精神神経学雑誌

掲載論文ハイライト

がん患者は様々な苦痛を経験するが,認知機能障害もその一つである.日常生活における記憶や注意力,集中力への影響のみならず,治療場面における意思決定などにも大きな影響を与える.本総説では,「がん医療における様々な認知機能障害と今後の課題」について,特に化学療法,ホルモン療法,放射線療法など治療に関連する影響について概説する.
故人の幻影は正常悲嘆の過程で現れる.しかし,その出現と消失の契機は明らかでない.筆者らは,日本でほとんど報告がない本現象を提示する.そして,先行研究と比較した上で,「喪の作業」の重要性を再考する.
本特集では,このテーマの総説を山田が「精神科医療におけるスピリチュアリチィとレジリエンス」として纏め,宗教学者の島薗進は「スピリチュアルケアの役割とレジリエンス」として宗教によるレジリエンスを提示し,精神病理学者の加藤敏は「ヤスパースの実存哲学からみるレジリエンス」として,精神療法家の熊倉伸宏は「『人間』の回帰」として「スピリチュアリチィとレジリエンス」を考察した.
人は,身体と脳をもって生まれ,人生を通じて生活の中で価値を形成,発展させていく主体である.精神医学は,脳・生活・人生の統合的理解にもとづき価値を支えることで当事者の主観的ウェルビーイング・リカバリーにアプローチする科学である.脳と生活と人生のトライアングルの科学的理解にもとづいて当事者の価値を支えられることが精神科医に求められる素養である.
2014年6月1日,アルコール健康障害対策基本法が施行され,医師などは「アルコール健康障害に係る責務」を有することになった.この新たな時代背景の中で,一般精神科医が気分障害などの患者の臨床に於いて「死のトライアングル(うつとアルコールと自殺)」を理解して,潜んでいる可能性のあるアルコール使用障害へSBIRT(エスバート)の技法で対応すべきことを述べた.
わが国は薬物依存症からの回復のための医療的資源が深刻に不足しているが,そのようななかで,我々が開発した薬物再乱用防止プログラム「SMARPP」は,将来の地域における薬物依存支援資源の選択肢としての役割が期待されている.本稿では,このSMARPPの理念と内容について概説した.
教育講演 | 663-668頁
鹿島 晴雄
高次脳機能障害の“高次”が何を指すのかは必ずしも明確ではない.筆者は“高次”を“意味にかかわること”と理解し,脳損傷の局在と症状の一貫性の観点から高次脳機能障害と要素的脳機能障害の相違につき述べる.またアルツハイマー型認知症の症状を高次脳機能障害の組合せとして捉え作成した,軽度アルツハイマー型認知症の簡便検査を紹介する.
近年,精神神経疾患領域では数多くの新薬が承認され,治療の選択肢は拡大した.最適な治療方法の選択には,より多くの情報収集とエビデンスの適切な理解が必要になる.本稿は,臨床試験に焦点をあて,試験実施計画やデータの確認ポイントについて概説する.そして,当該領域の臨床試験の特徴も説明し,臨床医に役立つように,結果解釈を行う上での留意点を解説する.

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