周産期メンタルヘルスの問題は,それを抱える親だけではなく,その児にも大きな影響を及ぼし,かつそれは乳幼児期にとどまらず長期にわたる.その一方で,国際的にみても周産期メンタルヘルスサービスは多くの場で十分でないことが指摘されている.こうした状況をもたらしている周産期メンタルヘルスケアの障壁の1つに,スティグマの問題がある.周産期メンタルヘルスケアに付随するスティグマとして,周産期の精神的不調が虐待と関連づけて捉えられたり,精神疾患を有する親の養育能力が懐疑的にみられたりするといった一般あるいは支援者からのスティグマがある.加えて,メンタルヘルスの問題を抱える母親自身が自分を親失格だと感じたり,精神疾患があると知られることで親権を剝奪されるのではないかと考えたりするというセルフスティグマや予期スティグマの問題もある.これらのスティグマは,一般的な精神疾患に対するスティグマだけでなく,周産期や「親」であることへの期待に起因するスティグマも影響している.さらに,多職種・多機関連携を前提とする周産期メンタルヘルスケアは構造的にスティグマの問題に直面しやすいことも挙げられる.精神科に限らない,さまざまなバックグラウンドをもつ支援者がかかわるが,その数が多いほど支援者によるスティグマに遭遇しやすくなり,また,そのスティグマの存在が多職種・多機関連携の阻害要因ともなりうる.こうしたことから,周産期メンタルヘルス支援はスティグマの影響をより受けやすいとも言える.周産期メンタルヘルスに対するスティグマの解消のためには,専門家からのメッセージ発信や専門職教育のあり方を見直すことが重要と考えられる.加えて,スティグマが社会構造やその背景となる文化的な背景の影響を受けていることをふまえれば,関連する多くの分野に携わる人々との対話や議論を通じた,スティグマの解消に向けた大局的な視点からの取り組みが期待される.
周産期メンタルヘルス支援におけるスティグマを考える
1)東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科精神保健看護学分野
2)国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所地域精神保健・法制度研究部
3)北村メンタルヘルス研究所
2)国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所地域精神保健・法制度研究部
3)北村メンタルヘルス研究所
精神神経学雑誌
126:
399-406, 2024
https://doi.org/10.57369/pnj.24-066
https://doi.org/10.57369/pnj.24-066
<索引用語:周産期メンタルヘルス, スティグマ>