Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文全文

第121巻第9号

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特集 児童精神医学と精神分析という「隣人」たちの対話
愛着とパーソナリティ障害―愛着理論はパーソナリティの適応化にどのように貢献できるか?―
青木 豊1)2)
1)あおきメンタルクリニック
2)目白大学人間学部子ども学科
精神神経学雑誌 121: 728-735, 2019

 本論文では,精神分析学や精神分析的精神療法の近接領域でもある愛着理論とその治療への応用についてまとめた.特に,愛着理論がパーソナリティに障害をもつ成人の治療に応用が可能かについて文献を振り返り,最後に考察を加えた.結論は以下のとおりである.早期の愛着形成における問題が後のパーソナリティ障害の危険因子となるとの一定程度のエビデンスがある.その機序について発達精神病理学的観点から,乳幼児期に「愛着トラウマ」を体験することにより,表象はdisorganizedし,そのことが後のパーソナリティ障害につながるとの理論が優勢である.これらエビデンスと理論から,愛着理論が取り入れられたパーソナリティ障害への治療実践も行われている.本論文ではその2つの代表的治療,メンタライゼーションに基づく治療と乳幼児-親精神療法を紹介した.最後に,4つの観点から考察を加えた.第1に,パーソナリティの形成因としての愛着とその他の因子についてふれ,本論文の限界の1つについて述べた.第2にパーソナリティ障害への予防的アプローチの重要性について指摘した.第3に患者の「修正愛着体験」という概念が,パーソナリティ障害への治療において貢献していることを指摘した.第4に愛着トラウマ概念について考察した.この「トラウマ」という用語のもつ概念が,一般医学における『トラウマ』概念と異なるために,臨床実践にこの概念を応用するときには慎重な議論が必要であることを強調した.最後に本論文のいくつかの限界についてふれた.

索引用語:愛着(アタッチメント), パーソナリティ障害, 精神療法, 愛着トラウマ>

はじめに
 本論文では,精神分析学や精神分析的精神療法の近接領域でもある愛着理論とその治療への応用について考える.特に,愛着理論がパーソナリティに障害をもつ成人の治療に応用が可能かについてまとめる.早期の愛着形成における問題が後のパーソナリティ障害の危険因子となるとの一定程度のエビデンスがあり,その機序についての理論的なモデルもある.それらエビデンスと理論に支えられた治療実践も行われているとの結論である.これら論点を以下の順序で論述する.第1に愛着形成がパーソナリティとその障害に関連するエビデンスとその機序について,発達精神病理学的観点から記述する.第2に臨床的応用の代表である2つの治療法について,特にメンタライゼーション治療と乳幼児-親精神療法についてまとめる.ただし治療技法や実践的側面については取り上げない.最後に,愛着理論がパーソナリティ障害治療へ応用される際のいくつかの論点について考察を加える.

I.愛着形成がパーソナリティとその障害に影響を与えることを示すエビデンスとその機序―発達精神病理学的観点―
 Thompson, R. A.33)は,早期の愛着形成とその後の社会・情緒的発達についてレビューし,以下のようにまとめている.包括的にみれば,早期の愛着形成は後の社会・情緒的発達の側面に多くの影響を与えるとするエビデンスがある.ただし,この領域の研究創成期に比べれば,その相関の強さは現在ではより低く見積もられている.影響を与える領域は,パーソナリティ,感情の調節,親密な対人関係,自己概念,社会認知,良心など広範とされる.
 これらの研究の集積やレビューから,愛着の形成はその後の社会・情緒的発達に非特異的な影響を与えているようにみえる.愛着の形成が「こころの基盤」といわれる所以であろう.
 パーソナリティへの影響については,特にSroufe, L. A.らを中心としたミネソタのグループが長期的縦断研究を行っている31)32).彼らは,月齢12~18ヵ月の幼児の愛着の型〔strange situation procedure(SSP)による分類〕が,児童期,思春期のパーソナリティに関連する要素(感情的な健康度,自己価値,自信,自我レジリエンシーなど)を予想できるかを調査した.結果は,SSPの愛着の型から,乳児期と児童期のパーソナリティに関連する要素を統計的に予想できるものの,思春期以降におけるそれらを愛着の型のみでは予想できないというものであった.しかし同時に早期の愛着の型とその後の親との関係や現在の親密と考えられる対人関係をかけ合わせれば,思春期・成人期のパーソナリティが予想できることも示された.これらの研究から,Sroufe31)やCicchetti, D.14)は,早期の愛着が各発達段階で種々の発達のorganizer(まとめ役)として機能するという仮説,すなわちemergent personality organization理論を唱えた.そのため彼らはNeo-Ericksonianとも呼ばれている.このように早期の愛着形成がパーソナリティ形成に影響を与えるとのエビデンスと理論は存在する.とすれば,早期の愛着形成が非安定型であったことにより生じる発達面における歪みが後のパーソナリティ障害を生む危険因子の1つとなることが想像される.研究の知見はその仮説にエビデンスを与えているだろうか? この疑問に対する研究は,必ずしも一致しない.Lyons-Ruth, K.ら24)は,幼児期のSSPによる愛着の型から成人期の境界性パーソナリティ障害(borderline personality disorder:BPD)が予想できるかを調査した.結果は予想できないというものであった.同研究では幼児期に虐待・ネグレクトが存在するか,親子のコミュニケーションが障害レベルである場合,BPDを予想できるとの結果であった.一方,Carlson, E. A. ら12)は,幼児期の未組織/無方向型愛着(disorganized/disoriented pattern:D型)から,12歳時の愛着表象(愛着についての心的表象-認知,イメージなど)を介してBPDが予想できるとの結果を得ている.これら研究から,以下のことが示唆される.すなわち幼児期の愛着が非安定型であることのみでは,後のBPDは予想できない.しかしより適応度の低いD型の愛着か虐待・ネグレクトによるより重度の愛着形成の問題は,BPDの危険因子となる.
 では重度の愛着の形成の問題がどのような機序でパーソナリティの問題,特にBPDの危険因子になるのであろうか? 多くの論者が愛着-トラウマ概念を展開し,理論化している.Main, M. とHesse, E.25)は,以下のように仮説を立てた.支持的な養育者がいないなか,トラウマが生じると(虐待などもその典型例である),自己および他者に対する心的モデル(愛着理論ではinternal working model)が単一のまとまったモデルとして形成されず,統合されていない複数の心的モデル(disorganized working models)が形成される.このまとまりのない複数モデルがBPDと解離性障害の病理を生むという説明である.Carlsonら13)もまた,早期に子どもの情緒調節機能を超えるトラウマを受けると,まとまったworking modelが形成されないと考えている.Slade, A.30)も早期トラウマから組織化されないdisorganized working modelsが生じ,そのモデルがBPD患者の内省力の低さやメンタライズ能力(以下,こころ化する能力-この用語は必ずしも一般化していない-)の低さを生むと理論化している.「こころ化」とは,目に見え,耳に聞こえる行動を,感情と意図という観点から理解することである26).例えば親はまだ言葉を話せない乳児の行動を,意図,動機,感情といった「こころ」の表れとして理解するといったものである.
 さて,これら論者の理論的展開において重要な点は,「愛着」のみをBPDなどのパーソナリティ障害の因子としていない点である.非安定型の愛着とトラウマが重なることにより生じる問題(愛着トラウマ)という,トラウマの概念の導入が明確である.そのために,以下に示す乳幼児-親精神療法においては,トラウマ理論とその治療応用が取り入れられている23)
 このように実証的研究により,愛着形成の問題はパーソナリティ障害の危険因子の1つであると示唆され,その機序についての理論も展開されている.これらのことからも,パーソナリティに重度の問題をもった成人に対する治療に,愛着理論が取り入れられることは自然のなりゆきであろう.

II.愛着理論が取り入れられた臨床的応用:2つの代表例―メンタライゼーションに基づく治療と乳幼児-親精神療法について―
1.メンタライゼーションに基づく治療
 メンタライゼーション治療は,精神分析学の治療応用から発した介入概念である1).Allen, J. G.らによれば,メンタライジングとは「自己と他者の心的状態に対して注意を向け,心理的状態について認識すること」「こころでこころを思うこと(holding mind in mind)」である2).この技法は,患者の「こころ化」する能力の向上をめざすものであり,開発当初,特にBPDの患者への適応が研究された3).その根拠は,BPDは「こころ化」の不全がその病理の1つであるとするエビデンスがあるためである.同時にメンタライジング治療を開発しているグループは,発達精神病理学的観点から「こころ化」とパーソナリティの病理との関係を理論的に補強するため,実証研究に基づいた愛着理論を取り入れている.
 BPD患者の愛着の型〔adult attachment interview(AAI)によって測定される〕と,とらわれ型と未解決型(ともに非安定型)との有意の相関が示された16)28).AAIは成人の愛着表象を測っているが,とらわれ型,未解決型ともに(特に未解決型)その表象の特徴自体,「こころ化する能力」の機能不全を示していると考えられる15).これらの結果から,BPD患者は2つの問題を同時に有していることが示唆された,すなわち愛着の問題と「こころ化」の不全である.
 さらにFonagy, P.ら17)はさらに,発達精神病理学の視点を以下のレビュー研究から明らかにした.すなわち,愛着を障害するトラウマ(愛着トラウマ)が子どもの愛着を破綻させ,このトラウマ的愛着が,子どもの「こころ化する能力」の不全を引き起こす.より具体的には,トラウマ的愛着をもった子どもは,他者が考えたり感じたりしていることを認識するのが困難で,心理的状態について語る能力に不足があり,情動を理解することが困難で,他の子どもたちの苦痛に共感することに失敗しがちで,情動的苦痛を処理する能力も低い,などである.
 このように,前節の愛着トラウマ理論と同一のラインで,メンタライゼーションに基づく治療の開発者たちは,乳幼児期の愛着トラウマが「こころ化」の不全を生み,この病理がのちのBPDの中心的問題を構成していると考えている.
 この概念化・仮説は,メンタライゼーションに基づく治療がBPDに応用され,治療効果のエビデンスを得ることによって,その妥当性を増している9)10)

2.乳幼児―親精神療法
 乳幼児-親精神療法もまた,精神分析学を理論的支柱とした,0~4,5歳の子どもに対する精神療法的アプローチの1つである7).この治療は乳幼児と親の関係性自体を治療するという比較的新しい概念に基づいた治療法である.したがって,同治療はパーソナリティ障害の治療そのものへの応用ではない.一方,親が被虐待歴をもつなどして今も愛着の問題を抱えている場合など,パーソナリティも重度に障害されている例が多いと考えられる.この治療の代表的臨床家・研究者グループであるLieberman, A. E.らを筆頭としたサンフランシスコのグループは,治療実践,治療効果研究,理論化を行っており,同グループの理論的支柱の1つが愛着理論である23)
 LiebermanとHorn, P.23)も,愛着トラウマ問題を中心に治療理論を展開している.すなわち親が乳幼児期に虐待を含むトラウマ体験を受けworking modelが複数モデルになってしまい,それがのちのパーソナリティの非適応化を招いていると考えている.そのため,以下のような治療的因子により親と乳幼児は回復に向かうと仮説が立てられている11).すなわち,①修正愛着体験:一貫して支持的な他者(治療者を含む)との関係の体験によって,非安定型の愛着が安定化に向かう,②working modelへの直接の解釈による,表象レベルにおける愛着の安定化:言葉を使った精神療法(精神分析的な技法を多用する),③親の養育行動に対する直接の介入:治療者は親の育児のできている点をフィードバックしたり,養育法について一緒に考えたり,子どもに実際接することにより親に対してモデルを示すなどの要素である.この治療に関する効果研究が治療の有効性を示しており22),対象となる親や乳幼児の愛着および愛着関係にその病理があることを示している.
 ちなみに,乳幼児-親への治療については,比較的純粋に愛着理論に基づいた治療が開発され,効果を上げている.安心感の輪プログラムがその代表である20)

III.考察
1.愛着形成の歪みとパーソナリティ
 上記のように,早期の愛着形成が後のパーソナリティおよびその障害に一定の影響を与えているようにみえる.また愛着理論を応用した治療の有効性が,この仮説を支持している.
 一方,早期の愛着形成のみがパーソナリティの形成因子ではない.他の環境因子にもエビデンスがある18)29).また本論文でふれていない最重要な因子の1つに遺伝的要素がある.例えば遺伝行動学は,多くのパーソナリティ特徴を遺伝的要因が30~50%程度決定することを明らかにしている18)29).パーソナリティ障害,例えばBPDについても,遺伝的負因についてある程度のエビデンスがある21).本論文の限界の1つは,愛着以外の因子を含めて議論していない点である.
 以下,愛着理論のパーソナリティ障害などへの治療応用から浮かび上がる,いくつかの臨床的視点について議論する.

2.早期の乳幼児-親精神療法による予防の重要性
 より早期の愛着形成の問題が後のBPDなどのパーソナリティの障害の危険因子であるとの知見が得られている.さらに,その機序が発達精神病理学的視点から理論化されている.したがって,より早期に後の障害を予防することの重要性が示唆される.実際,乳幼児-親精神療法などの乳幼児へのアプローチは,早期の愛着形成をより安定させることを1つの目標としており,世代間伝達(乳幼児が養育者と同じレベルの愛着の困難やパーソナリティの問題をもってしまう)を断つことを目的としている22)

3.患者の修正愛着体験に治療者は根気強く支持的に付き合う
 愛着に方向づけられた治療について以下に示す2つの要素がともに治療の進展を支えていると考えられている11)23).治療者が支持的な体験を与え続けることと,言葉による解釈により成人の混乱した表象をよりまとまりのあるものにすることである.第1の要素はすでに述べたように,成人や子どもが治療者との関係を通して,修正愛着体験をもつことである11).愛着に深刻な問題をもった親や成人は,乳幼児期からほぼ経験したことのない安定した愛着関係を治療者との間で体験することにより,内的working modelをより安定的なものにする修正愛着体験を得る.さて,修正愛着体験と言葉による治療という2つの要素は,同時には作動しないという意味で対立概念ではない.言葉による介入がより効果を上げるとき,同時に修正愛着体験が起こっているとも考えられる.一方,修正愛着体験は,必ずしも言葉の介入で起こるとは限らない.例えば治療者が,母親の荷物を治療室に運ぶのを手伝い,患者が驚きをもってそれを体験するなどの場合である.Liebermanらの乳幼児-親精神療法は,家庭訪問で買い物を手伝うなどの生活の援助まで含めており,それらの体験の重要性を認識して行われる技法である11)
 治療者と患者の愛着関係は,精神療法の支持的側面(すべての治療者-患者関係の基盤として機能すると考えられている)と近似の概念であるかもしれない.パーソナリティに障害をもつ患者は,患者の病理自体に重度の愛着の問題を含む可能性が高いために,治療者との修正愛着体験を通して非適応的な愛着が「修復」されることが求められる.

4.愛着トラウマ
 すでに何度か述べたように,パーソナリティに重度の問題を惹起させる乳幼児期の体験として,多くの臨床家,研究者,理論家が「愛着トラウマ」という概念を展開している.
 同概念の有用性は,これら展開自体により示唆される.さらにこの有用性は,以下のような研究結果や臨床所見からも明らかとされる.すなわち子どもがトラウマ体験を受けたのち,トラウマ反応の程度やPTSDの発症率およびその重症度を決定する重要な因子の1つが,養育者の感受性・養育の質であるとの知見である6).つまり愛着とトラウマの問題が悪循環を生む現象である8)
 さてこれら「愛着トラウマ」概念の有用性にかかわらず,同概念の特に「トラウマ」概念は,一般精神医学の領域において混乱を生む可能性を孕んでいる.以下,この点について,まず概念上の問題,第2に臨床上の問題について議論を進める.「こころ化」の治療応用を行っている1人,Allenは,「愛着トラウマ」を以下のように定義している.「愛着トラウマ」とは,愛着関係におけるトラウマであり,そのトラウマは子どもの安定した愛着関係を形成する能力,トラウマ反応に悪影響を与える,との定義である4).さらにAllenは,愛着研究者の知見と理論を取り上げている4).その記述からは,総じてD型愛着を生むすべての体験において,乳幼児は「愛着トラウマ」を体験しているとAllenは概念化しているようにみえる.さて,一般精神医学において用いられる『トラウマ』(便宜上『』でくくる)とは,DSM-5のPTSDの診断基準上にあるように,生命に危険が生じる体験(例えば,交通事故,災害,虐待の一部など)を指している5).したがって,少なくともAllenのいわゆる「愛着トラウマ」の「トラウマ」は,一般精神医学上の『トラウマ』を含むが,等価ではない.D型愛着を生む関係が,すべて一般精神医学でいう『トラウマ』を含んでいないためである.「愛着トラウマ」は,愛着にとっての「トラウマ的体験」を概念化していると考えられる.
 この概念上の多義性が,臨床での評価と治療方針立案に混乱を生む可能性がある.というのも乳幼児や児童の臨床において,一般精神医学のいわゆる『トラウマ』を同定することは最重要の課題だからである.例えば虐待を受けた乳幼児には,愛着の問題が生じる8)27).虐待を受けた子どもは同時に,その一部が一般精神医学でいう『トラウマ』を体験するが(例えば頭蓋骨骨折に至る頭部への身体的虐待),それ以外の子どもは,『トラウマ』を経験しない.臨床上,前者の子どもに対してPTSDを含むトラウマ反応について評価することは必須である.6歳以下の子どもでもPTSDを発症することが,コンセンサスを得ており5),現在PTSDを発症している子どもには治療が必要である.さらに,その状態のまま支援・治療を行わないと,脳の器質的・機能的問題を放置することとなり,将来の社会・情緒的発達を歪める可能性が高まる19).また,家族から分離された場合などでは,面会に慎重を期する必要がある.トラウマ反応の悪化を招く可能性があるためである.一方,一般精神医学のいわゆる『トラウマ』を受けていない後者の子どもには,必ずしもPTSDについて評価・介入は必要ない.このように支援,介入,治療の必要性の有無の岐路となる評価のためにトラウマ概念は重要である.その際,愛着「トラウマ」と『トラウマ』が同一の言葉で用いられることで,臨床上の困難が生じる可能性がある.

5.限界と課題
 トラウマを含めた愛着理論のみで,パーソナリティ障害の病因は説明できない.この論文の限界の1つがそこにあることはすでに述べた.また,パーソナリティ障害についても本論文では主にBPDに焦点を絞り,他のパーソナリティ障害について包括的に論じられていない.さらには,乳幼児―親精神療法において,親がパーソナリティ障害か否かについては,明確化していない.この点も本論文の限界である.現在のところ,この点を明確にした研究は少ない.この領域についてのより多くの研究が期待される.
 最後に「愛着トラウマ概念」を一般精神医学の領域でどのように位置づけるかについて,短く議論した.今後,臨床に役立つ概念の洗練化が求められる.

おわりに
 パーソナリティに重度の問題・障害をもっている患者への治療は,成人精神科治療においても乳幼児精神科・精神保健領域でも大きな課題の1つであろう.愛着という視点は,この課題に対してエビデンスに基づいた発達精神病理学的観点の1つを与えている.またこの発達精神病理学的観点から,予防的支援の重要性が明示され,いくつかの治療技法が開発されている.今後,他の視点や理論とともに,愛着に基づいた臨床がより本邦でも広がり,臨床研究も発展することが望まれる.

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

文献

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2) 同書. p.28-85

3) 同書. p.306-344

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