Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第117巻第8号

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症例報告
「喪の作業」の完了によって消失した悲嘆幻覚の1臨床例―正常な悲嘆とスピリチュアルケア―
黒鳥 偉作1)2), 加藤 敏3)
1)北海道立羽幌病院内科
2)自治医科大学精神医学教室
3)小山富士見台病院
精神神経学雑誌 117: 601-606, 2015
受理日:2015年3月12日

 欧米では,正常な悲嘆における故人の幻聴や幻視の出現が知られている.しかしながら,日本ではその存在はよく知られておらず報告も少ない.今回,夫の悲嘆幻覚が出現し,「喪の作業」の完了によって消失した1例を報告する.66歳女性は夫との死別による喪失感や孤独感に悩まされていた.ある日,彼女は夜中に夫と出会うことがあると告白した.その体験は夢と区別され,現実感は保たれていた.認知機能障害はなく,日常生活を送りながらも彼女は夫の姿を見続けた.約15ヵ月後,主治医が夫の死後の存在を肯定していることを再確認すると,彼女は幸せな日々を回顧し夫への感謝の言葉を述べた.その診察から数日後,悲嘆幻覚は消失した.その後再燃はなく,患者は夫を供養しながら新たな生活を歩み続けている.悲嘆幻覚の出現には,死別の悲しみや夫の希望を叶えることができなかった後悔と,看病からの解放という願望充足による心理的葛藤が要因として考えられる.また,本例の語りと回復の過程によって故人の実存を医療の世界に担保する必要性と「喪の作業」の重要性が改めて強調される.すなわち,生の諸相を扱う現代医療の文脈の中で,遺族と愛する人の関係性に配慮するスピリチュアルケアが求められている.

索引用語:喪の作業, 死別, 悲嘆幻覚, 病的悲嘆, スピリチュアルケア>
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