Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文全文

第122巻第6号

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特集 定型的な薬物療法に行き詰まったときの新たな治療戦略―難治性精神症状への挑戦―
治療抵抗性双極性障害の薬物療法―これまでとこれから―
多田 光宏, 高橋 希衣, 仁王 進太郎
東京都済生会中央病院精神科(心療科)
精神神経学雑誌 122: 463-472, 2020

 治療抵抗性双極性障害を論じるにあたり,治療抵抗性双極性うつ病と急速交代型双極性障害についてのこれまでのエビデンスを紹介する.治療抵抗性双極性うつ病の定義にはさまざまなものがあるが,少なくとも1つまたは2つの妥当な治療によって満足な結果が得られなかったというのは共通している.治療抵抗性双極性うつ病への薬物療法でランダム化比較試験があるのは,プラミペキソール,ラモトリギン,イノシトール,モダフィニル,ケタミンであり,ケタミンにはプラセボに比べて有意に効果を示すという報告がある.急速交代型双極性障害は,DSM-5で過去12ヵ月に抑うつ,躁病,軽躁病の気分エピソードを4回以上認めると定義される.非急速交代型双極性障害に比して薬物療法の反応が悪いと考えられており,加えてうつ症状の罹患,物質依存や自殺関連事象との関連が示されており,その転帰が相対的に不良であることから診断・治療に十分な注意を要する.急速交代型双極性障害の薬物療法では,クエチアピンによる二重盲検プラセボ対照試験があり,症状の改善が報告されている.リスク因子として主に知られているのは甲状腺機能低下症と抗うつ薬の使用である.近年発表された治療ガイドラインでの急速交代型双極性障害の治療に対しての記述も,抗うつ薬の中止,クエチアピンの有効性についての言及がみられる.

索引用語:急速交代型, 双極性障害, 治療抵抗性, 難治性, 薬物療法>

はじめに
 双極性障害の病相は躁病相,うつ病相,維持期の三相からなるが,治療抵抗性双極性障害の薬物療法として,一定のエビデンスを認めるのは,治療抵抗性双極性うつ病(うつ病相の治療抵抗)と急速交代型双極性障害(維持期の治療抵抗)である.本稿はこの2つに対しての治療について現時点で参考可能なエビデンスを紹介し,治療戦略についての一考を述べる.非生物学的治療として,双極性障害治療の基本である十分な心理教育が不可欠であるが,ここではふれない.なお,本稿の一部は既出の拙文をもとにしており33),本邦での適応とは異なる薬物療法についても言及しているが,実際の使用に際しては十分な注意を払われたい.

I.双極性障害の診断
 日常臨床において双極性障害に限らず「治療抵抗性」を論ずる前には,まず診断を再考する必要がある.双極性障害患者の3分の2の初発病相はうつ病相であり8),双極II型障害においては,全病相期におけるうつ病相の割合は93%である20).また躁病エピソードをもつ患者の約半数は自分の躁症状に対する病識を欠く14).この特性が,横断的なエピソードの極性(polarity)を重視しているDSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)で,双極性障害が過少診断されている一因であろう.
 一方で21世紀に入り,双極性障害の研究が進み,病態解明や診断はある程度進歩したといえるが,その弊害として過剰診断が挙げられる.これにより不安や焦燥感を伴ううつ病,注意欠如・多動性障害やパーソナリティ障害,秩序破壊的・衝動制御・素行症群や気分の波を呈する児童思春期の患者が双極性障害と診断され,必要以上の気分安定薬や抗精神病薬の投与が懸念される.これらの双極性障害でない患者が双極性障害と診断され,双極性障害としての治療が行われるが奏効しない場合,治療抵抗性双極性障害と判断されることもあると思われる.またDSM-52)の特定用語「混合性の特徴を伴う」でも同様に過剰診断を憂慮して,一部の症状(注意散漫,易怒性,焦燥)は,躁状態でもうつ状態でもみられるとして要件からはずされている(表1)ように,不安や焦燥感を伴ううつ病が双極性うつ病と診断され,抗うつ薬投与が行われない事態も想定される.

表1画像拡大

II.双極性うつ病の治療戦略
 2004年Gijsman, H. J.らは,双極性うつ病の急性期治療での抗うつ薬の効果と安全性についての系統的レビューとメタアナリシスを行った15).無作為化比較試験(randomized controlled trial:RCT)を対象とし,治療反応と躁転の割合を調べた結果,双極性うつ病の急性期治療で抗うつ薬はプラセボより反応率〔相対危険度(RR)=1.86,95%信頼区間(CI)=1.49~2.30〕,寛解率(RR=1.41,95%CI=1.11~1.80)ともに有意に高かった.躁転は抗うつ薬で3.8%,プラセボで4.7%に発生し,有意差はなかった.つまり,双極性うつ病の急性期治療で抗うつ薬は効果があり,躁転はしないので,抗うつ薬はどんどん使うべきとの結論が約15年前のエビデンスだった.
 しかし,その後2011年にSidor, M. M.らが行った同様のシステマティックレビューとメタアナリシスによって結論は覆される31).2004年の上記Gijsmanの論文以降,6つのRCT(N=1,034)が行われており,それらを含んだ再検討となった.反応,寛解,躁転,忍容性のすべてで抗うつ薬とプラセボで有意差を認めず,双極性うつ病の急性期治療で抗うつ薬は有効ではなく,躁転もしないとの結論となった.これが現時点でのエビデンスである.
 このメタアナリシスの結論の変化に特に影響を与えたのが2007年のSachs, G. S.らの報告である28).米国の大規模臨床試験STEP-BD(Systematic Treatment Enhancement Program for Bipolar Disorder)の366名の双極性障害患者で,気分安定薬に抗うつ薬を補助療法として加えた群を,プラセボを加えた群と比較して26週の経過を追った.主要転帰は持続的な回復(durable recovery,8週間の気分安定)の割合,副次転帰は躁転(affective switch)とした.結果は持続的な回復でも(P=0.40),躁転でも(P=0.84)群間で有意差は認められなかった(表2).
 双極性うつ病の海外の治療ガイドラインを紹介する(表3).近年のガイドラインすべてで共通して第一選択として推奨されているのはクエチアピン,次いでルラシドンも複数のガイドラインで推奨される.また気分安定薬と抗うつ薬の併用を推奨に含むものが散見される.カナダのCANMAT(Canadian Network for Mood and Anxiety Treatments)とISBD(International Society for Bipolar Disorders)が共同で作成した2018年のガイドライン37)では,bupropionとSSRI(selective serotonin reuptake inhibitor)の同時使用およびオランザピンとfluoxetineの同時使用が双極I型障害のうつ病相治療の第二選択として挙げられているほか,双極II型障害ではセルトラリン,ベンラファキシン単剤が混合症状を示さない患者に限り第二選択として記載されている.オランザピンとfluoxetineの同時使用に関してはWFSBP(World Federation of Societies of Biological Psychiatry)の2010年のガイドライン18)では第一選択であったが2013年の改訂版19)では第一選択からは外れている一方で,BAP(British Association for Psychopharmacology)の2016年のガイドライン17),CINP(The International College of Neuro-Psychopharmacology)の2017年のガイドライン12)では,第一選択として記述されている.2017年に発表された日本うつ病学会の治療ガイドライン双極性障害27)では,双極性うつ病への抗うつ薬使用に関しては,躁転または急速交代化のリスクを常に考慮すべきであり,抗うつ薬の単独治療は推奨されない.また急速交代型の場合には,気分安定薬との併用であっても,抗うつ薬の使用は推奨されず,双極II型障害に関しても,抗うつ薬の使用は慎重に行うべきであるとされている.

表2画像拡大表3画像拡大

III.治療抵抗性双極性うつ病
 Tondo, L.らが2014年に発表した総説によると,治療抵抗性双極性うつ病の定義にはさまざまなものがあるが,少なくとも1つまたは2つの妥当な治療によって満足な結果が得られなかったというのは共通している34).治療抵抗性双極性うつ病への薬物療法でRCTがあるのは,プラミペキソール,ラモトリギン,イノシトール,モダフィニル,ケタミンである.

1.プラミペキソール
 2004年にGoldberg, J. F.らは難治性双極性うつ病患者にプラミペキソールもしくはプラセボを追加し6週後の転帰を調べるRCTを報告した.その結果,プラミペキソール群(期間中投与された最高用量の平均1.7 mg)で12名中8名,プラセボ群で10名中2名がHamilton Depression Scale(HAM-D)スコアの50%以上改善を認める一方,試験期間中にプラミペキソール群の1人が軽躁状態を示した16).2016年にFawcett, J.らは,難治性気分障害にプラミペキソールを使用する際のガイドラインを発表し,そのなかでプラミペキソールの用量調整は1.0~5.0 mgで行うとされており,難治性双極性うつ病患者18名のうち,寛解9名,反応5名という治療効果を示した11)

2.ラモトリギン,イノシトール
 2006年にNierenberg, A. A.らはSTEP-BDに参加した難治性双極性うつ病患者66名を対象にラモトリギン,イノシトール,リスペリドンをそれぞれ現行の治療に追加する増強療法を16週まで行った結果を報告した26).主要転帰は回復(8週間有意な症状を認めない)率と定義された.結果,回復率はラモトリギン23.8%,イノシトール17.4%,リスペリドン4.6%となったが,統計的に有意な群間差を示すには至らなかった.一方,二次解析においてラモトリギン群は,Clinical Global Impression Severity Scores(CGI-S)やGlobal Assessment of Functioning Scores(GAF)で他の2群に対して有意な改善を認めた26)

3.モダフィニル
 2007年にFrye, M. A.らは,気分安定薬に反応を示さなかった85名の双極性うつ病患者をモダフィニル追加群とプラセボ追加群に割り付け,6週後の結果を評価したところ,モダフィニル群において主要転帰であるInventory of Depressive Symptoms(IDS)スコアの有意な改善を2週目から6週目まで認めたほか,反応率,寛解率でもモダフィニル群が44%,39%とプラセボ群の23%,18%と比して有意に高い結果を示したと報告した13)

4.ケタミン
 2010年にDiazgranados, N.らは,血中濃度の定期モニタリング下で十分量のリチウムもしくはバルプロ酸を4週以上服用したにもかかわらず,Montgomery-Åsberg Depression Rating Scale(MADRS)で20点以上の双極性うつ病患者18名を対象とした二重盲検試験を報告した9).リチウム,バルプロ酸以外の薬剤を中止した2週間のwash-out期を経たのちに,ケタミン0.5 mg/kgの静脈投与を追加した群9名とプラセボ群9名に割り付けた.ケタミン群は40分後から3日後までの間,プラセボ群と比較して有意にうつ症状の改善を認めた.またMADRSスコアで50%以上改善した者の割合はケタミン群で71%,プラセボ群で6%であり,試験期間中に躁症状を認めたのは各群1名ずつであった9).2012年には同じグループのZarate, C. A.らにより,独立した被験者を対象に同様の試験が行われ,ケタミン群の抗うつ効果が再現され,あわせて希死念慮の改善も示された39).ケタミンは難治性気分障害の有力な治療選択肢足りうるが,その薬理作用からAmerican Psychiatric Association(APA)タスクフォースは,投与前評価を十分に行うべきだとしている29).具体的には,物質依存の既往の有無を含めて診断を行う,投与前の重症度を評価して治療効果判定を行う,適切な抗うつ薬治療をされていたかを確認する,ケタミン使用の潜在的リスクを評価する,身体科的検索をガイドラインに沿って行う,家族歴を含めて身体科的/精神科的に診察録をレビューする,インフォームドコンセントを得る.

IV.急速交代型双極性障害
 双極性障害の「急速交代型(with rapid cycling)」は,DSM-52)では過去12ヵ月に抑うつ,躁病,軽躁病の気分エピソードを4回以上認めると定義されている.また各エピソードは少なくとも2ヵ月以上の部分/完全寛解,あるいは対となる病相への移行(例:うつ病相から躁病相)により区別されることで特定され,双極I型/II型障害のいずれにも適用される.
 急速交代型という概念は1974年のDunner, D. L.らによる報告を端緒とする10).それ以前にもKraepelin, E.がその著書のなかでManic-Depressive Insanityでの疾患の進行と周期の長さについて言及している23).一般に急速交代型での各病相の持続期間は数週から数ヵ月とされるが,稀ではあるものの数日から週単位(超急速交代型),あるいは1日のなかでの気分交代を認める群(超概日性)も報告された24).また有病率についてのCarvalho, A. F.らのシステマティックレビューでは,1年間で双極性障害患者の5.0~33.3%が急速交代型と特定され,生涯では25.8~43.0%にのぼることが報告されている6).さらにSTEP-BDに参加した双極I型/II型障害患者計1,742名のうち,研究参加時に32%がDSM-IV1)の急速交代型の特定基準を満たしていたというSchneck, C. D.らの報告も鑑みると,急速交代型双極性障害が決して珍しくないことの証左であろう30).急速交代型は非急速交代型双極性障害に比して薬物療法の反応が悪いと考えられており4)25),加えてうつ症状の罹患7),物質依存や自殺関連事象との関連が示され6),その転帰が相対的に不良であることから診断・治療に十分な注意を要する.

V.急速交代型双極性障害のリスク因子
 続いて急速交代型双極性障害のリスク因子について紹介する.主に知られているのは甲状腺機能低下症と抗うつ薬の使用であろう.双極性障害の治療経過における甲状腺機能低下が急速交代型との相関因子であるというKupka, R. W.らによるメタアナリシス25)のほか,30名の急速交代型双極性障害患者を対象とした前向き調査では18名が甲状腺機能低下症(Grade I:7名,Grade II:8名,Grade III:3名)を認めたというBauer, M. S.らの報告がある3).また抗うつ薬に関しては,古くはWehr, T. A.らによる双極性障害の女性患者5名が三環系抗うつ薬使用により急速交代化をきたしたという報告36)や,109名の急速交代型双極性障害患者を長期フォローした前向き研究で抗うつ薬使用が急速交代型に相関するというKoukopoulos, A.らの報告22)のほか,前述のSchneckらのSTEP-BDでの前向き研究では,研究参加時に急速交代型双極性障害と診断された患者において抗うつ薬使用がその後1年間の気分エピソードの増加と相関したことが報告されている30).一方で抗うつ薬が急速交代型との相関を示さなかった報告として,Yildiz, A.らの双極I型/II型障害患者223名を対象とした調査38)や,345名の双極I型/II型障害患者を平均13.7年フォローアップし,89名が急速交代型と特定されたCoryell, W.らの長期予後調査研究がある7).以上より現時点では「急速交代型」は症候群としての色彩を帯びており,双極性障害の治療経過での精神作用物質や甲状腺機能低下,パーソナリティ素因などの影響が混在していると推察される.また急速交代型のみを対象としてデザインされた研究が少なく,双極性障害研究での急速交代型/非急速交代型のサブグループ解析などのエビデンスが多くを占める.これらが治療の良質なエビデンス集積が不十分な原因と思われる.

VI.急速交代型双極性障害の治療ガイドライン
 近年公表された双極性障害ガイドラインから,急速交代型の記述を紹介する.CINPが2017年に発表した治療ガイドライン12)では,治療開始前に急速交代型を含む臨床的な特徴の特定を行うべきとしたうえで,各薬物療法の推奨レベルを述べている(表4, 表5).本ガイドラインで取り扱われている代表的な研究をいくつか紹介する.うつ病相でのクエチアピンについては,Vieta, E.らの2007年の報告がある.急速交代型うつ病相の双極I型/II型障害患者108名をプラセボ,クエチアピン300 mg,600 mgの3群に割り付け,8週後の転帰を評価したところ,クエチアピン群でプラセボ群より有意にMADRSスコアが改善した35).2010年にSuppes, T.らは双極性障害270名を組み入れたクエチアピン徐放剤のプラセボ対照RCTにおいて急速交代型74名を対象とした解析を行い,クエチアピン徐放剤群はプラセボ群に比して有意にMADRSスコアの改善を示した32).急速交代型双極性障害維持期の薬物療法では,大部分の医師がバルプロ酸はリチウムより長期管理に有効であると考えているが,Calabrese, J. R.らの2005年の報告によると,60名の急速交代型双極性障害を対象とし20ヵ月のフォローアップを行ったRCTでは気分エピソードの再発率と再発までの期間においてバルプロ酸とリチウムとの間に有意差は認めず,この通説は支持されなかった5).またKemp, D. E.らの2009年の報告では,物質依存の既往がある急速交代型患者149名を対象にリチウム単剤群とリチウム+バルプロ酸併用群において気分障害エピソードの再燃率を比較したがやはり有意差を認めなかった21)
 2016年に発表されたBAPガイドライン17)では,急速交代型と特定された際には甲状腺機能低下と精神作用物質の使用の確認を行い,病相の交代に抗うつ薬の関与が疑われる際には抗うつ薬を中止することを検討すべきとしている.また維持療法に関しては薬物間での治療効果に差異はなく,しばしば多剤併用療法が避けられないため,薬物の効果判定,つまり気分エピソードの出現を減少させるかどうかを,少なくとも半年以上観察したうえで行い,効果のみられない薬は中止することで無用な多剤併用療法を避けるように述べている.
 2018年に発表されたCANMAT/ISBDガイドライン37)では,急速交代型と甲状腺機能低下症,抗うつ薬使用,精神作用物質の乱用との関連について言及しており,治療に際して,甲状腺機能の評価,抗うつ薬や精神刺激薬,精神作用物質の漸減中止を行うべきであるとしている.また急速交代型のうつ病相,躁病相いずれにおいても特定の治療薬が優れているというエビデンスはないとし,双極性障害維持期の有効性に基づく選択を推奨,時として気分安定薬2剤を併用する必要性についてもふれている.
 2017年に発表された日本うつ病学会の治療ガイドライン27)では,抗うつ薬の中止,クエチアピンの有効性,甲状腺ホルモン剤が有効な可能性についての言及がみられる.

表4画像拡大表5画像拡大

おわりに
 以上を踏まえ,治療抵抗性双極性うつ病ならびに急速交代型双極性障害患者の薬物療法についての私見を述べる.
 治療抵抗性双極性うつ病に対しての薬物療法は,まず先述したように診断の慎重な見直し,次いで双極性障害としての妥当な治療が十分に行われていたかを検討する必要があろう.気分安定薬は十分量,十分期間使用されていたか,アドヒアランスは良好であったかの確認において,定期的な血中濃度モニタリングも重要といえる.そしてこれまでの経過でクエチアピンを使用されていないのであれば,クエチアピンによる治療を試みるべきであろう.仮にクエチアピン,リチウム,ラモトリギンの単剤療法,リチウムとラモトリギンの併用療法に反応しない場合の治療選択肢としては他の気分安定薬や抗精神病薬(オランザピン,カルバマゼピン,バルプロ酸,アリピプラゾール)の追加・変更や,プラミペキソールの追加も考えうる.またいずれの薬物療法にも反応を示さない場合,修正型電気けいれん療法も検討する.
 一方,急速交代型双極性障害の薬物療法であるが,臨床場面で急速交代型と特定し治療を行う場合,基本的には治療歴が1年以上に及ぶ場合がほとんどである.開始時の病相として躁/軽躁病相,うつ病相,寛解期のいずれかが考えられ,治療の優先順位が異なる場合もありうる.それまでの経過で使われている薬物では気分エピソードの予防に効果が乏しいと暫定的に判断する必要があるかもしれない.精神作用物質の使用や甲状腺機能低下が併存する場合,また服薬アドヒアランスが不良な場合には適宜,対応策をとる必要がある.薬物選択の際には(非急速交代型も含めた)双極性障害のうつ病相,躁病相,維持療法に対しての有効性も含めて包括的に吟味するのが重要と思われる(表6).結果,急速交代型双極性障害の治療でエビデンスに優れた選択肢としてはリチウム,クエチアピン,オランザピン,バルプロ酸が挙げられる.単剤療法が理想的ではあるが,場合によってはリチウムもしくはバルプロ酸とクエチアピンもしくはオランザピンの併用療法も有効な治療選択肢と考えられる.また,極端なアドヒアランス不良や頻回の断薬による再燃の繰り返しがみられる急速交代型双極I型障害の場合には抗精神病薬の持続性注射剤も一考の余地はあるかもしれない.
 両者の治療において,抗うつ薬は基本的には避けたほうが無難と思われ,ベンゾジアゼピン系薬物も依存性や有害作用を鑑みるに,使用は少量または限定的使用にとどめたほうが望ましいと考えられる.

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 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

文献

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