Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文全文

第122巻第5号

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精神医学のフロンティア
自閉スペクトラム症のエンドフェノタイプと臨床診断に関与する皮質表面構造
山縣 文1), 青木 悠太2)
1)慶應義塾大学医学部精神神経科学教室
2)昭和大学発達障害医療研究所
精神神経学雑誌 122: 333-342, 2020

 【背景】自閉スペクトラム症(ASD)はその発症に遺伝要因が大きく関与しており,その同胞の発症リスクは一般人口より高く,非罹患同胞においても臨床水準以下の特徴を有している.過去の脳画像研究ではASDとその非罹患同胞が共有する異常所見をASDの遺伝要因に関与する生物学的所見(エンドフェノタイプ)としている.しかしながら,エンドフェノタイプを有する群(ASDとその非罹患同胞)において,一方はASDと診断され,片方は健常であることを考慮すると,ASD診断に関与する生物学的所見についてはほとんど検討されていない.【方法】30名のASDエンドフェノタイプをもつ群(ASDとその生物学的な非罹患同胞15ペア)と30名のASDエンドフェノタイプをもたない群〔生物学的な定型発達(TD)同胞15ペア〕を対象とした.頭部MRIを撮像し,皮質体積,皮質の厚さ(CT),フラクタル次元(FD),脳溝の深さ(SD)を皮質構造パラメータとした.まず,これら4つのパラメータのうちASDエンドフェノタイプを反映する多変量パターンを同定した.さらに,TD同胞間の差を考慮したうえで,ASDとその非罹患同胞の差をブートストラップ法を用いて検討し,ASD診断に関与する脳領域を同定した.【結果】スパースロジスティック回帰分析と交差検証の結果,SDが他のパラメータと比較し高い精度(73.3%)でASDエンドフェノタイプを同定した.さらにブートストラップ法にて6つの脳領域のSDがASD診断に関与していることが示された.これらの多くは社会脳であったが,ASDエンドフェノタイプとASD診断に関与する領域はほとんど重複がなかった.【考察】SDがASDエンドフェノタイプを最も鋭敏に反映する皮質構造パラメータであり,SDを用いてASD診断の神経基盤も同定できることが明らかとなった.従来の2群比較の研究デザインでは検出できなかったが,ASDのエンドフェノタイプと診断に関与する脳領域がそれぞれ異なっている可能性が示唆され,今後の脳画像研究手法の一助となることが期待される.

索引用語:自閉スペクトラム症, エンドフェノタイプ, 同胞, 脳構造>

はじめに
 自閉スペクトラム症(ASD)は,社会的コミュニケーションの障害と反復的常同行動を特徴とする神経発達障害である.過去の脳画像研究の多くは,ASDにおける非定型な皮質構造を報告している2)17).それらは社会脳に関与する脳領域において非定型な特徴を示した.
 皮質構造のなかでも,折り畳み構造は,微小な細胞の構造や局所の構造的結合を反映している.そのため,皮質の厚さ(CT),フラクタル次元(FD,皮質構造の複雑さを示す指標),脳溝の深さ(SD)といった折り畳み構造の指標を用いると病態生理を多面的に評価できる.さらには,これらの指標は遺伝的には異なる特性を反映していると考えられている.そのため,遺伝子を上流として表現系を下流,脳構造を中流とする複数の流れのなかで,非定型的な局所的構造的結合を形成する病因の推測につながる可能性があるということも折り畳み構造の複数の指標を同時に扱ううえでの強みとなる.
 ASDは遺伝要因の寄与が高いことが知られ,実際に家族内集積を認める.一卵性双生児において,ASDの診断一致率は100%ではない.しかし,ASDの生物学的な同胞は一般人口と比べASDを発症するリスクが10~20倍高い6)21).さらに,ASDの第一度近親者で,ASDの診断基準を満たさない者でさえ,臨床的水準以下のASD特性を有していることがしばしばある.このような報告は,ASDの遺伝的形質は複雑であり,ASDの非罹患同胞は,臨床的には診断されなくてもASDに関する遺伝的形質を受け継いでいることを示唆している.
 エンドフェノタイプは,疾病に対する遺伝的な易罹患性を反映した測定可能な生物学的特性であり,罹患者と非罹患家族の両者において,遺伝子と臨床表現型の間に存在するものと定義される10).遺伝的形質は脳構造に寄与するため,ASDとその非罹患同胞が共有する脳構造の非定型性は,エンドフェノタイプといえる.実際,ASDエンドフェノタイプを同定するために過去の脳画像研究では3つの群〔つまり,ASD群,その非罹患同胞群,定型発達(typical development:TD)群〕を対象としている4)12)16).これらの研究では,磁気共鳴画像法(MRI)パラメータを3群で取得し,TD群と比較して,ASD群とその非罹患同胞群が共有する非定型所見をASDエンドフェノタイプとして報告している.
 このように,ASDエンドフェノタイプを同定することは重要であるが,過去の研究にはいくつかの限界点がある.第一に,いくつかの研究では単変量解析を行っている.しかし,ASDでは複雑で広範な脳内ネットワークの非定型性を病態生理と想定しており,それを検証する手法としては単純すぎる.さらに,先行研究の多くは,灰白質の1つのパラメータのみに焦点をあてている.これも,遺伝から臨床表現型までの流れの中間表現型としての脳画像の強みを活かしきっているとはいえない.第二に,エンドフェノタイプは疾患発症の遺伝的脆弱性に関する効果だが,この効果だけでは発症しないため,ASDエンドフェノタイプをもつ者が常にASDと臨床診断されるとは限らない.よって,ASDエンドフェノタイプ内からASD診断にかかわる神経基盤を分離することが可能かもしれない.しかしながら,前述の3群を対象とした過去の研究では,TD同胞間に存在する定型的な兄弟間での類似性について十分に検討されていない.言い換えると,ASDとその非罹患同胞間にみられる類似性はASDエンドフェノタイプだけでなく,通常の同胞間にみられる類似性も含んでおり,ASD診断の有無による同胞の違いが過小評価されている可能性がある.
 これらの限界点を克服するために,われわれは60名の成人男性(=同胞30ペア:ASDエンドフェノタイプをもつ同胞15ペアともたない同胞15ペア)を登録した.本研究の目的は以下の2つである.まず,ASDエンドフェノタイプを抽出するためにASDエンドフェノタイプをもつ同胞ペア(すなわち,ASDとその非罹患同胞)と,エンドフェノタイプをもたない同胞ペア(TD同胞)を多変量パターン解析を用いて判別した.皮質体積(CV)と皮質表面構造パラメータであるCT,FD,SDを測定し評価した.次に,これらのパラメータを比較して,どのパラメータがASDエンドフェノタイプを最も説明しうるか検討した.さらに,ASDの臨床診断に関する神経基盤(=ASDと非罹患同胞で異なる神経基盤)をASDエンドフェノタイプ(=ASDと非罹患同胞で共通する神経基盤)から分離するために,ブートストラップ法を実施した.具体的には,TD同胞間にみられる脳構造の差と比較し,ASDと非罹患同胞間の差のほうが実質的に大きいかどうかを調べた.

I.方法
1.対 象
 30名のASDエンドフェノタイプをもつ群(ASDとその生物学的な非罹患同胞15ペア)と30名のASDエンドフェノタイプをもたない群(生物学的なTD同胞15ペア),計60名の男性を対象とした(表1, 表2).ASDの臨床診断はDSM-IV-TR(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fourth Edition, Text Revision)とADOS(Autism Diagnostic Observation Schedule)をもとに行った.エジンバラ利き手テストにて利き手を判定した.WAIS-III(Wechsler Adult Intelligence Scale)にて知能検査を実施した.自閉症特性は自閉症スペクトラム指数(Autism-Spectrum Quotient:AQ)を用いて評価した.MRI撮像時に5名の被験者が向精神薬を服用していた.具体的には,3名がベンゾジアゼピン系薬剤,3名が抗うつ薬,1名が中枢神経刺激薬を服用していた.被験者に対し本研究の目的と内容について説明を行い,文書による同意を得た.なお,本研究は,昭和大学の倫理委員会によって承認され,ヘルシンキ宣言の倫理基準に従って実施された.

2.画像の取得と前処理
 MRI画像は,12チャンネルのヘッドコイルを用いて,3.0テスラのMRI scanner(MAGNETOM Verio, Siemens Medical Systems, Erlangen, Germany)で撮像された.高解像度T1強調画像はMPRAGE sequence(repetition time:2.3 s;echo time:2.98 ms;flip angle:9°;field of view:256 mm;matrix size:256×256;slice thickness:1 mm;240 sagittal slices;voxel size:1×1×1 mm)を用いて撮像された.脳局所の体積データを得るために,構造MRIデータはSPM12(Institute of Neurology, London, UK)上で走るCAT12 toolbox(Structural Brain Mapping, Jena University Hospital, Jena, Germany)を用いて前処理を行った.すべてのT1強調画像は,バイアスフィールドの不均一性を補正した後,灰白質,白質,および脳脊髄に分割され,DARTELアルゴリズムを用いて空間的に正規化された.最終的なボクセルサイズは1.5×1.5×1.5 mmであった.分割化および正規化されたデータは,8 mmのガウシアンカーネル〔半値全幅(FWHM)〕で平滑化された.各被験者の頭蓋内総容積はCVデータの解析に共変量として使用された.皮質表面構造については,CAT12 toolboxのsurface-preprocessing pipelineを用いて,CT,FD,SDを算出した.CVデータにはHammerの脳アトラスを,CT,FD,SDデータではDesikanの脳アトラスを用いて,半球ごとに34の関心領域(ROI)に分割した.その後,各被験者の各ROIから抽出されたデータを平均化したものを解析に用いた.

3.皮質構造のエンドフェノタイプパターンの同定
 本研究で得られた皮質構造のデータセットからエンドフェノタイプを抽出することを目標とした.われわれは,ASDとその非罹患同胞は非定型な脳構造パターンを共有していると仮定し,エンドフェノタイプについて以下の2つをその条件とした.
 ①エンドフェノタイプをもつ個人は,もたない個人よりも高い値を有する(つまり,ASD>TD,非罹患同胞>TD).
 ②TD同胞ペアは,同等の値を有する(つまり,TD≅TD同胞).
 皮質構造データからASDエンドフェノタイプを識別するためのアプローチとして,スパースロジスティック回帰(sparse logistic regression:SLR)を使用した.次に,分類器(classifier)の精度を評価するために,leave-one-pair-out cross-validation(LOPOCV)を実行した.この解析では,「ペア」は生物学的な同胞ペアを示す.各フォールドでは,1つを除くすべてのペアが分類器のトレーニングに使用され,残りのペアは分類器の精度の評価に使用された.CVについては,年齢,全検査IQ,および頭蓋内総容積を共変量とした.皮質表面構造パラメータについては,年齢と全検査IQを共変量とした.
 分類精度が統計的に有意であるか調べるために,並べ替え検定を実施した.各反復において,ペア情報を保持しながら,エンドフェノタイプのラベルをシャッフルすることにより,並べ替えられたデータセットを作成し,LOPOCVを実行し,その都度,分類精度を計算した.帰無分布を作成するために,この作業を10,000回繰り返した.P<0.05で統計的に有意であるとした.

4.二項検定
 選択カウントの統計的な有意性を調べるために二項検定を使用した.各反復において,分類器は68個のROIから平均8.9±0.6個を選択した.したがって,二項分布Bi(n,P)が仮定される.この式では,nは検証フォールドの数(つまり,n=30)を示し,PはROIのセットから選択される確率(つまり,P=9/68)を示す.

5.ASDの臨床診断に関与する神経基盤の同定
 SLRにて,ASDエンドフェノタイプを特徴づける皮質表面構造パラメータが特定された後,臨床診断に関与する神経基盤を抽出するためにブートストラップ法を実施した.この解析手法では,TD同胞ペア間の皮質構造の違いの分布の影響を考慮したうえで,ASDとその非罹患同胞の皮質構造の違いを評価した.最初に,TD同胞ペアのそれぞれをランダムに2つのグループに割り当てグループ間の平均差を算出した.この手順を10万回繰り返すことで,特定のROIにおけるTD同胞間の脳構造パラメータの差の分布を取得することができる.次に,TD同胞間のこれらの測定値の分布に,ASDとその非罹患同胞間のパラメータの平均差を重ねた.有意性の統計的閾値は,99.964パーセンタイル以上または0.036パーセンタイル以下に設定した.これらの閾値は,P<0.001(=0.025/68),両側検定に相当する.

6.ASD診断の神経基盤と臨床表現型との関係
 ASDの神経基盤として表現される脳構造パラメータが臨床症状と関連しているかどうかを調べるために相関分析を実施した.ASD群において,ASD診断に関与するROIの平均SDとAQサブスコアの間で解析を実施した(結果を参照).SD以外の皮質構造パラメータとAQとの関係性についても調査した.

表1画像拡大表2画像拡大

II.結果
1.ASDエンドフェノタイプの同定
 SDでは,ASDエンドフェノタイプ群とASDエンドフェノタイプをもたない群を73.3%の精度(感度=76.7%,特異度=70.0%)で判別することに成功した〔曲線下面積(Area Under the Curve:AUC)=0.75,P<0.001〕.他の皮質構造パラメータにおける判別の精度は,CVは48.3%(AUC=0.53),CTは58.3%(AUC=0.61),FDは61.7%(AUC=0.62)であった.これらの結果より,他の皮質表面構造パラメータやCVよりもSDがASDエンドフェノタイプにより特徴的なパラメータであることが示唆された.そのため,この後の解析はSDを中心に行われた.
 SD値に重み(係数)を掛け合わせ足し合わせた,重み付き和(weighted linear summation:WLS)は,ASDエンドフェノタイプ群とASDエンドフェノタイプをもたない群で統計学的に有意な差を認めた(P<0.001).一方で,ASD群と非罹患同胞群の間ではWLSに有意な差は認めず(P=0.89),TD同胞間でも同様の結果であった(P=0.37)(図1).

2.SDにおける二項検定
 ASDエンドフェノタイプを特徴づけるSDは,68個のROIのなかからわずか8.9±0.6個の脳領域だけであることが明らかになった.二項検定を用いることで,9個の脳領域が統計学的に明らかに高頻度に選ばれていることが示された(P<0.05,68個のROIの多重比較補正をBonferroni法で行った).この9個のROIは平均で26.4±2.5回選択されている一方で,残りのROIは,0.5±1.1回しか選ばれなかった.

3.ASD診断に関与する脳領域
 SDに着目しブートストラップ法を行ったところ,6個のROIでASD群と非罹患同胞群の間に有意差を認めた.具体的には,左右の上側頭溝,右尾側中前頭回,下前頭回三角部,内側眼窩前頭皮質,中心前回であった(図2表3).

4.ASD診断と臨床表現型と皮質表面構造パラメータの関係
 ASD群において,ブートストラップ法で抽出された6個のROIのSD値とAQの5個のサブスケールとの間の相関関係を検討した.右側の上側頭溝の平均SD値は,AQの注意の切り替え/変化の許容スコアと相関を認めた(r=-0.655,P=0.015).さらに,左尾側中前頭回の平均SD値は,AQの社会スキルスコアと相関があった(r=-0.562,P=0.045).

図1画像拡大
図2画像拡大
表3画像拡大

III.考察
 SDが他の皮質表面構造パラメータと比較して,ASDエンドフェノタイプを最も鋭敏に反映するパラメータであることが示された.具体的には,機械学習を用いて,他のパラメータの分類精度が比較的低かった一方で,SDについては,73.3%の精度(感度=76.7%,特異度=70.0%)でASDエンドフェノタイプをもつ群ともたない群を分類することができた.さらに,SLRのWLSによる分別は困難であったが,ブートストラップ法を用いることで,ASDエンドフェノタイプ内からASD診断にかかわる神経基盤を分離することに成功した.
 本研究にてASDエンドフェノタイプありなしの判別のために選ばれたROIの多くは,社会脳と呼ばれる脳領域に位置していた1)9).非罹患同胞群は臨床的にはTD群と見分けがつかない.しかし,エンドフェノタイプとなったROIが社会脳に集中したことは,非罹患同胞もASDの臨床診断に関する生物学的要因を有している可能性が示唆された.ASDにおいて社会脳領域における異常所見は,過去の研究では一貫して報告されている3)8)19).本研究の結果である,他の皮質表面構造パラメータよりもSDがより特異的に関与していたことは,ASDの皮質構造における病態生理の理解につながると思われる.事実,皮質の折り畳みパターンは,比較的長い軸索に沿った機械的張力理論に基づいた,発生中の脳における皮質間結合の初期のパターンを反映していると考えられている23-25).したがって,非定型な皮質の折り畳みパターンは,ASDを発症する遺伝的リスクの高い人々の間で非定型なSD値として発現し,発達段階の脳における社会脳での局所的構造的結合の変化を反映していると推測する.
 CTは,灰白質の樹状突起の分枝および刈り込み,および灰白質と白質組織の境界における髄鞘形成の変化を示している11)22).ASDにおけるCTの発達曲線に関しては,3つのフェーズで構成される二次曲線が想定されている(幼児期の加速されたCTの拡大,小児期後期および思春期の加速された菲薄化と成人期初期の菲薄化の減速)26)28).特に,最近の大規模研究は,皮質の広範な領域でASD児とTD児間で異なるCTのパターンを認めたが,思春期を経て若年成人になると,幼少期に認めたこれらのCTの差が減少していくと報告している13)15).さらに,Autism Brain Imaging Data Exchange(ABIDE)の大規模データセットを用いた多変量解析研究は,CV,CT,および表面積といった皮質表面構造パラメータの解剖学的差異は,ASDの診断的価値としては限定的であると結論づけている7).以上より,成人期のサンプルのみに限定した場合,これらの過去の結果は,SDがASDエンドフェノタイプを最も鋭敏に反映する皮質構造パラメータであるという結果と矛盾はない.一卵性双生児を対象とした過去の研究では,SDは他の皮質表面構造パラメータと比較し同胞間での類似性が高いと報告されている.つまり,TDにおいてSDが最も遺伝的影響力が強いことを示している14).本研究の結果は,TDを対象とした先行研究の結果であるSDにおける強い遺伝的寄与がASDエンドフェノタイプとして確認されるまで発展させるとも解釈できる.
 本研究では,社会脳領域にてASD群と非罹患同胞群間でSDに有意な差を認めた.その領域は,両側の上側頭溝の後方側面(pSTS),右尾側中前頭回,下前頭回の三角部,および内側眼窩前頭皮質を含んだ.興味深いことに,左側pSTSのSDの異常はASDエンドフェノタイプとASD臨床診断の両者でみられたが,右側pSTSのSDの異常はASD臨床診断でのみ観察された.さらに,右側のpSTSでは,SDの平均値とAQの注意切り替え/変化の許容スコアの間に有意な負の相関がみられ,pSTSが浅いほどASD特性が強くなる可能性が示唆された.pSTS(多くの場合,右側pSTS)は,ASDの社会認知障害において,生物学的運動の認識,動作から意図の読み取り,視聴覚の統合,音声認識,注視の認識,および顔の処理などにおいて中心的な役割を果たす5)18)20).本研究は,ASDエンドフェノタイプを有する同胞ペア(ASDとその非罹患同胞)と有しない同胞(TD)ペアをリクルートすることで,右側のpSTSのSDの異常は,遺伝的脆弱性よりもASDを臨床的に発症する効果に関与する,より特徴的な所見である可能性が示唆された.
 本研究の結果は注意して解釈する必要がある.はじめに,現実的な問題として一卵性双生児を集積することは困難であった.遺伝的特徴だけでなく,出生前,周産期,および出生後の生育環境を共有していることを考慮すると,一卵性双生児を対象とすることは,通常の生物学的な同胞ペアよりも本研究の目的に合致する.さらに,グループごとの被験者数が比較的少なかったことが挙げられる.サンプル数が少ないとオーバーフィッティングを引き起こす可能性があり,この問題を克服するために本研究ではSLRを採用した.結果として,本研究にて実施した解析結果は統計学的な有意水準に達しており,われわれの懸念とは裏腹に本研究の統計的検出力は十分に大きかったと考える.第二に,3人の被験者がMRI撮像時に投薬を受けていた.ただし,本研究が灰白質の構造に焦点をあてていることを考えると,投薬を中止したとしても,結果にはほとんど影響がなかったと考える.将来は,多くのサンプルを集積することで,オーバーフィッティングの問題を克服し,発達障害の不均一性と投薬の影響を最小にするためにサブグループ分析も実施されることが期待される.
 まとめると,社会脳領域内のSDに代表される皮質の折り畳み構造の異常は,ASDエンドフェノタイプに関連する中核的な特徴として同定された.SDを用いることで,ASDエンドフェノタイプからASDの臨床診断に関与する神経基盤を分離することに成功した.

おわりに―本研究の意義と今後の展望―
 本研究の独自性は,ASDとその非罹患同胞ペアだけでなく,TD群においても同胞ペアを対象とした研究デザインを採用したところにある.疾患と健常との間には,疾患発症に関与する効果と疾患発症の遺伝的脆弱性に関する効果(エンドフェノタイプという.ただし,この効果だけでは発症しない)が存在することが想定される.つまり,従来の疾患ありなしの二分法の研究デザインでは,この両者を合わせた効果として検出されるため,個々の効果についての検討が困難であった.そこで,われわれは疾患群と健常群それぞれにおいて同胞ペアを対象とすることで両者を分離できるのではないかという着想に至った.実際,本研究において右側のpSTSのSD値が低くなることがASD発症に関与する神経基盤であることが見いだされた.各群15ペアという比較的少ないサンプル数ながら,過去の研究と矛盾しない結果と新たな知見が同時に得られたことは,この研究デザインの妥当性・検定力の十分さを支持するものと考える.今後の展望としては,多施設大規模研究を実施することで,本研究デザインの妥当性を検証する必要がある.さらに,統合失調症や双極性障害といった内因性精神疾患においても家族内集積の高さがASD同様に報告されており,これらの疾患においても本研究デザインを用いることで,疾患発症に関与する神経基盤を抽出することができ,他疾患の脳画像研究への応用も期待される.

 本論文はPCN誌に掲載された最新の研究論文27)を編集委員会の依頼により,著者の1人が日本語で書き改め,その意義と展望などにつき加筆したものである.

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

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