精神医学のフロンティア | 345-351頁
石郷岡 純
アリピプラゾール,ブロナンセリン,パリペリドンの中止率を主要評価尺度としたランダム化オープン試験を実施した.52週時点ではそれぞれ68.3%,68.2%,65.5%で薬剤間に有意差はなかったが,理由別では薬剤間に多少の特徴が見られた.また,寛解率は観察期間中,週を追うごとに上昇した.中止率は抗精神病薬の有用性を表す包括的な指標として妥当であることが示された.
総説 | 352-364頁
高野 歩,熊倉 陽介,松本 俊彦
ハームリダクションは,合法・違法にかかわらず,必ずしも薬物の使用量は減ることがなくとも,その使用により生じる健康・社会・経済上の悪影響を減少させることを主たる目的とする政策や実践の総称である.わが国でも議論が進められつつあるアルコール問題に対するハームリダクションについて,海外での取り組みを中心に実践内容やその効果を解説する.
Jaspers, K.の発生的了解を,彼自身が参照したWeber, M.の著作にあたることを通して検討した.Jaspersは精神科学の方法論に関して,記述において概念によって捉えられテクスト化され得る事象しか扱わない点で Weberと共通の立場にあった.ただし精神療法的アプローチについては Weberから離反し,概念の一般性に基づく理念型的了解を拒むこの今の一回性を帯びた単独的な事象を重視した.
精神医学奨励賞受賞講演 | 423-429頁
髙宮 彰紘
電気けいれん療法(ECT)の作用機序には不明な点が多い.頭部MRIを用いた研究から,ECTは海馬,特に歯状回の可塑性を一過性に変化させ,前頭側頭部を中心とした脳神経回路の再編成を引き起こすことが重要と考えられた.ECTの偏見を減らし適切な普及に向け,作用機序の解明とともにECTにまつわる倫理的諸問題の解決は重要である.
21世紀の「精神医学の基本問題」―精神医学古典シリーズ― | 430-442頁
金川 英雄
呉秀三の調査記録『精神病者私宅監置の実況』をもとに,私宅監置を分析した.呉は医療が欠けていることに憤慨したが『精神科監護手続き』本などを解析,刑法上は厳密に施行されていたことが分かる.江戸時代の判例も精神病者監護法と類似性があり現代までの連続性がある.また実況本を再発見した松沢病院鈴木芳次,さらに東大,慶應大医学部の歴史連続性にも触れた.