.
6.退院又は入院継続申立てに対する鑑定実施事例
53条に基づく鑑定が実施された1事例について,申立者,申立事由,および審判の決定内容をお答えください.
7.退院申立て却下事例
指定入院医療機関からの退院申立て(49条)に対し,却下となった事例数をお答えください.
また,却下の理由(指定入院医療機関による評価と審判での評価が相違した要件の内訳)をお答えください.
8.指定入院医療機関からの処遇終了事例
指定入院医療機関から,この法による通院処遇を経ず直接処遇終了となった119事例について,処遇終了の理由の内訳および処遇終了後の転帰の内訳をお答えください.
9.処遇終了申立て却下事例
保護観察所からの処遇終了申立てに対し,却下となった事例数,およびそのうちの57条鑑定実施数をお答えください.
また,各却下事例について却下の理由(保護観察所および指定通院医療機関による評価と審判での評価が相違した要件の内訳)をお答えください.
10.再入院等申立て事例
各保護観察所ごとの再入院等申立て事例数(59条)をお答えください.また,再入院となった10事例のうちで62条鑑定を実施した事例数をお答えください.
再入院等申立て14事例中の,申立て棄却となった1事例,処遇終了となった1事例それぞれの決定理由をお答えください.
11.抗告
入院決定(42条の一)に対する抗告,通院決定(42条の二)に対する抗告,退院を許可し通院を決定(51条の二)に対する抗告,入院継続決定(51条の一)に対する抗告,通院継続決定(56条の一)に対する抗告,再入院決定(62条)に対する抗告について,それぞれの事例数,申立て者の内訳,およびそれぞれの原決定取り消し数をお答えください.
12.再抗告
入院決定に関する再抗告,通院決定に関する再抗告,退院を許可し通院を決定に関する再抗告,入院継続決定に関する再抗告について,それぞれの事例数,申立て者の内訳,およびそれぞれの抗告に対する決定の取り消し数をお答えください.
13.報告の請求及び検査
厚生労働大臣が法第85条に基づき指定入院医療機関に対して行った62件の検査内容,指定通院医療機関に対して行った64件の検査内容,および法第97条に基づき指定入院医療機関に対して行った62件の報告徴収の内容についてその内訳をお答えください.
14.処遇改善請求
処遇改善請求のあった79事例の請求内容の内訳をお答えください.
15.入院中の他病院への入院
指定入院医療機関に入院中に他の医療施設へ転院した19事例について,根拠法令(100条の2,100条の3)ごとの事例数をお答えください.また,身体合併症の診断分類とその転帰,他院での入院期間をお答えください.
16.入院処遇終了者の処遇分布
入院処遇終了者のうち,裁判所による退院許可決定により退院となった者を除いた14事例中の自殺者数,病死者数および行方不明者数をお答えください.
17.通院処遇終了者の処遇分布
通院処遇終了者279名のうち,期間満了による者,処遇終了や再入院の決定による者を除いた27事例中の自殺者数,病死者数および行方不明者数をお答えください.
なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.
謝 辞 本調査の実施にあたっては,全国20ヵ所の医療観察法指定入院医療機関および厚生労働省担当部局の方々のご協力をいただきました.多忙な業務の中で,これだけの多大なご協力をいただけたことに深く感謝いたします.
1) 平成20年度 他害行為を行なった精神障害者の診断・治療および社会復帰支援に関する研究 (研究代表者 山上 皓). 分担研究 医療観察法における医療必要性に関する研究 (分担研究者 村上 優), 2008
2) 平成21年度~平成23年度 医療観察法における医療の質の向上に関する研究 (研究代表者 中島豊爾). 分担研究 医療観察法対象者の転帰・予後に関する研究 (分担研究者 平田豊明), 2011
3) 岩尾俊一郎, 平田豊明, 得津 馨ほか: シンポジウム 医療観察法の現状と今後. 精神経誌, 111; 1096-1125, 2009
4) 厚生労働省: 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律の規定の施行の状況に関する報告 平成17年7月15日から平成22年7月31日まで, 平成22年11月. 2010
5) 中島 直: 医療観察法「国会報告」について. 精神医療, 62; 96-103, 2011
6) 富田三樹生, 吉川和男, 松原三郎ほか: シンポジウム 医療観察法の諸問題と精神科医療. 精神経誌, 108; 488-526, 2006
7) 富田三樹生, 村上 優, 中島豊 爾ほか: シンポジウム 医療観察法の運用の実態と問題点. 精神経誌, 108; 1036-1055, 2006
8) 富田三樹生, 中島 直, 大下 顕ほか: シンポジウム 医療観察法にかかわる鑑定と法運用の問題点―事例を通して―. 精神経誌, 110; 30-48, 2008
9) 富田三樹生, 岩尾俊一郎: 植松俊典ほか: シンポジウム 医療観察法における地域処遇について. 精神経誌, 110; 1148-1177, 2008
10) 富田三樹生, 中谷陽二, 村上 優ほか: 特集 医療観察法の存続は可能か?―5年後見直しを迎えて―. 精神経誌, 113; 456-488, 2011
*1 日本精神神経学会は年に1度開催される学術総会において,医療観察法が施行された平成17年から6年連続で医療観察法を主題としたシンポジウムを開催している.各年度のテーマは,平成17年度「医療観察法の諸問題と精神科医療」6),平成18年度「医療観察法の運用の実態と問題点」7),平成19年度「医療観察法にかかわる鑑定と法運用の問題点―事例を通して―」8),平成20年度「医療観察法における地域処遇について」9),平成21年度「医療観察法の現状と今後」3),平成22年度「医療観察法の存続は可能か?―5年後見直しを迎えて―」10)であった.
*2 本題ではないので詳述は避けるが,2つの特徴のみ指摘しておく.第一に数の不一致がある.申立て件数・鑑定入院命令・鑑定が行われた人員・決定数はそれぞれ相違しており,時期の差のみでは説明ができず,不一致例に大きな問題がある可能性があるが,それは説明されていない.指定入院医療機関からの退院数と退院許可決定および処遇終了決定も数が不一致で,同様の問題がある可能性がある.第二に,典型的な経過からはずれるものも少なくなく,その事情は説明されていない.不処遇決定は303あるとされているが,事例の性質上申立て自体が不要であった例,本来本法になじまない事例であるにもかかわらず扱うことが強いられた例などが存在する可能性があるが,それは明らかにされない.検察官による申立ての取り下げ(15件),裁判所による申立ての却下(60件),指定入院医療機関から通院処遇を経ずに処遇終了となる例(119件)なども同様の問題がある可能性がある.すなわち,国会報告は,数の報告はなされているが,子細にみると不一致がありその説明がなされておらず,非典型例もその事情がわかるようなものになっていないのである5).今回の調査のうち第1部で行った指定入院医療機関からの退院申立てと裁判所による退院許可決定ないし処遇終了決定については国会報告の問題点の第一に,再入院の申立てについては第二に関連するものである.
*3 医療観察法においては,通院処遇中の対象者について,保護観察所長から申立てがなされて,指定入院医療機関に入院することを「再入院」と呼んでいる.すなわち,一旦入院処遇を経て,退院して通院処遇となり,その後申立てがなされて再度指定入院医療機関に入院となる例はもちろん「再入院」と呼ばれるわけであるが,当初審判で「通院処遇」とされ,通院医療がしばらく続けられていた後,申立てがなされて指定入院医療機関に入院した例も,医療観察法の入院処遇は初めて受けるわけであるが,「再入院」となるのである.