2012年に,政府は認知症施策推進5か年計画(オレンジプラン)を発表した.このプランは,認知症の人と家族の生活を支える地域包括ケアシステムの実現という文脈の中で策定されたものである.地域包括ケアシステムの本質は,多様なサービスを統合的に提供できるシステムを,それぞれの地域で,地域の実情に応じて,地域住民が参加してつくることにある.オレンジプランの第一の視点「標準的認知症ケアパスの作成・普及」は,認知症のための統合ケアの道筋を市町村で可視化させることをめざしている.今日までにそれを達成できた市町村は少ないが,その作成過程が,「認知症にやさしい町をつくる」といった理念の共有に寄与している.第二の視点「早期診断・早期対応」では,認知症初期集中支援チームや認知症疾患医療センターの整備が進められている.これらは,質の高い診断と診断後支援の仕組みづくりをめざしたものである.しかし,質の高い診断と診断後支援を全国各地で実現するには,都道府県や市町村において,国の制度を利用しながらも,地域の実情に応じたサービス提供体制のあり方を考案しなければならない.東京都では,2015年度より,すべての区市町村に認知症疾患医療センターを配置することとした.また,区市町村に認知症支援コーディネーターを配置し,認知症疾患医療センターに配置された認知症アウトリーチチームと協働して,診断へのアクセスと統合ケアの調整を行うこととした.さらに,地域の実情に応じた認知症支援体制づくりを推進するために認知症支援推進センターを設置した.オレンジプランは,各方面にさまざまな議論と活動を呼び起こしている.2015年1月,政府は,オレンジプランを改定し,認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)を策定したが,その最も重要な特徴は,「認知症の人やその家族の視点の重視」を施策づくりの基本に据えた点である.わが国の認知症施策は新たな時代を迎えている.
認知症施策推進5か年計画の新たな展開に向けて
東京都健康長寿医療センター研究所
精神神経学雑誌
118:
70-77, 2016
<索引用語:認知症施策推進5か年計画(オレンジプラン), 地域包括ケアシステム, 認知症ケアパス, 認知症初期集中支援チーム, 認知症疾患医療センター>