Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第126巻第6号

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資料
山梨県立北病院における非同意治療の実態
三澤 史斉, 藤井 康男, 宮田 量治
山梨県立北病院
精神神経学雑誌 126: 366-376, 2024
https://doi.org/10.57369/pnj.24-062
受理日:2024年3月1日

 精神科医療では,十分な説明をしても病識がないために患者が治療を拒否する場合,非同意治療が行われることがある.しかし,近年,非同意治療を行うための手続きをより適正化し,行われている非同意治療について透明性が担保されることが求められている.山梨県立北病院(以下,当院)では,実行可能な範囲で適正な手続きを行うために「強制治療審査システム」を構築し,2012年より精神科救急入院料病棟(以下,精神科救急病棟)で試行,2016年より全病棟で実施している.本審査は,入院72時間以降に治療拒否が認められ,主治医が非同意治療を行う必要があると判断したすべての患者に対して,病棟医長,病棟看護師長および心理士が,患者の治療同意能力と最善の利益を検討し,非同意治療の妥当性について審査するものである.2016年12月から2023年3月までに169件(月平均2.2件)の審査が行われた.入院後から審査を受けるまでの期間の中央値は21日で,非同意治療が申請されてから審査されるまでの期間の中央値は1日であった.全審査のうち,120件(71.0%)が精神科救急病棟で実施され,115件(68.0%)が修正型電気けいれん療法に関連したものであった.そして,全審査のうち,9件(5.3%)が不承認となっており,そのなかで4件は治療同意能力を完全に有していることが理由であった.最終的に,抑制下(徒手的に抑制もしくは薬物による鎮静)で非同意治療が行われた例が50件(29.6%)であった.本審査システムを実施したことにより,当院でどのような非同意治療が行われているのか把握可能となった.これにより不適切な非同意治療の実施が避けられる一方で,必要な非同意治療を実施することへのためらいが軽減されたり,より侵襲の少ない治療に移行する機会になったりするなどのメリットが認められた.しかし,われわれが行っている非同意治療審査には,独立した機関が関与しておらず,この点は大きな課題として残っている.今後,日本の精神科医療がより信頼されるものになっていくためには,これまで取り上げられることがほとんどなかった非同意治療の実情を明らかにし,その審査のあり方について,全国的な議論をすべきと考える.

索引用語:非同意治療, 治療同意能力>
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