Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第118巻第10号

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症例報告
Clozapine開始後17年経過して発症した拡張型心筋症の1例
大久保 亮, 橋本 直樹, 草地 麻実, 成田 尚, 久住 一郎
北海道大学大学院医学研究科神経病態学講座精神医学分野
精神神経学雑誌 118: 735-743, 2016
受理日:2016年5月6日

 Clozapine内服中に出現した拡張型心筋症はclozapine関連心筋症とされ,国内で市販後に認められた心筋症の発症頻度は0.4%(16/3,706例)である.先行研究によればclozapine関連心筋症は投与開始から平均14.4ヵ月で発症するとされ,われわれが検索した限りでは投与後7年での発症の報告が最長である.今回われわれはclozapine投与開始から17年経過した後に拡張型心筋症を発症し,中止後に心機能が回復した症例を経験した.症例は43歳男性の統合失調症患者で17年前にclozapineの治験に参加し600 mg/日の用量で寛解を維持していた.歩行時の息切れのみが出現し,心電図,胸部X線写真上も明らかな変化なく喘息の増悪として経過観察された.しかし徐々に症状は増悪し意識が遠のく感じや全身の脱力感を訴えるようになったため循環器内科を受診し心エコー検査上,左室内腔の拡大,左室収縮不全,左室駆出率40%と中等度心機能低下を認め拡張型心筋症の診断となった.心臓カテーテル検査,心筋生検などでclozapine以外の危険因子が否定されたためolanzapineを追加後にclozapineを漸減中止し拡張型心筋症の標準治療を開始した.徐々に自覚症状,心機能は改善し,中止11週後には自覚症状は消失,左室駆出率も50%と著明な改善を認めた.中止40週後の心エコー検査で左室駆出率59%と心機能は正常化しており,現在に至るまで32ヵ月間,精神症状の再燃も認めていない.本症例において,心筋症を誘発するclozapine以外の要因は否定された.しかし,clozapine中止と同時に拡張型心筋症の標準治療を開始していることもあり,心筋症発症とclozapine投与の因果関係は不明である.また本症例から心電図や胸部X線写真で異常所見がなくとも拡張型心筋症の診断を否定できないことが示唆され,clozapine内服患者には年1回心エコー検査を行うことが望ましいと考えられる.Clozapine関連心筋症の予後は不良であり,clozapine内服患者で息切れなどの心不全を疑う症状を認めた際には,clozapine投与との関連を念頭におき速やかな対応を行うことが必要である.

索引用語:クロザピン, 心筋症, 統合失調症, 心エコー検査>
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