Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文全文

第124巻第2号

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特集 精神科臨床におけるオンライン診療―保険診療3年目の現状と課題―
精神科オンライン診療からみえる臨床風景―「影」からの報告と未来への展望―
小椋 哲
医療法人瑞枝会クリニック
精神神経学雑誌 124: 109-115, 2022

 日本におけるオンライン診療の問題点は,オンライン診療を「対面診療のやむをえない次善策」として位置づけたうえで,既存の医療制度に組み入れようとするため,オンライン診療がもつ可能性を矮小化し,オンライン診療を展開する世界的潮流から脱落している(ガラパゴス化している)点である.この解決のための重要な情報は,厚生労働省が推進するオンライン診療(新)(比喩的に「光」)のなかにはなく,移行措置としてのみ認めているオンライン診療(旧)(比喩的に「影」)のなかにこそある.その「影」からの現場報告として,当院の精神科外来の実情を踏まえた架空症例を提示し,ビデオカンファレンスというメディアの特性を整理した.そのうえで,1つ1つの症例に対して,対面診療とオンライン診療を効果的に組み合わせるハイブリッド・モデルが,来るベき精神科オンライン診療(telepsychiatry)であることを示した.

索引用語:オンライン診療, 遠隔精神医療, 症例報告, ビデオカンファレンス, ヘルスケアIT>

はじめに
 著者は2017(平成29)年3月より精神科オンライン診療を開始し,コロナ禍を追い風に急速にその社会的認知が進んでいる今日まで,オンライン診療を臨床現場で実践してきた.その経験を踏まえたうえでの強い危惧がある.それは,「このままでは日本のオンライン診療はガラパゴス化する」ということだ.現行の日本の医療制度に組み込もうとするあまりオンライン診療の可能性を矮小化し,オンライン診療がもつポテンシャルを十分に活かそうとする世界的潮流から取り残されることになる,という意味だ.
 本稿は,116回日本精神神経学会学術総会における著者の発表内容を,その危惧が十分に伝わるように論旨を整え,米国における精神科オンライン診療〔telepsychiatry(遠隔精神医療)〕の動向について加筆したものである.日本におけるオンライン診療の問題点を指摘し,オンライン診療が切り拓く精神科臨床の未来がどのようなものであるべきか,それらを素描することが本稿の目的である.

I.日本におけるオンライン診療の問題点
1.コロナ禍のなかでの急速な導入のデメリット
 2020(令和2)年4月,新型コロナウイルス感染症の拡大を背景に時限措置として,オンライン診療による初診が認められた5).さらに同年10月,コロナ収束後も,初診を含めたオンライン診療を原則解禁とする政府の方針が示された6).いわば,コロナ禍を追い風に,日本におけるオンライン診療の導入が加速している現状だ.しかし,感染リスクの管理に有用というオンライン診療の特徴は,その独特で多彩な魅力の,ほんの一面にしかすぎない.オンライン診療という新しい医療サービスの提供手段がもつ革新的な側面が十分に認知されないまま,「対面診療のやむをえない次善策」という位置づけで日本に定着することは,ユーザーにとっても,プロバイダーにとっても,不幸である.

2.オンライン保険診療の混乱
 目下,オンライン診療の現場は,運用上,混乱をきわめている.最大の要因は,2018(平成30)年度の診療報酬改定におけるオンライン診療料の新設である.その結果,改定前のオンライン診療(電話等による再診料を算定する)と,改定後のオンライン診療(オンライン診療料を算定する)とが併存する事態となっている.
 著者は,前者をオンライン診療(旧),後者をオンライン診療(新)と区別している.前者は,全例が後者に移行するまでの過渡的な位置づけとされた.オンライン診療(新)が「光」となり,オンライン診療(旧)を「影」として追いやった,という印象である.しかし,オンライン診療(新)は,運用上の制約が著しく,オンライン診療のポテンシャルを十分に活かすことは困難である.その一方,オンライン診療(旧)には,オンライン診療のクリエイティブな要素が十分に展開されている.この実情を踏まえないまま,オンライン診療(新)を推進することは,現場の混乱に拍車をかけるだけでなく,オンライン診療が拓く未来を閉ざすことになるだろう.

3.オンライン診療の「光」
 上述したように,オンライン診療料は,2018(平成30)年度の診療報酬改定で新設された.しかし,この算定要件では,精神科在宅患者支援管理料の算定対象となる患者と対象が制限された.それはつまり,月1回の訪問診療を行っている患者となる4).精神科訪問診療を行っていない医療機関は,この時点ですでに,オンライン診療(新)に参加することができない.大幅な運用の制限と言わざるをえない所以である.
 さらに,オンライン診療料は,対面診療による診療報酬と比較し,減算されている.また,定期的な対面診療を混在させるなどの運用上のルールが算定要件に加えられている.これはオンライン診療が,「対面診療のやむをえない次善策」と認識されていることを物語る.そして,この認識こそが,ガラパゴス化を生み出している.ちなみに,米国では両者の診療報酬は等価である.
 無論,両者は「同一」ではない.しかし,それぞれの長所と短所を熟知したうえで,それを使い分けることにより,両者はともに,同等の臨床的意義を発揮しうる,ということである.この認識があるならば,「初診からオンライン診療が可能か」「対面診療に対する非劣性を示せ」などの議論がいかに不自由な認識のうえに立っているかが了解できるだろう.

4.オンライン診療の「影」
 2018(平成30)年度以前に実践されていたオンライン診療(旧)では,電話等による再診料を算定していた.しかし2018(平成30)年度の診療報酬改定で,この診療報酬に,1つの制限*1と,1つの条件*2が加わった.つまり改定後,新規にオンライン診療(旧)の枠組みで,定期的に診察することができない.この辺りの実情は,煩雑を極める.詳細については拙稿を参照されたい7)
 このように,絶滅を運命づけられているかのような,オンライン診療の「影」だが,このなかにこそ,オンライン診療の,対面診療とは一線を画するクリエイティブなポテンシャルが充満している.この臨床センスを救い出さない限り,日本の(精神科)オンライン診療はガラパゴス化する.その実情は,III.症例提示で示す.

II.当院におけるオンライン診療の実施状況
 著者は,京都市内の精神科クリニックの院長として日々,精神科臨床に従事している.当院では,2017(平成29)年3月からオンライン診療(旧)を開始し,現在も(旧)を続けている.おおむね,月間30件程度で推移し,2020(令和2)年7月の時点で,通算,900件程度である.
 患者の居住地は近畿が最も多く,一部は関東や中部・四国に及び,時に海外からのケースも認める.対象疾患は気分障害が最も多く,一部に発達障害,神経症圏,統合失調症圏も認める.
 次項で紹介する症例はすべて,オンライン診療(旧)で実施している設定となっている.このようなケースを,現在,新規に開始することは難しい点に留意されたい.
 また,個人情報保護の観点から,臨床的意義を失わない範囲で,複数の実際のケースの特徴をまとめた架空の症例となっている.

III.症例提示
1.症例A(30歳代,女性,うつ病)
 【経過】関東で就労していたが,うつ病を発症し,実家の京都市にもどり当院を対面で初診.抑うつ状態の改善後,関東にもどったが,経過をよく知る当院への通院継続の希望があり,オンライン診療にて関東でのリワークから復職までをフォローした.
 【考察】療養環境が地理的に大きく変化しても,オンライン診療であれば,治療の一貫性を保つことができる.例えば,リワーク中の診療のポイントの1つは,再燃防止である.症例Aは,関東での対面診療による新規の担当医よりも,オンラインであるが再燃の兆候をよく知る従来の担当医に診療を依頼するほうが,再燃防止にメリットがあると判断したといえる.

2.症例B(30歳代,男性,双極II型障害)
 【経過】抑うつ状態のため,周期的に受診が困難となっていた.最もサポートを要するタイミングにもかかわらず受診ができない,そのような状況に対する介入を意図し,オンライン診療を導入した.抑うつ状態でベッドに臥床中,スマートフォンを横に置いてもらい,呼吸法を指導した.「しんどいときも,(呼吸法などを)こうすればよいとわかった」との感想を得た.
 【考察】対面診察では,患者が抑うつ状態や軽躁状態に陥ると,通院が中断するリスクが高い.オンライン診療であれば,一番サポートが必要なタイミングで診療を提供することが可能となる.

3.症例C(20歳代,男性,うつ病)
 【経過】高卒以後,自宅にひきこもりとなった.うつ病の診断にて精神科受診歴があるものの,通院の負担から中断していた.オンライン診療なら通院ができるかと期待し,当院を対面で初診.以後,オンライン診療での再診を継続した.自室の様子や興味のある対象を共有し,ラポールの形成を進めた.その結果,徐々に発語量も増加し,誘えば,スマートフォンをもったまま,自宅周辺を一緒に散歩することができた.その後,好調時には来院にて対面診察も可能となった.
 【考察】オンライン診療は,得られる情報が視覚・聴覚に限定されるため,対面診療と比較し,一般に情報が乏しいと評価され,それが欠点として指摘される場合が多い.しかし,本症例で明らかなように,オンライン診療には,診察室という非日常的な時間・空間では決して得ることができない,日常生活における患者の様子を物語る豊かな情報を得ることができる.何をもって情報の多寡とするか,その情報をいかに活かすか.この観点がないまま,オンライン診療は対面診療に比し,情報量が少ないと断ずることは,ステレオタイプに過ぎる.また,オンライン診療は対面診療と比較し,患者の身体的な負荷,心理的な侵襲性が低い.この特徴は,後述するように,精神科面接において,まったく新しい研究テーマを生み出している.

4.症例D(30歳代,女性,複雑性PTSD)
 【経過】関東で対面で通院中,セカンドオピニオン目的に当院を自費カウンセリングとして,オンラインで初回面接.当時の通院先の外来主治医にはない,心理教育,トラウマ体験の傾聴,具体的なリハビリテーションのデザインや生活指導に意義を見いだし,以後,定期的に当院のオンライン診療を継続した.外来主治医には操作性を示す場面も散見されたが,オンラインでの適度な距離感(担当医の肉体的現存の希薄さ)が,その病状を自然に抑制し,自身の課題に注力する集中力を維持させ,結果的に,トラウマに関連する病状も緩和していった.
 【考察】面前の一人の人間が発する情報量は,同一人物のビデオ映像と音声による情報と比較し,質・量ともに,圧倒的に多量だ.しかし,その刺激は時に,患者を威圧し,時に混乱させる場合もありうる.つまり,オンライン診療の情報量の少なさが,必ずしもデメリットとならない状況がありうるということである.対面よりもオンラインのほうが,外傷体験などは語りやすい,という報告もある1)

5.症例提示のまとめ
 4つの症例が伝えるメッセージは,オンライン診療とは,「対面診療のやむをえない次善策」ではなく,臨床的文脈において,対面診療と対等な選択肢の1つとして検討に値する,新たな診療形態,ということである.
 確かに,米国や豪州など,広大な国土の一部に医療過疎地域を抱える国家では,オンライン診療は「対面診療のやむをえない次善策」として,それらの地域に医療を供給する不可欠な手段となっている.しかし,日本のように対面診療とオンライン診療を任意に選択できる環境においては,俄然,対面診療とは異なる,オンライン診療の多彩な特性が浮き彫りとなる.
 その特性を列挙してみよう.
 1つ目は,医療へのアクセスを物理的に容易にする点である.地理的障壁を越え診療が可能となる場合(症例A)や,体調によっては対面診療が困難となる状況でもアクセスできる場合(症例B)が挙げられる.
 さらに,2つ目として医療へのアクセスを心理的に容易にする点も挙げられる.診察の心理的侵襲性が低いため継続的な受診が可能となる場合(症例C)や,注意を逸脱させる余分な情報がないため課題に集中しやすくなる場合(症例D)が挙げられる.
 そして,上述の点も含みつつだが,3つ目として患者が療養の主導権を取り戻すことを促進させる意義が大きい.自分が本当に医療を必要としている瞬間にそれをつかみとること(症例B)や,自分の本当の姿を伝えること(症例C)が患者の主体性を支える.
 これらの特性は,オンライン診療を,「対面診療のやむをえない次善策」と認識している限り,決してみえてはこない.
 このような特性をもつオンライン診療だが,臨床的文脈において,対面診療と対等な選択肢として検討する場合,避けて通ることができない論点が,それを実施する精神科医の臨床能力だ.電子カルテのモニターばかりを見続け,患者の話もタイマーのように30秒で遮り,「同じ処方でいいですよね」と半ば強制して退席させる対面診療と,患者としっかり向き合いながら込み入った症状も聞き取り,処方を修正するオンライン診療と,どちらが精神科診療として良質かは,火を見るより明らかだ.
 つまり,対面診療であることは,それが良質な診療であることを何ら保証しないと同時に,オンライン診療であることは,それが常に低質な診療であることを運命づけられているわけではない.道具とは,そういうものだ.もちろん,道具の基本的な安全管理は不可欠だが,臨床のアウトカムは,どの道具を使うかという選択眼と,その道具にどれだけ熟達しているかで決まる.
 このパンデミックの渦中で,われわれ日本の精神科医は,オンライン診療という新たな道具を手にしたわけだが,その使い方は,オンライン診療の「光」の実践だけでは,決して身につかないだろう.その危惧を胸に,オンライン診療の「影」からの実践報告を症例として提示した.

IV.メディアとしてのビデオカンファレンスの特性
 オンライン診療で用いるメディアはビデオカンファレンス(videoconferencing)と呼ばれ,通常は,双方の正面上半身の動画と会話音声で構成されている.このメディアの特性を理解するために,電話診察および対面診療を取り上げ,三者の比較を試みる.

1.電話診察
 電話診察のメリットは,このメディアが,患者の身体的・心理的負担が最も少ないことである.オンライン診療と比較選択する場合,オンライン診療では自宅の様子がみえてしまうので希望しないというケースが時にみられる.視覚的情報を扱わないことにより,電話診察のほうが,心理的侵襲性が少ないといえる.
 電話診察のデメリットは,その表裏であるが,極めて重要な臨床所見である,表情や姿勢などの表出が得られないことである.

2.対面診療
 対面診療のメリットは,患者の一瞬の戸惑いや空気感の変化など,ビデオカンファレンスの解像度では感知できない表出が得られることである.これは患者も同様であり,同じ時間と空間を共有する一期一会の体験が療養に与える好影響は大きい.
 対面診療のデメリットは,これもその表裏になるが,三者のなかでは,患者の身体的・心理的負担が最も高いことである.そのため,外来通院が中断するリスクも高い.

3.オンライン診療
 オンライン診療のメリットは,電話診察では得られない,患者の表情・姿勢などの臨床所見が得られる点である.加えて,自室などの生活環境の様子も観察できる.また,対面診療よりもリラックスした患者を観察しやすい.
 実はこの一文の中身を分析するなら,別途,一章を要する.単に,自宅や自室にいるから,という理由を超えて,医師―患者関係が潜在的・顕在的に含みもつヒエラルキーを,患者の主導で,変化させることができるからである.想像してみてほしい.医師が小さなスマートフォンのなかに現れて,患者が自在に,そのスマートフォンの置き場所をコントロールできる様子を.その日の気分で,机の上にスマートフォンを置いて,医師を見下すこともできるのである.いわば,対面診療は,医師にとってはホームグラウンドだが,オンライン診療では,患者がホームグラウンドにいる.また,別の切り口では,スマートフォンを介したオンライン診療は,精神分析がカウチを開発したのと同程度の,精神科面接の新しい構造の誕生,ともいえる(この場合は,患者が主導権を取り戻している).この指摘だけでも,ここに新たな精神科臨床の研究テーマが広がり,オンライン診療を「対面診療のやむをえない次善策」と理解することの浅薄さが了解されるだろう.
 さらに,(話題にもどれば)電話診察よりもラポールを形成しやすい.特に,担当医からの知的情報に大きな比重を置いている患者の場合,身体的・心理的負担の大きい対面診療よりも満足感を与える可能性がある.
 一方,オンライン診療のデメリットは,一度も対面したことのないまま診療を続けると,肉体的現存が醸し出す固有の空気感が捨象されたままの患者像が担当医のなかに構成されてしまう懸念がある点である.素朴な例では,オンライン診療では,画面のなかに背を丸めて小柄にみえたが,対面で会うと意外に身長が高く患者のイメージが大きく変わる,という状況がありうる.また,オンライン診療では,顔色もやや悪く映り,エネルギー水準が低下している印象を受けたが,対面で会うと意外に存在全体から発散するエネルギー水準が高くて驚く,という状況もありうる.
 また,担当医の肉体的現存に大きな比重を置いている患者の場合は不満が残る懸念もある.さらに,対面診療での受診が社会性を維持するリハビリテーションとなっている場合,その機会を奪う懸念がある.

4.まとめ
 このように三者を比較すると,「ビデオカンファレンスとは,電話以上,対面未満のメディア」というような短絡的な評価では実情を把握したことにはならない,といえる.
 つまり精神科医は,それぞれのメディアの特性を熟知したうえで,臨機応変に使い分ける能力が求められる.そのような時代が,すでに到来している.

V.海外におけるオンライン診療
 日本のオンライン診療のガラパゴス化を回避するためには,海外の動向に関する情報収集が不可欠だ.米国の状況に関しては,アメリカ精神医学会発行の書籍8)が参考になる.われわれにとって有益な情報を抽出してその概要を紹介する.

1.症例提示
 児童精神科領域から退役軍人のPTSDまで,多様なセッティングで精神科オンライン診療が活躍する様が活写されている.導入の第一の目的は,精神科サービスの不足地域に対するサポートである場合が多く,その意味では「対面診療のやむをえない次善策」ではあるが,診療の現場では,自宅での児童の様子や両親とのかかわりなど,オンライン診療ならではの特徴を十分に活かした臨床となっていることがよく伝わる.
 本稿の文脈に沿うなら,そこで示されている臨床は,オンライン診療の「影」である.つまり,本稿で提示した症例は,当院に特異的なものというよりも,海外の動向に沿った一般的なものである,といえる.

2.働き方改革
 精神科医が,自身の患者をオンラインで診療するだけではなく,ビデオカンファレンスにて,内科の診療所の内科医にコンサルテーションを提供し,さらにその患者に対して精神科の面接をする,午後には少年院の児童に対して面接を提供するなど,自身のスキルをビデオカンファレンスを介して自在に提供する,そのような働き方の実践が紹介されている.
 日本で応用するなら,精神科医の常駐が困難な総合病院に対して,定期的に,あるいはオンデマンドで,精神科オンライン診療を提供する状況だろう.

3.ハイブリッド・モデル(hybrid model)
 日本でオンライン診療と呼称する場合,ビデオカンファレンスによる診療と理解されている.しかし,米国でtelepsychiatry(遠隔精神医療)という用語で含意されるものには,ビデオカンファレンスだけではなく,電話,メール,チャット,SNSの投稿,ウエアラブル端末からの情報など,あらゆるオンライン上の情報が含まれる.そして,ハイブリッド・モデルとは,対面診療と,それらすべてのオンライン情報を,自在に組み合わせたケア・モデルを指している.そして近い将来,そのハイブリッド・モデルが,患者中心の医療の実践として,精神科臨床のスタンダードになるだろうと予言している.
 翻って,日本のオンライン診療の指針3)では,メールやチャットは原則,扱わないと規定されている.ここにも,ガラパゴス化を認める.
 その一方,当院では,このハイブリッド・モデルのインフラとしての,精神科地域連携アプリ(「もるみっぷ」)の開発に2020(令和2)年3月より着手している.患者が事前に診察での相談内容を掲示板にアップし,担当医がそれを事前に確認して診察(対面またはオンライン)に臨む.その内容が地域スタッフと掲示板で共有され,担当医とスタッフとの連絡はチャットで行われ,夜間,緊急時には患者は臨床心理士とチャットで相談できる.
 精神科オンライン診療は,「対面診療のやむをえない次善策」ではなく,このようなハイブリッド・モデルに埋め込まれた,デフォルトで装備される基本機能となるだろう.

おわりに
 日本において,精神科オンライン診療を,オンライン診療のポテンシャルを十分に発揮させつつ育てるには,以下の点が肝要だろう.
 (i)日本には,オンライン診療(旧:「影」)とオンライン診療(新:「光」)があると知る.
 (ii)「光」の対象疾患が拡大されたとしても,ガラパゴス化は避けられないことを認識する.
 (iii)「影」の臨床経験を発信し続ける必要がある.
 (iv)ビデオカンファレンスというメディアの特性を活かし,精神科面接とは何かを問い続ける.
 (v)「光」と「影」を統合したオンライン診療を厚生労働省と共同して模索し,それを,患者が療養の主導権を取り戻すために,ハイブリッド・モデルのなかに位置づける.
 これが,来るべき精神科オンライン診療の未来の素描となるだろう.

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

文献

1) Cowan, K. E., McKean, A. J., Gentry, M. T., et al.: Barriers to use of telepsychiatry: clinicians as gatekeepers. Mayo Clin Proc, 94 (12); 2510-2523, 2019
Medline

2) 厚生労働省: 平成30年度診療報酬改定について(個別改定項目について). 2018 (https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000193708.pdf) (参照日2020-11-20)

3) 厚生労働省: オンライン診療の適切な実施に関する指針. 2018 (https://www.mhlw.go.jp/content/000534254.pdf) (参照日2020-11-20)

4) 厚生労働省保険局医療課: 令和2年度診療報酬改定の概要(精神医療). 2020 (https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000608535.pdf) (参照日2020-11-20)

5) 厚生労働省医政局医事課, 厚生労働省医薬・生活衛生局総務課: 新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて (厚労省事務連絡, 令和2年4月10日). 2020 (https://www.mhlw.go.jp/content/000621247.pdf) (参照2020-11-20)

6) 日本経済新聞, 2020年10月9日「オンライン診療, 映像使用で原則解禁3閣僚が表明」 (https://www.nikkei.com/article/DGXMZO64830130Z01C20A0EA3000/) (参照日2020-11-20)

7) 小椋 哲: オンライン診療の光と影―精神科臨床の現場から―. 必見!オンライン診療の実践と解説. 日本医事新報社, 東京, p.52-62, 2021

8) Yellowlees, P., Shore, J. H.: Telepsychiatry and Health Technologies: A Guide for Mental Health Professionals. American Psychiatric Association Publishing, Washington, D. C., 2018

注釈

*1 1つの制限とは,「定期的な医学管理を前提として行われる場合は算定できない」のことである2).これは定期的に,オンライン診療(旧)を行うことができない,ということを意味する.この含意は大きい.例えば,オンライン診療(旧)の次回の診察を4週後に設定し,4週分を処方する,という診療ができなくなるわけだ.当時,オンライン診療(旧)を実践していた者は,オンライン診療(新)から閉め出されただけでなく,オンライン診療(旧)も禁じられる,という状況である.

*2 1つの条件とは,「ただし,平成30年3月31日以前に,電話,テレビ電話等を用いて医学的な管理を行い,当該再診料を算定していた患者については,一連の医学的な管理が終了するまでの間,当該再診料を引き続き算定することができる」のことである2).この条件のみが,現在,オンライン診療(旧)で定期的に診察できる根拠となっている.その患者は,改定前にすでに,オンライン診療(旧)を利用していた患者に限定される,というわけだ.

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