自己免疫性脳炎は,急性・亜急性に気分障害や妄想などの精神症状,記憶障害,けいれんなどで発症し,診断に有用な病型関連自己抗体が検出される.このなかで,抗NMDAR脳炎は,若年女性に好発し,顕著な精神症状で発症した後,けいれん・意識障害などが加わる定型的な経過を辿る一群である.近年,新たな自己抗体が相次いで見出され,自己免疫性脳炎の臨床スペクトラムは拡大を続けている.緩徐な経過で一部の症候のみを呈する例の報告が増加しており,認知症,てんかん,運動異常症,パーキンソニズム,小脳変性症などの診断がなされて免疫療法による症状改善の機会を逃してしまう例もある.特に,抗NMDAR抗体に次いで検出される頻度が高い抗LGI1抗体陽性例では,やや緩徐に進行する認知機能低下とけいれん発作の出没が特徴とされ,記銘障害が遷延する場合が多い.早期治療のためには,抗体診断が有用であり,検出頻度が高い抗体については商業的に検査会社が受託を始めている.しかしながら,いまだ少数の抗体種のスクリーニングにとどまっており,新たに見出された抗体の検出には各研究機関への直接の依頼が必要であるなど,煩雑な状況が続いている.さらに,単一の検出法では偽陽性・偽陰性の頻度が高いことも報告されている.また,検体の採取時期,血清か髄液かなど,適切な検体の採取・保存も重要である.非典型的な症候を呈する自己免疫性脳炎では,免疫治療の機会を逃さないことを念頭に,抗体検査の結果のみではなく,臨床的特徴や検査所見を総合的に考慮して慎重に判断することが重要である.
2)福島県立医科大学多発性硬化症治療学講座
https://doi.org/10.57369/pnj.24-019
はじめに
自己免疫性脳炎の多くは,急性・亜急性の経過で精神症状,けいれん,記憶障害,意識障害などの辺縁系脳炎の病像を呈し,病型に関連する自己抗体の検出が診断に有用である.近年,これらの群では,中枢神経のシナプスや細胞膜表面構造を標的とする新たな自己抗体が相次いで発見されている6)28).抗体検査の広がりを受け,それぞれの抗体陽性例がさまざまな症状経過を示すことが知られるようになった.そのなかには,緩徐進行性の認知症10),抗けいれん剤不応のてんかん3)20),睡眠障害を主徴とし,小脳失調やパーキンソン症候などの脊髄小脳変性症様症候を呈する例12),ジストニアやミオクローヌスなどの運動異常症を主徴とする例27)などが報告され,幅広い鑑別診断の必要性に迫られている(図1).
診断には,病型に関連する自己抗体の検出が有用であり,一部の抗体は商業的に検査会社が受託している.しかし,抗体の種類が多いことから,複数の研究施設への直接の依頼を必要とする抗体検査もあり,煩雑な状況である.さらには,それぞれの検査において偽陽性・偽陰性が少なからず生じているとの報告8)11)15)がなされるなど,抗体検査の解釈への注意喚起もなされている.自己免疫性脳炎では,早期の十分な免疫治療により症状の改善が期待できることから,抗体の結果のみならず,症状の特徴やその経過,検査所見などを総合的に判断したうえで,速やか,かつ慎重に診断を進める必要がある.
I.自己免疫性脳炎と関連自己抗体
自己免疫性脳炎では,多くの場合,急性・亜急性に発症する精神・神経症状を呈し,血清あるいは髄液中に,症候に関連するさまざまな自己抗体が検出される(別項で詳述).典型例での中核となる症候は,精神症状,けいれん,記憶・意識障害などであるが,それぞれの抗体ごとにやや異なる臨床像を示す.自己免疫性脳炎で最も検出される頻度が高い抗N-methyl-D-aspartate receptor(NMDAR)抗体は,若年女性に好発し,顕著な精神症状で発症,その後,意識障害・けいれん・運動異常症・高度の自律神経症状・呼吸不全などを呈した後,緩徐に改善し,社会生活への復帰が可能になる例が多い疾患である7).一方で,NMDAR以外の多くの抗体陽性例は,中高年に発症することが多く,男女差はなく,やや緩徐な経過で,記銘障害やけいれんなどを呈し,悪性腫瘍の合併もみられることから,抗NMDAR脳炎とは発症の背景が異なるようにみえる一群である.
抗体は症状が顕在化した時点で検査が行われるため,抗体産生がどのくらいの期間先行して精神・神経症状の出現に至るのかなどは不明であるが,多くは,疾患活動性に並行し,症状改善とともに抗体の力価が低下し,その後検出されなくなるのが一般的である.抗体の種類によっては,検査に用いる検体を選ぶ必要がある.抗NMDAR抗体は髄液で検出されやすいIgG抗体であり,血清では検出されない場合もあるため,髄腔内での産生が示唆されている.そのため,末梢リンパ組織で産生される抗体に比べ,血漿交換などの抗体除去療法の効果はやや遅れる傾向にある.一方で,抗leucine-rich glioma inactivated protein 1(LGI1)や抗contactin-associated protein-like 2(CASPR2)抗体などは,髄液よりも血清での検出率が高い2).
新たな抗体が相次いで報告され,今後も増えていく可能性が指摘されているが,抗体の意義については,それぞれの抗体陽性例が,(i)対応抗原蛋白の機能に関連した症候を呈する,(ii)抗体あるいは抗体産生リンパ球の除去が症状改善に有用であることなどが判断の目安になる.代表的な病型群について簡単にまとめる.
1.抗NMDAR脳炎
中枢神経系の興奮性シナプス伝達にかかわるイオンチャネル型グルタミン酸受容体であるNMDA受容体が抗体の標的となる自己免疫性脳炎である.若年女性に多く,先行感染に続いて妄想・興奮などの精神症状,記銘障害,けいれん,顔面・上下肢をくねらすようなジストニア様不随意運動,発汗・唾液分泌過多・麻痺性イレウス・不安定血圧などの自律神経症状を呈し,意識障害や呼吸不全のため人工呼吸器装着下での加療が必要となる場合が多い.早期に,メチルプレドニゾロンパルス療法・γグロブリンの大量静脈内投与・血液浄化療法を加え,奇形腫の合併があればその切除を行うことで,半年から数年を経て社会生活可能な状態に復する例が多い11).しかしながら,多くの場合,その後も長期間にわたり,記銘障害,性格変化,睡眠障害などが残存する.
抗NMDAR脳炎では,しばしば感染症が先行する.特に,両者の関連が強いのが,ヘルペス脳炎である16).特に,小児例ではヘルペス脳炎から回復した後,行動異常や舞踏運動などを呈し,抗NMDAR抗体が検出され,抗ウィルス療法の効果は乏しく免疫療法が有効である例が知られる.
抗NMDAR脳炎は,しばしば脱髄疾患を合併する.特に,抗myelin oligodendrocyte glycoprotein(MOG)抗体を生じる視神経脊髄炎を合併する頻度が高い9).脳炎症状を主徴とするが,視神経炎を反復したり,けいれん発作で発症する場合もある.約半数が再発する.また,MRIで大脳皮質病変や脳幹病変がみられることも多い.
近年,自己抗体が関与する免疫性神経疾患では,Bリンパ球を標的としたモノクローナル抗体製剤が多数使用可能になっている5).また,炎症のさまざまな場に関与するインターロイキン6(IL-6)受容体を標的にした生物学的製剤も開発され30),抗NMDAR脳炎での治験が開始されているものもある.
NMDARはGluN1を必須サブユニットとしてGluN2などのサブユニットと4量体を形成し,細胞膜表面に受容体として発現する蛋白である.主たる抗体結合部位はGluN1上にあるが14),患者の抗体は,この部分のみを切り取って発現させたリコンビナント蛋白には反応しない.三次元構造を認識するため,受容体そのものを細胞に発現させたcell-based assay(CBA)法で検出される.抗NMDAR抗体は,初期の急性反応としてチャネル機能をブロックし31),さらには経時的に,受容体を抗体が架橋することで内在化を生じ,受容体の数と機能を低下させる17).マウスの脳室内に本症患者から分離したIgGを持続的に投与すると空間認知能の低下が生じる21).これらの反応は,抗体を除去することで改善する24).神経組織を破壊しないが,同時に生じるグリア細胞などを介する炎症反応が強い場合は,神経組織の不可逆性変化を残す場合もある.
2.抗NMDAR抗体以外の細胞表面抗原関連自己抗体が検出される脳炎6)
抗NMDAR脳炎は,上述のように臨床像がきわめて特徴的な一群であるが,これ以外の中枢神経シナプス関連受容体やチャネルを標的とする自己抗体陽性群は,やや異なる特徴を有する.精神症状,記銘障害,けいれんなどの辺縁系脳炎に共通する神経症候を主徴とし,ほとんどが,60歳前後に好発,男女差がなく,経過がやや緩徐である.抗NMDAR脳炎のような顕著な精神症状で発症するよりは,病初期から認知機能低下やけいれんが目立つ例が多い.また,奇形腫の合併は稀であり,小細胞肺癌・乳癌・胸腺腫などの腫瘍を合併する場合がある.さらにそれぞれの抗体に応じた一定の特徴を有することが多い28).
1)抗LGI1/CASPR2脳炎
従来,voltage-gated potassium channel(VGKC)複合体抗体として検出されてきたが,その対応抗原が主にLGI1とCASPR2であることが明らかになり,現在はそれぞれに対する抗体を検出する2).LGI1は,シナプス前膜に発現しKv. 1.1カリウムチャネルと連結するa disintegrin and metalloproteinase domain-containing protein(ADAM)23と,シナプス後膜に発現しα-amino-3-hydroxy-5-methyl-4-isoxazolepropionic receptor(AMPAR)とつながるADAM22とを連結する分泌型蛋白であり,海馬や新皮質での発現が多い.LGI1抗体によりシナプス連結が阻害されるとAMPARの発現低下を介して辺縁系脳炎の症候を呈する.抗LGI1抗体陽性例では,一側顔面・上下肢に一瞬のミオクローヌス様れん縮を頻回に生じるfaciobrachial dystonic seizure(FBDS)が先行することが特徴であり,また,経過中に低ナトリウム血症を呈する場合が多い.腫瘍の合併は少ない.また,けいれん発作を生じやすく,認知機能障害が緩徐に進行することが多い.免疫治療で改善がみられるものの,長期にわたって健忘症状が持続する.抗CASPR2抗体陽性例は男性に多く,辺縁系の症状に加えてけいれん,睡眠障害が目立ち,さらにニューロミオトニア,ミオキミアなどの末梢神経の興奮による症状を呈することが特徴である.ニューロミオトニアや辺縁系脳炎症状に加えて高度の自律神経症状が合併するMorvan症候群を呈する場合もある.
培養神経細胞に抗LGI1抗体を作用させる,あるいは動物の脳内に同抗体を注入すると,シナプス後膜のADAM22の減少を介してAMPARが減少し,強い記銘障害・学習障害が生じることが示されている23).
2)抗AMPAR脳炎18)
AMPARは,興奮性シナプス伝達にかかわりNMDARに先んじてグルタミン酸に反応するイオンチャネル型受容体である.2個のGluR1と2個のGluR2のサブユニットからなる4量体として細胞膜に発現する.患者の抗体は,いずれのサブユニットも認識し,抗体の結合でAMPARが内在化してその数を減少させる.
抗AMPAR抗体陽性例は,昏迷,記銘障害,けいれん,睡眠障害などを呈し,高率に悪性腫瘍(小細胞肺癌,乳癌,胸腺腫など)を合併する.神経症状は免疫治療により改善する例が多いが,腫瘍が予後決定因子となり,再発も多い.
3)抗γ-aminobutyric acid B receptor(GABABR)脳炎19)
GABABRは,抑制性シナプス伝達物質であるGABAの受容体であり,GABAB1a/GABAB1b/GABAB2からなる5量体で受容体構造を形成し,G蛋白が介在する抑制性シナプス伝達にかかわる.患者の抗体はGABAB1aやGABAB1b N末端の複数の部位を認識し,受容体の内在化をきたさず,シナプス前膜に作用して興奮性の刺激伝達を抑制する.抗GABABR抗体脳炎は,60歳代の発症が多く,やや男性に多い傾向がある.多くは,急性に辺縁系脳炎の症候を呈するが,いずれもけいれん発作が目立ち,重積状態になりやすい.約半数に小細胞肺癌などの悪性腫瘍を合併する.頭部MRIで,抗GABABR脳炎は側頭葉内側面にT2/FLAIR高信号病変がみられることが多い.
4)抗γ-aminobutyric acid A receptor(GABAAR)脳炎25)
GABAARも抑制性シナプス伝達にかかわり,最も早期に反応する受容体である.2個のα,2個のβ,1個のγサブユニットから構成される5量体の受容体蛋白で,患者抗体はいずれのサブユニットも認識する.
抗GABAAR抗体陽性例は,抗GABABR抗体陽性例よりやや若年に多く(40歳代の発症が多い),けいれん重積になりやすい.抗LGI1/GABABR脳炎では,MRIで側頭葉内側面に病変を認めることが多いが,抗GABAAR脳炎では,大脳皮質・皮質下白質に多発する高信号病変を認めることが特徴とされる.また,本群では,他の自己免疫性脳炎関連自己抗体〔NMDAR/LGI1/glutamic acid decarboxylase(GAD)65など〕が併存することが多い.腫瘍の合併は4分の1程度で,胸腺腫の報告が多い.
5)抗Glycine receptor(GlyR)抗体陽性群4)
発症年齢の中央値は50歳前後であり,男女差はない.体幹,四肢の筋強直,驚愕反応などを呈するスティッフパーソン症候群(stiff-person syndrome:SPS),特にprogressive encephalomyelitis with rigidity and myoclonus(PERM)の病型を生じる例で検出されることが多い.辺縁系脳炎症状や,脳幹・脊髄病変に由来する筋強直症状を呈する.免疫療法が有効ながら,難治例もある.少数ながら,胸腺腫を合併する場合がある.
6)抗Immunoglobulin-like cell adhesion molecules(IgLON)5抗体陽性群12)
頻度は低いが60歳代の発症が多く,レム/ノンレム睡眠行動異常症などの睡眠障害,緩徐進行性の球麻痺,失調・姿勢反射障害による不安定歩行,眼球運動障害などを呈し,神経変性疾患(進行性核上性麻痺,多系統萎縮症,皮質基底核変性症など)との鑑別が難しい一群である.免疫療法に反応して神経症状が改善する例があり,神経変性疾患と免疫異常との関連を考えるうえでも注目されている.
II.非典型的経過を呈する自己免疫性脳炎
1.認知機能低下を主徴とする自己免疫性脳炎
自己免疫性脳炎のなかで,中高年者に緩徐に進行する認知機能障害を呈する例が注目されており,しばしばアルツハイマー病などの神経変性疾患と診断されている.各種細胞表面抗原に対する自己抗体が検出されるが,特に抗LGI1抗体陽性者に多い.オランダのコホート調査では,抗LGI1抗体陽性38例の47%の患者でFBDSや部分発作が先行したのち,平均22週の経過で記銘障害・行動異常・睡眠障害などが進行した.免疫治療により,80%の例で神経症状の改善が得られたが,症状改善は緩徐で平均33週を要した.さらに2年以上の経過観察中,86%に健忘症状が残存し,発症2年後に無症状に至ったのは21%に過ぎなかった29).さらに,オランダでの別の全国調査1)では,1999~2019年の間に細胞表面抗原抗体が陽性であった自己免疫性脳炎症例が290例(抗NMDAR抗体:132例,抗LGI1抗体:95例,抗CASPR2抗体:26例,抗GABABR抗体:37例)あり,そのうち45歳以上で,認知症診断基準(NINCDS-ADRDA:2011)を満たした患者が67例みられた.うち42例が抗LGI1抗体陽性であった(抗NMDAR抗体陽性は13例,図2).抗LGI1抗体陽性例では,約8割で記憶障害がみられ,行動異常,高次脳機能障害を呈した.髄液の細胞・蛋白増加や,頭部MRIでの側頭葉内側面の異常信号・萎縮を呈した例,脳波異常を呈した例は半数程度であった.さらに,認知症の診断マーカーに使用されるt-tau/Aβ42比がアルツハイマー病に匹敵する上昇がみられたものが41%あり,Creutzfeldt-Jacob病(CJD)を疑うようなt-tau/p-tau比の上昇,14-3-3蛋白陽性などが38例中6例にみられた1).また,それまで変性性認知症と診断されていた群について,自己抗体を調査したイタリアのコホート研究がある13).2015~2016年の間にパーキンソン症候群,認知症,統合失調症様精神症状などを呈した連続93例〔男:女 52:41,年齢の中央値66.5歳(41~81)〕の血清について,CBA法で抗NMDAR,CASPR2,LGI1,GlyR,GABAAR,GABABR,AMPAR,IgLON5,dipeptidyl-peptidase-like protein 6(DPPX)抗体の検査を行った.認知症の症候を呈した56例のうち9例(16.1%)で抗GlyR,GABABR,GABAAR,LGI1などに対する抗体が検出された.これらの例は,病型が特定できないunclassified dementiaとされた群に多かった.また,抗体陽性例ではやや進行が早く,急に増悪するなどの動揺性の経過をとる非典型的な点がみられた.しかしながら,髄液の炎症性変化がみられず,頭部MRIで炎症を疑う所見に乏しいなど,抗体診断なしには自己免疫性脳炎を疑うのは難しい症例群であった.ただこの研究は,抗体検査が血清のみで施行されており,非特異的反応による偽陽性例が含まれている可能性は否定できない.今後は多数例を用いた前向き調査として,髄液検査を含めた抗体診断がなされる必要がある.このほかにも,レビー小体型認知症やパーキンソン症候群を呈し,自己抗体が検出され,免疫療法に反応した自己免疫性脳炎などの症例報告も散見される.
2.てんかんを主徴とする自己免疫性脳炎
てんかんと診断される症例は世界の全人口の1~2%と言われており,そのうちの30%は原因が不明で,発作頻度が高く,多焦点性に発作を生じ,抗けいれん剤の効果が乏しいとされる.これらの一部で免疫治療が奏効し,自己免疫性てんかんと称されてきた.2017年に自己免疫性てんかんの定義が議論され,ガイドラインが作成された〔International League Against Epilepsy(ILAE)Definitions and Classifications guideline 2017〕22).免疫異常を基盤とするてんかんは,次の2群に分けられた.第1群は,自己免疫性脳炎急性期に生じる発作症状(acute symptomatic seizures secondary to autoimmune encephalitis)で,細胞表面抗原に対する抗体を生じ免疫療法が有効な群,第2群は,自己免疫病態による脳損傷を基盤として生じる慢性の発作を生じるもの(autoimmune-associated epilepsy)で,細胞内抗原に対する抗体(GAD65など)やTリンパ球の関与が報告されているラスムッセン脳症などが挙げられ,免疫療法のみではコントロールが困難な群と記載されている.
また,スペインからの報告で,16歳以上で原因不明とされたてんかん症例1,302例のうち,何らかの抗神経抗体が検出されたのは82例(7.6%)あり,内訳は,GlyR(3.2%),GAD(1.9%),NMDAR(1.8%),LGI1(1.1%),CASPR2(0.6%),onconeuronal antibodyである抗Hu抗体と抗Ma2抗体(0.2%)であった.抗体検査の手法やカバーしている抗体種は報告によりまちまちであることから,さらなる標準的条件での解析が必要であるが,少なくとも対照とされた503例には抗体陽性例がなかったことから,てんかんを主徴とする自己免疫性脳炎が存在すると記載されている3)20).
3.小脳変性症・パーキンソン症候を呈する自己免疫性脳炎
自己免疫性脳炎では,必ずしも急性辺縁系脳炎の症状を呈さず,緩徐な経過で,認知機能低下とともに運動異常症・歩行障害などが目立つ例がある.診断に有用な自己抗体を網羅的に検査するのは難しいことから,神経変性疾患として免疫治療の対象から外れることも多い.既知の変性疾患として非典型的な症候であったり,髄液・MRIなどの画像・脳波異常がみられる場合は診断を再考するきっかけになることもあるが,早期治療に至らず,結果として神経傷害が不可逆的となる例もあると考えられる.
近年,パーキンソン病やアルツハイマー病などの神経変性疾患として分類されてきた群や統合失調症においても,自己免疫病態の関与が報告されている.自己免疫反応の感受性にかかわるHLA型に共通のものがある,活性化したミクログリアが放出するサイトカインが病勢と並行して増加している,腸管の炎症とドパミン細胞の死滅が相関する,などさまざまな報告がある26).これらの免疫反応が,ドパミン細胞の変性にかかわるのか,保護的に働いているのかなどについては不明な点が多いのが現状であり,抗炎症に向けた治療が必ずしも予後の改善にはつながらないとされることから,神経変性と自己免疫との関係については今後のさらなる研究が待たれるところである.
III.抗体診断の問題点
これまで述べてきたように,自己免疫性脳炎の診断に有用な自己抗体の種類は増え続けており,検出頻度が高い抗NMDAR,LGI1,CASPR2,GAD65抗体,さらには腫瘍合併が高頻度である傍腫瘍性神経症候群に関する細胞内抗原蛋白(onconeural antigens)をラインブロットで検出することは商業ベースで可能になった.しかしながら,ヨーロッパの2社から出ているラインブロットでのonconeural antigen(Amphiphysin/CV2/Ma2/Ri/Yo/Hu/SOX1/Titin/Zic4/Tr)の検出に関しては,フランスのグループが自施設で行ったCBAや免疫組織染色など複数の方法での結果と比較したところ,その一致率が52~58%ときわめて低かった8).一方,スペインからも細胞表面抗原に対する各種自己抗体について,市販されているバイオチップ(EUROIMMUN社製.抗原を発現させたHEK293細胞をプレートに貼り付けて固定したもの)による6種類(NMDAR/LGI1/AMPAR/CASPR2/GABABR/DPPX)について,彼らの施設でのラット脳切片を用いた免疫染色とCBAで比較した結果が出ている.バイオチップキットで陰性であった241例中42例に何らかの抗体が検出され,同キットで陰性判定であった21例(9%)に抗LGI1/GABABR/AMPAR/NMDAR抗体陽性例が見出された.残りの21例中13例に抗IgLON5抗体,3例で抗seizure-related 6 homolog like 2(Sez6l2)抗体,2例で抗metabotropic glutamate receptor(mGluR)1抗体,各1例で抗mGluR5/mGluR2/GABAAR抗体が検出された.すなわちバイオチップのみでは18%程度に偽陰性があったということになる11).これらはいずれも個別の施設での結果であり,本来は多施設間の比較により標準化すべきものではあるが,1つの抗体検査結果を鵜呑みにすることへの警鐘であり,診断には臨床的特徴などさまざまな観点からの判断が求められている.
おわりに
自己免疫性中枢神経炎症性疾患の診断に有用な自己抗体が相次いで見出されている.自己免疫性脳炎は,早期に免疫療法を行うことで良好な予後が得られる場合が多いことから,自己抗体診断が重要な位置を占める.しかしながら,典型的な脳炎症候を呈さず,やや緩徐な経過で認知機能低下や精神症状が出現・進行する例,抗けいれん剤への反応が不良なてんかんや,運動異常症などでは自己免疫性脳炎を考慮しての抗体検査に至る機会が少なく,免疫治療の機会を逸する例がある.
一方で,抗体の種類が増え続けていることから,網羅的な検査が困難であること,検査機関で受託する検査のみでは偽陰性・偽陽性の場合もあり,異なる検査法の組み合わせが推奨されるなど,ますます診断のハードルが高くなっている.各機関での検査の標準化が必要であるが,すべての患者に多数の抗体検査を実施することも非現実的である.今後は免疫治療の対象となる症例を見極めていく必要があり,さまざまな病型の多数例について,その特徴を明らかにしていくことが求められる.すなわち,各種変性疾患として臨床像が確立されてきた典型例との相違を明らかにすることが必要であり,i)症状進行のスピードや動揺性の症状経過などに典型例とは異なる臨床経過がある,ii)変性疾患では稀な早期のけいれん発作の出没,iii)腫瘍合併,iv)髄液の細胞・蛋白増加やIgGインデックス上昇,オリゴクローナルバンドの検出,v)頭部画像の特徴,vi)見逃されやすい非運動性部分発作などについての注意深い観察など,臨床情報をきめ細かく観察し,自己免疫性機序による疾患を抽出していく必要がある.
編 注:本特集は第118回日本精神神経学会学術総会シンポジウムをもとに神林崇(筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構,茨城県立こころの医療センター)を代表として企画された.
なお,本論文に関して開示すべき利益相反はない.
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