Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第125巻第6号

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原著
日本におけるTV通話を活用した遠隔心理支援のスコーピングレビュー―対面の心理支援との比較について―
堀井 清香1), 酒井 佳永2), 關 恵里子3), 有馬 秀晃4)5), 阿部 又一郎6), 秋山 剛7)
1)防衛省航空自衛隊自衛隊入間病院保健部
2)跡見学園女子大学心理学部臨床心理学科
3)東京都立病院機構東京都立荏原病院
4)品川駅前メンタルクリニック
5)東京大学大学院医学系研究科社会連携講座デジタルメンタルヘルス講座
6)有隣会伊敷病院
7)NTT東日本関東病院品質管理室
精神神経学雑誌 125: 476-485, 2023
https://doi.org/10.57369/pnj.23-068
受理日:2023年2月3日

 近年,遠隔心理支援の必要性が増しており,なかでもTV通話を活用した介入は,対面の心理支援に近い環境で面接を実現しやすいとされている.しかし本邦では,実証的研究のレビューに基づいて,TV通話による遠隔心理支援と対面の心理支援の特徴を比較検討した研究はまだない.本研究では,TV通話による遠隔心理支援の特徴や対面の心理支援との違いを明らかにすることを目的として,両者を比較している国内論文を対象にスコーピングレビューを実施した.スコーピングレビューの選択基準は,(i)国内の学術雑誌に掲載された論文,(ii)心理支援を目的とした介入,(iii)離れた2地点で実施されるセッション,(iv)特定のクライエント,(v)一方的な配信ではなくセラピストとクライエントの音声と映像がリアルタイムで伝達可能な同期型支援,(vi)対面の心理支援との比較,とした.2020年6月末までに報告された国内論文を対象とし,CiNii,医学中央雑誌WEB版(Ichushi―Web)を用いて検索した結果,150件のうち5件が選択基準を満たした.この5件について質的・記述的データの抽出と統合を行ったところ,セラピーにおけるコミュニケーションの特質,治療関係,症状の軽減について,TV通話による遠隔心理支援の特徴が見出された.TV通話による遠隔心理支援は,対面の心理支援と同様に症状の軽減に有効であるだけでなく,感情や雰囲気伝達など非言語性コミュニケーションも伝達可能であった.一方,別空間にいるため親密度はやや低く,治療関係の形成は対面の心理支援に比べやや劣るといった特徴も有することが示唆された.今後,国内において遠隔心理支援を普及させるにあたり,映像を伴う同期型の遠隔心理支援と対面の心理支援の差異について知見を蓄積させていく必要がある.

索引用語:遠隔心理支援, TV通話, 同期型遠隔心理支援, スコーピングレビュー, 遠隔音楽療法>

はじめに
 近年,ICT(Information and Communication Technology)を利用した遠隔心理支援の必要性が増している19).米国心理学会(American Psychological Association:APA)は,遠隔心理支援を「遠隔でのコミュニケーションのための情報技術を用いた心理支援サービスの提供」と定義しており3)21),電話,メール,チャット,ウェブ会議システムなどを用いたさまざまな手段がある17).遠隔心理支援は,概してリアルタイムでのやり取りを含む同期型と,これを含まない非同期型に大別される.遠隔心理支援の分野で効果評価が行われてきた代表的な研究として,インターネットを利用した認知行動療法が挙げられるが,その多くは非同期型支援に分類される4)6).より最近の報告によると,これらはセラピストの関与がほとんど,またはまったくないセルフヘルプ型の遠隔心理支援で,脱落率が高く,治療関係が形成されにくい問題点が指摘されている4)11).非同期型支援は,クライエントが最後まで注意を持続させて取り組むことが難しく,完遂率が低いことが普及に向けて克服すべき問題とされている1)2)
 国内では,同期型のTV通話による遠隔心理支援を行う相談施設が増えており17),これは完遂率の問題を改善する手段としても有効と考えられる.例えば,日本学生相談学会の「遠隔相談に関するガイドライン」ではTV通話による遠隔心理支援は,対面の心理支援と同様にリアルタイムでコミュニケーションが可能で,双方の表情が確認でき6),対面の心理支援に近い環境での面接を実現しやすいとしている21).一方,同ガイドラインでは,生の感覚が伝わりにくく全身像や雰囲気などが把握しづらいといった質的特徴も指摘している31).このように国内でも遠隔心理支援の特徴が示されているが,日本学生相談学会の遠隔心理支援に関するガイドラインは海外論文をもとに作成されており,国内の実証研究をもとにしているわけではない.
 海外では,TV通話による遠隔心理支援を対象とした実証研究やレビューがすでに実施されており6)25)26),APAはそれらの実証研究をもとに「Guidelines for the Practice of telepsychology」を作成した3)22).その根拠論文の1つであるBackhaus, A. らの系統的レビューでは,TV通話による同期型の遠隔心理支援をVideoconferencing Psychotherapy(VCP)と表記しており6),VCPはさまざまな心理療法で実行可能であり,クライエントのセラピーへの満足度も高く,症状の軽減などその効果も対面の心理支援と同様であることが報告されている6).また,VCPと対面の心理支援の治療関係の質的な違いを比較した研究も行われており,感情表現や雰囲気の伝達などコミュニケーションの質において対面の心理支援と差がなく,治療関係が良好に形成されることが報告されている28)
 しかし,日本における遠隔心理支援についての系統的レビューは,竹林らの報告があるのみで,VCPと対面の心理支援を比較しているわけではない30).VCPは,セラピストとクライエントの双方が言語的にも非言語的にも同期的にコミュニケーションができるため相互的につながりやすく,相談へのアクセス向上,利便性の向上など,一部の利用者にとって障壁が解消される利点があり6),国内での研究報告をもとにVCPの特徴が整理される必要がある.
 よってわれわれは今回,TV通話による同期型の遠隔支援,すなわちVCPと対面の心理支援において,セラピーに関連する諸要素にどのような相違があり,VCPにどのような特徴があるのかを明らかにすることを目的として,VCPと対面の心理支援をさまざまな側面から比較した国内の研究報告のスコーピングレビューを行った.

I.方法
1.方法
 本研究は,友利らの作成した「スコーピングレビューのための報告ガイドライン(PRISMA-ScR)日本語版」に基づきスコーピングレビューを実施した32).スコーピングレビューとは,その研究領域の基盤となる主要な概念,利用可能な論文や情報(エビデンス)の種類を素早くまとめることと定義され5),検索手順やデータの抽出方法は系統的に行い,バイアスリスクの評価など個々の対象論文のチェックは任意とされ,結果は幅広い知見を網羅的に概観するというレビュー方法である32).国内ではVCPと対面の心理支援に関する比較を行った研究の知見がまだまとめられていないため,幅広い研究領域から本研究の目的となる論文をスコープし,VCPと対面での心理支援において質的な違いも含めたさまざまな要素について主要な概念をまとめることは意義があると考えられる.その際,レビュークエスチョンを特定し,対面の支援と比較している重要な研究を特定するためにプロトコルを作成し,検索手順やデータ抽出方法を系統的に設定するため,本研究ではスコーピングレビューを採用することとした.

2.対象論文の選択基準
 対象論文としては,国内のVCPについて対面の心理支援と比較した論文を採用した.レビュークエスチョン「Patient(P):心理支援のニーズがあるクライエントを対象として,Intervention(I):VCPは,Comparison(C):対面の心理支援と比較して,Outcome(O):セラピーに関連する諸要素においてどのような違いがあるのか」を設定し,医療,福祉,教育,産業など広範囲で行われる遠隔心理支援について,スコーピングレビューを実施した.選択基準としては,レビュークエスチョンに基づき下記計6条件とした.
 (i)国内の学術雑誌に掲載された学術論文である.
 (ii)カウンセリングもしくは心理的な支援を目的とした介入を行った研究である(心理検査や構造化面接など,検査や調査を目的としているものは除く).
 (iii)離れた2地点間(1地点は日本国内)で実施されるセッションである.
 (iv)不特定多数ではなく,特定のクライエントを対象とする(集団療法も含む).
 (v)クライエントとセラピスト双方の音声と映像が,現在進行形で会話のやりとりが可能なTV通話によるものとする〔同期型支援であっても,双方の表情が見えない電話やチャット形式,支援者側の映像のみであるオンラインセミナーなどは除く.また非同期型支援であるcCBT(computerised Cognitive Behavior Therapy),メール,eラーニングなども除く〕.
 (vi)双方のリアルタイム映像を伴う遠隔心理支援と対面の心理支援を比較している.
 本研究におけるレビュークエスチョンを図式化したものが図1である.

3.論文の検索・選定方法
 遠隔心理支援に関する国内論文について,国立情報学研究所が提供するCiNii,医学中央雑誌WEB版(Ichushi-Web)を用いて,筆頭著者を含む著者のうち2名が検索を行った.検索日は2020年7月1日であった.
 検索式としては,条件(ii)の「カウンセリングもしくは心理的な支援を目的とした介入」について,精神科or精神,心理療法or精神療法,カウンセリング,メンタルを,条件(iii)の「離れた2地点間で実施される」について,遠隔,オンライン,リモート,TV,インターネット,その他に条件(ii)と(iii)を合わせたキーワードとして,iCBT,e-mental,通信療法,ITカウンセリング,テレケアを設定した.

4.データの抽出と分析方法
 予め決められた選択基準に従い,著者2名が独立してスクリーニングおよび適格性の確認を行った.データ抽出のプロセスとしては,筆頭著者が対象となった論文のPatient(P),Intervention(I),Comparison(C),Outcome(O)を抽出した表を作成した後,第2共著者とその項目内容を確認し修正を図った.抽出する項目は,基本情報として,著者,出版年,タイトル,研究デザイン,対象領域,掲載雑誌とした.Patient(P)は,対象者の選定条件,年齢,対象者数,Intervention(I)は,介入の概要,介入場所,主な介入担当者,使用通信機器,Comparison(C)は,対照介入群,Outcome(O)は,比較検討している評価尺度と,その評価から得られた特徴および対面の心理支援との違いとした.「スコーピングレビューのための報告ガイドライン」によると32),結果の分析方法はレビュー目的と著者の判断のもとに行われ,質的な分析では,特性を記述するものとされている.そこで本研究では,Outcome(O)について介入や評価尺度に同一のものが存在しない場合は,対面の心理支援と比較したときの遠隔支援の特徴や違いに着目した質的・記述的なデータ抽出と統合を行った.その方法論として,スコーピングレビューを用いた先行研究を参考に分析方法を設定し,共著者とともに抽出されたOutcome(O)の質的データを比較している内容ごとにカテゴリ化し,要約と修正を繰り返した23)24)27)29).そして,最終的に得られたカテゴリごとの特徴や違いを記述し,レビュークエスチョンに応じた主要な発見をまとめた.

図1画像拡大

II.結果
1.採択論文とその特徴
図2に示すように,論文検索の結果150件が特定されたが,重複論文を除外し,選択基準による絞り込みを行った.一次スクリーニングでは,タイトルと要約から選択条件(ii)~(v)に該当しないと判定された123件を除外し,二次スクリーニングではフルテキストの内容から選択条件(ii)(vi)に該当しなかった計13件を除外し,最終的に5件が抽出された10)12)13)15)20).No. 1~5の計5件についてレビュークエスチョンおよびレビュープロトコルに基づき,データを抽出した().
 基本情報において,出版年は1997~2019年であった.研究デザインは,対照試験4件(No. 1~4),コホート研究1件(No. 5)であった.対象領域は,個別カウンセリング3件(No. 1~3),高齢者医療2件(No. 4,5)であった.掲載雑誌は,『心理学研究』1件(No. 1),『パーソナリティ研究』1件(No. 2),『日本教育工学会論文誌』1件(No. 3),『癌と化学療法』1件(No. 4),『日本遠隔医療学会雑誌』1件(No. 5)であった.
1)P:Patient(対象)
 対象者の選定条件は,不安や悩みに対してカウンセリングのニーズがある成人としたものが3件(No. 1~3),家族から研究同意が得られ,かつ家族がTV通話操作可能である認知症患者としたものが1件(No. 4),本人あるいは代諾者から同意が得られた認知症患者としたものが1件であった(No. 5).対象年齢は,成人が3件(No. 1~3),高齢者が2件(No. 4,5)であった.
2)I:Intervention(介入)
 介入の概要は,心理的な介入方法について,カウンセリングとしたものが2件(No. 1,2),来談者中心療法に基づくカウンセリングが1件(No. 3),音楽療法が2件(No. 4,5)であった.介入場所は,「教育機関に隣接設置されたカウンセリングルームでそれぞれ離れた2部屋」が3件(No. 1~3),「医療機関と患者の自宅」が1件(No. 4),「介入者がいる施設と患者のみいる施設」が1件(No. 5)であった.主な介入担当者は,カウンセラーが3件(No. 1~3),看護師が1件(No. 4),音楽療法士が1件(No. 5)であった.
3)C:Comparison(対照介入)
 対照介入群は,同一対象者に対する対面のカウンセリングと比較しているものが3件(No. 1~3),遠隔で行う音楽療法と同一対象者に対して対面で行う音楽療法を比較しているものが1件(No. 4),遠隔による介入群と対面による介入群とを比較しているものが1件(No. 5)であった.
4)O:Outcome(アウトカム)
 アウトカムは,5件すべてがクライエントによる評価であり,セラピストによる評価はされていなかった.「情報伝達」「雰囲気伝達」「感情伝達」といったセラピー場面のコミュニケーションの特質について記載されている文献が2件(No. 1,3),「ラポール形成」「セラピストへの信頼感」「セラピー場面での状態不安」といった治療関係について記載されている文献が3件(No. 1~3),「症状の変化」「セラピーの効果」「笑顔度の変化」といった症状の軽減について記載されている文献が2件であった(No. 4,5).5件で測定されたこれらのアウトカムは,その内容から「コミュニケーションの特質」「治療関係」「症状の軽減」の大きく3つに分類された.
 「コミュニケーションの特質」の評価尺度として,カウンセリング・コミュニケーション評価項目が用いられていた(No. 1).これは,柿井によって先行研究をもとに作成された尺度であり,カウンセリング場面でのコミュニケーションの特質である「情報伝達」「感情伝達」「ラポール形成」の測定と,カウンセリングの総合評価の測定をする項目から構成されていた12).また類似尺度として,カウンセリング評価紙が用いられていた(No. 3).これは,柿井によって作成されたカウンセリング評価項目(No. 1)をもとに作成された尺度であり,セラピー場面でのコミュニケーションの特質である「カウンセラーの受容的態度」「カウンセラーに対する好意的認知」「カウンセラーへの情報伝達」の測定をする項目から構成されていた13).
 「治療関係」の評価尺度として,カウンセリング・コミュニケーション(No. 1),カウンセリング評価紙(No. 3),日本版STAI(State-Trait Anxiety Inventory)の「状態不安尺度」が用いられていた(No. 2).さらに,自由回答によるアンケートやインタビューを用い,治療関係についてクライエントがどのように評価しているかを質的に整理していた(No. 1,2).
 「症状の軽減」の評価尺度として,日本語版BPAD(Behavior Pathology in Alzheimer’s Disease)(No. 4),MMSE(Mini-Mental State Examination)(No. 5),NPI(Neuropsychiatric Inventory)(No. 5)が症状の変化を示す尺度として,笑顔度測定(スマイルスキャンVer. 3)(No. 4)は,笑顔の変化を測定し,認知症に伴う行動や心理症状の変化を示すツールとして用いられた.

2.アウトカムから抽出された質的・記述的なデータの統合
 アウトカムの内容から「コミュニケーションの特質」「治療関係」「症状の軽減」の3つに分類され,その分類ごとにVCPと対面の心理支援を比較してどのような特徴・違いが得られたかについて質的・記述的データの統合を行った.
 「コミュニケーションの特質」について,情報伝達などの言語性コミュニケーションだけでなく,温かな雰囲気伝達や感情伝達などの非言語性コミュニケーションも対面の心理支援と同様に伝達可能であるという特徴が得られた.音声に映像が加わることで,セラピストの表情や視線,身振りが見えることからカウンセリング・コミュニケーションが対面の心理支援と同様に行われるという評価であった.
 「治療関係」について,治療関係においてラポール形成が,音声のみの心理支援よりは優れているが,対面の心理支援に比べるとやや劣るという特徴が得られた.音声のみの心理支援よりもラポール形成が優れている理由として,対面の心理支援と同様にカウンセラーの表情がわかる状況で不安が解消され,悩みが話しやすくなり関係構築しやすいという評価であった.対面の心理支援よりもラポール形成がやや劣る理由として,対面の心理支援と比べセラピストとの親密度がやや低く,適度な心理的距離感があるという評価,別空間にいるため寂しさを感じるという評価であった.
 「症状の軽減」について,認知症に伴う行動や心理症状が対面の心理支援と同様に軽減するという特徴が得られた.「不安」や「食欲あるいは食行動異常」の頻度が対面支援と同様に軽減し,それに伴い笑顔度も改善するという評価であった.

図2画像拡大
画像拡大

III.考察
1.対面の心理支援と比較したVCPの特徴について
 VCPが対面の心理支援と比較してどのような特徴があるのかについて,スコーピングレビューを実施したところ,「コミュニケーションの特質」「治療関係」「症状の軽減」についていくつかの特徴が得られた.
 「コミュニケーションの特質」について,VCPは対面の心理支援と比べて,言語情報だけでなく,感情や雰囲気も伝達可能であることが示唆された.これは,VCPが映像を伴う同期型支援であり,セラピストとクライエントがリアルタイムで言語的にも非言語的にも相互交流できるためと考えられた.VCPと対面の心理支援を比較した海外の系統的レビューにおいても,さまざまな疾患をもつクライエントがVCPで感情表現ができたという報告がある6).双方が別空間にいるにもかかわらず,なぜ感情や温かな雰囲気の伝達が可能になるのかについて,双方が別空間にいることがかえってメリットになると指摘されている6)7).Backhausらは,VCPは対面の心理支援よりもクライエントが威圧感を感じないため,セラピストとより多くの情報を交換することが可能となり,自己表現しやすくなる場合があると指摘している6).Bischoff, R. J. らは,むしろ別空間にいるほうが非現実化し,自然にコミュニケーションしやすくなるため,感情表現もしやすくなる側面があると報告している7).さらに,VCPでは対面の心理支援と比べて,クライエントとセラピストのどちらも非言語的コミュニケーションとして声の抑揚,声色の変化,身振り手振りなどを意図的に明確に,誇張して表現したと指摘している7)
 「治療関係」について,VCPは音声のみの心理支援よりも治療関係の形成に優れているが,対面の心理支援よりもやや劣るという特徴が得られた.VCPと対面の心理支援を比較した海外のレビューおよび実証的研究では,必ずしも対面の心理支援よりも劣るわけではなく,クライエントがTV通話に慣れているかどうかにより,治療関係にばらつきが生じやすいと報告している6)9).またBischoffらは,通信の遅延により双方の返答が遅れることに慣れていない初期段階では,会話のペースがつかみづらく治療関係が形成しづらいが,それゆえに双方が不明な点を質問し合ったり不足情報を補い合ったりし,関係構築しようと自然に努力するため,VCPであっても治療関係が構築されたと報告している7)
 「症状の軽減」について,認知症に伴う行動や心理症状の軽減をアウトカムとして対面の心理支援と比較している音楽療法が2件あった.ランダム化比較試験ではないものの,認知症患者を対象としたTV通話による音楽療法は,対面での音楽療法と同等の効果を有する可能性がある.海外では,認知症患者を対象とした遠隔音楽療法の研究自体が新しい分野で論文数も少なく4)14)18),まだ対面の心理支援との比較による効果検証は行われていない.TV通話による音楽療法の実現可能性については,システムを操作できる介護者がいるかどうか14)16),音楽セッションを行ううえでの通信の遅延の問題が挙げられている4)18)
 Lee, S. らの報告によると,Zoomによる同期型のグループ音楽療法に参加した認知症患者らが「対面のときと変わらずに仲間と歌えて嬉しい」と評価している16).またLeeらは,音楽療法に参加した認知症患者にインタビュー調査を実施し,患者はオンライン上であってもグループ音楽療法に参加することで孤独感を解消し,セラピストや仲間から承認されていると感じていることを報告した16).このことから,画面越しであっても患者がセラピストや仲間との社会的つながりを感じられるかどうかが治療効果に関与していることが考えられる.さらにDowson, B. らは,対面の音楽療法に直接参加することに自信がもてなかった認知症患者が,TV通話による音楽療法では抵抗感が軽減され,参加しやすくなり治療を受けやすくなったことを報告している8)

2.VCPにおける国内論文の概要について
 遠隔心理支援に関する日本語ガイドラインが作成されつつある一方,VCPと対面の心理支援を比較した国内論文は非常に限られていることが改めて明らかになった.
 本レビューの特徴として,採択論文は5件と非常に少なかったが,対象と介入について“精神科治療歴がない成人を対象としたカウンセリング”および,“認知症患者とその家族を対象とした音楽療法”の2つに分けられた.特に認知症患者は,家族や医療者がシステム操作できる場合には,TV通話ツールへの抵抗感や不安感を患者本人が感じずに治療に参加でき,社会的つながりが維持でき,治療効果が得られやすいと考えられた.国内では精神科治療歴がない一般成人と認知症患者を対象とした遠隔心理支援は一定のニーズがあると推測でき,今後も遠隔心理支援を普及させやすいと考えられる.特に認知症患者は,音楽療法が受けづらい遠隔地域の居住環境や,コロナ禍など感染症のリスクが高い状況下では,対面心理支援へのアクセスが困難な場合も多く,一定数のニーズが期待されている14)16).国内でもVCPを用いた症例検討はいくつか報告されているが,対面の心理支援と比較しているわけではない.対面の心理支援と比較してVCPがどのような特性や疾患をもった対象者に効果的であるかについて,さらに検討していく必要がある.
 アウトカムの特徴としては,クライエントによる評価のみで,セラピストによる評価に基づいた検討は行われていなかった.今後,セラピストによる多面的な評価に基づいた包括的に比較検討した研究の報告が必要である.

おわりに
 本研究では,スコーピングレビューを用いて対面の心理支援と比較したVCPの特徴を整理し,VCPは対面の心理支援と比べて,言語情報だけでなく感情や雰囲気も伝達可能であるという特徴,またVCPは音声のみの心理支援よりも治療関係の形成に優れているが,対面の心理支援よりもやや劣るという特徴があるという知見が得られた.また認知症患者を対象とした音楽療法については,ランダム化比較試験ではないものの,遠隔で行う音楽療法が,対面の音楽療法と同等の効果を有する可能性が示唆された.
 その一方で,いくつかの課題も明らかになった.スコーピングレビューはさまざまな研究デザインを包括的にレビューし,対象範囲の広いリサーチクエスチョンを立てられるとしているが5),今回の採択論文はわずか5件で,幅広い対象の研究についての包括的レビューが困難であった.今後,VCPの特徴をより明確にし,対面の心理支援との使い分けを行うために,多領域における臨床研究を蓄積させていくことが重要である.
 また本研究では文献検索を2020年7月1日に実施したが,コロナ禍を通じて,遠隔心理支援に関する研究報告が国内においてさらに蓄積された可能性も考えられた.この点について,マニュアルベースドで2022年9月30日までの論文を追加で調べてみたところ,今回の選択基準に該当する論文は見つからなかった.
 さらに,遠隔心理支援については使用されている用語が多様であるという課題もある.海外でもVCPだけでなく,Tele-psychology, Tele-mental healthなど,用語が統一されていない.国内でも,遠隔心理支援だけでなく,遠隔心理学,遠隔カウンセリング,遠隔心理相談と多岐にわたっている.今後,知見を積み重ねていくうえで,ガイドラインなどで用語を統一する必要がある.
 また,本研究では,完遂率が低いという課題が指摘されている非同期型の遠隔心理支援については検討せず,同期型であるVCPに焦点をあてた.そもそも,国内においては同期型の心理支援が非同期型よりもクライエントが脱落しにくいことも検証されていない.今後,本邦においても,対面の心理支援と,同期型であるVCP,非同期型の遠隔心理支援の3条件において完遂率や脱落率を比較検討した研究が必要である.

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

文献

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30) 竹林 唯, 前田正治: 日本における遠隔カウンセリングの現状―システマティックレビュー―. 日本心理学会大会発表論文集, 82; 373, 2018

31) Thorp, S. R., Fidler, J., Moreno, L.: Lessons learned from studies of psychotherapy for posttraumatic stress disorder via video teleconferencing. Psychol Serv, 9 (2); 197-199, 2012
Medline

32) 友利幸之介, 澤田辰徳, 大野勘太ほか: スコーピングレビューのための報告ガイドライン日本語版―PRISMA-ScR―. 日本臨床作業療法研究, 7; 70-76, 2020

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