産後うつ病などに代表される妊産婦メンタルヘルスケアは産婦人科医にとって注目される分野となり,『産婦人科診療ガイドライン』にも産褥精神障害,妊娠中のスクリーニングについて言及されるようになってきた.そこで,これらの指針がどれだけ浸透しているのか2020年に近畿産科婦人科学会周産期研究部会において実態調査を行った.その結果,妊産婦メンタルヘルスのスクリーニング実施率は100%であったが,「精神科受診への勧奨が難しい」などの理由で精神科紹介にストレスを感じていると回答した産科施設が4割程度あることが明らかとなった.当院では,多職種連携としてリエゾン精神看護専門看護師(リエゾンNs.)が中心となって活動するリエゾン精神科チーム(母性看護専門看護師,薬剤師,ソーシャルワーカー,患者支援センター入退院調整看護師が参加)が2015年より発足した.そこで精神疾患合併妊娠に対する介入効果を後方視的に検討すると,介入により精神科の初回受診の妊娠週数が有意に遅くなり(導入前16週,導入後25週,P=0.004),地域連携率は有意に増加する(導入前62%,導入後80%,P=0.003)ことが明らかとなった.リエゾンNs. が産科ユニットで面談を行うことで精神科受診勧奨もスムーズに行え,産科医の負担軽減につながることが期待できた.また精神科初診前に診療に必要な情報が診療録に記載されていることで精神科医の負担軽減にも寄与していると考えられた.しかし,地域の産科医から「なぜ精神科医を受診させないのか.看護師との面談だけならこちらでも管理ができる」と苦言を呈される症例も経験し,多種職連携の活動を発信する必要性も感じている.
https://doi.org/10.57369/pnj.23-084
はじめに
本邦の妊産婦死亡率は世界で最も低い水準に位置し,安全な周産期医療体制を提供してきたが,後発妊産婦死亡率が諸外国より高いことが明らかとなった1).またその背景には産後うつ病に代表される精神疾患が存在することが明らかとなり,産科診療におけるバイブルともいえる『産婦人科診療ガイドライン』に産褥精神障害が2014年から掲載されるようになった.本ガイドラインは3年に一度改訂され,2017年版では妊娠中の精神障害についても言及されるようになり,妊娠中から精神障害のスクリーニングを行うよう記された.また,各種ガイドラインや関連学会から本分野における多職種連携の重要性も唱えられるようになってきた.そこで本稿では,総合病院におけるメンタルヘルスケアの実態と当院で行っている多職種連携の取り組みとその成果について紹介する.
I.総合病院における妊産婦メンタルヘルスケアの実際
総合病院の実態を調査するために2020年に近畿産科婦人科学会の周産期研究部会のメーリングリストを用いて質問紙法による実態調査を行った2).回答を得た12施設の背景は,総合周産期センターが6施設,地域周産期センターが5施設,その他が1施設であった.平均分娩数は1施設あたり427分娩,NICUは9床,精神科を併設している施設が10施設であり,精神科病棟を併設している施設は7施設であった.精神疾患合併妊娠の平均症例数は1施設あたり年間24例であった.
メンタルヘルスのスクリーニングについては全施設が行っていた.実施対象者も全例であった.実施時期については,妊娠中に実施している施設は半数程度で,そのスクリーニング方法や施行時期も一定していなかった.一方,産褥期間におけるスクリーニングについては,産後1ヵ月においてすべての施設でスクリーニングを行っているとの回答を得た.また,その方法についても全施設にてエジンバラ産後うつ病質問票(Edinburgh Postnatal Depression Scale:EPDS)が行われていた.つまり,産褥精神障害に対するスクリーニングについてはEPDSを用いたガイドライン通りに適切に行われている実態が明らかとなったが,妊娠中のスクリーニングやその手法は施設によるところが大きく,画一化はなされていないことが明らかとなった.
スクリーニング陽性者への対応は,地域行政に連絡する対応が最も多く,次いで助産師・看護師による面談,臨床心理士に紹介などであり,精神科受診を勧奨する施設は25%にとどまった.その背景には産婦人科医が精神科との連携にストレスを感じていることと因果関係があることが示唆される結果を得た.質問紙の回答によると,精神科への受診勧奨が難しい,受診判断が難しい,精神科との関係が希薄と返答する施設が散見され,産婦人科と精神科をつなぐリエゾン精神看護専門看護師(以下,リエゾンNs.)に代表されるような「橋渡し」役が必要であることが浮き彫りとなった.すでに総合病院で行われている多職種連携の実態は,ソーシャルワーカー(53%)が最も多く,次いでリエゾン精神看護専門看護師(33%)が活用されていた.多職種連携を担うコメディカルに対する満足度に関する質問では75%の施設で満点と回答され,現在多職種連携を行っている施設における産婦人科医はそのシステムの有効性を実感していることが示唆された.
II.当院における多職種連携の実際
1.取り組みの実際
当院では従来,かかりつけ医の精神科から紹介状を持参した妊婦はそのまま精神科へと紹介し,併診としていた.また,妊婦健診中に精神疾患を疑う妊婦を認めれば精神科に直接受診勧奨をしていた.しかし,2015年からリエゾンNs. が中心として活躍するリエゾン精神科チームが介入するようになった.われわれ産科医は紹介状をもって受診した妊婦を精神科にすぐに紹介するのではなく,リエゾンNs. に面談を依頼する.また,助産師らが精神疾患を疑う妊婦や産婦を認めればリエゾンNs. へと紹介している.
リエゾンNs. は,産科の外来部門で面談するため,患者は精神科を受診するときのような抵抗感はない.しかし,診療録の記載は精神医学のアセスメントができるような記載となっている.初回面談の際に,ケアの頻度などを計画し,適宜妊婦健診時に面談し,必要に応じて精神科医に紹介する.面談内容から精神科医に引き継ぐ緊急性が高いと判断した場合には即座に精神科医に相談する.また,リエゾンNs. はそれらの情報をリエゾン精神科チームのカンファレンスに提供し,情報を共有する.そのカンファレンスは母性看護専門看護師,薬剤師,ソーシャルワーカー,患者支援センター入退院調整看護師など多職種で構成されている.
2.多職種連携の効果
当院のリエゾン精神科チームの導入が,どの程度,どのような影響を及ぼしたのかを検討した.本検討は,当院の倫理委員会の承認を受け行った.2011年1月から2019年12月まで当院に通院した精神疾患合併妊婦の診療録をもとに情報を収集し,後ろ向きコホート研究として行った3).方法は,リエゾン精神科チーム活動開始前(2011~2014年)をコントロール群とし,リエゾン精神科チーム活動開始後(2015~2019年)を比較し,精神疾患合併妊娠に対するその効果を検討した.
導入前の4年間で92例,導入後の5年間で152例の精神疾患合併妊娠に関する情報を収集できた.全期間における分娩数は4,066例であり,当院における精神疾患合併妊娠は6%であった.チーム活動導入開始前後における患者背景は表1に示す通りであり,年齢,パートナーの年齢,初産,未婚,望まない妊娠,地域の精神科からの診療情報提供書の有無,精神疾患の内容,投薬内容,薬剤投与数の項目において有意な差は認めなかった.また,母体の分娩様式,分娩週数,出生体重,Apgar score,生後1ヵ月までの新生児予後などの短期周産期予後も表2に示す通り有意な差を認めなかった.しかし,地域連携の有無や精神科初診時の患者の妊娠週数については有意な差を認めた(表3).リエゾン精神科チームの介入があると,有意に地域連携率が上昇し,精神科初診の妊娠週数は有意に遅くなる結果となった.
次に各要因の影響を検討するために,単変量解析で有意な差を認めた項目に対して多変量解析を行った.地域連携の有無について,多変量ロジスティック回帰分析を行うと地域連携が有意になされる項目は,初産,薬剤投与数,リエゾン精神科チームの介入が抽出された(表4).また,精神科初回受診時の妊娠週数は,初産であるほど,薬剤投与数が多いほど初回受診時の妊娠週数は有意に早くなり,未婚,リエゾン精神科チーム介入があるほど有意に遅くなる傾向にあった(表5).
これらの結果は,リエゾン精神科チームの介入が精神疾患合併妊娠の妊産婦を有意に地域につなげることに寄与し,精神科初診の妊娠週数を有意に遅くすることを示す結果であった.初回受診の妊娠週数が有意に遅くなることの背景には患者との信頼関係を築き上げたうえで,精神科受診のタイミングを慎重に計画していたことが考えられ,患者に寄り添うマネージメントがなされていたと考えられた.精神科受診が遅くなることで,精神科医による介入の初動が遅れ病状が増悪する可能性は否定できないが,そういった患者には早期に精神科受診をリエゾンNs. が促しており,そのリスクを低減させている.つまり,リエゾンNs. がトリアージ機能を有しているとも考えられる.さらに,副次的効果として,リエゾンNs. が精神科初診前に面談を済ませて診療録に詳細な記載があることは,精神科医の負担軽減にもつながったのではないかと考えられた.
ただ,本研究が後方視的研究であることには注意が必要であり,研究の限界でもある.地域連携率や精神科初診時の妊娠週数に与える影響として,精神疾患の重症度,過去の入院歴なども関連すると思われる.しかし,今回これらの情報を収集することができなかった.また,リエゾンNs. が介入することで冒頭示した産婦人科医が精神科への紹介のストレスを軽減できたかどうかも示すことはできなかった.そして何より,リエゾンNs. の介入により産後うつ病の発症,自殺率などを減少することに最終的に寄与したかどうかは明らかにすることはできなかった.しかし,地域連携率が上昇することにより産後のメンタルヘルス向上の一助となっていることを期待したい.
おわりに
今回,総合病院における多職種連携の実際と自院での取り組みを紹介させていただいた.妊産婦メンタルヘルスケアは,産科と精神科の両診療科がタッグを組んで取り組まなければならない課題であることは自明の理である.それらを円滑に運用するにはリエゾンNs. に代表されるような多職種連携が欠かせないこと,またそれらの介入が非常に有効であることをデータに基づいて示すことができた.近年の診療報酬改定において,これらの取り組みが評価されつつあるが,さらなる充実をめざしその活動を継続したい.
編 注:本特集は第118回日本精神神経学会学術総会シンポジウムをもとに鈴木利人(順天堂大学医学部附属順天堂越谷病院メンタルクリニック),竹内崇(東京医科歯科大学病院精神科)を代表として企画された.
なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.
1) 竹田 省: 我が国の周産期メンタルヘルスの実情とその対策. 日本新生児看護学会誌, (24) 1; 23-27, 2018
2) 辻 俊一郎, 桂 大輔, 所 伸介ほか: 妊産婦とメンタルヘルスケアのアンケート調査報告. 産婦人科の進歩, 73 (4); 405-407, 2021
3) Tsuji, S., Fujii, K., Ando, M., et al.: Impact of a psychiatric nurse specialist as a liaison for pregnant women with mental disorders. Tohoku J Exp Med, 253 (2); 95-99, 2021![]()









