精神神経学雑誌

掲載論文ハイライト

近年,フランスの司法精神医療では日本にとっても対岸の火事とはいえない動きが起きている.刑法への限定責任能力の導入,再犯危険性を要件とする保安監置の新設,同意によらない治療規定の改正,医療における裁判所権限の強化,触法精神障害者の治療施設の拡大に対して,医療の「司法化」が危惧され,また「危険性」に関する思想界を巻き込む論争が展開されている.
本特集では,「これからの精神科医療を考える―「地域でその人らしく暮らす」を実現するための政策・医療・財源を考察する―」というテーマのもと,「精神保健医療福祉政策の今後を展望する」,「多機能垂直統合型精神科診療所による地域ケア―錦糸町モデルの実践から―」,「その人らしい地域の暮らしを支える民間病院の取り組み」,「旭モデル―旭中央病院神経精神科・児童精神科における地域精神保健医療福祉―」について論じる.
会長講演 | 544-549頁
宮岡 等
北里大学医学部精神科では相模原市を中心に地域連携を重視した医療を行っているが,うつ病診療の質を向上させるために最も重要なのは「精神科医療の可視化,透明化」であると考える.そのためにセカンドオピニオン外来の充実,かかりつけ薬剤師の活用,うつ状態地域連携クリティカルパス,うつ病地域ネットワークなどを実施している.
精神科医が記載している書類には,医療保護入院者の入院届など,精神保健福祉法などの法律に基づく書類も数多くある.精神障害者の人権擁護,適正な医療や福祉の確保につながる重要な書類である.記載内容が不十分な書類や記載内容が適切でない書類のために,精神障害者の不利益を生じさせないように,精神科医には書類への丁寧かつ適正な記載を求めたい.
近年,精神科医療を取り巻く制度や政策が大きく変わりつつある.精神保健福祉法をはじめとする医療政策と精神科医療は密接に結びついているものの,特に若手の精神科医が,そうした政策の仕組みや動向を把握する機会はそう多くはない.本稿では,精神科医療政策の立案・成立までのプロセスや「医系技官」の役割などについて,精神保健福祉法改正を例に解説する.
精神医学奨励賞受賞講演 | 562-567頁
竹内 啓善
我々は,(1)安定した統合失調症における非定型抗精神病薬の減量は,再発のリスクを高めることなく,認知機能,陰性症状,錐体外路症状を改善すること,(2)抗精神病薬の1日1回投与は,1日2回投与に比べて臨床的転帰に差はないが,使用用量が減ることを示した.これらは,従来よりも少ない用量かつ長い投与間隔による抗精神病薬治療の可能性を示唆している.

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