精神医学のフロンティア | 249-257頁
森本 千恵,小池 進介
統合失調症の臨床病期で、小脳 Crus Ⅰ/Ⅱの構造にどのような差異がみられるかを解析した.その結果、精神病発症ハイリスク群の男性で,Crus Ⅰ/Ⅱの白質体積は有意に増大していた.女性では,臨床病期で有意な差異はみられなかった.また,Crus Ⅰ/Ⅱの体積は、精神病発症ハイリスク群では,症状の重症度と正の相関を示したが、初回エピソード群では、負の相関を示した.
人口減少や支え合いの基盤の脆弱化が進むわが国では,地域共生社会実現のための政策が重視され,「困りごと」を抱えた住民が制度の狭間に落ちないよう「断らない相談支援」の提供体制が構築されつつある.複雑な課題を抱える相談者は,多かれ少なかれ精神保健上の課題を抱えていることが多く,地域共生社会を実現するうえで精神医療に期待される役割は大きい.
原著 | 266-274頁
臼倉 瞳,内海 裕介,瀬戸 萌,佐久間 篤,菅原 由美,國井 泰人,中谷 直樹,寳澤 篤,辻 一郎,富田 博秋
東日本大震災で被災した宮城県七ヶ浜町住民を対象に毎年実施されたコホート調査のデータを用いて,発災後10年間にわたる心理的苦痛の変化パターンを調査した.1,083名のK6得点を用いた混合軌跡モデリングの結果,K6の変化パターンについて,レジリエント群(25.4%),症候閾値下群(42.0%),軽度群(26.9%),中等度以上群(5.7%)の4群からなるモデルが採用された.
症例報告 | 275-282頁
辻 悠里,尾崎 紀夫,藤城 弘樹,木村 大樹
近年,レビー小体型認知症(DLB)の初期症状,予後予測マーカーの候補として,食道病変が注目されている.今回,原因不明の嘔気,体重減少を呈し,身体症状症と診断されていたが,精査の結果,probable DLBの診断に至った症例を経験した.高齢者の原因不明の消火器症状には,背景となるDLBの鑑別に留意する必要があると考えられる.
21世紀の「精神医学の基本問題」―精神医学古典シリーズ― | 305-317頁
佐藤 晋爾
Jaspers, K. の『精神病理学総論』は大著のうえに議論が錯綜している箇所があり,全体を見通すことが難しい.本稿では,Jaspers が『精神病理学総論』をどのような目的で執筆したか,全体の構成の意味などを,伝記や彼の哲学著作を参照して検討する.また,Jaspers の提唱した代表的な概念,了解と説明において誤解されていると考えられる点,特に「神経症=了解可能,精神病=了解不能」について著者の見解を述べた.今となっては時代的にそぐわない点がいくつかはあるが,症候学を十分に学ぶためには,Jaspers の『精神病理学総論』はいまだ価値ある著作である.