周産期においてメンタルヘルスの不調をきたす要因は多岐にわたり,それらの要因に対応するためには,精神科医だけでなく,産婦人科医や小児科医,看護師,心理師,薬剤師,ソーシャルワーカーなどの多職種ならびに地域の関係機関との連携が必須となる.いわゆる総合病院では,多職種があらかじめ配置されており,より連携がとりやすい土台はあるものの,多職種をシステマティックに連動させ,早期から介入していくことは決して容易なことではない.多職種が円滑に連携していくうえで,ガイドラインを有効に活用していくことが望まれる.また,妊娠中や新生児がいることで移動や時間的な制約が生じ,当事者が医療機関や地域の保健機関にアクセスしようとしても行動が制限されてしまうことがある.さらに近年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大が,その障壁をより高くしている.著者らによる調査研究の結果から,COVID-19拡大後における産後女性の不安や自傷念慮の悪化が明らかにされた.感染対策もしながら必要な支援によりアクセスしやすくするためにはWEBシステムの活用などが検討されるべきであるが,支援者側の体制の構築だけでは不十分であり,当事者やその家族が能動的に適切な支援機関を探し,つながっていく取り組みも必要である.本稿では,周産期メンタルヘルスにかかわる種々の問題に対応していくことをめざした当院での多職種連携チームであるペアレンティング・サポート委員会の取り組みについて紹介する.
2)東邦大学医学部精神神経医学講座
https://doi.org/10.57369/pnj.23-083
はじめに
周産期はうつ病や不安症などの精神疾患の好発時期であると同時に,精神疾患の既往がある場合に再発・再燃しやすい時期でもある.周産期における精神疾患の発症や再発が,時に自殺や児への虐待といった転帰につながる可能性があることから,早期に発見し,介入していく必要がある.周産期のメンタルヘルスの不調につながる要因としては,妊娠出産にともなう生理学的変化や薬物療法への忌避感,経済的負担,パートナーや家族との関係性,育児に関する身体的かつ心理的な負担,母親になることでの家庭内での役割変化,仕事との両立の問題など多岐にわたる.それらの要因を包括的に把握しながら支援していくためには,精神科医だけでなく,産婦人科や小児科といった他の科との連携,また医師だけでなく,看護師・助産師,公認心理師(以下,心理師),薬剤師,ソーシャルワーカーなどの多職種との連携,さらには病院だけでなく,地域の関連行政機関との連携が必要になり,まさに多科,多職種,多機関との連携が求められる.しかし,そういったさまざまな職種が円滑に連携していくことは決して容易ではない.
I.多職種連携を阻む障壁
多職種連携を難しくしている障壁として,渡邉ら16)は,次の3つの要因を挙げている.1つ目は,精神科と産婦人科,小児科といった専門診療科が異なることでそれぞれの専門知識やより重視している観点に差が生じることが連携を難しくしている.これは,医療機関と行政機関の間でも専門としている知識や得意としている領域が異なることから同様のことがいえる.互いの専門性が,相補的にプラスに働くこともあるが,時に相反した主張を押し付け合うようなマイナスに働く可能性もある.2つ目は,妊娠中,出産時,産後でかかわる機関が異なってくることや,妊娠するまではクリニックなどのかかりつけ医で精神科治療を受けていたのが,妊娠出産を契機に産婦人科のある総合病院の精神科に紹介されることで,治療介入の継続性を担保できなくなることがある.3つ目としては,本邦では「里帰り出産」が少なくないが,里帰りなどで妊娠出産を契機に生活圏を移動することで,対応している自治体が異なり,それまで介入していた関係機関との引継ぎがうまく行われないことがある.
上記に挙げた3つの障壁以外にも前提として,妊娠出産時は,それまでは特に問題なく通えていた移動距離や比較的自由に使えていた時間が,特に臨月時や新生児がいる場合などに制約を受けてしまう.さらに,近年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大が,妊産婦が自ら必要な連携機関につながることをより困難な状況にしている.
II.コロナ禍と産後の不安について
COVID-19に感染し,自宅療養中だった妊婦の搬送先が見つからず,そのまま自宅で早産し,児が死亡したというニュースが報道されるなど,コロナ禍が妊産婦のメンタルヘルスに大きな影響を及ぼした可能性は,容易に想像できるところである.著者ら14)は,済生会横浜市東部病院で産後1ヵ月健診を受けた女性を対象にCOVID-19流行前と流行後におけるエジンバラ産後うつ病質問票(Edinburgh Postnatal Depression Scale:EPDS)の点数を比較検討した.その結果,COVID-19流行前(2017~2019年)に比較して,COVID-19流行後(2020年)のほうが,EPDSのなかでも不安に関連した項目が有意に高く,アンヘドニアや抑うつに関連した項目は有意に低かった(図1).当初は,COVID-19の感染拡大に伴い産後の女性の不安だけでなく,アンヘドニアや抑うつも悪化していることを予測していた.しかし,予測に反してアンヘドニアや抑うつは有意に点数が低かった結果について,不安の高まりから心理的な過覚醒状態となり,それがアンヘドニアや抑うつを抑制している可能性があると考えた.
さらに,2021年のデータも含めて解析を加えたところ15),不安やアンヘドニア,抑うつの項目に関しては,2020年のデータと同様の結果であったが,EPDSの項目の1つである自傷念慮の点数については,2020年はCOVID-19流行前(2017~2019年)と比較して有意差がなかったものの,2021年はCOVID-19流行前に比較して,有意な上昇が認められた(図2).この結果から,長期化しているコロナ禍が産後の女性の自傷念慮の悪化に影響を及ぼした可能性があり,さらに自傷念慮は希死念慮や自殺関連行動のリスクにつながること12)から,自殺予防の観点からの対策が必要であると考えられた.特にコロナ禍においては複数の支援者と長時間対面面接することによる感染のリスクや,当事者やその家族が感染した場合などには対面面接ができないことなどから,妊産婦が必要な支援によりアクセスしやすくするために,WEBシステムなどの積極的な活用も検討すべきである.
III.多職種連携を円滑に進めていくために
上記に挙げた障壁を取り除いて,多職種連携を円滑に進めていくためにさまざまな対策が講じられてきた.特に,異なる立場の支援者が治療方針を決めたり,それまでの方針を引き継ぐためには,周産期メンタルヘルスに関する最低限に知っておくべき知識の共有が必要であり,そのツールとしてガイドラインが有用である.本邦では,周産期メンタルヘルス学会から『周産期メンタルヘルスコンセンサスガイド2017』10)と日本精神神経学会・日本産科婦人科学会から『精神疾患を合併した,或いは合併の可能性のある妊産婦の診療ガイド』8)が公表されている.もちろん,ガイドライン通りにうまくいかないことは日常臨床では少なくないことや患者の個別性に配慮していく必要があることは論を俟たないが,一方で,患者側の立場としては,受診した病院や地域の関係機関が異なることによって,大きな差異のある治療やまったく正反対の方針を提案されることは避けたいところである.
また,ガイドラインが作成されたからといって,必ずしもそれが普及することは約束されていない.日本神経精神薬理学会・日本臨床精神薬理学会が作成した『統合失調症薬物治療ガイドライン2022』9)と日本うつ病学会が作成した『うつ病治療ガイドライン』11)を普及啓発していくために,「精神科医療の普及と教育に対するガイドラインの効果に関する研究(Effectiveness of GUIdeline for Dissemination and Education in psychiatric treatment:EGUIDE)」プロジェクト4)が2016年から現在も進行中であり,大きな成果を挙げている5).今後,周産期メンタルヘルスに関するガイドラインにおいても普及啓発のための取り組みが期待されるところである.また,ガイドラインの普及啓発ではないが,日本産婦人科医会は2016年から「母と子のメンタルヘルスケア研修会」7)として,妊産婦にかかわるすべての職種を対象に周産期メンタルヘルスに関する共通認識の普及と基本的なケアが実践できるようにしていくための研修会を全国各地で開催している.Byatt, N.ら1)のシステマティックレビューの結果では,特定の介入をしなかった場合に,周産期のスクリーニングでうつ病と判定された女性のうち,精神医療を受診した割合は22%のみであったが,計画的に患者と治療契約を結んだり,臨床現場で的確にアセスメントしたり,周産期に係る医療従事者をトレーニングすることで,その受療率が2~4倍増加したことが報告されている.このように日本産婦人科医会の取り組みは多職種連携の面だけでなく,受療率を上昇させるためにも重要である.
重症化して,より複雑化する前に早期に介入していくことで,より少ない職種で対応できる可能性も高くなる.早期発見の取り組みとしては,2017年には厚生労働省が産後うつ病の予防や新生児への虐待予防の観点から「産婦健康診査事業」を創設し,市町村が事業実施主体となり,産後2週間と産後1ヵ月の産婦の健診にかかわる費用を助成するようになった.また,人員的配置を強化するために2018年の診療報酬改定に伴い,「ハイリスク妊産婦連携指導料」が算定できるようになった.さらに,妊娠から育児にかけての切れ目のない連携をワンストップで行えるようにするため,『母子保健法』の改正により「子育て世代包括支援センター」を各自治体に設置することが努力義務とされた.
IV.当事者,家族が能動的に支援機関につながっていくために
周産期メンタルヘルスにかかわる多職種連携の体制の構築だけでなく,それを利用していくための当事者とその家族のエンパワーメントも必要である.
アメリカ合衆国における全国健康栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey:NHANES)に登録されているデーターベースを用いた解析結果2)では,妊娠中のうつ病の有病率は8.2%であったが,そのうち,精神医療を受けている割合は,12%のみとかなり低い割合であった.一方,本邦において周産期の死因の1位が自殺であることが報告13)された調査結果のなかで,産後に精神疾患の診断がついていなかった群においては,その約48%が育児に悩みながらも精神科受診を拒否したため,正確な診断がされていなかったことが示された.つまり,本邦においても同様に必要な精神医療に適切につながれていない現状が浮き彫りにされた.
Dennis, C. L.ら3)は,産後うつ病に罹患している当事者が援助希求しない理由として,表に示した項目を列挙している.ここに提示されたスティグマの問題や精神科の医療機関に受診しようとしても外来予約の待機期間が長いといったアクセスの難しさの問題については,周産期だけでなく,精神医療全体で取り組むべき喫緊の課題である.また,メンタルヘルスに関する知識が不足していることから,当事者やその家族が自身の問題を整理し,それぞれの問題に応じた適切な関係機関に相談することができない場面に,日常臨床において遭遇することが少なくない.
V.済生会横浜市東部病院の取り組みについて
済生会横浜市東部病院(以下,当院)では,2007年より院内の「患者の安全確保に関する対策委員会」で児童虐待事例の早期発見,早期支援の取り組みを行っていたが,それでは十分な対応ができなかったことから,2009年より有志メンバーによる「ペアレンティング・サポートチーム」が発足し,その活動が院内で認められ,2011年から正式に「ペアレンティング・サポート委員会」として活動するようになった.その主なメンバーは精神科医,産婦人科医,新生児科医,ソーシャルワーカー,薬剤師,心理師,看護師,助産師で構成されている.月1回メンバーが集まって,ケースカンファレンスを開催し,さらに年に2回,当院主催の地域連携会議を開催し,関係行政機関,地域クリニック,助産院の担当職員とそれぞれの活動内容やトピックスを共有し,ケースカンファレンスなどを行うことで,顔の見える関係づくりを図っている.当院での分娩件数は年間約1,000件程度だが,そのうち約15%にこのペアレンティング・サポート委員会が介入している.介入期間としては,主に妊娠中から産後1ヵ月までとしているが,産後1ヵ月健診時に院内の担当部署の電話番号やメールアドレスを記載した「心理カウンセリングカード」を配布し,希望時に対応している.しかし,この活動を通して,妊産婦やその家族がメンタルヘルスの問題をより正確に理解し,それぞれの問題に応じた適切な機関に相談することができない現状に直面化させられた.そこで,厚生労働科学研究費補助金障害者政策総合研究事業で行われた「地域特性に対応した精神保健医療サービスにおける早期相談・介入の方法と実施システム開発についての研究」(研究代表者:根本隆洋)6)の一環として,当事者が活用できる地域資源をわかりやすく,そしてすぐに探せるようにするために地域の周産期メンタルヘルス関連の相談機関をリスト化(図3)し,WEB上で公開した.さらに当院で出産した方を対象に,当事者が自身でEPDSを用いてスクリーニングをして,それをチャットボットによる人工知能(AI)自動回答でニーズを絞り込み,適切な支援機関を提示する「ペアレンティング・サポートwebシステム」を開発し,現在,その有益性について検証している.
おわりに
ここまでは,周産期メンタルヘルスにおける多職種連携について記載してきたが,多職種連携は決して周産期メンタルヘルスに限ったものではなく,精神医療全体においても欠かすことができない.特に本邦では,超高齢社会となり,精神疾患に罹患している方も高齢化することで,さまざまな身体疾患を併発し,それぞれの身体科との連携が今後さらに求められてくる.いわゆる総合病院では,専門性の高い多職種が一施設内で,方針を一致させながら連携していけることや,重症化した場合には入院加療も含めた対応が行えること,産婦人科だけでなく,精神科や小児科といった複数の「窓口」から介入ができることなどが強みである.一方で,総合病院に一極集中してしまうことで,負担が増え,質の高い対応が困難になってしまうことが予測されるため,地域のクリニックや病院との「病診・病病連携」といった総合病院内だけではない地域医療機関との能動的な関係性の構築が必要と考えられる.
編 注:本特集は第118回日本精神神経学会学術総会シンポジウムをもとに鈴木利人(順天堂大学医学部附属順天堂越谷病院メンタルクリニック),竹内崇(東京医科歯科大学病院精神科)を代表として企画された.
なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.
謝 辞 本稿を執筆するにあたり,日ごろより多大なるご支援を賜りました東邦大学医学部精神神経医学講座の根本隆洋教授に衷心よりお礼申し上げます.
1) Byatt, N., Levin, L. L., Ziedonis, D., et al.: Enhancing participation in depression care in outpatient perinatal care settings: a systematic review. Obstet Gynecol, 126 (5); 1048-1058, 2015![]()
2) Byatt, N., Xiao, R. S., Dinh, K. H., et al.: Mental health care use in relation to depressive symptoms among pregnant women in the USA. Arch Womens Ment Health, 19 (1); 187-191, 2016![]()
3) Dennis, C. L., Chung-Lee, L.: Postpartum depression help-seeking barriers and maternal treatment preferences: a qualitative systematic review. Birth, 33 (4); 323-331, 2006![]()
4) EGUIDEプロジェクト: (https://byoutai.ncnp.go.jp/eguide/) (参照2022-12-02)
5) 橋本亮太, 稲田 健: 精神科治療ガイドラインの普及・教育・検証活動―EGUIDEプロジェクト―. 医学のあゆみ, 272 (2); 188-193, 2020
6) meicisメンタル相談室: (http://sodan.meicis.jp/) (参照2022-12-02)
7) 日本産婦人科医会: MCMC母と子のメンタルヘルスケア (https://mcmc.jaog.or.jp) (参照2022-12-02)
8) 日本精神神経学会, 日本産科婦人科学会監: 精神疾患を合併した, 或いは合併の可能性のある妊産婦の診療ガイド. 精神神経学雑誌第124巻別冊Web版 (https://journal.jspn.or.jp/jspn-proof/highlight/guide_pregnant.html) (参照2022-12-02)
9) 日本神経精神薬理学会, 日本臨床精神薬理学会編: 統合失調症薬物治療ガイドライン2022. 医学書院, 東京, 2022
10) 日本周産期メンタルヘルス学会編: 周産期メンタルヘルスコンセンサスガイド2017 周産期メンタルヘルスコンセンサスガイド2017 (http://pmhguideline.com/consensus_guide/consensus_guide2017.html) (参照2022-12-02)
11) 日本うつ病学会監: うつ病治療ガイドライン, 第2版. 医学書院, 東京, 2017
12) Ribeiro, J. D., Franklin, J. C., Fox, K. R., et al.: Self-injurious thoughts and behaviors as risk factors for future suicide ideation, attempts, and death: a meta-analysis of longitudinal studies. Psychol Med, 46 (2); 225-236, 2016![]()
13) Suzuki, S., Takeda, S., Okano, T., et al.: Recent strategies in perinatal mental health care in Japan. Hypertens Res Pregnancy, 6 (1); 11-14, 2018
14) Takubo, Y., Tsujino, N., Aikawa, Y., et al.: Psychological impacts of the COVID-19 pandemic on one-month postpartum mothers in a metropolitan area of Japan. BMC Pregnancy Childbirth, 21 (1); 845, 2021![]()
15) Takubo, Y., Tsujino, N., Aikawa, Y., et al.: Changes in thoughts of self-harm among postpartum mothers during the prolonged COVID-19 pandemic in Japan. Psychitary Clin Neurosci, 76 (10); 528-529, 2022![]()
16) 渡邉博幸, 榎原雅代: 精神保健と母子保健の連携はなぜ困難なのか?―3つの連携障壁とその解決―. 精神科治療学, 32 (6); 719-722, 2017








