Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第117巻第8号

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教育講演
第110回日本精神神経学会学術総会
若手精神科医に求められる3つの基本:脳・生活・人生―価値精神医学に向けた理念共有―
笠井 清登
東京大学大学院医学系研究科精神医学分野
精神神経学雑誌 117: 636-645, 2015

 精神医学は,脳・生活・人生の統合的理解にもとづき価値を支えることで当事者の主観的ウェルビーイング・リカバリーにアプローチする科学である.このトライアングルは,当事者中心の精神科医療とはなにかという基本問題への科学的根拠を与えるとともに,ひいては,人はどう生きるのか,ということに対する科学的接近の手がかりともなる.人は,脳と精神機能の自己制御性をもつ.すなわち人は,その進化の過程でおかれてきた社会環境に適応するために,メタ認知機能と思考の道具としての言語を基盤として,自分自身の精神機能,さらには脳を再編し,発展させることができるようになった.人は,他者や社会と相互作用しながら自我や固有の価値をもって生きている.主体的に生きる自分の身体・脳・精神と,他者・社会が交流する場が「生活」である.生活が成り立つということは,人間にとって身体・脳・精神に刻まれた価値を支えられるウェルビーイングの必要条件である.就労や結婚を支援することでリカバリーが促進されることの脳科学的基盤はここにある.人は,児童期までに育んだ情動・対人関係機能を土台として,思春期に精神機能の自己制御性を用いて,自我や価値を形成していく.個人の行動の動因としての価値は,思春期の自己制御過程を通じて個人の中に独自のものとして内在化していく.人生の時期や精神疾患の種類によらず,思春期の自我や価値の形成を物語り,再編成することでリカバリーが促進されることと発達脳科学はこうして対応づけられる.人は,身体と脳をもって生まれ,人生を通じて生活の中で価値を形成,発展させていく主体である.脳と生活と人生のトライアングルの科学的理解にもとづいて当事者の価値を支えること,これが精神科医に求められる素養である.価値精神医学にもとづき当事者のリカバリーに伴走することで専門家として成長できること,これが精神科医に与えられた特権である.

索引用語:脳, 生活, 人生, 価値, リカバリー>
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