Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第118巻第6号

※会員以外の方で全文の閲覧をご希望される場合は、「電子書籍」にてご購入いただけます。
特集 アルツハイマー病におけるSymptomatic Drugsの使い方と使い分け
認知機能より生活への注目を―「張り合い」と精神療法の重要性―
上田 諭
日本医科大学精神神経科
精神神経学雑誌 118: 424-429, 2016

 アルツハイマー病(AD)の治療は,生物学的視点と症候学的視点の両方から考える必要がある.根治療法がない現状で,生物学的に認知機能だけを診ている診療は治療としては不十分である.症候学的視点を取り込んで,張り合いのある生活こそが目標になるべきである.ADの人は自己肯定感と役割,人との関係性を失っていく.その回復こそが治療であり,生活への注目が不可欠である.行動心理症状(BPSD)の背景にも生活は大きくかかわっている.診療では,介護者の話を聴くこと以上に,本人に向き合う精神療法を行うことに意味がある.家族に対しては,本人の心情への理解を求め,常に尊重して介護することが大切であることを教える.抗認知症薬の使用について,認知症の人の状態に応じた「使い分け」の議論は,安直なマニュアル化にすぎる.認知症のBPSDを含む状態が,脳神経障害のみによって生じていると考えるのは間違いである.初期から中期までのADでは脳機能の障害は一部のみであり,直接それがすべてのBPSD症状を生じるとは考えられない.BPSDを生むより大きな要因は,介護対応や生活状況などの環境因であることを知る必要がある.AD臨床は,生物学的な「脳」と精神症候学的な「心」の両方を診る姿勢で行われるべきである.

索引用語:アルツハイマー病, 認知機能, 生活の張り合い, 自己肯定感, 精神療法>
Advertisement

ページの先頭へ

Copyright © The Japanese Society of Psychiatry and Neurology