Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第125巻第5号

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特集 措置入院制度を見直す― 主に連携の視点から―
精神科救急医療基幹病院からみた措置入院の連携における課題
山下 俊幸
京都府立洛南病院
精神神経学雑誌 125: 406-414, 2023
https://doi.org/10.57369/pnj.23-057

 京都府立洛南病院は京都府南部における精神科救急医療基幹病院で精神科救急情報センターからの紹介患者の約70%を受けるとともに,公立病院の責務と考え,夜間休日の緊急措置診察のほとんどを受けている.夜間休日の措置診察は平日昼間と異なり,保健所等による事前調査が困難なこともあり,情報収集が不十分なままに診察に至ることが多い.このため,重大な他害行為がある場合や精神病症状がない場合など,平日昼間であれば,司法関係機関との連絡調整が行われ診察不要となる可能性のある事例も含まれていて,措置診察や入院後の対応に苦慮することがある.また,措置入院後の退院後支援においては,受刑歴などがあり地域とのつながりが少ないために,地元自治体の支援が受けられず,退院支援が進まない事例もある.これらの事例については地域精神保健福祉関係機関と司法関係機関との連携や役割分担が必要と考えるが,実際には接点は限られていて連携が困難な状況にあり,連携のための仕組みやルール作りが課題となっている.最近では,司法関係機関による地域生活定着支援も実施されつつあるが,最終的な目的が再犯防止ということもあり,地域精神保健福祉の目的とは異なっている.したがって,連携や役割分担により円滑な橋渡しを可能とするためには,本人の意思や個人情報保護など権利擁護に十分に配慮した仕組み作りが重要である.

索引用語:精神科救急, 措置入院, 司法関係機関, 連携, 権利擁護>

はじめに
 京都府立洛南病院(以下,当院)は,京都府宇治市に位置する,自治体立の単科精神科病院で,2002年より京都府南部精神科救急システムの基幹病院の役割を果たしている.夜間休日の緊急措置診察は公立病院の責務と考え,ほぼすべてを当院で受けている.夜間休日においては,重大な他害行為を伴う事例や精神病症状がなく責任能力が問題となる事例など司法機関が慎重に対応すべき事例や,事前調査段階で家族と調整が行われ家族が対応する事例など,平日昼間であれば直ちに措置診察に至らないような事例の診察依頼もあり,他の選択肢があるのではないかと疑問に感じることがある(入口問題).また,措置入院者等の退院後支援も行われているが,関係機関との調整がうまくいかないため,有効に機能しない場合があり,措置入院後の退院後支援に苦慮することも少なくない(出口問題).本稿では,措置入院時および退院時の関係機関,とりわけ行政や司法関係機関との連携における課題について精神科救急医療基幹病院の立場から述べることとする.なお,執筆にあたっては,倫理面を考慮し,事例についても特定の個人が識別されるものではなく,個人情報とはみなされないよう配慮した.

I.病 院 概 要
 当院は京都府内で唯一の府立病院で,1945年6月に開設され,近年は,精神科救急医療,認知症医療,依存症医療などに積極的に取り組み,病床数は256床で,救急入院料病棟(2病棟)各36床,急性期治療病棟(認知症対応)34床,精神一般病棟(3病棟:51床,50床,49床)を有している.新入院患者数の推移は図1の通りで,2019年度の新入院患者数は814名で,措置入院58名,応急入院39名,医療保護入院510名,任意入院206名である.新入院のうち,夜間休日など時間外の入院数は311名(38.2%),緊急措置入院は71名である.平均在院日数71.2日,1日平均外来患者数167名で,年度末の在院患者の状況は図2, 図3に示す通りである.

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II.京都府における精神科救急医療
 2002年より京都府南部精神科救急システム(管内人口おおむね200万人)が稼働し,当院が唯一の基幹病院となり,一部輪番病院を除き,夜間休日の救急入院の約70%を当院で受けている.府民からの相談電話はすべて精神科救急情報センター(府内の公的施設に併設)で受け,トリアージュののち基幹病院である当院に紹介されることとなっていて(図4),曜日によってはその一部を輪番病院が受けることとなっている.『精神保健福祉法』(以下,法)第23条による夜間休日の警察官通報については,精神科救急情報センターで受けたのちに,京都府,京都市の担当部署に連絡が入り,措置診察が必要と判断された場合は,当院に診察依頼があり,当院にて緊急措置診察が行われることとなっている.

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III.京都府・京都市における措置診察の流れ
 措置入院時における連携を考えるとき,行政機関による事前調査の役割が重要と考えるが,夜間休日においては平日昼間に比べると十分な事前調査が困難な状況にある.京都府・京都市における措置診察の流れは図5に示した通りであるが,平日昼間については対面で事前調査が行われたうえで,診察の要否が判断されている.しかし,夜間休日については,京都市の休日昼間を除いて,調査方法が電話連絡のみであったり,専門職の関与が乏しかったりなど十分な事前調査が行われているとは言い難い状況にある.このため,夜間休日の法第23条通報事例が診察不要となることは稀で,ほとんどすべての事例が緊急措置診察の対象となっている.事前調査による情報収集が困難なことが,措置診察にも影響を及ぼしている.

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IV.(緊急)措置入院時の連携における課題(入口問題)
1.行政機関による事前調査
 法第23条によれば,「警察官は,職務を執行するに当たり,異常な挙動その他周囲の事情から判断して,精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認められる者を発見したときは,直ちに,その旨を,最寄りの保健所長を経て都道府県知事に通報しなければならない」とされている6).しかし,警察官は精神障害であるかどうかを判断するわけではないので,被通報者には精神障害による精神病症状がある場合もあれば,ない場合もある.『措置入院の運用に関するガイドライン』3)(以下,ガイドライン)によれば「警察官通報を受理した都道府県知事等は,原則として,その職員を速やかに被通報者の居宅等現在場所に派遣し,被通報者との面接を行わせ,被通報者について事前調査を行った上で措置診察の要否を決定する」「事前調査に際しては可能な限り複数名の職員で行うことが望ましく,当該職員は法第48条第1項に規定する「精神保健福祉相談員」等の専門職であることが望ましい.また措置診察の要否の判断は,都道府県等において,協議・検討の体制を確保し,対応に当たった職員のみで判断するのではなく,組織的に判断することが適当である」とし,さらに「これらの対応が確保されるよう,都道府県知事等は,措置入院の運用に係る体制,特に,夜間・休日などに迅速な対応ができる体制を整備する必要がある」としている.
 平日昼間であれば,保健所等により,ガイドラインの内容を踏まえた事前調査が行われ,一定の精神病症状のある人が診察の対象になることが通常である.ガイドラインは夜間休日の体制整備も求めているが,都道府県等によっては十分な体制がなく,必ずしも十分な事前調査が行われないまま,措置診察が行われる場合もある.塚本ら7)は関東圏の自治体調査を行い,夜間においても対面で事前調査を実施しているのは12自治体のうち5自治体であったと述べていることからも,体制整備が課題となっている.このため,関係機関との調整や情報不足から,入院時の判断や入院後の診療に苦慮する場合が生じる.ここでは,緊急措置入院時の連携における課題について検討する.

2.司法関係機関との連携が望ましい場合
 法第23条通報は自傷他害のおそれがあるとされた事例であり,他害行為については刑罰相当の事例とされていることから,他害行為が精神障害によるものでなければ,通常は司法関係機関による対応が求められることとなる.しかし,先に述べたように夜間休日の緊急措置診察においては,必ずしも十分な情報収集や調整が困難なことから,このような事例が措置診察となることも少なくない.また,本来なら,『医療観察法』の対象となる可能性のある「重大な他害行為」にもかかわらず,措置診察が求められることもある.
 当院の三宅ら5)は「精神科救急の現場では,精神科医療を開始したものの,詳細が明るみになるにつれて司法対応が望ましいのではないかと考えさせられる症例に遭遇し,治療や処遇に難渋することも多い」「警察や家族から入院要請があるものの,強制医療の必要性が乏しい症例にも遭遇する」として,司法関係機関との連携が必要と考えられた経験として「重大な他害行為かつ精神病症状あり」「重大な他害行為かつ精神病症状なし」「その他の逸脱行為かつ精神病症状なし」を提示している.
 この報告をもとに検討すると,「重大な他害行為かつ精神病症状あり」の事例については,検察庁に送検し,『医療観察法』の申立が検討されてもよい事例と考えるが,そのような検討がなされないまま措置診察となり,その結果,措置入院や医療保護入院となり,精神保健福祉法の枠内で診療を行うこととなる.この場合,他害行為として軽微とはいえない「傷害」があっても,『医療観察法』の申立はなされない結果になることが多い.
 一方,「重大な他害行為かつ精神病症状なし」の事例では,責任能力が慎重に検討されるべきと考えるが,そのような検討がなされないまま措置診察となることがある.他害行為としては放火,強制わいせつ等があり,軽度知的障害,広汎性発達障害などの診断で,措置入院または医療保護入院となることがある.その後,逮捕に至る事例もあるが,すべての事例が司法関係機関による対応となるわけではない.
 「その他の逸脱行為かつ精神病症状なし」の事例が数としては最も多く,責任能力が慎重に検討されるべきと考えるが,この場合も検討されないまま措置診察となっている.これらの事例は約70%が措置非該当,非入院となっていて,多くは家族間や男女間のトラブルからくる他害行為で,診察時には落ち着いていて,入院には至らない場合が多い.入院となった事例においても,短期間で安定し退院となることが多い.
 これらの事例についても,夜間休日など情報が乏しいなかでの診察で措置非該当,非入院の判断をすることは必ずしも容易ではなく,判断に苦慮することもあり,救急担当指定医にとっては大きな負担となっている.診断は知的障害,広汎性発達障害のほかに,急性ストレス反応,アルコール乱用,パーソナリティ障害などで,情緒不安定など必ずしも診断に該当しない事例もみられる.これらの事例については,平日昼間であればその多くは事前調査の段階で,警察,本人,家族と調整が行われ,必ずしも措置診察には至らないことも多いと考える.以上より,行政機関による事前調査による情報収集や関係者との調整が重要であり,夜間休日の通報受理体制の整備充実が求められる.

3.身体的な診療等を優先すべき場合
 ガイドラインには「身体科救急受診を要する程度の身体症状,外傷等がある場合は,措置診察の要否判断よりも救命等必要な身体的な診療を優先し,都道府県等は被通報者の生命及び身体予後の改善に必要な支援を行うべきである」と記載されている.夜間休日など事前調査で被通報者との面接が行われていない場合や情報収集が困難な場合などは,身体疾患の可能性に気づかないまま,措置診察に至り,その場で身体疾患の可能性が判明することもある.その場合は,判断を保留しいったん身体科救急を受診後に再度措置診察に至ることになり,本人,家族,行政職員,警察官にとっても大きな負担となる.可能な限り対面による事前調査による情報収集を行い,あらかじめ身体科救急を受診後に措置診察とすることが望まれる.また,身体科救急受診後に措置診察となり,精神科入院となったものの,身体科救急医療機関での精査が不十分で,数時間後に意識レベルが低下し身体科に転院となるケースもある.この場合は行政機関による事前調査の充実に加えて,身体科医療機関との円滑な連携も課題である.

4.今後の課題
 夜間休日は平日昼間に比べて事前調査が十分に行われる状況にないため,情報収集が不十分である.このため,本来であれば直ちに措置診察に該当しない事例の診察を求められることになる.ガイドラインにもあるように,対面で専門職による事前調査が行えるように体制が整備されることを期待したい.
 また,重大な他害行為がある場合は,緊急措置診察ではなく,対面で事前調査を行い,可能な限り平日昼間に措置診察を行うなど,事例に合わせて柔軟な対応をとることが望ましいと考える.一方,平日昼間であれば診察不要となるような事例が,夜間休日には診察になるとすれば,不要な診察は,被通報者の権利擁護においても,また救急担当指定医の過剰な負担を防ぐ意味でも避けることが望ましい.
 現在,京都府では精神科救急医療システム連絡調整会議が年1回開催されているが,ほぼ現状報告にとどまっている.このような機会を生かして,行政,警察,病院が共通認識を深め,それぞれの役割を共有し,より適切に措置入院制度が運用できるよう協議していく必要がある.併せて,円滑な連携を可能にするために,本人同意や個人情報保護などに留意した,明確な根拠のある仕組みやルール作りの必要性を感じている.

V.措置入院退院時の連携における課題(出口問題)
1.措置入院者等退院後支援事業について
 2018年3月厚生労働省より『地方公共団体による精神障害者の退院後支援に関するガイドライン』4)の通知がなされ,京都府・京都市では同年10月より,措置入院者等退院後支援事業がスタートした.措置入院者等の退院後支援の充実をめざすものであったが,当院での実施件数は2018年度3件,2019年度2件,2020年度2件,2021年度(8月末まで)0件と,年間に50~60件の措置入院を受けている当院としてはかなり少ないのが現状である.その理由はさまざまに推定されるが,「本人の了解が得られない」「事業効果がわかりづらい(従来行っていた支援と実際上あまり変わらない)」「事務作業が増えることによる負担」「行政と病院との間に温度差がある(行政が考える事例と病院が考える事例が必ずしも一致しない)」「措置入院から医療保護入院を経て退院する場合,支援計画作成に自己負担が生じることがある」「他府県へ退院する場合,調整が難しい」などが考えられる.

2.司法関係機関との連携における課題
 措置入院者等退院後支援事業を利用した事例の多くは地域定着が図られたが,司法関係機関との連携がうまくいかず中断せざるをえないケースもある.例を挙げると,退院後支援事業を利用して支援が軌道に乗りつつあったが,途中で過去の触法行為により司法対応となったため,軌道に乗りつつあった支援をすべて中止せざるをえず,住居を含めてすべての福祉サービスが停止となり,時間をかけて構築した支援体制が水泡と化すようなケースである.このような司法関係機関の対応は医療機関側ではまったく予期できないものであり,このような場合,事前の情報共有は困難かもしれないが,時期を考慮するなど,より適切な方法の検討が望ましいと思われる.釈放後は保護観察所,地域生活定着支援センターが支援の中心となるのか,あるいは再び,地域精神保健福祉で支援することになるのか,連携や役割分担も課題となる.

3.地域との連携における課題
 精神科救急事例や法第26条通報事例のなかには,退院支援に際して,これまでに本人と地域とのつながりがほとんどない場合もある.本人と地域とのつながりが乏しいため,措置入院退院後の地域との連携において,困難となることがある.このような事例に共通しているのは,統合失調症に知的障害やパーソナリティ障害などが合併し,複数回の受刑歴があり,居住地が定まっておらず,家族の協力も困難な場合である.保健所による退院調整も難航し,入院中には居住予定自治体での生活保護受給の話もまったく進まず,退院後に役所に出向いてそこで生活保護を申請し,居住地を決めるような場合もあり,後味の悪さを感じることがある.
 一方,受刑後の地域生活支援としては,保護観察所や地域生活定着支援センターによる支援があるが,多くは受刑中に支援につながっていないためか,釈放後も支援を受けていないのが現状である.このような事例については地域精神保健福祉による支援と地域生活定着支援センターによる支援が連携することが必要と考えるが,ほとんど行われていないのが現状である.連携や役割分担が可能となるような仕組み作りが必要と考える.

4.今後の課題
 措置入院者等退院後支援事業は,これまで行われてきた地域精神保健福祉活動に具体的な手順を明示し,地域生活の包括的支援体制の構築を後押ししようとしたことは意義深いと考える.現時点では従来の地域精神保健福祉活動と比較して顕著な変化をもたらしたとは言いづらいが,現行法のもとで,法第47条に基づく相談支援業務の一環として自治体が中心となって行うものである以上限界があることもやむをえないと考える.
 先に述べたように現状では措置入院の退院後支援が困難な事例があるのも事実で,とりわけ,受刑歴のある場合など,地域精神保健医療福祉対応と司法関係機関対応が求められる事例について強く感じるところである.退院後支援において,保護観察所や地域生活定着支援センターとの連携は,著者の知る限りあまり行われていないのが現状で,司法関係機関側と地域精神保健福祉側が課題について認識を共有し,連携と役割分担を考えていくことが必要と考える.そのためには,本人の意思や個人情報保護に配慮したうえで,法的な枠組みやルール作りが必要と考える.

VI.司法関係機関の取り組みと連携における課題
1.再犯の防止等の推進に関する法律による取り組み
 ここでは,司法側の取り組みを紹介し,今後の連携における課題を検討する.2016年12月に『再犯の防止等の推進に関する法律』が公布,施行され,これを受けて,政府により2017年に「再犯防止推進計画」が策定され,7つの重点課題の2番目に「保健医療・福祉サービスの利用の促進」,その主な施策として「刑事司法関係機関と保健医療・福祉関係機関の連携の強化」が示された1)
 具体的には,捜査,公判段階からの支援の仕組み作りとして,被疑者・被告人を対象として,検察庁(検察庁に福祉職を配置)において,福祉的支援を必要とする者に,弁護士や福祉専門職,保護観察所等関係機関・団体等と連携し,身柄釈放時等に福祉サービスに橋渡しするなどの取組(入口支援)を実施するとした.また,矯正施設出所者等に対する支援(出口支援)の1つとして,受刑者等のうち,適当な帰住先が確保されていない高齢者または障害のある者等が,出所後に,社会福祉施設への入所等の福祉サービスを円滑に利用できるようにするため,地域生活定着支援センターの設置や,矯正施設および更生保護施設への社会福祉士等の配置を進め,矯正施設や保護観察所,更生保護施設,地域生活定着支援センター,その他の福祉関係機関が連携して必要な調整を行う取組(特別調整)を実施するとした.
 入口支援のなかで,保護観察所が行うものとしては図62)に示す通り,起訴猶予等における釈放後,「福祉サービスの調整,更生保護施設等の宿泊場所の提供」などが例示されている.このように司法関係機関によるいくつかの取り組みが紹介されているが,実際には地域精神保健福祉活動のなかで,これらの取組との接点はほとんどないのが現状である.

2.今後の課題
 これらの施策は福祉的支援を必要とする人に対して,司法関係機関が,保健医療・福祉サービスへの橋渡しをすることで,地域社会への定着をめざすもので,地域精神保健福祉活動と一定程度重なるところがあり,今後は連携や役割分担が求められていくと考える.保健医療福祉関係機関と司法関係機関がかかわることで地域生活定着への支援の促進が期待される.司法関係機関の支援ではあるが,利用者の意思に反して行ってはならないし,本人の権利擁護には十分に配慮しなければならないと考える.
 とは言うものの,司法側の施策の目的が再犯防止であることを考えると地域精神保健福祉活動の目的とは必ずしも一致せず,連携や役割分担については慎重に検討しなければならないといえる.このことは『医療観察法』が他害行為の再発防止と社会復帰を目的としていることを想起させ,同法の成立過程ではこの点が批判を受けたことに留意しなければならないと考える.精神科医療や地域精神保健福祉活動が社会参加の促進を目的としていることから,司法関係機関との連携や役割分担に際してはこの点を留意したうえでの制度設計やルール作りが必要と考える.

図6画像拡大

おわりに
 精神科救急医療基幹病院の立場から,措置入院の連携における入院時と退院時の課題について述べた.入院時については,事前調査の体制整備の必要性と行政,警察,病院それぞれの役割についての共通認識の必要性について述べた.また,退院時については退院後支援が困難な場合があり,司法関係機関との連携や役割分担が求められることを述べた.
 地域精神保健福祉関係機関と司法関係機関との連携においては,両者の目的が必ずしも一致しないことから,連携や役割分担について,本人の意思や権利擁護に十分に配慮した仕組み作り,ルール作りが必要と考える.

 編  注:本特集は,第117回日本精神神経学会学術総会シンポジウムをもとに浅見隆康(群馬大学健康支援総合センター)を代表として企画された.

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

 謝 辞 本稿作成にあたり,本シンポジウムコーディネーターの群馬大学健康支援総合センター 浅見隆康先生に貴重なご助言をいただきました.この場をお借りして御礼申し上げます.

文献

1) 法務省: 再犯防止推進計画. 2017 (https://www.moj.go.jp/hisho/saihanboushi/hisho04_00036.html) (参照2021-12-21)

2) 法務省法務総合研究所: 保護観察所における取組. 平成30年版犯罪白書. (https://hakusyo1.moj.go.jp/jp/65/nfm/n65_2_7_5_3_2.html) (参照2021-12-21)

3) 厚生労働省: 「措置入院の運用に関するガイドライン」について. 2018 (https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc3289&dataType=1&pageNo=1) (参照2021-12-21)

4) 厚生労働省: 「地方公共団体による精神障害者の退院後支援に関するガイドライン」について. 2018 (https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc3290&dataType=1&pageNo=1) (参照2021-12-21)

5) 三宅康裕, 吉岡隆一, 西嶋佑太郎ほか: 司法との連携が望ましいと考えられた症例の検討. 第28回日本精神科救急学会学術総会プログラム・抄録集. p.116, 2020

6) 精神保健福祉研究会監: 四訂 精神保健福祉法詳解. 中央法規出版, 東京, p.245-246, 2016

7) 塚本哲司, 吉田太郎, 関口隆一ほか: 関東地方における警察官通報の実態と自治体の対応状況に関する調査. 精神科救急, 20; 110-122, 2017

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