多職種チームの重要性は以前から指摘されている一方,具体的な成果や精神科医のかかわり方について一般臨床での報告は少ない.今回,高次脳機能障害により自殺企図など激しい行動化をくり返していた症例で,主治医中心の対個人治療では対応困難であったが,システムズアプローチに基づいて多施設・多職種での対応が奏効した症例を報告する.システムズアプローチは家族療法の領域ではよく知られているが,それ以外にも適用範囲は広く,施設の内外を問わず多職種チームによる力の発揮やチームのマネジメントそのものにも活用できることが示唆された.
https://doi.org/10.57369/pnj.24-017
受理日:2023年10月5日
はじめに
多職種チームの重要性は以前から指摘されている.法律上の点からも,医師がリーダーとしてチームマネジメントの役割を行うと想定されているが,その実践報告は少なく,多職種チームでの精神科医の役割に関する論文もほとんどみられないとされる2).その一因には,個別のケースで多職種チームのどこが治療的に働くのかわかりにくいこと,精神科医は精神医学が専門ではあるがチームマネジメントの専門ではなく,ケース会議(以下,会議)でのふるまい方について参考とすべき指針が少ないことが考えられる.
一方,家族療法や学校臨床の分野では,システムズアプローチに基づく連携の報告がみられる4)11)19).システムズアプローチは医療領域でも精神療法に活用され成果を上げている12)13).
今回,自殺企図により入院をくり返し治療に難渋したが,システムズアプローチの視点から医師主導で会議をくり返し開催することで,最終的に入院を回避できるようになった症例を経験した.本症例では,多職種チームの「治療効果」が発揮されたと考えられ,会議で医師がリーダーの役割を遂行する際にもシステムズアプローチが指針となることを具体的に示す好事例であったので報告する.
I.症例
報告にあたっては当事者から書面にて許諾を得て個人を特定されないよう配慮を行った.
症例A(初診時30歳代後半,女性)
【初診時主訴】気持ちが落ち込む,死にたい,記憶がない
【家族構成,家族歴】本人(以下,A),母親(途中から別居).兄が近隣に居住.両親の離婚後に父親と連絡なし.
【既往歴】20歳代後半より1型糖尿病.インスリン製剤にて治療を行い合併症はなし.
【生活歴】
2人同胞の第2子長女として出生.幼少期から兄よりいじめを受けていた.現在も兄から高圧的な言い方をされるためにAは兄を苦手と感じている.高校卒業後にアルバイトを転々とした.20歳代後半に結婚したが30歳代前半に離婚して実家で母親と同居した.
【現病歴】
結婚後より不眠,食欲低下,抑うつの症状にて心療内科に通院した.30歳代前半にインスリンの過量注射のため低血糖昏睡となった.14日後に覚醒したが,新しいことの記憶や以前の記憶の想起が困難となった.Wechsler Adult Intelligence Scale-Revised(WAIS-R)では,全検査IQ 46,言語性IQ 63,動作性IQ 45以下で算出不可であった.近医に転院してデイケアや作業所の利用を開始したが中断することが多かった.30歳代後半より,無理な要求を母親に承諾させる手段としてインスリンの過量注射をくり返すようになった.入院対応可能な精神科病院への転院を母親が希望し,X年7月筆頭著者(以下,主治医)の勤務する病院(以下,当院)を初診した.初診時,生活歴や現病歴を聴取したが,Aは最近の出来事も含めてよく覚えていないと言った.当院では新たな認知機能検査は行わなかった.
【診断】
記憶障害,知能低下,学習障害を呈し,日常生活や社会生活に制約をきたしていることより,インスリン過量注射での重篤な低血糖昏睡による高次脳機能障害(ICD-10のF04に相当)と診断した.さらに気分変動にて自殺企図をくり返していることから器質性気分障害の併存を考えた.
【治療経過】
システムズアプローチを活用する前を1期,活用後を2期として記載する.
1期:Aは「死にたい」「総合病院に入院したい」と言って多量のインスリンを注射しようとし,母親がインスリンを取り上げると,逆に菓子を大量に食べ,インスリンを注射しないということで母親を脅す行動や,縊首未遂や大量服薬があった.そうした行動が重なると,母親の休息も兼ねて毎年1~2回,1回1ヵ月程度の入院をくり返した.自殺企図などの動機については友人との喧嘩や兄からの叱責などを語った.個人精神療法にて治療関係は構築された.薬物療法は前医からのバルプロ酸ナトリウム(最大800 mg),アリピプラゾール(最大12 mg),リスペリドン(最大2 mg),ニトラゼパム(最大10 mg)を主剤として継続した.
X+2年に疲弊した母親が兄宅に転居してAは独居となった.以前から利用していた支援センター(以下,センター)の勧めもあり,新たに就労継続支援B型事業所(以下,B型)への通所を開始した.X+3年に大量服薬にて当院に入院した.入院後,希死念慮は速やかに消失し,Aの希望も強く1ヵ月程度の経過観察にて退院した.
X+4年6月,糖尿病で通院中の総合病院(以下,C病院)の医療ソーシャルワーカー(medical social worker:MSW)より「これまで何度もインスリンの過量注射をくり返している.今月は連続2回,インスリンの過量注射で救急搬送と入院があった.理由を問うと『なんとなく,兄に怒られた,寂しい』など些細なことが多い」と連絡があり,同院からの提案で訪問看護を導入した.
2期:同年10月,C病院のMSWより,向精神薬の大量服用で入院したが1ヵ月間で3回目の入院であり,いずれもインスリン過量注射か過量服用またはその両方であること,入院しても数日後には「B型に行きたい」と退院するので困っていると連絡があった.
このため,C病院より当院へ転入院した.この2期における第1回目の入院(入院1,以下同様に記載)後,主治医は支援者による会議を開催する日程調整を当院の精神保健福祉士(mental health social worker:MHSW)に依頼した.診察にて今回の自殺企図の動機を尋ねると「兄から電話でガミガミと何時間も言われるのがつらかった」「訪問看護も時間がしばられるので負担です.訪問看護の回数を減らしてほしい」と言った.上記の動機で間違いないか何度も確認して,会議でAの思いを共有して退院後の方針を考えることを伝えた.
会議では,センター担当相談員,C病院MSW,当院MHSW,主治医,当院病棟看護師が参加し,途中よりAが参加した.最初に支援者の意見を募ったところ,「Aは夜中寂しくなったときにインスリンを注射すると言っていた.夜中に相談できるところがあればよいのではないか?」との意見より「センターの24時間電話相談を勧める」「週末にC病院での入院が多い.週末対策が重要ではないか」との意見より「B型を土曜に変える」という対応が提案された.主治医は会議の流れを重視し,自身が診察でAから確認した動機を報告することはやめ,途中参加したAからの発言を待つことにした(主治医の意図についてはII.考察の3.-1)に記載).MHSWよりAに,夜間はセンターの緊急電話相談を利用することとB型通所を土曜に変更することを伝えたところ,「はい」と素直に受け入れた.主治医が訪問看護について何か要望がないかと尋ねたが,Aは「ないです.週3回,決まった時間に家にいないといけないのが苦痛なだけで」と言い,兄に対するストレスも表明しなかった.このために上記の案が採択された.会議終了後の診察でAは「これだけたくさんの人がかかわってくれていたと初めてわかりました.今まで独りで何とかしなければと思っていた」と言い,会議翌日に退院した.
退院後約20日後の12月に,再度C病院よりインスリン過量注射後,A自身が救急車を要請して搬送され「友人が入院して寂しくて注射してしまう」と訴えていると入院依頼があった.再度の転入院にて(入院2)主治医は入院1と同様にAに動機を確認した.最初は「なぜでしょう.いつもよくわからないんです」と言っていたが,主治医が,友人が入院した寂しさからと聞いているがと尋ねると,「ああ,それもあります」と答え,「死ぬつもりはなかった.死ねませんよ.10日くらいC病院に入院できたらなあと思って」と希死念慮を否定した.確認をくり返すと「夜が寂しいんです.思い直してご飯を炊き始めたけれど,その後に衝動的に注射しちゃって.バッグに荷物つめて救急車を呼んだ」と話した.同じ支援者で会議を開催し,主治医より「今回は友人が入院した寂しさが動機であった」とC病院からの事前情報と合致したことを報告した.センターからは,前回の会議の取り決めどおりに,夜間に本人から「注射しちゃった.どうしよう」と電話があったことが報告された.このために,訪問看護を24時間対応できる事業所に変更することを検討した.前回と同様,そのことをAと共有した後に退院した.
X+5年2月,C病院よりAが未明に救急搬送され「B型で陰口を叩かれたので気分が落ち込んでインスリンを注射してしまった」と連絡があった.翌日に当院へ転入院した(入院3).主治医は動機について聞き,C病院からの情報との合致(B型での陰口が理由)を確認した.また,MHSWがセンターより,今回もC病院搬送直前にAから陰口に関する相談電話があったことを確認した.一方,Aが電話したことはセンターでも評価しているが,就寝を促すとそのときは「はい」と素直な返事で終わっていた.そのことを主治医がAにフィードバックしたところ,「愚痴を言いたかっただけなので,センターに言ってもしょうがなかった.センターは相談する所で愚痴を言う場所ではない.それはわかっていた.大人にならないと」と言い涙した.Aの思いを主治医だけが理解しても意味が乏しいので他の誰に伝えたいかと聞いたところ,センターの担当相談員を希望したので情報共有した.24時間対応可能な訪問看護事業所への変更もなされ,退院直後に会議を開催した.
この頃には,「C病院に緊急入院⇒当院へ転入院⇒会議を開催して退院」の手順が確立した.
同年7月,C病院からインスリン過量注射で入院したと連絡があった.この頃は当院MHSWがC病院MSWに状況確認の電話を行うようになっていたが,すでにC病院はセンターより「B型に合わない人がいて行きたくない」と言っていたと情報を得ており,Aからも同様の内容を直接確認していた.C病院より当院に転院(入院4)時,Aは主治医にもすらすらと動機を話した.「B型である人がべったりくっついてくるようになって,それがいやでいやで.スタッフに一度相談したけど自分で対処してくれと言われてしまいました」「B型に行きたくなくて注射してしまった.あとで『バカだな.普通に休めばいい』と思いました」と言った.また,C病院やセンターで事前に相談していたことに触れると「話さなければ何もわからないのだと思って」と話した.一方で,C病院にて看護師に動機を話したが「なるほど.そうですか」という反応であったと言う.また,訪問看護に相談することは思いつかなかったと言った.これまで同様に会議を開き,このときよりB型の管理者にも参加を要請した.会議で主治医より,今回A自身からSOSが各支援機関に出されていたにもかかわらず,それを活かしきれなかったことは支援者側の課題であることを伝えた.センターからは,B型に連絡を入れていたがAが「大丈夫です」と言うため様子をみていた,B型からは,管理者不在の時期でAが相談しにくかったかもしれないが今後は対処していきたい,C病院からは,B型通所の曜日によく臨時受診するのでおかしいと思い,B型とも連絡はとっていたと,報告された.また,Aが訪問看護には今回の件を相談していなかったことに対しては,今後センターより訪問看護へ情報を伝えることで訪問看護のスタッフからAに「センターから聞いている」と言えばAも話しやすくなるのではと提案された.またストレスの相手に会わないようにB型の通所日を変更することが提案され,Aも安堵した.
X+6年1月(入院5)インスリン過量注射でC病院からの入院依頼があったが,半年ぶりであり,C病院でもAに対して肯定的な評価をされていた.当院に転院後にAに確認したところ今回は本当に自殺目的であった.年に2回ほど夜間に強い抑うつ気分が生じ,「(今までは)寝たら翌朝は問題ない.いつもは眠剤でも眠れなかったらお菓子を食べれば寝られたけれど,今回はお菓子が切れていた」と言った.確実ではないがAなりの対処方法があることがわかり,会議で情報共有して退院した.
同年2月にC病院から同様の経過で転入院(入院6)した.C病院にてすでに兄との金銭トラブルが動機であったことを確認しており,また,センターからも当院にトラブルの経過や金額など詳細な連絡がなされた.当院に転院時にはすでにC病院にて兄がAに面会して兄妹で話し合いがなされAも納得していた.会議では経過を報告し2週間で退院した.Aに対してC病院などで動機を話してくれていたので入院期間を短縮できたと伝えたところ,「そうですか? 遠慮してたら何も進まないって話だったじゃないですか? だからもう遠慮しないでおこうと」と言った.
その後も支援者間での連絡や情報共有の徹底がなされた.当院の窓口であるMHSWにもセンターから情報が寄せられるようになり,その後1年半当院への入院が回避された.薬物療法は1期の主剤を継続していた.X+6年に抑うつ気分や意欲低下を訴えたのでベンラファキシンを追加して75 mgまで増量したが,対人トラブルの解消とともに抑うつ症状も消失したため中止した.
X+7年8月と10月に当院に2回入院したが,いずれもインスリンの管理ミスが原因であった.Aの生活能力の低下があり独居は難しいと考えられ,Aもそれを認めてグループホームへ入所した.精神科は近医に転院したが当院以外の支援者は継続された.その後X+8年6月に対人トラブルを理由にインスリン過量注射し,C病院を経て当院入院したが,入院中に主治医以外の支援者とAで会議を開いて対処法を決めて退院した.以後,2年間以上当院への受診なく経過し,今回本稿の許諾を得るためセンターを通じ連絡をとり,Aが安定して生活していることを確認した.
II.考察
本症例では,主治医は治療でも会議でもシステムズアプローチを活用した.以下ではシステムズアプローチの簡単な紹介,本症例での多職種チームの治療効果,会議における主治医のふるまい方を考察して最後に課題を検証する.
1.システムズアプローチについて
システムズアプローチは技法ではなく「ものの見方」と言われている15).基盤にはシステム論があり家族療法との重複が多い.個人の内面よりも個人を取り巻く周囲との関係に着目する見方である.日本家族療法学会でも個人療法とは異なる特徴として「家族成員間の『関係性』に着目」している9).家族療法でよく用いられるが,システムは社会のどこにでもあるのでシステムズアプローチの活用範囲は広いと考えられる.
通常,医学では個人モデルが中心となり,疾患を有するその個人の内部を治療する.機械に喩えると,テレビがリモコンに正常に反応しないときテレビあるいはリモコンの故障を想定する.システム論の場合では,テレビとリモコンを互いに独立して評価せずに,両者で1つのシステムとみなして,テレビとリモコンとの向きや距離といった「関係」を査定する.物質の場合には,互いの位置やエネルギーの受け渡しが関係を決定するが,人の場合では,関係の決定因子は会話などの「やりとり」であり,関係とやりとりは不可分である.われわれは人とすれ違うときに,知人という関係なら挨拶というやりとりで応じ,見知らぬ同士という関係なら無視というやりとりを選択する.逆にやりとりの結果,関係が変わることもある.挨拶を重ねるうちに他人から知人という関係になることがあり,無視ひとつで疎遠な関係に転じることもある.
そして同じやりとりがくり返された場合,システムズアプローチではこれを「パターン」と呼ぶ8).システムズアプローチでの治療を簡単に言えば,問題に関係するパターン(悪循環)を探し,そのパターンに変化を生じさせることをめざしている.問題はくり返されて初めて問題となるので,パターンが変われば問題は解消される可能性を生じる.
注意すべき点としては,システムの構成員は意図して悪循環を維持しているのではない.むしろ「これが正しい方法」と考えてその行動を続けていることが多い3).「相手のために」と本気で信じて虐待や体罰を行う者もいるだろう.このために当事者だけではパターン変化が容易に生じず,治療者の介在が有効となる.また,「パターンを見つけて変化させる」と理屈は簡単ではあるが,「言えば変わる」といった単純なことは少なく,実際には相応の修練が必要とされている1)7)14)16)17).
2.システムズアプローチからみた多職種チームの治療効果
A個人に着目していた1期では治療の限界を生じていた.知的能力の低さもあり,Aに内省を求めるのは難しかった.そこで2期よりAが症状を示す日常生活上でのAを含むシステム,すなわちAと支援者との関係に焦点をあてた.1期でのAと支援者とのパターンは,システムズアプローチの記載に従うと以下のようになる8).
A:些細な困りごと(以下,困りごと)⇒A:インスリンの過量注射(以下,行動化)⇒C病院:Aを入院させ,動機不明のまま当院に精神科転院を依頼⇒主治医:Aを入院させる⇒A:希死念慮は消失したとして退院希望⇒主治医:1ヵ月程度観察の後にAを退院させる⇒A:困りごとでまた行動化⇒このくり返し
1期では主治医を含め,支援者はAに対し「いつ行動化するかわからない」「的確に相談してくれない」などと感じていたと想定され,「Aが行動化を起こしてからしか対応しない,仕方がない」という関係であった.
理想的には入院1において開催されたシステムズアプローチに基づく初回の会議(以下,初回会議)で決定した対応策ですぐ上記のパターンに変化が起きればよい.しかし,パターンの変化は容易ではなく,また,変化が起きても定着させないと元に戻りやすい.また,主治医は一度の会議で解決することを期待するよりも,次回入院時にも会議を開くことが重要と考えていた.
しかし,それ以上にその後の経過に重要と考えられるのは,初回会議の後のAの「たくさんの人がかかわってくれていたと初めてわかりました」という感想である.それまでAにとっては複数の支援者の存在が具体的にイメージされていなかった.存在を意識していない相手と関係はつくれず,Aからみれば支援者との関係などなかったものと推測される.初回会議から,Aと支援者との真の治療関係が始まった.
入院2では,C病院にてAは動機を語り,「A:行動化⇒C病院:Aを入院させ動機不明のまま転院依頼」から「A:行動化⇒C病院:Aを入院させる⇒A:C病院で動機を語る」と変化を生じた.さらに,Aは行動化の直後にセンターに電話相談するようになり,「A:行動化」は「A:行動化して相談」となった.システムズアプローチでは,小さくとも有効な変化が生じれば,波及効果で他への変化が生じ得るとされている.入院3以降では変化が「A:困りごと⇒A:センターに相談⇒A:行動化するがC病院で動機を話す」などとさらに進み,Aは「話さなければ何もわからないのだ」(入院4)と積極的に相談するようになった.会議では課題が素早く共有され,Aも安堵できる対応が講じられるようになった.これはA個人だけみればAの成長と位置づけられるのかもしれないが,システムズアプローチからみれば支援者のAに対する認識が「いつ行動化するかわからない」から「行動化に理由がある」に,「相談できない人」から「相談できる人」に変化したので,Aも支援者に対して「言えば対応してもらえる」「聞いてもらえるならしっかりと話そう」と認識を変化させ,「支援者が変わったことでAが変わり,Aが変わったことで支援者もさらに変わる」との円環構造になった.
その結果,入院6以降は「A:困りごと⇒A:行動化」ではなく,「A:困りごと⇒A:支援者の誰かに相談⇒支援者:支援者間で共有して適切に対応⇒A:困りごとが解決する⇒A:行動化が不要となり日常生活を続ける(=入院回避)」という形に変化が定着して問題が解消された.
上記のパターンでは「支援者」を「チーム」に置き換えることが可能であり,複数の支援者は単なる集まりではなく「チーム」としてAに作用した.つまり問題の解消に伴い,「Aと各支援者との関係」ではなく「Aとチームの関係」となった.多職種チームの治療効果を考える際,「患者と多職種チームの間のパターンはどうなっているか」とシステムズアプローチの視点で考えると評価が容易になると考えられた.
3.本症例の会議における精神科医のふるまい方について
システムズアプローチという専門性を身につけると,マネジメントへの活用が可能となる.チームをシステムとみなせるからである.会議で主治医がシステムズアプローチを活用した点を列挙してみる.
1)会議のマネジメント
連携には目的と目標が重要とされる10).支援者が一堂に会した初回会議での主治医の目標は「正しい対策を見出す」ではなく「次も集まれるような雰囲気をつくりチーム(システム)としてまとめる」ことであった.そのため,全員がまとまれそうな話題や会議の流れを重視した.主治医は事前にAに動機の確認を試み,そのうえで初回会議に臨んだが,その主張を控えた.会議が明らかに間違った方向に流れた場合には異議を唱えたが,主治医も「間違いなく兄がストレス」との確信はなかったし,Aからも表出されなかった.主治医が常に正しい訳ではないし,他のメンバーも各々の専門家であるので前述の対応案に同意した.システムに合わせることを家族療法やシステムズアプローチでは「ジョイニング」と呼ぶ.ジョイニングとは平たく言えば「仲間入りさせてもらうこと」という意味であり,特にシステムの形成初期において非常に重要とされている5)8)9).今回の主治医の対応もジョイニングを意識したものであった.
2)チームメンバーとしての専門性の発揮
医師はリーダー役と同時にチームメンバーの一人として専門性を発揮する役割ももつ6).しかし,医学的診断や薬物療法の限界は本症例ではすでに共有されていた.そこでシステムズアプローチという専門性から会議に参加してAと各支援者との関係を評価した.具体的には他職種に質問し,入院2では,Aがセンターに電話相談をしていたこと,入院4では,訪問看護には相談ができていないことなどの情報収集を行った.
リーダー役である医師は他職種の業務内容を理解していることが前提であるので,不用意な質問をして他職種の業務内容への理解が不足しているような印象をもたれることは避けたいと考えがちである2).しかし,「Aはセンターにどんな話をしましたか」ということであれば当事者同士しか知りえない内容であるから,尋ねても不自然にならないし,関係の評価のためにはそうした質問が重要である.また,質問により情報収集をすることは会議に積極的に参加する姿勢を他のメンバーに伝えることになる.このような情報収集の後に,必要であれば入院4でのように「事前にAから出たSOSを活かしきれないのは支援者側の課題である」と発言することができた.
4.課題
本稿ではマネジメントとシステムズアプローチとの包括的な関係を論じることはできていない.本症例では主治医と他職種とのかかわりは会議のみであり,本格的なマネジメントには程遠いと言えよう.一方,会議を用いない形でのシステムズアプローチを用いた多職種協働について吉川や宋の実践がある13)18).本症例で同様のことを行わなかったのは,率直に主治医のシステムズアプローチの習熟度が不十分であるからである.しかし,実践者の技量に応じてシステムズアプローチをマネジメントの分野でも活用できるともいえよう.
おわりに
自殺企図などの行動化で入院をくり返す症例に対して,システムズアプローチに基づく多職種の対応にて改善を得られた症例を経験した.システムズアプローチにより多職種チームの協働が治療上重要な役割を発揮できたと考えた.また,会議での医師のふるまい方の指針としてもシステムズアプローチの活用が有効となりうることが示され,今後,同様の実践が精神科医にも広まることを期待したい.
本稿は2019年第36回日本家族療法学会北海道大会において発表した演題を,精神科医向けに大幅に加筆・修正したものである.
なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.
1) 赤津玲子: システムズアプローチのトレーニングに関する研究. 龍谷大学大学院文学研究科紀要, 36; 210-217, 2014
2) 秋山 剛, 尾崎友里加, バーニック, P.: 「精神科多職種チームの協働」シリーズの目的. 精神経誌, 120 (4); 321-327, 2018
3) Fisch, R., Ray, W. A., Schlanger, K.: Focused Problem Resolution: Selected Papers of the MRI Brief Therapy Center. Zeig Tucker & Theisen, Phoenix, 2009 (小森康永監訳: 解決が問題である―MRIブリーフセラピー・センターセレクション―. 金剛出版, 東京, 2011)
4) 早樫一男, 団 士郎編: 知的発達障害の家族援助 金剛出版, 東京, 2002
5) 東 豊: 支持としてのジョイニング. こころの科学, 83 (1); 82-88, 1999
6) 松原六郎: 精神科チーム医療における一考察―治療計画策定の展開と医師の役割―. 精神経誌, 121 (1); 55-63, 2019
7) 村上雅彦: 豚と真珠と家族療法. 家族療法研究, 15 (3); 218-224, 1998
8) 中野真也, 吉川 悟: システムズアプローチ入門―人間関係を扱うアプローチのコミュニケーションの読み解き方―. ナカニシヤ出版, 京都, 2017
9) 日本家族研究・家族療法学会編: 家族療法テキストブック. 金剛出版, 東京, 2013
10) 野中 猛, 野中ケアマネジメント研究会: 多職種連携の技術 (アート)―地域生活支援のための理論と実践―. 中央法規出版, 東京, 2014
11) 岡田隆介: ケースのツボとそこに合わさる言葉. 家族療法のヒント (牧原 浩監, 東 豊編). 金剛出版, 東京, p.85-92, 2006
12) 宋 大光, 東 豊, 下田和孝: 発症から10年が経過した統合失調症の1例に対するシステムズアプローチに基づく精神療法―医師と患者の関係性をみる―. 精神経誌, 121 (5); 366-375, 2019
13) 宋 大光: 強迫性障害の高校1年女子とその母親に対してシステムズアプローチに基づいた精神療法で症状の改善と母子関係の変化がみられた1例―精神科クリニックでの精神科医と心理士の協働―. 精神経誌, 123 (5); 254-262, 2021
14) 宋 大光, 東 豊, 黒沢幸子: もっと臨床がうまくなりたい―ふつうの精神科医がシステムズアプローチと解決志向ブリーフセラピーを学ぶ―. 遠見書房, 東京, 2021
15) 吉川 悟: 家族療法―システムズアプローチの〈ものの見方〉―. ミネルヴァ書房, 京都, 1993
16) 吉川 悟: ことばになりきらない相互作用を見立てるために. 家族療法研究, 18 (2); 162-167, 2001
17) 吉川 悟, 岡 裕子: 臨床トレーニングに関する私的なポイントその2―大事なことがわかり, 細かなことが意図でき, 自然に振る舞えるまで―. 精神療法, 33 (2); 222-232, 2007
18) 吉川 悟編: システム論からみた援助組織の協働―組織のメタ・アセスメント― 金剛出版, 東京, 2009
19) 吉川 悟, 赤津玲子, 伊東秀章: システムズアプローチによるスクールカウンセリング―システム論からみた学校臨床―, 第2版. 金剛出版, 東京, 2019




